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カッチーニ、エウリディーチェ。 [2014]

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さて、9月です。学校では、新学期がスタート、クラシックでは、新たなシーズンが開幕、そんなリスタートに相応しい音楽を聴いてみようかなと... で、今年、没後400年のメモリアルを迎えるカッチーニに注目!イタリア古典歌曲の定番の作曲家だけれど、お行儀良く、お上品に、楚々と歌われるイタリア古典歌曲の印象からか、クラシックにおけるカッチーニの存在感は、同時代を生きたモンテヴェルディに比べると、インパクトに欠ける。が、音楽史から見つめれば、カッチーニの功績はただならない。モノディーの発明により、現在に至る音楽の在り方を示し、モンテヴェルディの先を行って、バロックの扉を開いた人物。その扉を開くにあたって伝えられる人物像は、またインパクトのあるもので、実に興味深い。ということで、バロックへの扉、オペラ誕生に迫る。
リナルド・アレッサンドリーニ率いるコンチェルト・イタリアーノの演奏、シルヴィア・フリガート(ソプラノ)のエウリディーチェ、フリオ・ザナージ(バリトン)のオルフェオで、現存最古のオペラ、カッチーニのオペラ『エウリディーチェ』(naïve/OP 30552)を聴く。

ジュリオ・カッチーニ(1551-1618)。
時代が古いだけに、生まれた場所や、幼い頃については、はっきりしないことが多いカッチーニなのだけれど、弟、ジョヴァンニ・バッティスタ(1556-1613)は、ローマで活躍した彫刻家で、芸術的感性に優れた一家に育ったか?そんなカッチーニは、ローマで音楽を学び、ヴァティカンの聖歌隊、カペラ・ジュリアで歌い、修行。1560年代半ば、メディチ家のトスカーナ大公(その当時はフィレンツェ公... )、コジモ1世(在位 : 1537-74)が、10代半ばのカッチーニの歌声に魅了され、ローマからフィレンツェに連れ帰り、宮廷の庇護下で、さらなる教育を受けさせ、やがて、フィレンツェの祝祭で欠かせない名歌手に!その一方で、トスカーナ大公の廷臣、ヴェルニオ伯、ジョヴァンニ・デ・バルディ(1534-1612)が主催する私的なアカデミー、カメラータ(1573年に第1回の会合が持たれ、1577年から1582年に掛けて活発に活動... )にも参加。当時、高名な音楽学者だったガリレオの父、ヴィンチェンツォ・ガリレイ(ca.1520-91)らとギリシア悲劇について研究(古典復興、まさにルネサンス的な事象!)。古代ギリシアでは台詞は歌われていただろうという考えから、詩をひとりで歌う、単声=モノディーの形式を生み出す。今では当たり前のことだけれど、ルネサンス期、多声=ポリフォニーが一般的であった時代、モノディーは、ただならず前衛的な音楽。この発明は、音楽史にとって、最も重要な節目だったように思う。そして、このモノディーの深化が、ギリシア悲劇の復活としてのオペラを誕生させ、バロックの扉は開かれる。
が、オペラを誕生させるのはカッチーニではなく、カッチーニの若きライヴァルたち... カメラータが期待した若い詩人、リヌッチーニ(1562-1621)の台本に、カメラータに参加していたフィレンツェの貴族、作曲家でもあったヤコポ・コルシ(1561-1602)と、その友人で、カメラータのメンバーの下で音楽を学んだ歌手にして作曲家、ペーリ(1561-1633)の共作による『ダフネ』(1598)が、世界初のオペラ。この作品は評判を呼び、大公一家の住まうピッティ宮でも上演(1599)されるほどで... 1600年、トスカーナ大公女、マリア(マリ・ド・メディシス)と、フランス国王、アンリ4世の婚礼がフィレンツェで行われると、その祝祭のイヴェントのひとつとして、彼らの新作、『エウリディーチェ』も上演されることになる。で、この祝祭における音楽を取り仕切ったのが、並み居るライヴァルたちを蹴落としたカッチーニ... その権限を以って、『エウリディーチェ』に干渉(自らは、祝祭の最後を飾る、より大規模なオペラ『チェファロの強奪』を準備していながら!)。自らの監督下にある歌手たちを出演させる代わりに、その歌手たちが歌うナンバーを自ら作曲し歌わせることをゴリ押し。さらには、その舞台が評判(自らが手掛けた『チェファロの強奪』は、準備不足により失敗!)になると、台本の全てを作曲し、ペーリらを出し抜いて、先に楽譜を出版するというクソ野郎っぷりを発揮。『エウリディーチェ』の成功を我が物にしようとした。
そんなカッチーニの『エウリディーチェ』は、碌なもんじゃない?いやいやいや、いいとこ取りが功を奏して、ますます充実した音楽が展開されてしまうから、えげつない。オペラ黎明期の作品ではあるけれど、色彩に溢れ、情感に富み、また、宮廷の祝祭を彩っただけに、品良く、花々しく、思いの外、ブリリアントな仕上がり。フィレンツェでの『エウリディーチェ』に刺激され、7年後にマントヴァの宮廷で制作される、モンテヴェルディの『オルフェオ』(1607)と比べると、より音楽的に感じられ... モンテヴェルディのように感情を朗唱に穿って行くような厳しさを見せず、詩を歌うことを活かし、ドラマを明朗に繰り出すのがカッチーニ流のオペラ。いや、より後のオペラに近いのかもしれない。歌手出身のカッチーニが紡ぎ出す歌は、歌うことがとてもナチュラル。それは歌心を熟知した作曲家による音楽と言えるのかもしれない。で、そのあたりを強調するのが、ポッリオとアレッサンドリーニによる編曲と編集... 21世紀の聴衆を前に上演(ここで聴くのは、2013年、インスブルック古楽音楽祭での上演のライヴ録音... )するにあたり、オペラ黎明期の枠組みを壊さず、より聴き応えを補強するような感覚があるのか?ギリシア悲劇の復活としてのオペラのアルカイックさよりも、バロックの幕開けを飾る祝祭の花々しさを今に蘇らせて、素敵。音楽こそ古風ではあるのだけれど、不思議とフレッシュに感じられるのが、おもしろい。
というフレッシュさを創り出す、アレッサンドリーニ+コンチェルト・イタリアーノが、すばらしい!アレッサンドリーニならではの息衝く音楽は、誕生して間もないオペラにより魅惑的な表情を与え、ライヴ録音であることも相俟って、1600年、フィレンツェ、ピッティ宮の臨場感を呼び覚ます。また、コンチェルト・イタリアーノが織り成すサウンドが豊潤で... ひとりひとりの見事な演奏があり、古楽器が持つヴィヴィットさが映え、豊かな色彩を織り成す。そして、何と言っても粒揃いの歌手たち!悲劇とエウリディーチェを歌うフリガート(ソプラノ)のどこか無邪気な歌声は、祝祭の花々しさを際立たせ、ダフネとプロセルピナを歌うミンガルド(コントラルト)の懐深い歌声は、ギリシア神話に基づく物語の格調高さを引き立たせ... が、やっばり、主役、オルフェオを歌うザナージ(バリトン)!エウリディーチェを再び蘇らせるため、冥府に下り、切々とその悲しみを訴える場面(track.13)は、圧巻。等身大の人間の感情を歌声に表して、聴き入るばかり... そうしたすばらしいパフォーマンスが、400年の時を経て、カッチーニの音楽を魅力的なものとして蘇らせる。

CACCINI Concerto Italiano Rinaldo Alessandrini

カッチーニ : オペラ 『エウリディーチェ』

エウリディーチェ/悲劇 : シルヴィア・フリガート(ソプラノ)
オルフェオ : フリオ・ザナージ(バリトン)
アルチェトロ : ジャン・パオロ・ファゴット(テノール)
ティルシ/アミンタ : ルカ・ドルドーロ(テノール)
ダフネ/プロセルピナ : サラ・ミンガルド(コントラルト)
ヴェネレ/ニンファ : モニカ・ピッチニーニ(ソプラノ)
プルトーネ : アントニオ・アベーテ(バス)
ラダマント/牧人/精霊 : マッテオ・ベッロット(バス)
カロンテ : マウロ・ボルジョーニ(バリトン)
ニンファ : アンナ・シムボリ(ソプラノ)
牧人/精霊 : ラファエーレ・ジョルダーニ(テノール)
牧人/精霊 : マルコ・スカヴァッツァ(バリトン)

リナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ

naïve/OP 30552




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