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ルーセンベリ、ラーションのピアノ作品。 [2013]

クラシックで「北欧」というと、ノルウェーのグリーグ(1843-1907)、フィンランドのシベリウス(1865-1957)が、やっぱり二枚看板。そこに、デンマークのニールセン(1865-1931)がスパイスを効かせる感じ... となると、スウェーデンは?ステーンハンマル(1871-1927)、アルヴェーン(1872-1960)の名前が知られるわけだけれど、グリーグ、シベリウス、ニールセンに比べると、インパクトに欠けるような... とはいえ、スウェーデンの音楽が他の北欧の国に比べて魅力に欠けるなんてことはまったく無い。というより、「北欧」というイメージでまとめやすい北欧の音楽にも、それぞれに個性が光っていて、そのあたりを丁寧に見つめると、北欧という土地の広がりが窺えて、実に興味深い。大海原の豪快さ、鮮烈さを感じるノルウェーの音楽、大陸的なスケールを感じさせるフィンランドの音楽、そして、国破れて文化あり、仄暗いデンマークの音楽、でもって、スウェーデンは?
ということで、スウェーデンのピアニストによる20世紀のスウェーデン!アンナ・クリステンソンの演奏で、ルーセンベリのピアノ作品集(CAPRICCIO/C 5116)と、ハンス・ポルソンの演奏で、ラーションのピアノ作品集(BIS/BIS-CD-758)の2タイトルを聴く。


スウェディッシュ・モダン、クールなルーセンベリのピアノ...

C5116.jpg
ヒルディング・ルーセンベリ(1892-1985)。
スカンジナヴィア半島の南端、デンマークに近いスコーネ地方(17世紀まで、デンマーク領だった... )の小さな町、ボーシェークロステルに、庭師の子として生まれたルーセンベリ。早くから音楽の才能を見せ、1909年、17歳の年には、カルマル(カルマル同盟が結成された由緒ある街... )でオルガニストを務めるまでに!第1次大戦が勃発する1914年、奨学金を得て、スウェーデン王立音楽アカデミーの音楽院(現在のストックホルム王立音楽大学)に入学し、ピアノ、作曲、指揮を学ぶ。さらに、ステーンハンマルにも師事し、充実した学生生活を送ると、第1次大戦終結から間もない1920年、ヨーロッパを旅し、ベルリンではシェーンベルク、パリではストラヴィンスキーや6人組の音楽に触れ、大いに刺激を受ける。そんな旅を終えて間もない頃の作品、1924年の組曲(track.1-5)と、1921年の8つの人工的な風景(track.6-13)から始まる、クリステンソンが弾く、ルーセンベリのピアノ作品集。モダニズムがキラキラとしていた頃、近代音楽がお洒落であった頃の上質さが、ふわっと匂い出し、魅了される!近代音楽の多様なパレットを、卒なく自らのものとしつつ、「北欧」らしい澄んだ響きで、近代音楽の灰汁の強さをさらりと昇華させてしまう妙。そこに、ルーセンベリの鋭敏なセンスを感じずにはいられない。でもって、「8つの人工的な景色(プラスティック・シーン)」なんて言う、サティっぽい感じのタイトルもツボ。
さて、ルーセンベリは、1930年代の初め、当時、現代音楽(新ウィーン楽派や、ヒンデミットらの音楽... )の紹介者として精力的に活動していたドイツのマエストロ、ヘルマン・シェルヘン(1891-1966)に就いて、指揮者としての研鑽を積んでいるのだけれど(その後、ストックホルムの王立歌劇場の首席指揮者に就任!)、そういう影響を感じさせるアルバムの後半、1949年のピアノのためのソナチネ(track.14-16)、1939年の即興曲(track.17-24)、1941年の主題と変奏(track.25-42)。そこには、ドイツ調の冷めたモダニズムが感じられ、また、ファシズムが台頭する時代(指揮者の師、シェルヘンは、1933年、ナチスが政権を掌握するとスイスに移住... )の仄暗さも広がるのか、前半の明朗なモダニズムとは明らかに違う空気が漂い、絶妙なコントラストを描き出す。けれど、ルーセンベリの鋭敏なセンスは、ますます研ぎ澄まされるようで、前半より、より踏み込んで無調や音列音楽的な語法を用いながらも、独特なシンプルさを保ち、瑞々しいサウンドを繰り出す。最後の主題と変奏(track.25-42)では、アンビエントな雰囲気もあり、モダニズムを突き抜けて現代的?ちょっとクラシック離れした感覚があって、最高にクール!いや、ルーセンベリのピアノ作品は、もっと演奏されてしかるべき!
というルーセンベリを聴かせてくれる、スウェーデンの若手、クリステンソンのピアノが、またクール... クリアなタッチが、ルーセンベリの音楽をより磨き上げるようで、ひとつひとつの作品を、まるで氷の結晶のように美しく輝かせる。で、その輝きは、クラシックの気難しさから解き放たれるようでもあり、不思議とライト。近代音楽というと、ヘヴィーなイメージが付き纏うわけだけれど、クリステンセンのルーセンベリは、そういうステレオタイプにまったく囚われない。この現代っ子感覚が、心地良い。いや、若い感性のピュアな視線が、ルーセンベリの音符に籠められた「北欧」の周縁性、近代音楽を主導したヨーロッパの中央にいた作曲家たちとは一味違う温度感を引き出していて、興味深い。北欧のピアニストによる、北欧サウンド... このアルバムには、間違いなく、感性が響き合う様子が聴き取れて、なればこそ、より魅力的。

HILDING ROSENBERG ・ ANNA CHRISTENSSON

ルーセンベリ : 組曲 Op.20
ルーセンベリ : 8つの人工的な景色 Op.10
ルーセンベリ : ピアノのためのソナチネ
ルーセンベリ : 即興曲
ルーセンベリ : 主題と変奏 〔創作主題による17の変奏〕

アンナ・クリステンソン(ピアノ)

CAPRICCIO/C 5116




スウェディッシュ・ポップ!?お洒落なラーションのピアノ...

BISCD758
ラーシュ・エリク・ラーション(1908-86)。
ルーセンベリの16歳年下となるラーション... ルーセンベリが生まれたボーシェークロステルと同じ、スコーネ地方の町、ウーカルプ(コペンハーゲンの対岸にある都市、マルメの近郊... )に、工場労働者の父と看護師の母の下に生まれる。そして、若くして音楽の才能の片鱗を見せたのだろう、1924年、16歳の年に、スコーネ地方の北隣り、スモーネ地方の街、ペクショーのオルガニスト採用試験を受ける。翌、1925年には、スウェーデン王立音楽アカデミーの音楽院で、作曲と指揮を学び、在学中に作曲したOp.1にあたる歌曲「フィドル弾き、最後の旅」(1927)、1番の交響曲(1928)が注目を集め、1929年、国からの奨学金を得て、ドイツ、オーストリアを遊学... 近代音楽の最前衛に触れながら、ウィーンではベルク(1885-1935)から指導も受けている。が、ラーションは、ベルクの指導に不満があったよう... ポルソンが弾く、ラーションのピアノ作品集から聴こえて来る音楽は、新ウィーン楽派というより、擬古典主義風で、軽快で、そこはかとなしにキャッチー!一回り強の世代間だろうか、ルーセンベリの音楽とはまた少し違う温度感が印象的。で、わずかにシニカルなトーンがあって、ショスタコーヴィチ(1906-75)に似た雰囲気もあって、ままならない時代、20世紀の気分を、音楽に反映させるよう。
でもって、特にショスタコーヴィチとの距離の近さを感じるのが、1曲目、1969年の古風な7つの小フーガと前奏曲(track.1-14)。ショスタコーヴィチの24の前奏曲とフーガ(1951)に似て、擬古典主義で、どこか調子外れの、不思議テイスト。戦後「前衛」が沸点に達しようという時代に、飄々と"古風"な音楽を繰り出してしまうのが乙。でもって、ところどころフォークロワなテイストが顔を覗かせて、おもしろい!続く、スケッチ(track.15-20)は、1947年、第2次大戦終結、間もない頃の作品... その音楽は、フランス6人組を思い出させる洒落たモダニズムが印象的で、軽やか。さらに時代を遡り、1936年の1番のソナチネ(track.21-24)では、折り目正しく擬古典主義が紡ぎ出され... その冒頭は、まさにモーツァルト!屈託の無い、小気味良い音楽が流れ出す。そこから再び戦後に戻って、1947年の2番のソナチネ(track.25-27)が続くのだけれど、そのトーンは少しダークになり、より力強く音楽が展開され、近代音楽らしいエッジを効かせて、カッコいい!最後、1950年の3番のソナチネ(track.28-30)は、近代音楽に少しムーディーな色合いが加わって、魅惑的。いや、ラーションのピアノ作品は、絶妙にポップ!それも、そこはかとなしに「北欧」を意識させる爽やかなポップさで、耳に心地良い。
というラーションを聴かせてくれた、スウェーデンのベテラン、ポルソン。ベテランならではの余裕を感じさせるタッチが、ラーションの音楽をより味わい深いものとしていて... 古風な7つの小フーガと前奏曲(track.1-14)の"古風"さでは、バッハ調の音楽の滴るような感覚をじっくりと響かせ、一方、スケッチ(track.15-20)でのフランス風のモダニズムにはエスプリが感じられ、ふわっと音楽が薫り出す。程好くしっとりとしていて、程好く力強く、そのバランス感覚が、ラーションのピアノ作品のおもしろさを、しっかりと引き出す。1937年以降、ラーションは、スウェーデン放送で仕事をしており、より幅の広い聴衆のために、より解り易い音楽を心掛け... そういう姿勢を反映した音楽は、20世紀音楽にして、独自のライトさを打ち立てていて、21世紀の現在からすると、かえって時代感覚を超越した新鮮さが生まれる。ポルソンは、まさにこのおもしろさを卒なくすくい上げる。いや、これぞ「北欧」のお洒落!IKEA、H&Mへとつながるセンス?かも...

Larsson: Piano Music - Hans Pålsson

ラーション : 古風な7つの小フーガと前奏曲 Op.58
ラーション : スケッチ Op.38
ラーション : ソナチネ 第1番 Op.16
ラーション : ソナチネ 第2番 Op.39
ラーション : ソナチネ 第3番 Op.41

ハンス・ポルソン(ピアノ)

BIS/BIS-CD-758




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