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春の訪れを歌う!バッハ、復活祭オラトリオ。 [2011]

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今から一ヶ月半ほど前、3月6日に始まった四旬節。先週、4月14日に、山場となる聖週間に突入。4月19日には、クライマックス、主の受難、聖金曜日(4/19)を迎え、一昨日、4月20日、46日に及ぶ節制の日々が終わりました。いや、キリスト教徒でもないのに、かつての人々の音楽生活を追体験してみようと、華美な世俗音楽は控え、教会音楽(途中若干休憩しましたが... )を聴いて来た、この四旬節。改めて、教会で歌い奏でられていた音楽の多彩さに驚かされた!って、その一端を浚った程度なのだけれど... で、かつて、教会音楽は、完全に、世俗音楽のパラレルとして存在していたことに気付かされた。オペラがあれば、オラトリオがあり、室内ソナタがあれば、教会ソナタがある。クラシックにおける教会音楽は、すっかり一カテゴリーとなってしまっているけれど、本来は、一カテゴリーなどに収まり切らない規模があった教会音楽。聖歌やミサに留まらないその広がりが視野に入って来ると、音楽史は、より息衝いたものに見えて来る。という、四旬節、節制どころか、新たな視点を持てた、充実の46日でした。そして、その体感とともに、迎えた、復活祭... ハッピー・イースター!
ということで、マシュー・ホールズが率いた、レトロスペクト・アンサンブルの演奏と合唱、キャロリン・サンプソン(ソプラノ)、イェスティン・デイヴィス(カウンターテナー)、ジェイムズ・ギルクリスト(テノール)、ピーター・ハーヴェイ(バス)の歌で、バッハの復活祭オラトリオ(LINN/BKD 373)。四旬節を体感(実にヘタレなものではございますが... )、しての復活祭が、たまらない!

バッハには、3つのオラトリオが存在する。まず、最も有名なクリスマス・オラトリオ、そして、ここで聴く、復活祭オラトリオ(track.1-11)と、昇天祭オラトリオ(track.12-22)... で、"オラトリオ"の定義を考えれば、2つの受難曲、ヨハネ受難曲、マタイ受難曲もまたオラトリオに含めていいのかもしれない。いや、3つのオラトリオよりも、2つの受難曲の方が、"オラトリオ"らしかったりするから、こんがらがる。というのも、バッハの3つのオラトリオは、どれも毎週日曜の礼拝で歌われたカンタータから転用であり、クリスマス・オラトリオに関しては、そのカンタータの「まとめ」として成立(クリスマス以後の一連の祭日のために書かれたカンタータが各パートを織り成すため、全曲を一日で歌ってしまうのは、実は正確さを欠く... )している。てか、バッハは、「オラトリオ」というワードを、ちゃんと呑み込めていたのだろうか?今、改めて、復活祭オラトリオ、昇天祭オラトリオ(復活祭から40日目、イエスの昇天を祝う昇天祭のためのオラトリオ... )を聴いてみると、少しゴージャスな仕上がりのカンタータといった印象。オラトリオを生成した、聖都、ローマでも活躍した、同い年のヘンデルのオラトリオとは、やっぱり大きく異なる。そうしたあたりに、中部ドイツから飛び出すことの無かったバッハのローカル性を再確認させられる。とはいえ、そのローカル性こそ、バッハの個性!久々に、その個性に触れると、何だかホっとする。
さて、復活祭オラトリオは、1725年の復活祭の礼拝で歌われたカンタータが始まり。このカンタータは、何度かの再演を経て、1735年の再演の時にオラトリオと呼ばれるようになり、1740年代に入って、現在の形に落ち着く。そして、おもしろいのが、最初のカンタータ自体が、別の用途のために書かれた音楽だったこと... ザクセン・ヴァイセンフェルス公(ドレスデンの宮廷の主、ザクセン選帝侯の一族で、バッハが取り仕切っていたライプツィヒから程近いヴァイセンフェルスに宮廷を構え、ドイツ・オペラの上演に力を入れていた音楽通... )の誕生日の祝宴のために書かれた世俗カンタータ。で、受難節(四旬節を、ルター派では、こう呼ぶ... )を前に、ヴァイセンフェルスの宮廷で歌われた後、復活祭用に仕立て直され、ライプツィヒでの復活祭で歌われた。だから、花々しい!宮廷を彩った世俗カンタータだったことが、絶妙に活かされていて、その花々しさが、春の訪れと重なる復活祭の気分にぴったり。始まりの浮き立つシンフォニアから、もう、春!長い受難節を経て、とうとう迎えた復活祭の喜びがスパークするような音楽に、ワクワクさせられる。かと思うと、オーボエがしっとりと歌うアダージョ(track.2)を挿み(三寒四温?)、グイっと聴き手を惹き込んでから、今度はコーラスがシンフォニアのメロディーを歌い出す。すると音楽はより輝き、祝祭感はますます際立つ!けして派手ではない、というより、イタリアのオラトリオからしたら素朴なぐらいだけれど、その素朴さから放たれる輝きは、得も言えずキラキラとしていて、綺麗。一方で、その後の3つのアリア(track.5, 7, 9)は、ドイツ・オペラに力を入れた公爵の誕生日のために書かれただけに、充実した歌が繰り出され、オペラ的な表情も見出せる。いや、公爵のみならず、復活祭の日には、ライプツィヒ市民のみんながオペラ的な音楽を楽しめたことを思うと、何だか幸せな心地になる。いや、ハッピー・バースデーのワクワクを、ハッピー・イースターのワクワクに転用する妙!ハード・ワークも巧みにいなす巧者、バッハ...
続く、昇天祭オラトリオ(track.12-22)は、1735年の昇天祭に歌われたもので、やはり、その時はカンタータ(第11番、『神をそのもろもろの国にて頌めよ』... )だった。というより、カンタータのまま... コラール(track.17, 22)はあるし、ナンバーはどれもコンパクトで、復活祭オラトリオに比べると小ざっぱりとした印象。そうした中で、存在感を見せるのが、後にロ短調ミサのアニュス・デイに転用されるアルトのアリア(track.15)。あのしっとりとした、印象的なメロディーが、このオラトリオから聴こえて来るのは、ちょっと不思議な感じがする。で、ロ短調ミサでのラテン語のお題目を繰り返すのとは違い、きちんと詩が歌われると、どこか命を吹き込まれたようでもあり、思い掛けなく、惹き込まれる。ロ短調ミサもすばらしいが、昇天祭オラトリオのアリアとしての存在感は、また一段と際立っているように感じられる。で、このアリアもまた世俗カンタータからの転用とのこと... いや、バッハの世俗カンタータの音楽というのは、バッハにして、また一味違う表情が窺えて、興味深い。しかし、昇天祭オラトリオから復活祭オラトリオを振り返ると、まるでセレナータのようだったなと... イタリアのオラトリオのような華麗さこそ無いものの、バッハはバッハなりに、芳しい音楽を紡いでいたことが、何だか微笑ましい。
という、2つのオラトリオを、ホールズ+レトロスペクト・アンサンブルで聴くのだけれど、その朗らかで、まさに春が来たような快活さ、魅了されずにいられない。そもそも、キングズ・コンソートだったレトロスペクト・アンサンブル... けれど、キングズ・コンソートの創設者にして音楽監督、ロバート・キングとの厄介な関係(ロバート・キングが淫行事件で逮捕されたのが、そもそもの始まり... )により、2009年にレトロスペクト・アンサンブルを名乗ることとなり、この2つのオラトリオは、アンサンブルとして再出発の一枚。だからだろうか、漲るものが感じられ、内側から快活!演奏も合唱も、何か気合が違う... とはいえ、けして力んでいるわけではなく、思いの丈は、見事、朗らかさに昇華され、聴く者を最高に楽しい気分にしてくれる。またソリストもすばらしく、サンプソンのソプラノは、花やかで、伸びやかで、聴き入るばかり... が、結局、レトロスペクト・アンサンブルの活動は難しくなり、2014年に解散。こんなにも素敵なバッハの録音(また、LINNだけに優秀録音!)を残してくれたことを思うと、残念でならない。は、さて置き、春を感じさせる復活祭オラトリオ、まさにハッピー・イースター!花々が咲き乱れる春の野原をズンズン進んで行くような、そんな楽しさがある。

J.S. Bach Easter and Ascension Oratorios  Retrospect Ensemble

バッハ : 復活祭オラトリオ BWV 249
バッハ : 昇天祭オラトリオ BWV 11

キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
イェスティン・デイヴィス(カウンターテナー)
ジェイムズ・ギルクリスト(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バス)
マシュー・ホールズ/レトロスペクト・アンサンブル

LINN/BKD 373




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