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ヌールハイム、カロラシオーネ。 [2007]

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台風が行ってしまえば、涼しくなるかな?と、漠然と期待していたのですが、甘かった... いやはや、まだまだ暑い!ということで、まだ行きます、北欧... さて、北欧と言えば、オーロラ!北欧神話では、天空を駆け巡るヴァルキューレたちの甲冑の輝きだと語られたのだとか... いや、北欧の人々の想像力の豊かさと、センスに感心してしまう。でもって、おもしろいのは、そのメカニズムにも想像性を感じ、センスすら見出せるところ... あれって、夜に現れるけれど、太陽からの光なのだよね。もちろん、日光とは別物。太陽が放出したプラズマが、地球の磁場に弾かれるも、一部、器用に巻き込まれ、太陽とは反対の方向から、極地の磁場の隙間にスルっと入り込み、大気に漂う酸素原子やら何やらをびっくりさせて、光らせるという、随分と凝った仕掛けの壮大な手品のよう。いや、あれは、オーディン(北欧神話の主神、ドイツ語ではヴォータン... )がヴァルキューレたちを使って繰り広げる手品なのかも... そういう北欧の特別な環境が育む、「北欧」の感性ってあるような気がする。
ということで、オーロラが揺らめくようなエレクトリカルな音楽!ノルウェーの現代音楽専門家集団、シカダのキーボーディスト、ケネス・カールソンと、パーカッショニスト、ビョルン・ラッベンのシカダ・デュオと、アク・パルメラドのエレクトロニクスに、エリザベト・ホルメッツ(ソプラノ)の歌も加わって、ノルウェーの作曲家、ヌールハイムの作品集(2L/2L-039-SACD)を聴く。

アルネ・ヌールハイム(1931-2010)。
ノルウェーが独立(1905)を果たして四半世紀が過ぎた頃、世界は大恐慌と全体主義の台頭によって不穏な空気に包まれ始めた1931年、オスロから南へ100Kmほど行った街、ラルヴィクで生まれたヌールハイム。同世代には、シュトックハウゼン(1928-2007)、クラム(b.1929)、武満(1930-96)、カーゲル(1931-2008)、グバイドゥーリナ(b.1931)、ペンデレツキ(b.1933)、シュニトケ(1934-98)、ラッヘンマン(b.1935)、ライヒ(b.1936)と、まぁ、実に多彩な個性が犇めいている!で、ヌールハイムもまた、個性的... 第2次大戦終結から間もない1948年、オスロ音楽院(現在のノルウェー音楽アカデミー... )に入学。オルガンと音楽理論を学び始めるも、作曲に転向。卒業後、1955年、コペンハーゲンに赴き、デンマークの作曲家、ホルンボー(1909-96)に師事。さらにパリへ出て、ミュージック・コンクレートに触れ、1959年には、オランダ、ビルトホーフェンのスタジオで電子音楽に挑戦、1967年から1972年に掛けて、ワルシャワのスタジオを訪れ、多くの電子音楽作品を生み出す。戦後「前衛」の、さらなる最先端で、自らの音楽を確立したヌールハイム。そのサウンドは、いわゆる"ゲンダイオンガク"を越えて、「北欧」の鮮やかさ、瑞々しさに溢れ、どこかオーロラを思い起こさせるのか...
最初に聴く、カロラシオーネは、電子を用いるヌールハイムにとって、マイルストーンとなった1968年の作品。ハモンド・オルガンとパーカッションによる演奏を、ライヴ・エレクトロニクスで拾い、遅らせて再生し、音を重ねて、2人の奏者によるサウンドを越えた広がりを生むマジカルな音楽... いや、これぞ電子の魔法!始まりのハモンド・オルガン(この楽器自体が電子楽器!)のミステリアスな響きは、どこかオーロラめいて、ヴィヴィット。カロラシオーネは、イタリア語で、色彩の意味だけに、まさにそんなイメージになるのか... 一方で、電子とは真逆を行くパーカッションが絶妙なアクセントを加えつつ、そのサウンドもまた電子の魔法で以って際限が無くなり、ハモンド・オルガンのヴィヴィットさと共鳴、表情豊かに不思議な世界を描き出す。続く、5つの暗号解読(track.2-6)は、カロラシオーネからぐっと時代を下って、2002年の作品。古代ギリシアの詩人、アルキロコスの詩を、パーカッションとシンセサイザーによる多彩なサウンドに乗せてソプラノが歌う歌曲なのだけれど、まず印象に残るのはテクノロジーの進化... ハモンド・オルガンにはない、シンセサイザーの縦横無尽!もはや、宇宙... そういう中に、ソプラノによるアルカイックなメロディーが浮かべば、浮世離れした雰囲気が漂い、また、パーカッションがエキゾティックなテイストを加えると、古代の地中海文化圏のミステリアスさが呼び覚まされるようで、そんな音楽に包まれれば、タイムスリップしてしまったような感覚に... いや、最新の技術と古代が接触するおもしろさたるや!魅惑的。
で、ヌールハイムの音楽に触れて、興味深く思うのは、どの時代の作品にも、時代を超越する瑞々しさが感じられるところ。電子音楽も、その黎明期、戦後「前衛」の時代の作品は、電子であることが前面に押し出されて、デジタルを経た現代の耳からすると、ちょっと小っ恥ずかしく、技術的な未熟さはほろ苦く、それがまた懐かしさを喚起して味となっているのだけれど、ヌールヘイムには、そういう感覚は薄い。ヌールヘイムのスタンスは、あくまで音楽が主体であって、技術的な新しさに関しては、どこか冷めた視点を持っていたのか?そういう姿勢が今を以ってしても瑞々しいサウンドに至るのかもしれない。それでいて、その瑞々しさに「北欧」も見出す。いや、ヌールハイムの電子音楽は、「北欧」的電子音楽と言えるのかもしれない。現代の技術を用いても、その音楽はグリーグの系譜にある?最後に歌われる1982年の作品、はじめての蝶々(track.8)のメロディーは、ベルクっぽい雰囲気もありつつ、グリーグのような儚げなやさしさを見せて、魅了されずにいられない。
さて、はじめての蝶々(track.8)は、ハープとヴォーカルのために作曲された作品なのだけれど、シカダ・デュオによってエレクトリカルにアレンジされていて、これがまた素敵!何とも言えずポップ... 現代音楽であることを忘れさせるテイストに、アルバムの最後で目が覚める思い。またそうしたあたりに、シカダ・デュオの、ヌールヘイムへの思いが溢れているように感じられ... 作曲家の信頼も厚く、ヌールハイム作品をいろいろ初演して来た2人だけに、単なる作品集を越えた感覚が、このアルバムには籠められている気がする。電子のトリッキーさ、技術のクールさと、「北欧」の瑞々しさに、不思議と温もりも感じられるサウンド... 鋭くヌールハイムの音楽に迫りながらも、母国の偉大な芸術家への愛に溢れた演奏は、"ゲンダイオンガク"の硬直を緩ませて、オーロラのようにしなやかに、ヴィヴィットに、聴き手を惹き込んで来る。

CIKADA DUO - Nordheim

ヌールハイム : カロラシオーネ
ヌールハイム : 5つの暗号解読 *
ヌールハイム : リンク
ヌールハイム : はじめての蝶々 *

エリザベト・ホルメッツ(ソプラノ) *

シカダ・デュオ
ケネス・カールソン(シンセサイザー)
ビョルン・ラッベン(パーカッション)

アク・パルメラド(エレクトロニクス)

2L/2L-039-SACD




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