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生誕200年、オッフェンバック、冥府下りもお祭り騒ぎ! [before 2005]

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正月七日、あっという間でした。が、まだ松の内!最後にお祭り騒ぎの音楽を聴いて、2019年、本番、盛り上げて行くよ!で、生誕200年のメモリアル、オッフェンバック、『天国と地獄』!さて、運動会でお馴染みの『天国と地獄』ではありますが、なぜに『天国と地獄』という邦題になってしまったのだろうか?原題は"Orphée aux Enfers"、地獄のオルフェである。オペラの定番、オルフェウスの冥府下りをストーリーとすれば、天国なんて出てきやしないことは、明白なのだけれど... それでも、『天国と地獄』になったのは、その方が納まりが良いからなのだろうなァ。ま、その程度のストーリーだと認識されたのだろうなァ。しかし、見事に風刺を効かせ、グルックの傑作、『オルフェオとエウリディーチェ』を巧いことパロって、実に手の込んだストーリーを展開する『地獄のオルフェ』であって、それこそが醍醐味で、お約束のフレンチ・カンカンばかりじゃないのだけれどなァ... というあたり、スルーされてしまうのが、もどかしい。いや、オッフェンバックという存在自体が、クラシックにおいて、あまりに安易に扱われているようで、残念無念。なればこその、生誕200年のメモリアルであります!
ということで、ナタリー・デセイ(ソプラノ)のウリディス、ヤン・ブロン(テノール)のオルフェ、マルク・ミンコフスキの指揮、リヨン国立歌劇場による、オッフェンバックの代表作、『天国と地獄』!じゃなくて、オペラ・ブッフ『地獄のオルフェ』(EMI/5 56725 2)を聴く。

オッフェンバックが生きた時代、パリの音楽シーンにおける一流の作曲家といえば、オペラを書く作曲家だった。当然、オッフェンバックも若い頃からオペラに挑戦している。何しろ、オッフェンバックの音楽家としてのキャリアの始まりは、オペラ・コミック座のチェロ奏者... ということもあり、古巣、オペラ・コミック座への売り込みに余念が無かった。が、20代の若手作曲家に、はいどうぞとチャンスを与えるほど、パリの音楽シーンは甘くなかった。何しろ、音楽の都、パリであって、イタリアからはロッシーニが、ベッリーニが、ドニゼッティがやって来て、ドイツのマイアベーアはグランド・オペラを確立し、その頂点に君臨。一方、若きワーグナーは、門前払い... そういう層の厚さが、若手作曲家を極めて厳しい状況に置いていた。だから、オッフェンバックは、サロンや、カフェに活躍の場をもとめ、より世間と近い場所で腕を磨く。しかし、それすら徒となる。風刺を効かせて世間を沸かせる存在は、やんごとなき人々にとって面倒臭い存在に... 面倒臭い内容のオペラを劇場に掛けられてはたまったものじゃないと、ますます嫌煙されてしまう。そこで、オペラ・コミック座のために用意していたオペラ・コミック『閨房』を、1847年、自らで初演(コンサート・ホール、サル・モロー・サンティにて... )。オペラ作家としての実力を楽壇に知らしめ、新たな可能性が開かれるかという時、1848年、二月革命... 株屋の王、ルイ・フィリップ(在位 : 1830-48)による七月王政は瓦解。オッフェンバックは、故郷のケルンに帰ることを余儀なくされる。が、さらにバブリーなナポレオン3世が登壇!オッフェンバックはパリへ帰ると、1850年、フランス演劇の殿堂、コメディー・フランセーズの指揮者に就任(劇伴を手掛ける... )。しかし、オペラ・ハウスでないことがその才能を活かし切るには至らず... フラストレーションを溜めながら、努力するも、オペラ作家として実を結ぶまでには至らなかった。
その頃、パリを沸かしていたのが、エルヴェ(1825-92)によるオペレッタ!既存のオペラ・ハウスに掛けられる立派なオペラではなく、自ら経営する小劇場で、B級作品をオムニバスで繰り出す、オペラ・コミック(歌芝居)とヴォードヴィル(歌と踊りなどで彩るショウ)の間を行くエルヴェのスタイルは、オッフェンバックに大きな刺激を与える。そして、1855年6月、エルヴェの劇場、フォリー・ヌーヴェル座で、『オヤヤイエ』を上演、大成功。それと並行するように、自らも劇場経営に乗り出し、早くも7月、多くの観光客を集めていた万博会場の隣にブッフ・パリジャン座を開場。8月には『2人の盲人』を上演、大ヒット!あまりの人気に、皇帝陛下の御前に出張公演するほどで... さらには、ウィーン公演も実現し、一大ブームを巻き起こす。そしてこれがウィンナー・オペレッタの発火点となる。なんて書くと、随分と偉業のように思えて来るのだけれど、オペラ・コミック座の対極にあるブッフ・パリジャン座は、間違い無くアングラ... 急ごしらえの劇場は、随分とオンボロだったらしい。が、当時のパリっ子の心意気というか、エスプリだろうか、そのオンボロすらウケたというから凄い。そんなブッフ・パリジャン座が、次なるステージへと踏み出す時がやって来る。それが、ここで聴く、1858年に初演されたオペラ・ブッフ『地獄のオルフェ』!許認可の問題で、小規模な作品しか上演できなかったブッフ・パリジャン座が、オペラ解禁!
既存のオペラのように、ひとつのストーリーに貫かれての2幕構成。なおかつ、エルヴェ以来のテイストも生かされて、鋭く風刺を効かせ、フレンチ・カンカンで大いに盛り上がるB級感... これぞオペラ・ブッフ!の最初の作品が『地獄のオルフェ』だ。アカデミックな音楽を志す新郎、オルフェに、新婦、ウリディスはすでにうんざり... そこに、イケイケの冥府の王、プリュトンが登場。ウリディス、すっかり虜になってしまって、喜んで冥府へと浚われてしまう。で、うるさい新妻がいなくなったと喜ぶオルフェだったが、世論(擬人化されたオバチャン!)は、結婚の破綻、不倫を許さない!って、これ、21世紀でも見掛ける風景... そこに、神々たち(=政治家たち)、ジュピター(=ナポレオン3世)らが絡んで、オルフェウスの悲劇は、とんだ大騒動に大変身!いやー、オペラの原点とも言えるオルフェウスの冥府下りを扱うあたりは、オペラへのリスペクト?それを一刀両断、パロってしまうあたりはルサンチマン?何より、当時の風景をパシっとオルフェウスの物語にはめてしまう巧さ!世論の浅はかさは、ポピュリズムのそれであり、勝手な正義を振りかざしての横暴は痛いしウザい... 対するジュピターを頂点とした神々のダメっぷりたるや、皇帝に政治家たち官僚たちの体たらくそのものであり、脱力するばかり... で、安易に善悪を分けないところが、とにかく冴えている!いやね、現代社会、ここから学べること、大きいなと...
というドラマを息衝かせる音楽が、とにかく水際立っている。運動会で有名なギャロップばかりでなく、全てのナンバーがキャッチーで、ポップで、驚くほど隙が無い。ロッシーニが"シャンゼリゼのモーツァルト"と呼んだのも、納得。いや、オペラを書きくたくても、なかなか書けないでいたオッフェンバックなればこそか、溜めこまれて来た才気がここで爆発している!で、単に爆発するばかりでなく、音楽でも実に凝っていて... オルフェのテーマが、グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』の名アリア「エウリディーチェを失って」を用いて... 偉そうなオペラ改革=オルフェに対しての、ヒステリー気味なウリディスは、見事なコロラトゥーラを披露して、改革オペラに対するバロック・オペラのようであり、当時流行のベルカント・オペラの狂乱の場のカリカチュアのようであり、単なるB級に終わらず、微に入り細に入り、様々に仕掛けがありまして... もね、打つ膝が足りないくらい!かと思うと、ウリディスと蝿に化けたジュピテールが歌う蝿の二重唱(disc.2, track.8)なんて、ズズズズズ... と、2人で羽音を真似て、馬鹿!けど、馬鹿もやり切ると、圧巻!これこそがオペラ・ブッフのエスプリ...
で、そのエスプリを、チャキチャキの演奏で炊き付けるミンコフスキ!粋であることを本能的に理解した指揮ぶりに、ただただ惹き込まれます。そんなミンコフスキの指揮の下、キレッキレにキャラが立った歌手陣がすばらし過ぎる!フランス語が解らなくとも、細かいストーリーまで解りそうなくらい豊かな表情で織り成していて、凄過ぎ... 華麗に奔放にウリディスを歌うデセイ(ソプラノ)、そのウリディスが飽きてしまったオルフェの真面目さとナイーヴさを瑞々しく歌い上げるブロン(テノール)はもちろん、ナウリ(バリトン)が歌うジュピテールを筆頭に、オリュンポス山の面々のお惚けっぷりは最高!そうした中、インパクトを放つのが、ポドレス(コントラルト)の歌う世論... その声の野太さ、本当に凄い。で、その野太さに、世論の厚かましさが見事に表れていて、圧巻!という歌手陣を盛り立てる、リヨン国立歌劇場のオーケストラとコーラスの、鋭くて、活力のあるパフォーマンスもすばらしく... オッフェンバックのおもしろさを存分に引き出し、大いに盛り上げる。そうして見えて来る、単に楽しいのではない、オッフェンバックのパノラマ。極めて魅惑的。

OFFENBACH: ORPHÉE AUX ENFERS
DESSAY & MINKOWSKI


オッフェンバック : オペラ・ブッフ 『地獄のオルフェ』

ウリディス : ナタリー・デセイ(ソプラノ)
ジュピテール : ローラン・ナウリ(バリトン)
アリステ=プリュトン : ジャン・ポール・フシェクール(テノール)
オルフェ : ヤン・ブロン(テノール)
世論 : エヴァ・ポドレス(コントラルト)
キュピドン : パトリシア・プティボン(ソプラノ)
ディアヌ : ジェニファー・スミス(ソプラノ)
ヴェニュス : ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)
ジュノン : リディ・プリュヴォ(ソプラノ)
ジョン・スティクス : スティーヴン・コール(テノール)
メルキュール : エティエンヌ・レクロアール(テノール)
ミネルヴ : ヴィルジニー・ポション(ソプラノ)

マルク・ミンコフスキ/リヨン国立歌劇場管弦楽団、同合唱団
グルノーブル室内管弦楽団

EMI/5 56725 2




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