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生誕200年、グヴィ、国境を越えて、全てを呑み込んだ先... [2013]

19世紀は、クラシックの名曲の宝庫!なのだけれど、名曲に集約し過ぎる帰来があるのか... だから、意外と広がりが感じられない。いや、様々な個性が炸裂した19世紀だけに、名曲のすばらしさに留まっていては、勿体ない気がする。何より、政治、産業、数々の革命に彩られ、躍動した時代の気分というのは、名曲を少し外れたところでこそ感じられる気がする。エンターテイメントとなったヴィルトゥオーゾたちの妙技!ブルジョワたちが資金を注ぎ込んで、それまでになく金ピカな舞台で彩られたオペラハウス!植民地の拡大と万博が炊き付けたエキゾティシズム!浮かれた時代のバブリーなサウンド!放置される社会の歪への痛烈な風刺!19世紀の魅力は、ある種、禍々しさにあるのかなと... いや、立派な名曲の押しの強さにさえ、どこか禍々しさを感じる。そんな、タフな時代だったからこそ、忘れられてしまった存在も多いのかなと... グヴィもまたそう...
ということで、前回に引き続き、生誕200年、フランスとドイツのハーフ、グヴィ(1819-98)に注目!ジャック・メルシエの指揮、ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、グヴィの交響曲、4番(cpo/777 382-2)と、6番(cpo/777 380-2)を聴く。


ロマン主義の時代、「交響曲」が古典となろうとしていた頃、脱交響曲?4番、

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メンデルスゾーン(1809-47)が育て上げた音楽センター、ライプツィヒで大成功したグヴィの交響曲だったが、オペラに、バレエに、劇場一辺倒だったパリの音楽シーンでは、「交響曲」そのものを受け入れる気分が醸成されていなかった。何より、ゲヴァントハウス管を擁するライプツィヒとは違い、満足の行く質を保ったオーケストラを確保することからして困難であり、シンフォニスト、グヴィを悩ました。そうした中、1851年、グヴィと同い年のパドゥルー(1819-87)によって、"コンセルヴァトワールの若き芸術家協会"が設立され、フランスの若手作曲家の作品を紹介しようと、新たなオーケストラが始動。1856年には、グヴィの4番が初演され、とうとうパリでも大成功!という4番(track.1-4)、ロマン主義ならではのドラマティックさに彩られ、ベートーヴェンを思い出させる力強い1楽章に始まり、2楽章のスケルツォ(track.2)では、バレエ音楽を思わせる軽やかさを放ち、小気味良く、3楽章、インテルメッツォ(track.3)では、ゆったりと幻想的... それは、インテルメッツォだけに、オペラの間奏曲のような風情があって、交響曲らしくない?1番、2番、3番と聴いて来ての4番の感触は、ちょっとおもろしい。優等生っぽく、ドイツ流に交響曲を構築して来たそれまでとは一味違い、交響曲の堅苦しさから脱しようとする素振りを見せるのか?交響曲に舞踏組曲の要素を持ち込み、新たな道を試みた5番を予告するよう。
そして、4番の後には、グヴィの脱交響曲路線とでも言おうか、交響楽の新たな在り方を模索するような作品が並ぶ。まず、サンフォニー・ブレーヴェ(track.5-11)... 直訳するならば、「短い交響曲」だろうか?初めに、悲しげなテーマ(track.5)が提示されて、それを変奏(track.6-10)して行く前半。後半は華麗なロンド(track.11)が繰り出され、伝統的な交響曲とはまったく異なる音楽が展開される。随所にフランスらしいメローさがこぼれ出し、変奏は情景を織り成すようで、これもまたバレエ音楽を思わせる。ロマンティック・バレエが一大ブームとなっていた頃、パリへとやって来たグヴィ、そうした時代の気分が反映されている?いや、交響曲ではドイツ流を貫きながらも、その交響曲から脱する手段として、フランス人が大好きなバレエを用いたとしたら、かなり刺激的な試みに思えて来る。アカデミックなあたりからすれば、聖典のような重みを持つ「交響曲」に、当時、とても俗っぽかったバレエをぶつけて来るグヴィのセンス!それは、フランスとドイツの狭間で、理想と現実が常にぶつかり合い、苦悩した、グヴィなりのブラック・ユーモアだった?というのは、ちょっと穿って見過ぎか...
最後に取り上げられるのは、幻想曲交響的(track.12-14)。2台のピアノのために書かれた幻想曲(Op.69)を、オーケストレーションした作品。で、この作品が作曲されたのは、祖父が始めた製鉄所の経営を引き継いでいた兄の元... 1868年、母を失ったことを切っ掛けに、ザールブリュッケンから程近い、グヴィ家のもうひとつの製鉄所があったフランス側の町、オンブール・オーの兄の別荘に身を寄せたグヴィ。兄夫婦から温かく迎えられ、フランスでも、ドイツでもなく、故郷へと落ち着く(1870年、普仏戦争が勃発し、国境地帯が戦場となると、一家は、スイスに避難している... )。そうして、1879年に作曲された幻想曲交響的は、それまでと違って、ありのままに音楽を紡ぎ出せている印象がある。ドイツ流に構築性を際立たせるでもなく、フランス風に美麗さにこだわるでもない、親しい人々に囲まれて得られただろう安らぎが感じられ、揺ぎ無い。フランスとドイツの両方をルーツに持ち、そのどちらでも活躍し、その両国が戦った普仏戦争(1870-71)も目の当たりにし、得られた境地なのだろう。達観した風景が、幻想曲交響的には広がって、印象的。

Théodore Gouvy ・ Symphony 4 ・ Fantaisie Symphonique ・ Mercier

グヴィ : 交響曲 第4番 ニ短調 Op.25
グヴィ : サンフォニー・ブレーヴェ Op.58
グヴィ : 幻想曲交響的 ト短調 Op.69

ジャック・メルシエ/ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

cpo/777 382-2




ロマン主義、「交響曲」、迷いまでも呑み込んで、最後の交響曲、6番へ、

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普仏戦争(1870-71)と、それに伴うパリ・コミューンの混乱が収束し、再び平穏が訪れた頃、1874年、グヴィはフランスのアカデミー・デ・ボザールの会員に選出される。さらに翌年には、ドイツの王立プロイセン芸術アカデミーの会員にも選出され、長年における功績が称えられた。が、パリの音楽シーンにおけるグヴィの扱いは、以前とあまり変わらず、フランスよりもドイツでの高評価が続いた。やはり、フランスでは、オペラ作家こそが作曲家であり、シンフォニストはマニアックな存在... そうした現実を前に、グヴィの意識は、以前に増してドイツへと向けられるようになって行く。そんな晩年にスポットを当てる、最後の1枚(メルシエ、ドイツ放送フィルの録音としては、2タイトル目にあたる... )は、1889年に作曲された6番(track.1-4)と、1885年に作曲されたシンフォニエッタ(track.5-8)。ともにライプツィヒで初演された作品... で、先に作曲されたシンフォニエッタから聴いてみようと思うのだけれど、まず、その印象、シンフォニーそのもの!何で「シンフォニエッタ」となったのかが不思議なくらい... 堂々たるドイツ流の交響曲を繰り出して、5番で覗かせた迷いはもはや無い。それでいて、活力溢れる1楽章に触れると、1番や2番の若々しさが感じられ、フレッシュ!一方、シンフォニストとしての腕は、熟練したものとなっており、新古典派、ブラームスに引けを取らない。いや、ブラームスの2番のような瑞々しさを放っていて、何と魅力的な!交響曲の古典性を裏切らず、素直に活かし切るあたりに、晩年のグヴィの達観が窺える。
そして、グヴィ、最後の交響曲、6番(track.1-4)... 1889年に、一度、完成を見るも、納得が行かなかったか、1892年に改稿(翌年、ライプツィヒで初演... )。老境を迎えたグヴィは、それまでになく新たな創作に苦しみ、過去の室内楽作品を素材にしたところもあるとのこと... けど、かえってそのことが、作品に集大成感を与えているような気もする。何より、古典主義へと回帰したシンフォニエッタとはまた違って、もう一度、ロマン主義の真髄を交響曲に取り込もうと挑んでいて... そのあたりが生みの苦しみの要因のように思えるのだけれど、響き出す音楽は、そうしたあたりを微塵も感じさせず、見事にロマンティックで、しっかりと交響曲!5番の迷いを完全に払拭している。いや、あの迷いをも呑み込んで、揺ぎ無い。たっぷりと取ったドラマティックな序奏に始まり、ロマンティックに力強い1楽章(track.1)、華やかな2楽章、スケルツォ(track.2)、滔々と美しいテーマを奏でる3楽章(track.3)は、ブラームスのようであり、ブルックナーを思わせるところもあり、マーラーを予感させて、ウィーン風?終楽章(track.4)は、オペラの序曲(ワーグナースッペ?が聴こえて来るような... )みたいなワクワク感に彩られつつ、きちんと対位法も内蔵... キャッチーかつ手堅く交響曲であるという、巧みさ!グヴィの試行錯誤、紆余曲折が、ぎっちり詰まった音楽は、おもしろく、順を追って聴いて来たからこその感動も...
そんなグヴィの交響曲、6番までと、それに準じる交響的作品、サンフォニー・ブレーヴェ、幻想曲交響的、シンフォニエッタを含めて、全9曲を聴かせてくれたメルシエ、ドイツ放送フィル。まさに、名曲の影に隠れ、忘れられてしまった存在を、丁寧に掘り起こす。掘り起こして、19世紀を生きたシンフォニストの軌跡を辿ることで、19世紀、ロマン主義の時代、交響曲がどう位置付けられ、変化したかまでをも浮かび上がらせ、単にグヴィだけに注目するばかりでない視点ももたらしてくれるのか... グヴィに寄り添って、時代を呼び覚ます。ハイライトとも言える6番は、特に印象深く、3楽章(track.3)のやさしさに包まれあたりには、ジーンと来てしまう。いや、感慨深く、そして、興味深い、まったく以って貴重な4タイトル。

Théodore Gouvy ・ Symphony 6 ・ Sinfonietta op. 80 ・ Mercier

グヴィ : 交響曲 第6番 ト短調 Op.87
グヴィ : シンフォニエッタ ニ長調 Op.80

ジャック・メルシエ/ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

cpo/777 380-2




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