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2020年、今年の音楽、ピエール・アンリ、第10交響曲。 [2020]

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2020年が終わります。てか、始まってすらいないような気さえしてくる、妙な感覚の年の瀬です。振り返れば、ジェット・コースターに乗っているような一年(いや、ジェット・コースター、未だ止まってないし... )であって、いろいろあり過ぎるほどあり過ぎたわけだけれど、何も成されなかった、何もできなかった一年でもあって、本当に"一年"を過ごしてきたのだろうか?という、狐に抓まれたような時間感覚の只中に、今、おります。でもって、当blog、只今、大迷走中。新しい在り方を模索し、右往左往(とりあえずは、ツイッターの方は、そこそこ平常運転... )。正直、これから、どうなってしまうのか(誰か助けてぇ!と、こそっと叫んでみます... )?は、さて置き、今年の漢字、「密」でしたね。例年通りの捻りの無さにかえって安心感を抱くわけですが、当blogは、"今年の音楽"です。いや、「密」な音楽、トーン・クラスター、なんて選びませんよ... いや、これもまたひとつのクラスターといえるのかも...
ということで、2020年、今年の音楽、ピエール・アンリの第10交響曲!ミュージック・コンクレートの巨匠が、ベートーヴェンの全9曲の交響曲を解体し、コラージュして再構成した奇作... マルゼーナ・ディアクン、ブルーノ・マントヴァーニ、パスカル・ロフェの指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、パリ音楽院管弦楽団の演奏、ブノワ・ラモー(テノール)、フランス放送合唱団、パリ青年合唱団の歌(Alpha/Alpha 630)で聴きます。

ミュージック・コンクレート、具体音楽、とは、世の中に存在する様々な音、例えば、街の喧騒とか具体的な音を拾い、録音し、それら音素材をコラージュし、ひとつの音楽として再構成するという、ある意味、20世紀を象徴するような音楽。で、その巨匠、ピエール・アンリ(1927-2017)が、1979年、大胆にベートーヴェンの全9曲の交響曲を素材に、ミュージック・コンクレートの手法で新たな交響曲を誕生させる。それが、第10交響曲。ミュージック・コンクレートの手法を用いているだけに、オリジナルはテープによる作品... なのだけれど、それを楽譜に起こし、演奏してしまったのが、ここで聴くアルバム。いや、テープとして成立している作品を、楽譜に起こし、コラージュをそのまま演奏しようとは、凄い!で、それを録音して、CDとしてリリースされるというのだから、また、おもしろい!いや、二重三重に手が加えられ、変容していく過程が、とても刺激的に感じられる。が、テープをコラージュしたものを、実際に演奏(これ、ピエール・アンリ自身が熱望していたとのこと... )するのは相当に難しいものがあるようで... 何と、3群のオーケストラを以って具体化させるという... テープをコラージュするというのは、ちょっといたずらっぽくもあるのだけれど、そのいたずらを実際の演奏とすると、とんでもなく贅沢なことに... その贅沢な編成で奏でられる再構成されたベートーヴェンの全9曲の交響曲とは?
「英雄」、「運命」、「田園」、第九ばかりでなく、聴き知った全9曲である。それが全て解体され、断片となり、3群のオーケストラが、それぞれに、順番なんて一切関係なく、次々に演奏して... そうして立ち現れる音像は、まるで、ベートーヴェンという記憶の靄のよう。そして、それを聴くということは、靄の中を彷徨うかのよう。ふと耳を撫でるフレーズは、次の瞬間にまた違うフレーズに変わっていて、また遠くからは、違う響きが聴こえているという、聴き知っているからこそ、ピエール・アンリによる音像に振り回され、戸惑いを覚える。一方で、戸惑いばかりではない、妙な心地良さも覚えて... 順序だった、秩序だったものが、バラバラとなって、全てひとつに結ばれて、私たちを包めば、人類補完計画... いや、ベートーヴェン補完計画?なんて、言ってみたくなる。何か、根源に還るような、独特な世界が広がり、形あるものが崩れることで、形に籠められていた心持ちや、精神が解き放たれて、何か新しい風が吹き出すのを感じる。それがとても不思議で、そこにポジティヴな感情がフワっと浮かぶ。
コロナ禍で、バラバラになってしまったベートーヴェン・イヤー。ピエール・アンリの第10交響曲は、まるで2020年のベートーヴェン・イヤーそのもの。また、クラシック界に燦然と輝く、ひとつの権威としての9つの交響曲が解体されてしまうという、そのカタストロフこそが、2020年の社会、世界の状況を如実に物語っているようにも思えてくる。しかし、第10交響曲は、ただの解体に終わらない。その先に、新たな音像を体験させてくれる。そんな音楽を聴いていると、バラバラになってしまったベートーヴェン・イヤー、2020年の先に、何か新しい地平が広がっているような気がしてくる。そして、心のどこかでワクワクするような感覚がこぼれ出している。古き大地に縛られることなく、新しい風に乗れ!今日は大変でも、明日を悲観することなく、一歩を踏み出す勇気をもらえる音楽。いや、それぞれにパワフルな全9曲をひとつに凝縮すれば、独特なパワーが満ち充ちて、聴く者を元気付ける!これは、ピエール・アンリとベートーヴェンによるエールなのかもしれない。もう前向きになるしかない。
そんな思いになるのは、チーム・フランスによるパフォーマンスもあるのかもしれない。3群のオーケストラによる、けして簡単ではない編成であり、また、普段、演奏し慣れたスコアが解体されるとなれば、演奏する側だって間違いなく調子を崩すはず... が、そうはならず、呆気らかんとやってのけてしまう新世代のマエストラ、ディアクン(は、ポーランドの出身... パリ室内管の首席客演指揮者を務めている... )に、現代の作曲家、マントヴァーニ、現代モノを得意とするロフェによる指揮。この3人にさらりと応えるフランス放送フィル、パリ音楽院管の演奏は、フランスらしい明るい響きと軽さが印象的で、コラージュによる複雑な構成を見通し良く仕上げ、コラージュなればこその錯綜をポジティヴに昇華してしまう。いや、改めて考えてみると、これは凄いことかもしれない... その凄さから繰り出されるコラージュのおもしろさ!無邪気さたるや!

PIERRE HENRY LA DIXIÈME SYMPHONIE HOMMAGE À BEETHOVEN

ピエール・アンリ : 第10交響曲

指揮 : マルゼーナ・ディアクン、ブルーノ・マントヴァーニ、パスカル・ロフェ
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、パリ音楽院管弦楽団
ブノワ・ラモー(テノール)
フランス放送合唱団、パリ青年合唱団

Alpha/Alpha 630

ということで、本年は、これにて、
それでは、みなさん、よいお年を!




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