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シューマンの人生の変奏、アベッグから天使へ... [2011]

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一昨日は桃の節句で、明日は啓蟄(暖かくなって、虫たちが土から顔を出す!)... 春は、暦の上にもしっかりと刻まれております。でもって、キリスト教圏では、本日、謝肉祭=カーニヴァルの最終日!さて、カーニヴァルなんて言うと、仮装(ヴェネツィアのやつ...)して、サンバ(リオのやつ... )を踊って、みたいなイメージが、日本人の頭にすっかり刷り込まれているのだけれど、実際には、キリスト教における断食月(厳密な意味での断食はありません... )、四旬節において、肉食を控える前に、肉を食べておこうというのが謝"肉"祭の意味。けして、仮装したり、サンバを踊ったりすることがカーニヴァルではないのです。が、四旬節に入る前に、肉食べといて、できる内にドンチャン騒ぎしておきましょう!に発展したのがカーニヴァル... となると、夏にやる浅草サンバカーニバルも、本当は今頃やっていないと嘘になる?いや、浅草サンバ盆踊りとすれば、これ以上なくしっくり来る気がするのだよね... となると、一昨日、開催された、東京マラソンを、東京カーニヴァル・マラソン(仮装している人いるし... )にすると、世界的には強くアピールできそうな気がする。は、さて置きまして、音楽における謝肉祭!
ということで、シューマンの『謝肉祭』... フランスのベテラン、エリック・ル・サージュのピアノによる、シューマンのピアノ作品全集(ピアノを伴う室内楽作品も含む... )から、『謝肉祭』、『こどもの情景』といった代表作を始めとする、初期から晩年に掛けての多彩な作品を収録した最終巻、Vol.11、2枚組(Alpha/Alpha 169)。クララに続いてシューマンのピアノ作品を聴く。

思いの外、ピリっとした、硬派なクララ(1819-96)のピアノ作品を聴いた後で、改めて、その夫、シューマン(1810-56)のピアノ作品を聴くと、何だか、慄きすら覚えてしまうほどに軟派。というか、自由?いや、いろいろな意味で危ない感じがして来る。『春の祭典』に、音列音楽、偶然性、様々な方向でイっちゃった音楽を体験してしまった我々の耳には、シューマンは典型的なロマン主義として認識され、聴き馴染んですらいるわけだけれど、妻、クララの視点に立って見つめると、恐いくらい前衛的で、その恐さの先に、ライン河に身投げしてしまうほどの、破壊的な創造性を見出せる気がする。古典主義のカウンター・カルチャーとして、ロマン主義は始動するも、メンデルスゾーン(1809-47)らによって、古典主義をベースに、メイン・カルチャーに整えられ(クララの音楽は、このあたりに存在していると思う... )てしまうと、さらにその先へ、ロマン主義の深化と言うべきか、純化と言うか、先鋭的な動きが起こる。ヴァイマルの楽長、リスト(1811-86)が、ワーグナー(1813-83)を紹介するなど、最前衛で気を吐き、新ドイツ楽派が形成されて... シューマンもまたそうしたひとり... で、ル・サージュによるシューマンのピアノ作品全集、最終巻の1曲目を飾るのが、Op.1、アベッグ変奏曲(disc.1, track.1-6)。いや、Vol.11に及ぶシリーズの最終巻の1曲目に、Op.1を持って来るというル・サージュの選択たるや!いや、今、改めてアベッグ変奏曲を聴いてみると、まさにシューマンの前衛性が溢れ出していて、Op.1にして、シューマンが完成されていたことに驚かされる。なればこそ、最終巻の1曲目なのかと、ル・サージュの選択に唸ってしまう。
という、アベッグ変奏曲(disc.1, track.1-6)は、1830年、シューマンが、師であり、クララの父であるフリードリヒ・ヴィーク(1785-1873)のライプツィヒの家に下宿を始める20歳の時に完成された作品。それ以前にも作曲は行われており、けして最初の作品ではないけれど、Op.1という番号を振られた意味合いは大きい。まさに、シューマンが完成されての自負を以って振られたOp.1なのだろう。それでいて、若いからこそ、シューマンという個性が炸裂していて... 瞬間、瞬間を美しく切り取って行く刹那というのか、変奏曲だからこその性質も、もちろんありつつも、思うがまま響かせる即興性に、クラクラしてしまう。これが、感情に素直なロマン主義の原理主義か?常軌を逸しているとまでは言わないけれど、包み隠すところが一切無いような感情的な様に、シューマンの危うさを見てしまう。そこから、クララ(が、"こども"らしい... )を思い浮かべながら綴った夢見るような『こどもの情景』(disc.1, track.8-20)、ベートーヴェンの7番の交響曲の2楽章、葬送を思わせる有名なテーマを素材にした、実にメランコリックなベートーヴェンの主題による変奏曲(disc.1, track.21-36)、そして、まさにカーニヴァル!小品が様々な人物(例えばクララだったり、クララと恋に落ちる前の恋人、エルネスティーネだったり、ショパンに、パガニーニに、コメディア・デラルテのキャラたち、などなど... )に扮して華やかに織り成される『謝肉祭』(disc.1, track.37-56)と、1830年代に書かれた、シューマンがシューマンらしくあって、ぶっちぎっていた作品が並ぶ。でもって、ぶっちぎれていた頃のシューマンは無敵!縦横無尽に鍵盤を駆け回り、ピアノという楽器の魅力を奔放に繰り出して、聴く者を少しハラハラさせつつ、釘付けにし、ズルい。いや、何たる自信の溢れ様!
という1枚目の後、2枚目で印象的なのが、晩年の作品... 精神が不安定な状況に陥り、ライン河に身投げする前年、1853年の作品、フゲッタ形式による7つの小品(disc.2, track.26-32)は、バッハ風のフーガを織り成して、若い頃の奔放さは微塵も無い。対位法に忠実であれば、当然、そうなるわけだけれど、響き出す音楽の枯れっぷりは、ちょっと衝撃的なくらいで... 若い頃のぶっちぎっていた作品を聴いた後だと、余計に際立つそのコントラスト... そして、ライン河へと身投げするその日の朝に浄書された創作主題による変奏曲(disc.2, track.33-38)を最後に弾く、ル・サージュ。Op.1に始まって、シューマン、最後の作品で終えるとは... 単にシューマンのピアノ作品を聴くだけでは済まさない重みが、ズシリと来る。「天使の主題による変奏曲」としても知られる作品(天使の合唱の幻聴を聴き、変奏曲にしたという、末期的な作品... )、創作主題による変奏曲の、どこか浮世離れした、やさしい音楽が、若い頃のぶっちぎっていた姿を聴いたからこそ、重みを以って心に沁みる。何だろう、涙で風景が霞むように、おぼろげで、胸を締め付けて来る。嗚呼、この人は病んでいる。それがわかる、シンプルさというか、あれほど饒舌だった筆が、今は走らない切なさ... 最後の変奏(disc.2, track.38)では、どこか調子も外れてしまっていて... けれど、それが、作品として、より存在感を際立たせるようでもあり... ウーン、はっきり言って、シューマンは嫌いです。聴き手を振り回す!けど、愛おしくて、たまらない。そんな、最終巻...
Vol.11に及ぶシリーズを弾いて来ただけに、ただならずシューマンが板に付いているル・サージュ... いつもながらのクリアで、さらりとした音楽作りが、シューマンの奔放さも、何てことなく御してしまい、肩の力が抜けて、限りなくナチュラル。だから、素直にその音楽世界に身をゆだねることに... しかし、うっかり身をゆだねてしまったら、シューマンの人生がドンと圧し掛かって来て、心を揺さぶられる。シューマンの人生が詰まった、シューマンのピアノ作品全集の最終巻... ル・サージュの思い入れの強さが、そこはかとなしに伝わって来る。まさにロマン主義的な波乱の人生に徹底して向き合って来ての密度、そして、境地。変に感情を高ぶらせるようなところは、一切、無いけれど、晩年の2作品の淡々とした佇まいは、まるでシューマンが憑依したかのようで、没入感が凄い。何より、そういう状況を創り出すシューマンの音楽がただならない。前衛というだけでない、神懸かりにも思えるその音楽。若い頃の作品なんて、まさに... で、ギリギリを攻めて、神の領域へと渡ってしまったのだと思う。あの時、ライン河を渡ったのだと思う。身を投げたのではなく、あちら側へと渡ったのだと... そんな物語が頭の中に浮かんで来る、ル・サージュのシューマン、心を捉えて離さない。

Klavierwerke & Kammermusik – XI - Robert Schumann - Eric Le Sage

シューマン : アベッグ変奏曲 Op.1
シューマン : トッカータ ハ長調 Op.7
シューマン : 『こどもの情景』 Op.15
シューマン : ベートーヴェンの主題による変奏曲 WoO 31
シューマン : 『謝肉祭』 Op.9

シューマン : 3つのロマンス Op.28
シューマン : アラベスク ハ長調 Op.18
シューマン : 『アルバムの綴り』 Op.124
シューマン : 花の曲 変ニ長調 Op.19
シューマン : フゲッタ形式による7つの小品 Op.126
シューマン : 創作主題による変奏曲 WoO 24

エリック・ル・サージュ(ピアノ)

Alpha/Alpha 169




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