SSブログ

ヴィヴァルディ、ドレスデンのヴィルトゥオーゾために... [2013]

OP30538.jpg
えーっ、この夏の直木賞、大島真寿美著、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』を、読書の秋に、読まさせていただきました。近松亡き後の大阪を舞台に、人形浄瑠璃やら、歌舞伎やら、舞台人たちが、魂削りながら、渦巻いて、ひとつ大きな芸術を拵えて行く話しでございます。いや、舞台いうんは、"渦"なんやなと... 過去の作品を引っ張り出して、ライヴァルの作品まで引っ張り込んで、掻き回して、新しいものをどうにかこうにか生み出して(つまり、純粋なるオリジナルは存在しない... )、次の時代へとつなげてく。何や、その大きい捉え方に、感動しつつ、せや、オペラも同じやで、と思い至る次第(古典、持ち出して、あっちの台本、こっちの台本、使い回して、あっちのアリア、こっちのアリア、混ぜ合わせたら、パスティッチョにもなって... )。ヴェネツィア楽派がやんやの賑わい作ったら、ヴィヴァルディが喧嘩売って、束の間、ナポリ楽派に呑み込まれて、バロックからその先へ、どんどん時代が紡がれて行く。バロック・オペラも渦や!ということに気付かされる(いや、もうね、単純なものだから、影響を受け過ぎて、勢い大阪弁になってしまいました。汗... )。ヴィヴァルディ、最後のオペラの、最後になってしまった切なさ、上げ潮、ナポリ楽派のスター、カッファレッリが歌ったアリアの、新しい時代を見せ付けて来る多彩さに触れ、もうひとつの"渦"を見出し、よりヴィヴィットな思いを掻き立てられる。で、ますます魅了される。そうか、時代、丸々が、ひとつのオペラだったのかもしれへんな... 凄い話しや... そして、今一度、その渦の中から、ヴィヴァルディのコンチェルトを引き上げる。オペラでは負けても、コンチェルトでは負けなかったヴィヴァルディ!
カウンターテナーとして見事な歌声も聴かせる異色のヴァイオリニスト、ドミトリー・シンコフスキーのソロ、イル・ポモ・ドーロの演奏で、ヴィヴァルディが、ドレスデンのコンサート・マスター、ピゼンデルのために書いたコンチェルトを集めたアルバム、"VIVALDI EDITION"から、ヴァイオリンのための協奏曲集、第5弾、"Per Pisendel"(naïve/OP 30538)を聴く。

ヨハン・ゲオルグ・ピゼンデル(1678-1741)。
ドイツ中部、カドルツブルク(当時は、アンスバッハ辺境伯領... )のカントル(簡単に言うと、教会の聖歌隊長... )を父に生まれたピゼンデル。当然、幼い頃から音楽を学んでいたのだろう、9歳の時には、アンスバッハの宮廷礼拝堂の聖歌隊に加わっている。その後、変声期を迎えると、ヴァイオリンに転向。宮廷楽団のひとりとして演奏を続けていたが、さらなるステップ・アップを目指し、1709年、ライプツィヒ(途中、ヴァイマルに寄り、宮廷オルガニストを務めていたバッハと親交を結ぶ... )へ。テレマンが組織した市民オーケストラ、コレギウム・ムジクムに参加。1710年には、指揮者の代理を務める。で、1711年には、テレマンを訪ね、アイゼナハへ。さらにダルムシュタットへと足を延ばし、同地でのオペラの演奏に参加。地道に経験を積むと、1712年、アルプス以北で最も豪奢だったドレスデンの宮廷楽団(バッハ憧れの... )に就職!間もなく、次なるドレスデンの主、フリードリヒ・アウグスト王子(後のポーランド王、アウグスト3世、ザクセン選帝侯としては、フリードリヒ・アウグスト2世... )のグランド・ツアーに随行員として加わり、フランス、イタリアを旅し、最新の音楽を吸収... その最後、1716年、一行がヴェネツィアを訪れると、かの地の気鋭のマエストロ、ヴィヴァルディ(1677-1744)に師事。王子一行は間もなくドレスデンに帰還するも、ピゼンデルは残り、ヴィヴァルディの下でしっかり修行。とはいえ、ひとつ違いの同世代、師弟の関係を越えて意気投合した2人は、ピゼンデルが帰国した後も揺ぎ無く親交を維持し、以後、ピゼンデルのために、ドレスデンの宮廷楽団のために、ヴィヴァルディは多くのコンチェルトを書くことに... さて、1717年に帰国したピゼンデル、ドレスデンの宮廷楽長、ハイニヒェンから作曲も学び、自らも作品を発表。1728年には宮廷楽団のコンサート・マスターに昇進し、ドレスデンの宮廷に欠かせない音楽家のひとりとなる。
そんなピゼンデルが演奏した、ピゼンデルのために書かれた、ピゼンデルに献呈された、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲、7曲を聴くのだけれど... いやー、そのどのコンチェルトにもヴィヴァルディならではの創意が溢れていて、もうワクワクしっぱなし!始まりは、オペラ『オリンピアーデ』(1734)のシンフォニアから転用した華やかな1楽章で幕を開ける、RV.177、ハ長調のコンチェルト(track.1-3)。オペラならではのドラマティックさ、華やかさが、そのままドレスデンの宮廷の華やかさ、充実したオーケストラをイメージさせ、惹き込まれる。もちろん、ヴァイオリン・ソロも美しく、2楽章、ラルゴ(track.2)の、愉悦を含むリリカルな表情には息を呑む。続く、RV.212a、ニ長調のコンチェルト(track.4-6)では、ヴァイオリン・ソロのヴィルトゥオージティが炸裂!圧巻の超絶技巧を聴かせながら、単なる技巧に終わらない、そこから引き出される刺激的なサウンドにときめきすら覚えてしまう。一挺のヴァイオリンが、こうも繊細に複雑なフレーズを綾なして行くかと... それは、ヴァイオリンを知り尽くしたヴィヴァルディだからこそ紡ぎ出すことのできる音楽なのだろう。一転、2楽章(track.5)では、素直に歌い切り、その素直さにまた圧倒され、何だか、良いようにヴィヴァルディに遊ばれているような気もして来る。そういうケレン味が、ヴィヴァルディの音楽の醍醐味。こう来るかな?を、鮮やかに裏切って生まれる驚きには、バロックらしさを飛び越してしまう瞬間を次々に生み出して、300年前の音楽も、まるで、今、生まれたばかりのような切っ先の鋭さを見せる。いや、このスリリングさ、まったく古びていない!改めて、その凄さに感服させられる。
さて、このアルバムの核となるのが、「ピゼンデルのために」(track.13-15)だろう。かの『四季』が収められている、1725年に出版された協奏曲集『和声と創意の試み』の7番にあたる作品。普段、『四季』(は、1番から4番にあたる... )の他を聴く機会はあまり無いわけだけれど、改めて、"ピゼンデル"として、その7番を聴いてみると、なかなか興味深い。まず耳を捉えるのは見事なパフォーマンスを繰り広げるヴァイオリン・ソロ!その見事さから、ピゼンデルの確かな技術が感じられ... 特に、終楽章(track.15)の、大胆かつパワフルに旋律を織り成して行くあたり、技巧的でありながら、より大きな音楽を繰り出して、オーケストラを引っ張って行く... まさに、豪奢なドレスデンのオーケストラのコンサート・マスターのための音楽。それでいて、このコンチェルトのただならぬ色を纏わせているのが、短調の哀愁... いや、実に、実に味わい深い!このあたりに、ピゼンデルが奏でた音色が浮かぶようで、いろいろイマジネーションを擽られる。何より、『四季』にも劣らない聴き応えがあって、ヴィヴァルディのピゼンデルへの信頼や共感がジワジワと広がり、感慨深くもある。何より、魅力的!
そんな、"Per Pisendel"、ピゼンデルのために、を聴かせてくれた、シンコフスキー。その音色は、晴れ渡る秋空に、スーっと飛行機雲が引かれて行くようで、とても清々しく冴え渡る!それでいて、歌心も忘れない。どんな超絶技巧も極めてクリアにこなされながら、プラス、歌う感覚に貫かれていて、よりナチュラルな音楽を紡ぎ出す。これは、シンコフスキーが、カウンターテナーとしても活動して得られる感覚なのだろう... 澄み切った音色を響かせながら、常に表情を失わないことが印象的。そこに、イル・ポモ・ドーロならではの豊潤なサウンドが加わって、ヴィヴァルディのコンチェルトの豊かさを、思いの外、掘り起こしていて、新鮮。ピリオドならではの鋭さが、当然、あって、刺激的なのだけれど、刺激だけに終わらない厚みや、色彩の豊かさに魅了されずにいられない。だから、ヴィヴァルディのケレン味が、常にバランスを以って繰り出され、おもしろさと洗練が溶け合い、ますますヴィヴァルディのコンチェルトの凄さが引き立つ!

VIVALDI Concerti per violino V "Per Pisendel"

ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 RV.177
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 RV.212a
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 RV.246
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 RV.370
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 RV.242 「ピゼンデルのために」
   〔協奏曲集 『和声と創意の試み』 Op.8 より 第7番〕
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 RV.379 〔ヴァイオリン協奏曲集 Op.12 より 第5番〕
ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ト短調 RV.328

ドミトリー・シンコフスキー(ヴァイオリン)/イル・ポモ・ドーロ

naïve/OP 30538




nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。