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四季、リコンポーズド・バイ・マックス・リヒター。 [2014]

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さて、8月が終わります。まだまだ暑いものの、天気予報では秋雨前線(いや、また大雨となっている地域があり、心が痛みます... )という言葉が聞かれ始め、来月になれば、気温も落ち着くような話しもチラホラ... あれだけ暑かった夏も、また秋へとうつろうのですね。で、何となしにセンチメンタル。冬の終わりは、春を迎えるワクワクとした気分に包まれるものですが、夏の終わりは、どこか寂しげ... お盆も過ぎると、少しずつ影が伸びて、燦々と輝いていた太陽は、どこかへ遠ざかってしまような、何とも言えない心細さを感じることがある。秋が嫌いなわけじゃないけれど、夏が行ってしまうことに、妙な喪失感。これって、夏休みの遠い記憶だろうか?三つ子の魂百までじゃないけれど、こどもの頃に刷り込まれた夏休みの特別感は、どこかで今も生きている気がする。その特別感が、今、去ろうとしている。ということで、季節の変わり目に、季節そのものを聴いてみたいと思う。
ダニエル・ホープのヴァイオリン、マックス・リヒターのシンセサイザー、アンドレ・ド・リダーの指揮、ベルリン・コンツェルトハウス室内管弦楽団の演奏で、マックス・リヒターによるリコンポーズ、ヴィヴァルディの『四季』(Deutsche Grammophon/479 2779)を聴く。

クラシックの顔とも言える名門レーベル、Deutsche Grammophonが、クラシックに新風を呼び込もうと、カラヤンの録音をマティアス・アーフマンに委ね、リミックスを試みるという大胆な所業に出たのが、2006年... 以後、ジミー・テナー、カール・クレイグとモーリッツ・フォン・オズワルド、マシュー・ハーバートと、"ReComposed"と謳い、アカデミックな面々が卒倒しそうなシリーズを展開。その延長線上に登場したのが、ポスト・クラシックの旗手、マックス・リヒター... が、マックス・リヒターは、単に録音をリミックスに留まらず、大胆にスコア自体を編集。まさに、リコンポーズしてしまうという禁じ手に打って出て、単にクラシックを素材にするのではなく、より実際的にクラシックへの干渉を試み、大いに古典音楽の世界を揺るがした。そして、その餌食となった作品が、ヴィヴァルディの『四季』。クラシックを知らずとも聴いたことがあるだろう、クラシックの不朽の名作... 今さら説明するまでもないが、4つヴァイオリン協奏曲が、四季のそれぞれの季節を鮮烈に描き出す描写音楽、典型的なバロック音楽とも言える作品。それをマックス・リヒターがリコンポーズし、新たな『四季』を再創造する。
さて、マックス・リヒターは、ヴィヴァルディの音楽の肝となる25%を用い、残り75%を自らで作曲しているとのこと... となると、何だか違う音楽になってしまいそうだけれど、『四季』の顔はそのままに、ボディーにあたる部分を再創造する感じ... よって、思いの外、『四季』のままであることに、ひと安心。で、典型的なバロック音楽の、バロックの頃の形式を外し、より自由にヴィヴァルディの音楽の肝を引き立てる。冴え渡るソロ・ヴァイオリンはそのままに、そのバックで奏でるオーケストラはミニマル・ミュージック的な音楽を展開したり、要所、要所で、シンセサイザーが印象的な情景を創り出し、映画音楽を思わせるようでもあり(いろいろな映画音楽を手掛けているマックス・リヒターならではのセンスか... )、バロックの頃とは違う、21世紀、我々が見つめる四季の景色がそこにある。そんな景色を目の当たりにされると、不思議と落ち着く。オリジナルには無い、ナチュラルさ... 昔の四季のうつろいではなく、今の四季のうつろいがしっかりと反映されていて、春、夏、秋、冬、それぞれの表情がしっくりと来る。で、しっくりと来る『四季』に、ただならず惹き込まれてしまう。何と言っても、耳に心地良い!
春の始まりの幻想的なリフレインは、まるで雪が融け出し、温まった土からふわっと蒸気が昇り、春霞に包まれるよう(track.1)。そこに、ヴィヴァルディが採譜した鳥たちのさえずりが響き渡り(track.2)、春の訪れをより瑞々しく感じ取ることができる。続く、夏は、意外とオリジナルが大切に展開されるのだけれど、次第に音楽の色合いはバロックから、よりロマンティックなものに代わり、ソロ・ヴァイオリンはペルトを思わせるシンプルかつ聴く者を射抜くようなメロディーを歌い上げ(track.5)、ドラマティック。このドラマティックさは、多くの災害に見舞われた今年の夏に重なるようで、迫って来る。いや、リコンポーズされた『四季』は、どことなしにヘヴィーで、ダークなのかも... バロックの頃とは異なる、楽観視できない21世紀の自然環境への危機感が滲むのか?一方で、圧巻の美しさを見せてくれるのが、冬の2楽章(track.12)。リゲティを思わせるオーケストラによるクラスターに、ヴァイオリン・ソロのお馴染みのメロディーが聴こえて来て、まるで真っ白な雪景色の上空を飛んでいるかのよう。この浮遊感には、息を呑む。21世紀なればこそ... このあたりに、リコンポーズの力を思い知る。
そんな、大胆な『四季』のソロ・ヴァイオリンを弾くのが、南アフリカ出身の気鋭のヴィルトゥオーゾ、ホープ。いや、ホープのクリアで瑞々しい音色に、マックス・リヒターのリコンポーズが合っている!メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を初稿版で取り上げたりと、何かとこだわりを見せるホープだけに、このリコンポーズにも、何かそうしたこだわりが感じられ、メンデルスゾーンとは真逆を行くリコンポーズに、屈託無く取り組み、ひょいとオリジナルを越えて行くあたりが、何とも痛快。おもしろいのは、その演奏を聴いて、オリジナルに還った時の衝撃!思いの外、自然が直に聴こえて来て、まるでミュージック・コンクレート!いやー、バロックという時代は生々しかったなと、リコンポーズを体験して味わう感覚に感慨... そういうのもあって、クラシックの新たな手法としてのリコンポーズに、大いに可能性を感じてしまう。で、おもしろいのは、最後にリコンポーズのリミックス(track.14-18)が収録されているところ... エレクトロニック・サウンドスケープと銘打たれたそのトラックは、アンビエントで、DJ、マックス・リヒターの繊細な感性に浸れて、また魅惑的。

Recomposed by Max Richter: Vivaldi's Four Seasons

ヴィヴァルディ/リヒター : 『四季』
リヒター : エレクトロニック・サウンドスケープ シャドウ

ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
アンドレ・ド・リダー/ベルリン・コンツェルトハウス室内管弦楽団
マックス・リヒター(シンセサイザー)

Deutsche Grammophon/479 2777




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shimanuki

初めてご連絡させて頂きました。
私、株式会社スプリックスの島 貫と申します。
突然のご連絡で大変失礼致します。

貴ブログを拝見し、バロック時代の『四季』とは違う、現代の『四季』に興味を持ちました。
新しい『四季』の表現を味わってみたいと思います。

弊社では、学校の先生方向けに授業準備のための無料情報サイト
「フォレスタネット」を運営しております。
この度、貴ブログに投稿されている記事の数々を拝見し、
是非私共にお力をお貸し頂けないかと思いご連絡致しました。

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先生方の授業準備をご支援するサイトです。
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しかし、全国の先生をご支援する為に
より多くの情報を揃えていきたいと思っております。
つきましては、貴ブログにございます記事について、
是非フォレスタネットへ掲載させて頂けませんでしょうか。
掲載作業の一切は全て我々の方で進めさせて頂き、管理人様のお手間はとらせません。
また、記事を掲載する際の名義は管理人様の名義のまま掲載させて頂きます。

貴ブログの記事は、多くのクラシック作品の解説が掲載されており、
学校の先生方の非常に貴重な資料となると存じます。

最後になりますが、フォレスタネットがどのようなものかご覧頂くために、
下記のゲスト用アカウントを作成致しました。
もし宜しければログイン頂き、ご覧いただけますと幸いです。
URL: https://foresta.education/
ログインID:guest1807@nomail.com
パスワード:guest1807

ご不明な点も多々あるかと存じますので、何なりとご質問頂ければと存じます。
この度は突然の不躾なお願いとなり、大変申し訳ございません。
ご検討の程、何卒宜しくお願い申し上げます。

ご連絡いただける際は下記のメールアドレスまでお願い致します。
r.shimanuki@sprix.jp
by shimanuki (2018-09-24 16:56) 

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