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音楽家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。 [2011]

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レオナルド・ダ・ヴィンチというと、マルチな天才として知られるわけだが、音楽の分野でも才能を発揮していた。当時、音楽家としても著名だったというから、ついでに音楽家をやっていたというレベルではない。さらには、新たな楽器の発明にまで取り組んでいて... 近頃は、そうした楽器の復元などが話題となったり。ということで、ダ・ヴィンチが生み出した楽器も含めての、ダ・ヴィンチの音楽に迫るアルバム"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"(PNEUMA/PN 1320)... アラブとヨーロッパがただならず混じり合う中世のイベリア半島、その濃密にエキゾティックなあたりを専門とする、エドゥアルド・パニアグアが率いるスペインの古楽アンサンブル、ムジカ・アンティグアが、中世のイベリアを飛び出して、ルネサンスのイタリアへ... レオナルド・ダ・ヴィンチのみならず、ムジカ・アンティグアによるイタリア・ルネサンスというあたりも興味深い1枚を聴く。

レオナルド・ダ・ヴィンチを見る。ではなく、レオナルド・ダ・ヴィンチを聴く。
それは、とても刺激的な体験!音楽家、ダ・ヴィンチが取り上げたであろう、ダ・ヴィンチの時代の作品の数々... エドゥアルド・パニアグア+ムジカ・アンティグアによる"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"から流れ出すサウンドは、やっぱりプリミティヴ。「ルネサンス」で思い浮かべる、ア・カペラのコーラスによる美しいポリフォニーではなく、個性際立つプリミティヴな楽器(ダ・ヴィンチの新発明も含むわけだが... )たちのアンサンブル、ということもあって、まさにearly music=古楽なサウンド。そして、フォークロワなトーンに彩られたダ・ヴィンチの姿に驚かされる。ムジカ・アンティグアによるダ・ヴィンチは、ルネサンスというより、ゴシック?ダ・ヴィンチのイメージを、ルネサンスの革新性よりも、その革新性以前の時代に結び付けてしまうようで、おもしろく、そのありのままの響きに、ダ・ヴィンチという存在を再発見させられる思い。
芸術史を俯瞰した時、時代を遡れば遡るほど、美術に対して音楽が一歩遅れる... ということを、何となく感じるわけだが。例えば、バロック絵画(16世紀後半から17世紀... )と、バロック音楽(17世紀から18世紀前半... )などは、わかり易い例かもしれない。そして、ダ・ヴィンチもまたしかりなのか... 絵画におけるルネサンスの最盛期を彩ったダ・ヴィンチではあるが、その時代の音楽というのは、トレチェント(1300年代)の音楽の伝統を受け継ぎ、まだまだ中世の面影を多く残しているよう。イタリアにおけるルネサンス音楽の完成者、パレストリーナ(ca.1525-94)は、ダ・ヴィンチの死からまもなくの頃に生まれているわけで。中世の大家、ギョーム・ド・マショー(ac.1300-77)の死から、1世紀を経ずに、ダ・ヴィンチ(1452-1519)が生まれていることを考えると、音楽家、ダ・ヴィンチは、中世の延長線上にいる人物と言えるのかもしれない。
しかし、その音楽は、『モナリザ』の思索的な雰囲気とは違って、何とも気の置けない魅力を放っている。ルネサンスを育んだ、教養高いイタリア各地の宮廷... そこで、文化人のスターとして大活躍だったダ・ヴィンチが奏でただろう音楽の数々の、人懐っこいメロディ、どこか飄々としたリズムは、意外にもポップ!ダルツァの"Piva a la ferrarese"(track.3)や、メーナの"De la dulce mi enemiga"(track.10)のキャッチーさは、微笑ましくすらあって、ラヴリー!オブレヒトに始まり、ジョスカン、イザーク、コンペールら、国際的に活躍したポリフォニーのスペシャリストたち、ダ・ヴィンチの周辺にいただろうフランドル楽派の作品も並ぶ"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"だが、教会を荘厳に充たした複雑なポリフォニーの気難しさを離れての、シンプルな作品もまた乙でして。教会の外の、イタリアのより感覚的な音楽風景を見出し、それがとても新鮮で、魅力的に感じる。
さて、気になるのが、ダ・ヴィンチが発明したという楽器なのだが... ハーディガーディに鍵盤が付いたようなヴィオラ・オルガニスタに、アコーディオンっぽいような構造のペーパー・オルガン。現代からすると、とても合理的とは思えない楽器にも思える。そして、響いてくるものも、形そのままに、何とも不器用!洗練を極めるダ・ヴィンチのイメージからすると、大いにギャップを感じてしまうのだが、ムジカ・アンティグアが持つプリミティヴさによく合って、スパイスになっているからおもしろい。となると、ダ・ヴィンチの音楽をムジカ・アンティグアが奏でることは、実に的を得たもので... 北のフランドル楽派の影響を多大に受けたイタリアのルネサンス音楽のイメージを、古代ローマ以来の南の地中海文化圏のイメージに引き戻すような感覚があって、興味深い。単にアルカイックになるのではなく、土臭さの漂うサウンドで、1曲1曲に生命力を吹き込むような、力強さも感じられ。で、忘れてならないのがルイス・アントニオ・ムニョス(バリトン)の歌!艶っぽさを含んだその渋さは、ベルカント以前のヨーロッパの歌の姿を垣間見せてくれるのか、何とも言えず魅惑的!

LEONARDO DA VINCI ・ EDUARDO PANIAGUA

ヤコプ・オブレヒト : Rompeltier
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ : Tastar da corde
ヨアン・アンブロジオ・ダルツァ : Piva a la ferrarese
作曲家不詳 : L'amor, donna, chio te porto 〔『王宮の歌曲集』 から〕
作曲家不詳 : Io mi voglio lamentare 〔『王宮の歌曲集』 から〕
作曲家不詳 : Guarda, donna, il mio tormento 〔『王宮の歌曲集』 から〕
ヨハネス・ティクトーリス : Virgo Dei trono digna
ジョスカン・デ・プレ : Lle Fantazies de Joskin
ミケーレ・ペゼンティ : Inhospitas per alpes
ガブリエル・メーナ : De la dulce mi enemiga 〔『王宮の歌曲集』 から〕
ルイス・デ・ミラン : Madonna per voi ardo
ジョスカン・デ・プレ : 二重カノン "Recordans de mia segnora"
ハインリヒ・イザーク : Carmen in fa
ディエゴ・オルティス : ラ・スパーニャ による レセルカダ 第1 と 2番
バルトロメオ・トロンボンチーノ : フロットラ "Non val Aqua"
ハインリヒ・イザーク : Duo III 〔『コラリス・カンティフス』 から〕
作曲家不詳 : Lasse'in questo carnovale 〔『マリャブ写本』 から〕
ハインリヒ・イザーク : Duo IV 〔『コラリス・カンティフス』 から〕
ロイゼ・コンペール : 二重カノン "J'ay un syon sur la porte"
フアン・デル・エンシナ : Fata la parte 〔『王宮の歌曲集』 から〕

エドゥアルド・パニアグア/ムジカ・アンティグア

PNEUMA/PN 1320




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コメント 5

般若坊

こんばんわ!ダビンチが音楽家だったという説明を興味をもって読ませていただきました。"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"(PNEUMA/PN 1320)... を是非聴いてみたいとおもいます。
by 般若坊 (2011-07-09 21:45) 

genepro6109

般若坊さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

音楽家、レオナルド・ダ・ヴィンチに関しては、以前、ドゥルス・メモワールという、フランスの古楽アンサンブルも、ダ・ヴィンチ周辺の音楽を集めたアルバム"L'HARMONIE DU MONDE"(naive/E 8883)をリリースしてました。
じわりじわり音楽での仕事がクローズアップされつつあるのか?興味深いです。

さて、"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"を試聴できるところを見つけました。
良かったら、聴いてみてください。
http://www.amazon.co.uk/Sollazar-Concierto-Renacentista-Instrumentos-Dise%C3%B1ados/dp/B00585HVI6
by genepro6109 (2011-07-10 15:32) 

生江隆彦

レオナルド・ダ・ヴィンチが作曲したと思われる歌の楽譜を5曲ほど発見しました。
 まず、「最後の晩餐」の縦軸の音階で三声部の楽譜。上声部と中声部は手で音符の位置を示し、低声部は足が音符です。歌詞は新約聖書のイタリア語のマルコの福音書の最後の晩餐の場面のイエスと弟子たちとのやり取りから取られています。
 なぜイタリア語かというと、当時、町の広場で行われていた宗教劇(聖史劇)は例外なく俗語で上演され、音楽劇でした。民衆教化のためですからラテン語は使われません。「最後の晩餐」の1999年の修復の際、絵の最下部の模様が明らかになったのですが、床が続いているのではなく、舞台の縁が描かれていました。ユダもテーブルの向こう側に配されていますし、あの絵は劇場スタイルですね。詳しくは、拙著「隠された歌は真実を告げる」第1巻と第2巻にあります。電子書籍です。
by 生江隆彦 (2011-09-03 20:12) 

生江隆彦

レオナルドは、リラ・ダ・ブラッチョ(ヴァイオリンの前身)の名手で、美しい声で弾き語りをしたと伝えられています。おそらく、師匠のヴェロッキオがリラを教えたのでしょう。
 さて、「最後の晩餐」にはもう1曲、横軸の音階の曲があります。こちらは手の音符が歌のメロディを表す主声部で、足の音符は伴奏の際、主声部に付け加える装飾音とか節回し、こぶしのようなものと考えた方がふさわしく思えます。全体は一種のヘテロフォニーと言えると思います。特に、弓で弾くリラ・ダ・ブラッチョなどでは大変演奏しやすい常套的な装飾的パッセージが見られます。
 この歌の歌詞には、“Visita Interiora Terrae, Rectificando(que), Invenies Occultum Lapiden Veram Medicinam.”「大地の奥底を訪ねよ、そして精留をなせ、さすれば、汝は隠された真の魔法の石(=賢者の石)を見出すであろう。」という錬金術の箴言が使われています。
 なぜ、錬金術のモットーであるこの文句を歌詞に使っているのか?
ご興味がある方は、拙著「隠された歌は真実を告げる」第1,2巻(電子書籍)をご覧ください。ちなみに、第1,2巻の副題は、レオナルドと錬金術 前篇・後篇です。
by 生江隆彦 (2011-09-03 20:33) 

genepro6109

『最後の晩餐』に音符が隠されていたとは... びっくりです。
いや、ダ・ヴィンチらしいのかな。おもしろいです。
是非、聴いてみたいです。
by genepro6109 (2011-09-04 20:19) 

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