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ヴィヴァルディ・オペラ・ルネサンスのセカンド・インパクト。 [2006]

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『四季』のヴィヴァルディ... 散々、コンチェルトを聴かされてきた後で、オペラこそヴィヴァルディだった... と知ったゼロ年代。バロックを代表する作曲家の、実際の姿に触れることができるようになったのは、この10年くらいのことで、またその10年におけるヴィヴァルディのオペラ再発見は、驚くほど目覚ましいものがあった。そんな10年を振り返って... 最初の衝撃は、バルトリのアリア集(DECCA/466 569-2)だったと思う。バルトリだからこそ適えられたヴィヴァルディが繰り出す超絶のアリアに、圧倒され、魅了され... 嗚呼、オペラはエンターテイメントだったんだなと、その刺激的で攻撃的とも言える音楽に、クラシックの堅苦しさを忘れ、エキサイトした。
そして、ヴィヴァルディのオペラ再発見のセカンド・インパクトが、フランスの鬼才、ジャン・クリストフ・スピノジ率いる、最も攻撃的なピリオド・オーケストラ、アンサンブル・マテウスの演奏で、カウンターテナーの次世代を切り拓くスター、フィリップ・ジャルスキーが歌った、ヴィヴァルディのアリア集、"HEROES"(Virgin CLASSICS/363414 2)。2006年にリリースされた衝撃の1枚を聴き直す。

とうとう、ヴィヴァルディの超絶のアリアを物ともしないカウンターテナーが出現した!という感慨と、ヴィヴァルディが生きた時代、伝説のカストラートたちの圧巻であったろうパフォーマンスに肉薄するジャルスキーによるヴィヴァルディのエキサイティングさ!このアルバムを初めて聴いた時の衝撃は、本当に凄かった。スピノジ+アンサンブル・マテウスの、彼らならではの鋭い演奏が、さらにその衝撃を大きなものとして... あの時の興奮は忘れられない... そして、今、ヴィヴァルディのオペラ再発見が大きく前進した中、改めて聴き直すのだけれど。こんなものだったろうか?と、思い掛けなく、少し拍子抜けしたような感覚に... あれから、多くの充実したヴィヴァルディを体験したからだろうか?けれど、「衝撃」が薄れて、聴こえてくるものも。
まずは、ジャルスキーの丁寧な歌いっぷり!今や、カウンターテナーは、そう珍しい存在ではないが、ジャルスキーほど安心して聴いていられるカウンターテナーはいない。そんなスーパー・カウンターテナーも、ヴィヴァルディを前にしては、ひとつひとつのフレーズを噛み締めるように歌い上げるようで。1曲目、『狂気を装うオルランド』からのアリアから、まさにヴィヴァルディッシモな超絶のアリアが登場するのだけれど、その超絶なあたりを正確さ第一で、丁寧に歌うジャルスキー。その丁寧さが、アクロバティックに終わらない、繊細なニュアンスを引き出していて、印象的。"HEROES"だけに、もっと荒ぶってもいいように思うのだけれど、勢い任せではない丁寧な運びは、アリアに籠められていた表情をきっちりすくい上げ、作曲家、ヴィヴァルディの、作曲家としての見事な仕事ぶりを歌い尽くすかのよう。そうしたジャルスキーのヴィヴァルディへの姿勢が活きてくるのが、しっとりと歌い上げるアリア... ジャルスキーならではの突き抜けた高音と、そのピュアな輝き、癖の無い歌声から生まれる少年のようなイノセンスさは、ヴィヴァルディのもうひとつの一面、ゾクっとくるようなメロディアスさを見事に捉えていて。2曲目、『ジュスティーノ』からのアリア(track.2)の切々と歌い上げるあたり。4曲目、『オリンピアーデ』からのアリア(track.4)の牧歌的なトーンを、今にも溶けてしまいそうな美しさで歌うあたり。圧巻は、6曲目、『アンドロメダ・リベラータ』(track.7)... 10分弱にもなる長大なアリアを、悲しげに、儚げに歌うあたりは、息を呑む。
超絶に彩られたテンションの高いアリアと、しっとりと歌い上げるアリアを交替させ、飽きさせることなく、きっちり楽しませてくれるジャルスキーの"HEROES"。オペラ史上、最大のブームのただ中にあったバロック期、ヴェネツィアの、エンターテイメントとしてのオペラ... だけに、やっぱり超絶のコロラトゥーラに耳が行きがち... ではあるのだけれど、ヴィヴァルディのもうひとつの魅力たるカンタービレを丁寧に歌って、この作曲家の優れた音楽性をしっかりと響かせるジャルスキー。そのジャルスキーを引き立て、いつもの灰汁の強さは抑えつつも、鋭さはそのままに、きっちりとドラマを描き出すスピノジ+アンサンブル・マテウス。そこには、イタリア流とは一味違うフランス流の明晰さを感じさせ、フランス流から繰り出されるヴィヴァルディの繊細さ、表情の豊かさに、改めて聴き入ることに。大量生産のコンチェルトに、アクロバティックなアリアと、どこか山師的なイメージもあるヴィヴァルディだったけれど、かのバッハが注目した、ヴェネツィア楽派、最後の大家の、確かな才能を再認識させられる。「山師的」にして、綿密に音楽を展開するヴィヴァルディは、やっぱり凄い...

VIVALDI HEROES PHILIPPE JAROUSSKY ‐ JEAN-CHRISTOPHE SPINOSI

ヴィヴァルディ : オペラ 『オルランド・フィント・パッツォ』 より アリア 「何を見るまなざしにも」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ジュスティーノ』 より アリア 「この喜びをもって会おう」
ヴィヴァルディ : オペラ 『離宮のオットーネ』 より アリア 「ローマはうち震え、嘆けばよい」
ヴィヴァルディ : オペラ 『オリンピアーデ』 より アリア 「君の眠る間に、愛の神よ、かき立てよ」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティト・マンリオ』 より レチタティーヴォとアリア 「行け... 嵐の中で」
ヴィヴァルディ : オペラ 『アンドロメダ・リベラータ』 より アリア 「よくあることだが太陽が」
ヴィヴァルディ : オペラ 『デモフォーンテ』 より アリア 「岸が近くあれと願った」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ジュスティーノ』 より レチタティーヴォとアリア 「ああ残酷な運命よ、なぜ私には... 心地よい休息」
ヴィヴァルディ : オペラ 『イル・ティグラネ』 より アリア 「私の剣の力で」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ティエテベルガ』 より アリア 「この胸に感じる涙の雨の中に」
ヴィヴァルディ : オペラ 『オルランド・フリオーソ』 より アリア 「愛し花嫁」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ファルナーチェ』 より アリア 「許してくれ、愛する息子よ」
ヴィヴァルディ : オペラ 『オルランド・フィント・パッツォ』 より アリア 「露に濡れた薔薇には」

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
ジャン・クリストフ・スピノジ/アンサンブル・マテウス

Virgin CLASSICS/363414 2




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