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ナポリ楽派、濃縮、カッファレッリのためのアリア集。 [2013]

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ヴェネツィア楽派のオペラへの貢献は、何と言ってもオペラを一般市民に開放(世界初の公開のオペラハウス、サン・カッシアーノ劇場がオープンするのは1637年... )したこと。で、市民を観衆とするとどうなるか?ヴェネツィアには雨後の筍のようにオペラハウスが誕生、競争原理が働き、瞬く間に空前のオペラ・ブームを創出!17世紀後半、ヴェネツィアは、ヨーロッパ切ってのオペラ都市へと急成長する。18世紀、そんなヴェネツィアに取って代わるのが、ナポリ楽派... 彼らの凄いところは、教育に力を入れたこと!オペラハウスの数は、ヴェネツィアに遠く及ばなかったものの、4つもの音楽院においてハイレベルな音楽教育を施し、ひとつの都市ではとても抱え切れないほどの優秀な人材を次から次へと輩出。抱え切れなかった人材は、オペラハウスがたくさんあったヴェネツィアへ... ヨーロッパ切ってのオペラ都市で得た評判を足掛かりに、ロンドン、ドレスデン、サンクト・ペテルブルクと、ヨーロッパ中へと広がって行ったナポリ楽派。ヴィヴァルディの敵は、ただものではなかった。
ということで、ナポリ楽派!リッカルド・ミナージ率いるイル・ポモ・ドーロの演奏、フランコ・ファッジョーリ(カウンターテナー)が歌う、ナポリが生んだスター・カストラート、カッファレッリをフィーチャーしたアルバム、"ARIAS for CAFFARELLI"(naïve/V 5333)を聴く。

"カッファレッリ"こと、ガエターノ・マヨラーノ(1710-83)。
イタリア半島、ブーツの形のちょうど踵のあたり、アドリア海の港町、バーリの近郊、ビトント(当時はナポリ王国領... )に生まれたガエターノ・マヨラーノ。ガエターノをナポリに送り出したパトロン、ドメニコ・カッファロに因んで、後に"カッファレッリ"と呼ばれるようになったらしい。で、送り出された先、ナポリでは、ポルポラ(1686-1768)に師事。ナポリ流をしっかり体得すると、1726年、15歳の時にローマでデビュー。1728年には、国際オペラ都市、ヴェネツィアの舞台にも立ち、以後、トリノ、ミラノ、フィレンツェと、イタリア各地で活躍。師、ポルポラのオペラにも出演し、1732年、ローマで上演されたポルポラの『ジェルマニアのジェルマニコ』では、スター・カストラート、ドメニコ・アンニバーリ(ca.1705-79)と肩を並べて主演し、大成功!21歳、カッファレッリは、一気にスターダムを駆け上がり、1734年、満を持してのナポリ・デビュー。故郷に錦を飾ると、1737年、国際音楽マーケット、ロンドンへ(翌年にはヘンデルのオペラにも出演... )、さらに、マドリード(1739)、ウィーン(1749)と、活躍の場はヨーロッパ中に広がり、1753年には、フランスへ!カストラートの声(人工的に作り出された声... )を嫌っていたフランス人も、カッファレッリの優れた音楽性には敵わなかったか?まず、ヴェルサイユで宮廷の人々から称賛を受けると、パリのル・コンセール・スピリチュエル(当時のベルリン・フィル!)で、カッファレッリを讃えるコンサートが開かれるまでに... が、事は少し複雑でして、当時、フランスは、ブフォン論争(フランスの悲劇vsイタリアの喜劇で、ことさらフランスの伝統のアイコン、ラモーが槍玉に挙げられる... )の真っ只中。カッファレッリは、イタリア側のアイコンのような存在(なればこその讃えるコンサート?)だったか、論争がヒート・アップして来ると、何と決闘までしてしまったカッファレッリ!で、決闘相手、ラモー派の詩人、バロ・ド・ソヴォ(ラモーの『ピグマリオン』の台本を書いている... )に重傷を負わせ、イタリアへと退散。いや、何かと問題児だったカッファレッリ... 劇場で、宮廷で、ちやほやされるスター・カストラートは、わがままだった。パリのみならず、各地で様々な問題を引き起こしている。が、それでも人々を魅了... 1756年、第一線を退いてからは、ナポリで、悠々自適(相当、稼いだようでして、公爵の爵位と領地を買い、領主貴族になってしまった!)の晩年を過ごし、1783年、72歳でこの世を去る。
そんなカッファレッリが歌ったアリア... つまり、この人のために当て書きされたアリアの数々を聴くのだけれど、当然ながら、ナポリ楽派尽くし... ハッセ(1699-1783)に始まって、ヴィンチ(1690-1730)、レオ(1694-1744)の黄金世代に、ヨーロッパにナポリ楽派の道筋を切り拓いて行った、師、ポルポラ、さらに若い世代、ペルゴレージ(1710-36)、カファロ(1716-87)、マンナ(1715-79)と、見事にナポリ楽派を網羅... またそんなラインナップを見つめれば、カッファレッリがナポリ楽派の申し子であったことを思い知らされる。そうした中で、特に興味深いのが、ナポリの宮廷楽長を務めたサッロ(1679-1744)の、『ヴァルデマーロ』からのアリア「よく愛する心」(track.9)。それは、15歳のカッファレッリがオペラ・デビューを果たした時に歌ったアリア... チョイ役なのかな?なんて思いきや、しっかりとコロラトゥーラに彩られて、オブリガートのトランペットと競い合い、何と華やかな!こういうアリアをいっちょまえに歌っていた15歳、恐るべし!いや、カッファレッリの音楽性は、やっぱりただならなかったのだと思う。"ARIAS for CAFFARELLI"に収められたアリアは、どれも凄い!単に超絶技巧だとか、華麗だとか、そういう表面的なことばかりでなく、ひとつひとつの音楽がよく練られていて、豊かな表情を見せる。バロック・オペラの紋切り型のアリアとは一線を画すアリアが次々に聴こえて来る。もちろん、ペルゴレージら、ポスト・バロック世代の作曲家ならば、それも当然かもしれないが、いや、ナポリ楽派ならではの歌うことへの丁寧なアプローチが生む流麗さが、繊細な表情(多感ギャラントだったなと... )を紡ぎ出し、魅了して来る。そう、歌手を育て、歌い手とともにヨーロッパを制覇したナポリ楽派ならではの音楽がそこにある。存分に華麗だし、ナポリ楽派ならではの流麗さに彩られたアリアの数々だけれど、今、改めて、カッファレッリという伝説のスター・カストラートにフィーチャーして、アリア集として、ナポリ楽派を濃縮すれば、彼らの特性、教育を以って磨き上げられた感性というものを目の当たりにさせられ、圧倒される(嗚呼、ヴィヴァルディも負けるわけだ... )。
という、ナポリ楽派のアリアを堪能させてくれるファジョーリ... 何と言いましょうか、圧巻です。もう、のっけから鮮烈!1曲目、ハッセの『シロエ』からのアリア「嵐の恐怖の中で」は、始まりを飾るに相応しいファンファーレのような華々しさがあって、早速、魅了される。揺ぎ無い高音に圧倒されながら、嵐を歌う力強さがあって、艶っぽくすらある低音では軽く眩暈を覚え、花火が上がるようなコロラトゥーラには舌を巻き、いや、頭の中にある声楽の常識が狂ってしまいそう。てか、もう笑っちゃう。かと思うと、ペルゴレージの『シリアのアドリアーノ』からのアリア「だから、時々、嬉しくて」(track.6)では、若い世代のナポリ楽派の、次なる時代の愉悦を漂わせるメローさに、ただただ、うっとり... 超絶技巧をバシっと決めて、ドヤ顔するのとは違う、じっくりと歌って聴かせ切る、歌い手としての本領を存分に見せ付けられ、もはやノック・アウト。いや、カッファレッリという伝説に当て書きされたアリアを、訳無く歌ってしまうファジョーリも恐るべし... そういう歌い手がいて、また現代に蘇るカッファレッリの凄さに目が回る。かつて、カッファレッリがいて、ファジョーリが歌って、今、カッファレッリがいる。何なんだ、この感覚... 凄く、おもしろい!で、忘れてならないのが、このアリア集を盛り立てる、ミナージ+イル・ポモ・ドーロ。金管大活躍で、充実したオーケストラ・サウンドを繰り広げ、これまた華々しい!それでいて、バロックから一歩を踏み出すナポリ楽派の音楽の色彩の豊かさ、表情の豊かさを丁寧に、かつ味わい深く鳴らして、単なる伴奏に終わらない、見事な背景を聴かせてくれる。歌もすばらしいけれど、この背景がまたすばらしい!そんな演奏が、カッファレッリの時代を蘇らせるようで、その時代に誘われるようで、ちょっと魔法掛かったものを感じてしまう"ARIAS for CAFFARELLI"。ナポリ楽派の全盛期を追体験させてくれる。

ARIAS for CAFFARELLI FRANCO FAGIOLI

ハッセ : オペラ 『シロエ』 より 「嵐の恐怖の中で」
ハッセ : オペラ 『シロエ』 より 「私はあなたの人生でなければならなかった」
ヴィンチ : オペラ 『許されたセミラーミデ』 より 「千の怒りに抱かれて」
レオ : オペラ 『デモフォンテ』 より 「哀れな子」
ポルポラ : オペラ 『許されたセミラーミデ』 より 「海岸に立つ旅人」
ペルゴレージ : オペラ 『シリアのアドリアーノ』 より 「だから、時々、嬉しくて」
レオ : オペラ 『デモフォンテ』 より 「海岸近くで願い信じていたのに」
カファロ : オペラ 『イペルメストラ』 より 「私をもっと落ち着かせて」
サッロ : オペラ 『ヴァルデマーロ』 より 「よく愛する心」
マンナ : オペラ 『ルチオ・ヴェロ、またの名をイル・ヴォロジェーソ』 より 「お前を残して行く、愛する人よ、さようなら」
マンナ : オペラ 『独裁官、ルチオ・パピロ』 より 「戦場のトランペットの音を聴き」

フランコ・ファジョーリ(カウンターテナー)
リッカルド・ミナージ/イル・ポモ・ドーロ

naïve/V 5333




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