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花咲けるバロック、ドレスデン! [2012]

バロック期、ドレスデンの音楽シーンが凄かった!
少し前に、そのあたりについて、さらりと本を読んだのだけれど、その贅を極めたゴージャスさに、とにかく驚かされた。バロック期のビッグネームが次々に招かれ、教会音楽からオペラまで、ありとあらゆる音楽が絶え間なく供されていたという史実。バッハが足繁く通ったのも頷ける。ということで、そんなバロック期のドレスデンへ... ドレスデンのコンサート・マスター、ピゼンデルと、ドレスデンのプリマ、ボルドーニを巡って...
ピリオドで活躍するヴァイオリニスト、ヨハネス・プラムゾーラーと、彼が率いるピリオド・オーケストラ、インターナショナル・バロック・プレイヤーズの演奏による、ドレスデンのヴァイオリン協奏曲集、"PISENDEL"(RAUMKLANG/RK 3105)。Virgin CLASSICSで活躍して来たメッゾ・ソプラノのスター、ヴィヴィカ・ジュノーが、deutsche harmonia mundiへ移っての第1弾、アンドレス・ガベッタ率いる、ピリオド・オーケストラ、カペラ・ガベッタのサポートで歌う、"A TRIBUTE TO Faustina Bordoni"(deutsche harmonia mundi/88691944592)。ドレスデンを華やかに彩った音楽を聴く。


ドレスデンのコンサート・マスター、ピゼンデル。

RK3105.jpg
ヨハン・ゲオルク・ピゼンデル(1687-1755)。
バッハと同世代で、バッハとも親交があったドイツのヴァイオリニスト... 後にドレスデンの宮廷に仕え、その宮廷楽団でコンサート・マスターとして活躍。ヴェネツィアへ足を運んだ際、親交を結んだヴィヴァルディをはじめ、テレマンなど、バロックのビッグネームたちがピゼンデルのために作品を書いたという、ドレスデンを代表するヴィルトゥオーゾ。というピゼンデルを、さらりと追ってみせる、プラムゾーラーのヴァイオリンによる、ドレスデンのヴァイオリン協奏曲集、"PISENDEL"。アンハルト・ツェルプスト候の楽長を務めたヨハン・フリードリヒ・ファッシュ(track.1-3)、ピゼンデルの上司、ドレスデンの宮廷楽長、ハイニヒェン(track.4-7)、ハンブルクの音楽シーンを取り仕切ったテレマン(track.12-15)のコンチェルトに、ピゼンデル自身によるコンチェルト(track.16-18)、ヘンデルのトリオ・ソナタをピゼンデルがコンチェルトにアレンジ(track.8-11)したものまで取り上げて、ピゼンデルのコンサート・マスターとしての日常を切り取るようなラインナップがとても印象的な1枚。
何より、当時のドレスデンの豊かな音楽シーンを垣間見るようで興味深く、フランスに、イタリアといった、バロックの 大きな潮流を作った国から遠い、ドレスデンならではの、どちらにも偏らない、いいとこ取りなバランス感覚というのか、強くモードに縛られないユルさ?が、かえってフレッシュ。どこか無邪気に音楽を繰り広げていて、おもしろい。例えば、ファッシュによるコンチェルトは、ふんわりとやわらかく、北ドイツのフランス贔屓を思わせるロココ風。かと思えば、ヴェネツィア仕込みのハイニヒェンによるコンチェルトは、まさにバロック!その鋭い最初の音から極めて刺激的(異様に調を渡って行くあたりは、ゾクゾク来てしまう... )。で、当のピゼンデルはというと、絶妙にその中間を進みつつ、次の時代が視野に入っているのか?バロックを脱するような軽やかさを見せて、ちょっと驚かせてくれる。そして、この多様性、幅が生む、華々しさ!まったく魅力的...
で、その魅力を見事に引き出すプラムゾーラーのヴァイオリン!ピリオドならではのスーっと透き通った、それでいて力強い音色は、とても雄弁でもあって。そんなヴァイオリンを盛りたてるインターナショナル・バロック・プレイヤーズの豊かな響きは、ドレスデンの宮廷楽団の大きな規模をイメージさせて、たっぷりと聴かせてくれる。そうして、"PISENDEL"に、バロック―ドレスデンの華やぎを、ぎゅっと濃縮して。フランスでも、イタリアでもない、ドレスデン流を、しっかりと楽しませてくれる。

PISENDEL Johannes Pramsohler / International Baroque Players

ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ : ヴァイオリン、フルート、オーボエ、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ニ長調 FWV L:D8
ハイニヒェン : ヴァイオリンと弦楽、通奏低音のための協奏曲 イ短調
ヘンデル : トリオ・ソナタ へ長調 HWV.392 〔ピゼンデルのアレンジによるヴァイオリン協奏曲版〕
テレマン : ヴァイオリンと弦楽、通奏低音のための協奏曲 変ロ長調 TWV.51:B1 「ピゼンデル・コンツェルト」
ピゼンデル : ヴァイオリン、ホルン、オーボエ、バスーン、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ト長調

ヨハネス・プラムゾーラー(ヴァイオリン)
インターナショナル・バロック・プレイヤーズ

RAUMKLANG/RK 3105




ドレスデンのプリマ、ハッセ夫人、ファウスティーナ。

88691944592
ファウスティーナ・ボルドーニ(1700-81)
実は、ヴェネツィアの貴族出身のお嬢様... やはりヴェネツィア貴族であるマルチェッロ兄弟の下で育てられ、16歳にしてオペラ・デビュー。オペラ都市、ヴェネツィアで、メッゾ・ソプラノとして活躍し、やがてその名はヨーロッパ中に広まり、活躍の場はミュンヒェンや、ウィーンにまで広まり、何でもマリア・テレジアともデュエットしたのだとか... そして、1726年、ヘンデルにリクルートされ、ロンドン・デビュー。が、ヘンデルにはすでにクッツォーニ(ソプラノ)というプリマがおり、熾烈な競争を強いられたロンドン時代。クッツォーニと舞台上で大喧嘩を繰り広げ、散々な目に合いつつ、やがてヴェネツィアへと帰る。その帰った先にいたのが、ナポリ楽派のホープ、ハッセ(1699-1783)。1730年、ふたりは結婚し、翌、1731年、夫の故郷、ドレスデンへと移る...
という、伝説のプリマに、21世紀のプリマ、ジュノーがなり切って歌う"A TRIBUTE TO Faustina Bordoni"。ファウスティーナがロンドン時代に歌ったヘンデルのアリアと、ドレスデンの楽長に就任した夫のアリアをつないで、爛熟のバロック、その最も華やかで、妖しくもあったオペラハウスの魅惑的な情景を切り取る。そこには、ヘンデルからハッセへという時代の流れをぼんやりと感じつつ... また、貴族オペラを突き放す重要な手ゴマとして、宮廷を飾る名花たる愛する妻として、ヘンデルとハッセのファウスティーナへ向けられる視線の微妙な違いも滲み出ていておもしろい。となると、よりハッセのアリアが際立つのか?よりバロック的なヘンデルに対して、次の時代を切り拓いて行ったナポリ楽派なればこその流麗さを見せるハッセ... そんなハッセの音楽的な性格もあるわけだが、じっくりとファウスティーナの声を聴かせる美しいアリアは、どれも聴き入るばかり。
そして、ジュノーの声が、またそうしたアリアにぴたりとはまり... ふんわりと明るく、けして重くはならず、高音はキラリと煌めき、何より圧倒的な品位に貫かれ。そんな美しい声がハッセの流麗なメロディを捉えると、ファウスティーナそのものを感じてしまう。もちろん、ファウスティーナの声がどうだったかなんて、知る由もないわけだが、ジュノーの声を聴いていると、不思議とファウスティーナのイメージと重なるのか。かつては"当て書き"が当たり前だったことを考えれば、ファウスティーナのために書かれた音符を追うことが、ファウスティーナを蘇らせることにつながるのかもしれない。そんなジュノーを、華麗にサポートする、アンドレス・ガベッタ+カペラ・ガベッタの演奏もまた、バロックのオペラの華やぎをしっかりと響かせて、印象的。

VIVICA GENAUX A TRIBUTE TO Faustina Bordoni CAPPELLA GABETTA

ヘンデル : オペラ 『アレッサンドロ』 HWV 21 より アリア "Lusinghe più care" *
ハッセ : オペラ 『ヌマ・ポンピリオ』 より アリア "Qual di voi... Piange quel fonte" *
ハッセ : オペラ 『認められたシロ』 より 序曲
ハッセ : オペラ 『カジョ・ファブリチオ』 より アリア "Padre ingiusto" *
ハッセ : オペラ 『認められたシロ』 より アリア "Quel nome se ascolto" *
ヘンデル : オペラ 『ラダミスト』 HWV 12 より アリア "Parmi che giunta in porto" *
ハッセ : オペラ 『捨てられたディドーネ』 より 序曲
ヘンデル : オペラ 『トロメーオ、エジプトの王』 HWV 25 より アリア "Ti pentirai, crudel" *
ハッセ : オペラ 『アルタセルセ』 より アリア "Va tra le selve ircane" *
ハッセ : オペラ 『ゼノービア』 より 序曲
ハッセ : アリア "Ah! Che mancar mis sento" *


ヴィヴィカ・ジュノー(メッゾ・ソプラノ) *
アンドレス・ガベッタ/カペラ・ガベッタ

deutsche harmonia mundi/88691944592




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