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レオナルド・ダ・ヴィンチ、3つの謎の音楽... [2012]

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ルネサンス期を代表する、マルチな天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
『ダ・ヴィンチ・コード』の影響なのか、ここのところダ・ヴィンチが残した膨大な手稿にも注目が集まって、技術者、解剖学者などなど、そのマニアックな側面にもスポットが当てられているわけだけれど、クラシックの世界では、音楽家、ダ・ヴィンチに関心が向きつつある?ような... ないような... いや、何気にダ・ヴィンチ関連のアルバムがぽつりぽつりとリリースされていて興味深い。エドゥアルド・パニアグア+ムジカ・アンティグアによる"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"(PNEUMA/PN 1320)では、ダ・ヴィンチが発明したオリジナル楽器、ヴィオラ・オルガニスタやペーパー・オルガンが復元、演奏されていて、おもしろかった!で、続編(PNEUMA/PN 1340)もリリースされたみたい... となると、古楽界隈では、「ダ・ヴィンチ」をキーワードに盛り上がる?今後の動きが楽しみ... の前に、もうひとつ気になるダ・ヴィンチのアルバムに注目してみる。
マッシモ・ロナルディのリュートと、レナータ・フスコのソプラノで、ミラノの宮廷で活躍したダ・ヴィンチを捉えるアルバム、"La Musica a Milano al tempo di LEONARDO DA VINCI"(LA BOTTEGA DISCANTICA/DISCANTICA 103)を聴く。

ダ・ヴィンチというと、やっぱり画家というイメージが強い。が、その当時、リラ・ダ・ブラッチョ(現在のヴィオラに似て、ヴィオラよりも弦が3本多く、内2本が開放弦でドローンの役割を果たす古楽器... )の奏者として名を馳せていたことが、当時の様々な著述から窺い知ることができる。そうした中で、特に興味深いのが、1506年から1532年にかけて書かれたガッディアーノの作者不詳の写本にある一節... そこには、ダ・ヴィンチがリラ・ダ・ブラッチョの名手であることと、リラ・ダ・ブラッチョの弟子、ミリオロッティとともに、フィレンツェ共和国の当時の僭主、ロレンツォ・イル・マニフィコ(メディチ家全盛期の当主!フィレンツェ・ルネサンス最大のパトロン... )の使者として、ミラノ公国の摂政にして実質的な君主、ルドヴィコ・イル・モーロ(ルネサンス君主を代表するひとりとして知られ、ダ・ヴィンチが仕えることになる... )の下に遣わされたとある。何でも、ルドヴィコ・イル・モーロは大のリラ・ダ・ブラッチョ好きで、ロレンツォ・イル・マニフィコは、ダ・ヴィンチによる演奏で以って、ミラノ公国とフィレンツェ共和国(政治的にも文化的にもライヴァル関係!)の融和を図ろうとしたのだとか... いや、国際政治に功を奏すほどの腕前だった?!さらに、ヴァザーリの『美術家列伝』(1550年に出版された、イタリア・ルネサンスの芸術家たちを紹介する... )では、ルドヴィコ・イル・モーロの宮廷に仕えることになったダ・ヴィンチが、馬の頭骨を模し銀で装飾された特製のリラ・ダ・ブラッチョを持参し、どの音楽家よりもすばらしい演奏を披露したとある。そうした著述に触れると、ダ・ヴィンチが並外れた音楽家だったことを窺い知ることができる。普段、あまり顧みられることのない音楽家としてのダ・ヴインチだけれど、ダ・ヴィンチにとっての音楽は、けして片手間ではなかったわけだ。それでいて、まさしくマルチな天才!音楽家としても並外れた才能を誇っていた史実に、刺激的なものを感じる。
さて、ここで聴く"La Musica a Milano al tempo di LEONARDO DA VINCI(レオナルド・ダ・ヴィンチの時代のミラノの音楽)"は、ダ・ヴィンチがスフォルツァ家の宮廷で活躍した頃、ミラノで奏でられただろうリュートによる音楽を集めた1枚。で、始まりは、ダ・ヴィンチの友人で、ドゥオーモとして知られるミラノ大聖堂の楽長を務めたガッフーリオ(1451-1522)によるモテット... ソプラノが歌うメロディーに、リュートがポリフォニックに寄り添い、教会音楽らしい神妙さを繰り出す。という点では、ルネサンス・ポリフォニーの枠組みに留まっているものの、ソプラノのソロによる歌いには、イタリアらしい艶やかな表情が窺えて、ア・カペラによるルネサンス・ホリフォニーでは味わえないトーンが印象的。そう、このアルバムには、ルネサンスを主導した北のフランドル楽派のスタイルからは距離を置く、イタリアにおける、ある種、ローカルなルネサンスが展開される。例えば、"ミラネーゼ(ミラノ人)"と呼ばれた、リュートの名手、ダルツァ(fl.1508)の作品(track.5, 6)の、ポリフォニーではなく、メロディーを奏でることに素直な音楽。当時、広くヨーロッパで知られたリュート奏者、スピナチーノ(fl.1507)の作品(track.15, 16)の、ポリフォニックながら、テーマが強調されて、聴き手に訴え掛けて来る音楽。後にドゥオーモのオルガニストとなる、フランチェスコ・ダ・ミラノ(1497-1543)の、リチェルカーレ(track.18-21)には、パレストリーナ様式(16世紀後半に確立... )を予感させる、小ざっぱりとしたポリフォニーが示され、小気味良く... さらに、フロットラ(ルネサンス期イタリアにおけるポップス!)の作曲家として人気を博した、トロンボンチーノ(1470-1535)の、そのフロットラ、「その後、私の星になって」(track.7)では、バロックの変革を引き起こすモノディーを先取りする艶やかなメロディーが魅惑的で... このアルバムでも取り上げられるジョスカン・デ・プレ(ca.1450-1521)をはじめ、多くのフランドル楽派の面々が招かれ、活躍した、ミラノは、国際様式=ルネサンス・ポリフォニーに彩られた国際音楽都市だったわけだけれど、一方で、イタリアならではの音楽も息衝いていたわけだ。ポリフォニーばかりではなかったルネサンスの新鮮さ!そして、そこには、新しい時代の萌芽を見出せて、実に興味深い。
ところで、このアルバムの最大の注目点は、何と言っても、ダ・ヴィンチによる音楽が聴けるところ!というのが、リュートの伴奏でソプラノが歌う、"3つの謎の音楽"(track.14)。しかーし、「3つの謎の音楽」という"作品"が存在するわけではなく、ダ・ヴィンチの手稿に残されたフレーズ、3つの断片をひとつにつないだもので、音楽作品と呼ぶには、かなり心許無いもの。で、その断片も、何だかイタズラ書き(ダ・ヴィンチの手稿によくあるパターン... )のようなもので... その実、音楽を作曲したというより、音階を暗号的に用い(というのも、ダ・ヴィンチっぽいよね... )、レ、ラ、ソ、ミ、ファ、レ、ミ、"Amore sol mi fa remirare... (愛は喜びを与えてくれるが... )"と、音階で詩を書いたもの。ま、音階だから歌えるわけでして、"3つの謎の音楽"とは、その詩=音階を歌ってみたらどうなるだろう?という試み。もちろん、歌えるように、音階でない部分は音を補い、リズムも施され、リュートの伴奏を付けて、音楽としてきちんと整えられている。だから、ダ・ヴィンチの作品というには、ちょっと厳しい気もするのだけれど、整えられての"3つの謎の音楽"は、思いの外、魅力的!何とも言えない古風な雰囲気を漂わせ、まさに『モナリザ』の静かな微笑みを思わせる、たおやかにして謎めく音楽... これが、ダ・ヴィンチの音楽であると言われれば、納得できてしまう仕上がり(センスを感じさせる編集、そして補筆が光る!)。リラ・ダ・ブラッチョを奏でながら、即興で歌も歌ったというダ・ヴィンチだけれど、もし、そこから一歩を踏み出していたら、こんな作品を生み出したのかも... ダ・ヴィンチによる音楽を、確かに想起させる"3つの謎の音楽"である。
という、ダ・ヴィンチと、その時代の音楽を聴かせてくれたロナルディ。いや、彼の爪弾くリュートは、より色彩が感じられて、リュートならではのアルカイックなトーンを越えた、明るさ、軽やかさが印象的。一音一音が、パチンと大気に弾けるように響いて、そのパチンという活き活きとした撥弦から、イタリアの音楽性、その明快さが、存分に引き出され、ますます際立つ、イタリアのルネサンス!いわゆる定番の、フランドル楽派が形作るルネサンスとは一味違うセンスを、その演奏からは、しっかりと意識させられ、そうあることが、とても、魅力的... そんなロナルディのリュートに乗って、伸びやかで、愛らしい歌声を聴かせてくれる、フスコ(ソプラノ)にも魅了されずにいられない。シンプルなメロディーを素直に歌いながら、歌の国、イタリアのDNAをしっかりと感じさせてくれる彼女の歌声... 素直なのに、独特の艶やかさを響かせる妙!シンプルなものと、素直に向き合って生まれる魔法?ちょっとこどもっぽくありながら、そこから艶っぽさも引き出して、独特でもある。いや、この感じが、イタリアのルネサンスなのかも... 明るくて、気持ちがいいものの、それだけではない、ドキドキさせられるような感覚。ロナルディのリュートとも相俟って、イタリア・ルネサンスに魅惑される!

La musica a Milano al tempo di LEONARDO DA VINCI
Renata Fusco Massimo Lonardi


フランキーノ・ガッフーリオ : Beata progenies *
フランキーノ・ガッフーリオ : Virgo Dei
作曲者不詳 : Ballo amoroso
作曲者不詳 : Petit riense
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ : tastar de corde e Ricercare
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ : Calata alla spagnola
バルトロメオ・トロンボンチーノ : Poi che volse la mia stella *
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ : Poi che volse la mia stella
作曲者不詳 : Pavana regia
作曲者不詳 : Saltarello
作曲者不詳 : Piva
セラフィーノ・アクィラーノ : Tu dormi, io veglio *
フランキーノ・ガッフーリオ : Imperatrix reginarum
レオナルド・ダ・ヴィンチ : Tre Rebus musicali *
フランチェスコ・スピナチーノ : Adieu mes amours
フランチェスコ・スピナチーノ : La Bernardina
フランキーノ・ガッフーリオ : Gloriosae Virginis Mariae *
フランチェスコ・ダ・ミラノ : Ricercare (N.91, C.XXVII)
フランチェスコ・ダ・ミラノ : Ricercare (N.2, C.II)
フランチェスコ・ダ・ミラノ : Ricercare (N.12, C.XII)
フランチェスコ・ダ・ミラノ : Ricercare (N.9, C.IX)
ジョスカン・デ・プレ : Fortuna d'un gran tempo
ジョスカン・デ・プレ : Ave Maria *
ペトロ・パウロ・ボッローノ・ミラネーゼ : Fantasia
ペトロ・パウロ・ボッローノ・ミラネーゼ : Pescator che va cantando
ペトロ・パウロ・ボッローノ・ミラネーゼ : Saltarello chiamato Antonola
クローダン・ドゥ・セルミジ : Tant que vivray *

マッシモ・ロナルディ(リュート)
レナータ・フスコ(ソプラノ) *

LA BOTTEGA DISCANTICA/DISCANTICA 103




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