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我々の時代、平成のクラシックを振り返る。 [overview]

今日は、ちょっと趣きを変えまして、自身のことを少し語りつつ始めてみようと思います。
みなさんは、初めてクラシックのレコード/CDを買った時のことを覚えておりますか?ワタクシが初めてクラシックのCDを買ったのは、平成が始まって数年が経った頃... ズラーっと並んだクラシックのCDを前に、どうしよう、どうしようと、もの凄く時間を掛けて選んだのが、廉価盤のショルティが指揮するチャイコフスキーの4番の交響曲でした。振り返ってみれば、初々しかった。不慣れな場所で、ソワソワしながら、渾身の力を籠めて手に取った一枚... そこから、ズブリ、ズブリと、底なし沼へと踏み出して行き、とうとう深みに嵌ってしまったのが、ガーディナーの指揮によるベートーヴェンの「田園」(1994年のリリース... )。偶然、ラジオで聴いた、ピリオドによるベートーヴェンに、衝撃(初めてピリオド・アプローチというものを認識... )を受ける!同じ「田園」でも、こうも違うかと... で、この時、クラシックを本当の意味で楽しめるようになった気がします。楽しめる... そう、深みに嵌ったのです。しかし、深みに嵌っても、泳げるようになりました。潜れるようにもなりました。一方で、沼の規模を知り、いや、沼どころか大洋であることを思い知り、遥か水平線に向かって、ただただ泳ぐ平成の日々でした。
ということで、間もなく終わる平成に捧げます!平成クラシック世代が、クラシックの平成を、記憶の限り、辿ってみる。ま、スタートが廉価盤のショルティが指揮するチャイコフスキーの4番の交響曲だけに、マリア・カラスを生で聴いたとか、生のカラヤン、バーンスタインは凄かったとか、そういう戦後クラシック世代の先輩方には、到底、敵いませんが、語ってみちゃう?

平成のクラシックを物語るものは何だったろう?それは、クラシックとどう向き合って来たかで、大きく変わって来るように思うのだけれど、ガーディナーの「田園」で、深みに嵌った者からすると、やっぱり"ピリオド"かなと... もちろん、ピリオド・アプローチは、随分と古いもので、遡ろうと思えば、19世紀にだって端緒を見出すことはできる。けれど、先人たちの試行錯誤を経て、クラシックという保守的なジャンルにおいて地位を確立し、ひとつ大成に至ったのは、やっぱり、平成。クラシックという、普遍と思われて来たジャンルに、もうひとつの視点が生まれたことは、クラシック全体に大いに刺激を与えたわけで... その象徴が、スコアの改訂!19世紀、20世紀と時代を経て、それぞれの時代に合わせ行われて来た実務的な改編を見つめ直し、作曲家の原典に立ち返って生まれる新鮮さは、ガーディナーの「田園」はもちろん、目が覚めるような感覚をもたらしてくれた。
そうした中で、スマッシュ・ヒットを放ったのが、ジンマンが率いたチューリヒ・トーンハレ管によるベートーヴェンのツィクルス!派手にベーレンライター版を謳って、ピリオド楽器とモダン楽器のハイブリッド編成で、軽快に、賛否両論を巻き起こした世紀末。今となっては、特筆されることもなくなった「ベーレンライター版」というワードだけれど、あの時は、確かに魔法の言葉だった。クラシックの権威主義に挑戦する魔法の言葉!それは、とてもワクワクさせられるものだった。そして、モダン+ピリオドのハイブリット... もはや、モダンとピリオドは対立するものではなく、交流を持ち、さらには融解して行ったのが平成のクラシックの新次元。それが、より深化して行くのが、世紀が改まってのゼロ年代... パーヴォ・ヤルヴィ+ドイツ・カンマーフィルによるベートーヴェンのツィクルスは、ただならず刺激的で、やはりベートーヴェンのツィクルスで注目を集めたダウスゴー+スウェーデン室内管は、さらに踏み込んで、ロマン主義に挑んだ"Opening Doors"のシリーズを展開。バロックや古典主義を越えて、聴き知った名曲が次々に真新しい姿を見せてくれたことは、エキサイティングだった。

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一方で、ピリオドはというと、大成して、ますますマニアックな方向性を示し、もはや、バロック、古典主義に留まらず、マーラーの4番の交響曲に挑んだヘレヴェッヘ+シャンゼリゼ管、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクと、20世紀の音楽にも挑んだインマゼール+アニマ・エテルナ、決定打は、ロト+レ・シエクルの『春の祭典』!今や、近代音楽すらピリオドの範疇。裏を返せば、楽器、奏法は、今に至るまで、常に変化、進化していることを改めて教えてくれる。単に奇を衒ったわけではなく、もはや、ピリオドか、モダンかという線引き自体がナンセンスになりつつあるところまでやって来た、平成のクラシック... これは、本当に凄いことだと思う。

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さて、ピリオドとしての本領を発揮するバロック、古典主義では、オペラが花盛りを迎え... まず、印象に残るのは、naïveによる"VIVALDI EDITION"!『四季』の作曲家というステレオ・タイプを打ち破って、オペラ作家、ヴィヴァルディを掘り起こしたことは、大いなる功績。そのあたりを弾みに、ナポリ楽派の再発掘も進み、ヘンデルのライヴァルにしてモーツァルトの登場を準備した18世紀の本当のスターたちの足跡にスポットが当たり始めたことは、すばらしいことだった。で、忘れてならないのが、日本発のピリオド・アンサンブル、バッハ・コレギウム・ジャパンの世界的な活躍!バッハという、西洋音楽の核心を、東洋から、ピリオドで挑むという、けして簡単ではなかったミッションをものにしたのだから、途轍もないこと... 日本のクラシック界にとっての、まさに誇り!で、カンタータ全曲録音の偉業も達成し、令和の時代には、どんな展開があるのか、楽しみ!

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さて、ピリオド以外はどうだったか?まず、印象に残るのは、ブルックナー・ブーム!朝比奈に、ヴァントに、ティントナーに、スクロヴァチェフスキに、何か凄い盛り上がりだったよなァ。それがいつも気になっていた。というのも、当時、ブルックナーが大の苦手だったから... それが、今や、ブルックナーに圧倒されている自分がいて、ブームが持つ力は、偉大です。そんなブームを振り返ると、昭和がマーラーで、平成がブルックナーだったのかなと... そう捉えると、それぞれの時代を反映していたように感じる。となると、令和は何が来るのだろう?は、さて置き、ブルックナー・ブームにおいて、異彩を放ったのが、シモーネ・ヤング+ハンブルク・フィルによる原典版でブルックナーと向き合ったツィクルス。あのマッシヴな音楽世界に、女性が斬り込んで行って、周囲を唸らせたのは、痛快なものがあった。それは、とても21世紀的なことだったなと振り返ってみる。で、ブルックナーに限らず、21世紀的な感性、現代っ子感覚で以って、クラシックに挑む次世代の活躍も印象深く... ピアニストのタローや、指揮者のヴァシリー・ペトレンコらは、実に興味深い存在!クラシックの歴史の重みから飄々と解脱して、作品を次なる次元へと浚って行く。そこに新たなクラシック像を見出せた、平成のクラシックだったかなと...

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さて、平成のクラシック、けして目を逸らしてはいけないことが、衰退するクラシックの現実... いや、クラシックに限らず、音楽を取り囲む環境が、大きく変わり始めた平成... 大手レコード会社、メジャー・レーベルすらウカウカしていられない状況となり、オーケストラの経営破綻のニュースもありました。何度かの世界的な経済危機が、贅沢なクラシックの在り様を直撃。この厳しい状況下で、どう現代におけるクラシックの価値を確立し、より幅広く伝えて行くか?そのあたり鈍感なクラシックでもあって、クラシックならではの保守性が、もどかしさを感じる平成でもありました。一方で、『のだめカンタービレ』(平成19年にドラマ化... )という強力な援軍が登場したり、ラ・フォル・ジュルネ(平成17年に第1回が開催!)など、より柔軟にクラシックを楽しもうという黒船イヴェントがやって来たり、新たな風も吹いた平成のクラシック。日本においては、とうとう常設のオペラハウスが誕生!新国立劇場(平成9年に柿落とし... )ができて、東京のクラシック・シーンは、やっと世界と肩を並べるためのベースができたことに... そうして、今、日本のオーケストラのシェフには、インターナショナルな名前が居並ぶ!N響のパーヴォを筆頭に、東響のノット、読売日響のカンブルラン、オーケストラ・アンサンブル金沢にミンコフスキなど、少し前では想像できなかった状況がある。この恵まれた状況を、どう活かす?どうする、令和?
なんて、平成を振り返っていたら、感慨を覚えずにいられません。そんなに思い入れがあるつもりは無かったけれど... いや、平成クラシック世代も、間もなく歴史の一部となろうとしています。そう、もはや歴史なのです。アーノンクールを生で聴きました。ブーレーズも生で聴きました。ブーレーズは、天皇陛下、ご臨席のサントリーホールで聴きました。で、天皇陛下のオーラが半端無かった!えっ?嘘?!ってくらいに、天皇陛下を迎えた途端、サントリーホールの空気が変わったことを、まざまざと記憶しております(生けるパワー・スポットとか言ったら、叱られそうだけれど... )。さすがのブーレーズも、最後は天皇陛下の席の近くまで歩み寄って挨拶しておりました。そして、天皇陛下は、スタオベでした。グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラによるマーラー... 名門オーケストラによるイカニモな名演ではなくて、左派系マエストロとユース・オーケストラのフレッシュな快演に、みんなでスタオベでした。立場とか、権威とかを超越した、大きな感動!平成のクラシックの大切な思い出です。ありがとう、平成。今、そんな言葉が、心に浮かびます。




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