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オペラが街にやって来た!ヴェネツィア、オペラ・ブームの始まり... [before 2005]

オペラを生み出したのはフィレンツェだが、オペラを育てたのはヴェネツィアだった...
というあたりを見つめてみようかなと。ということで、ヴェネツィアに初めてオペラがやって来たのは、フィレンツェから遅れること40年、1637年、トローン劇場(コンメディア・デッラルテのための劇場で、後にサン・カッサン・ノーヴォ、サン・カッシアーノ劇場と呼ばれ、オペラハウスとなる... )にて、マネッリ(ヴェネツィアよりも先んじてオペラに取り組んでいたローマからやって来た... )の作曲による『アンドロメダ』。そして、ここから、爆発的なオペラ・ブームがヴェネツィアの街を席巻することに。いや、これこそが、その後のオペラの発展を決定付ける、重要なターニング・ポイントとなる。学術的な集いでもなく、宮廷でもなく、ヴェネツィアの下町の劇場で上演されたオペラは、初めて興行と成り得て、ビジネスとなり、エンターテイメントとなり、音楽史に揺ぎ無い地位を築く。
という1640年代のヴェネツィアのオペラ・シーンを賑わせたヒット作... ジョン・エリオット・ガーディナー率いるイングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏で、モンテヴェルディの『ポッペアの戴冠』(ARCHIV/447 088-2)と、ルネ・ヤーコプスの指揮、コンチェルト・ヴォカーレの演奏で、カヴァッリの『ジャゾーネ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 2901282)を聴く。


旧世代、モンテヴェルディの、オペラ誕生の精神の結晶、『ポッペアの戴冠』。

4470882.jpg
現存最古のオペラにして、初めて「オペラ」という形をインターナショナルに紹介することとなった、ペーリとカッチーニによる『エウリディーチェ』(1600)。この舞台に接したと考えられる、当時、マントヴァ公国の楽長を務めていたモンテヴェルディは、早速、フィレンツェの最新のスタイルを取り込み、マントヴァの宮廷のために『オルフェオ』(1607)を作曲。オペラ黎明期に大きな足跡を残した。が、マントヴァ公の代替わりでリストラ。1612年、サン・マルコ大聖堂の楽長に招かれ、ヴェネツィアへ。オペラからはしばらく離れていたが、ヴェネツィアにもオペラの火が灯ると、再び挑み、『ウリッセの帰還』(1640)、『ポッペアの戴冠』(1642)を作曲。で、死の前年の作品となる『ポッペア... 』を聴くのだけれど。いや、久々に聴いてみると、その秀逸さに圧倒される!
すでに、『オルフェオ』からは35年が経ち、サン・マルコ大聖堂の楽長として、30年もの長い間、ヴェネツィアの楽壇に君臨する巨匠の最晩年の作品となる『ポッペア... 』。フィレンツェのレチタール・カンタンド(語りながら歌い... )と、ヴェネツィアン・サウンドの花やかさを鮮やかに結び、ストレート・プレイと見紛う程の密度の濃いドラマ展開しながら、詩に束縛される傾向のあったオペラ黎明期のストイックな響きからは前進して、よりナチュラルな色彩を感じる音楽が印象的で、まさに集大成といった観あり。それは、かつてのフィレンツェのエリートたちが目指した台詞と音楽の高い次元での融合を実現し、オペラの結晶とも言える姿を見せて、圧倒的。こういう純度を持ったオペラは、なかなか後の時代には探せないかもしれない... だからこそ可能な、見応えのあるドラマ!不正義の勝利(妻のあるネロと、許嫁のいるポッペアの結婚... )という、バッド・エンドを魅惑的なものとしてしまうモンテヴェルディの粋!最後のネロとポッペアの二重唱(disc.3, track.10)の美しさは、息を呑むばかり... で、それが大ヒットとなったヴェネツィアという大人の都市の成熟の度合い。何て、クールなのだろう...
そして、17世紀、ヴェネツィアのクールを現代に蘇らせたガーディナー!その実直なアプローチは、イタリアの息衝く感覚を鳴らすには、少々、淡白?いや、抑えてこそ帯びる熱もあるのだなと。シェイクスピアの国のマエストロだけに、真に迫ったドラマを描き出すことには長けているのかも。で、そのあたりを支えるのが、ピリオド系の実力派な歌手たち!後のオペラのように、際立ったアリアが存在しない分、普段のオペラ以上にセンスを求められるわけで。朗唱でこそ光る彼らの歌の上手さには感心させられるばかり。そうして紡ぎ出されるアンサンブルのすばらしさ... これがあってこそ、ドラマにリアリティが生まれ、グイグイ、惹き込まれる。しかし、改めてこのオペラの難しさを思い知らされる。で、ありながら、珠玉の『ポッペア... 』に仕上げた、ガーディナー以下、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、歌手の面々に脱帽!

MONTEVERDI
L'INCORONAZIONE DI POPPEA
JOHN ELIOT GARDINER


モンテヴェルディ : オペラ 『ポッペアの戴冠』

ポッペア : シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
オッターヴィア/ヴェネレ/運命 : アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・ソプラノ)
ネローネ : ダーナ・ハンチャード(ソプラノ)
オットーネ : マイケル・チャンス(カウンターテナー)
セネカ : フランチェスコ・エッレロ・ダルテーニャ(バス)
ドゥルシッラ/パッラデ/美徳 : キャサリン・ボット(ソプラノ)
アルナルタ : ベルナルダ・フィンク(メッゾ・ソプラノ)
乳母 : ロベルト・バルコーニ(カウンターテナー)
兵士/ルカーノ : マーク・タッカー(テノール)
兵士/解放奴隷 : ナイジェル・ロブソン(テノール)
小姓 : コンスタンツェ・バッケス(ソプラノ)
侍女/愛 : マリネッラ・ペンニッキ(ソプラノ)
警吏/メルクーリオ : ジュリアン・クラークソン(カウンターテナー)

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/447 088-2




新世代、カヴァッリの、コメディあり、悲劇あり、屈託無き、『ジャゾーネ』。

HMC2901282
『ポッペア... 』の7年後、1649年、サン・カッサン・ノーヴォで初演されたカヴァッリの『ジャゾーネ』。ヴェネツィアの新世代の作曲家として活躍していたカヴァッリ(1602-76)の、最も成功したオペラとのこと... で、旧世代の巨匠、モンテヴェルディ(1567-1643)の『ポッペア... 』(1642)と聴き比べると、なかなか興味深い。カヴァッリはサン・マルコ大聖堂の聖歌隊の歌手としてキャリアをスタート(1616)させ、モンテヴェルディに師事。サン・マルコ大聖堂のオルガニスト(1639)から、やがて、師が、長年、務めた、楽長職に就き(1668)、ヴェネツィアを代表する作曲家に... しかし、カヴァッリを語る上で欠かせないのが、オペラ!ヴェネツィアで最初のオペラが上演(1637)されると、すぐにオペラに挑み、1639年には最初のオペラを発表。瞬く間に人気オペラ作曲家として、ヴェネツィアのオペラ・ブームを牽引することに。また、その人気はヴェネツィアの外にも伝えられ、フランスの宰相、マザランによってパリに招かれ(1660)、フランス・オペラの先駆的なオペラも作曲している。
というあたりはさて置きまして、ここで聴く『ジャゾーネ(イアソン)』であります。その題材、ギリシア悲劇の定番、イアソンとメディアの物語なのだけれど、ギリシア悲劇ならではのバッド・エンドはハッピー・エンドに書き換えられ... というより、まったく別のストーリー?まるで、パラレル・ワールドに迷い込んでしまったような... やがて悲劇(メディアによる子殺し!)に至るはずのイアソンとメディアの恋が、手違いからそれぞれ別の相手を得ることとなり、めでたし、めでたし... そんなハッピー・エンドを彩る、カヴァッリの音楽の朗らかなこと!そこには、オペラの誕生を目の当たりにした旧世代の巨匠とは一味違う、新世代の作曲家の屈託の無さが感じられ、ギリシア悲劇の復活というオーセンティックな課題を乗り越えての、後のオペラへとつながる姿が見えて来る。『ポッペア... 』には無かった感覚、全体がメロディアスに息衝き、間違いなく歌の要素が大きくなっている。そうして生まれる、やわらかな表情。それは、聴衆を思わず笑顔にしてしまいそうな、ラヴリーなサウンドに彩られて、初期バロックから脱しつつも、盛期バロックとは少し違う、不思議な温度感が耳に心地良く、何だか温かい。
そんな、17世紀、ヴェネツィアの朗らかさを現代に響かせるヤーコプス!このマエストロならではの有機的な音楽作りが、カヴァッリのやわらかさを際立たせ、素朴なコンチェルト・ヴォカーレの演奏と相俟って、絶妙。そこに、ピリオド系のベテラン歌手たちの表情豊かな歌(時にユーモラス!)が、活き活きとキャラクターたちを動かし。元々、コンメディア・デッラルテのための劇場だったサン・カッサン・ノーヴァの、かつての記憶すら呼び覚ましそうな、楽しげなトーンに魅了される。そうして浮かび上がる、コメディと悲劇を同時に味わおうというヴェネツィアっ子たちの貪欲さ!この甘辛感が、意外と乙。

FRANCESCO CAVALLI / Giasone
CONCERTO VOCALE ・ RENÉ JACOBS


カヴァッリ : オペラ 『ジャゾーネ』

ジャゾーネ : マイケル・チャンス(カウンターテナー)
エルコレ/ジョーヴェ : ハリー・ファン・デア・カンプ(バリトン)
ベッソ/ヴォラノ : ミヒャエル・ショッパー(バリトン)
イシフィレ : カトリーヌ・デュボスク(ソプラノ)
オレステ : ベルナール・デレトレ(バス)
アリンダ/愛 : アニュス・メロン(ソプラノ)
メディア : グロリア・バンディテッリ(メッゾ・ソプラノ)
デルファ/エロ : ドミニク・ヴィス(カウンターテナー)
エジオ/太陽 : ギ・ド・メイ(テノール)
デモ : ジャン・パオロ・ファゴット(テノール)

ルネ・ヤーコプス/コンチェルト・ヴォカーレ

harmonia mundi FRANCE/HMC 2901282




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