SSブログ

スウェーデンの合唱とジャズの共鳴、RESONANSER。 [2008]

BISCD1714.jpg
ノルウェーのグリーグ、フィンランドのシベリウス、デンマークのニールセンと、個性、溢れる、クラシックにおける「北欧」。なのだけれど、スウェーデンは、若干、存在感が薄い?えーっ、スウェーデンは「歌」の国でありまして... 往年の名ソプラノ、ビルギット・ニルソンがおり、今やメッゾ・ソプラノの大御所、アンネ・ソフィー・フォン・オッターがおり、さらには、ABBAに、マルムスティーンに、メイヤに、カーディンガンズとかスウェディッシュ・ポップなどなど、振り返ってみると、ジャンルを問わず、凄い歌い手、個性を持った歌手が多くいることに気付かされる。で、その源には、何があるのだろう?スウェーデンには、キュールニングという伝統的な唱法があり、牧場の牛を呼び寄せる時に用いるらしい... それは、広い放牧地から牛を集めるだけに、遠くまでよく透るもので、どこか信号音のような不思議な歌であり、牛を呼び寄せる一方、狼や熊を追い払うこともできるのだとか... いや、スウェーデンの人々は、歌を通して、自然と対話することができる?雄大な北欧の自然に抱かれ、育まれたスウェーデンの歌声は、やっぱり一味違うのか?牛ばかりでなく、世界中の人々も惹き付けることに...
さて、スウェーデンの歌声で欠かせないのがコーラス!ということで、セシリア・リディンエル・アーリンが率いた、ウプサラ大学の合唱団、アルメンナ・ソンゲンによる興味深いアルバム、国民楽派から現代音楽までを取り上げながら、ジャズ・ピアニスト、アンデシュ・ヴィドマルクとセッションしてしまうアルバム、"RESONANSER(共鳴)"(BIS/BIS-CD-1714)を聴く。

はぁー、何て爽やかなんだろう。まるで、風のような歌声... 北欧のコーラスは、フィヨルドを吹き抜ける風のように清々しく澄んでいて、やわらかでもあって、歌でありながら、どこか歌でないような、不思議な存在感がある。雄大な自然と近い場所に在る人々が編むコーラスというのは、どこか人間臭さが希薄で、自然に溶け込んでしまうような佇まいがある?いや、まさにナチュラル!とはいえ、それは、キュールニングのように特別な唱法を用いているわけでなくて... 今や合唱界の伝説、スウェーデンの合唱指揮者、エリック・エリクソン(1918-2013)が打ち立てた近代的なコーラスの作法に則ったもの。小回りの利く少数精鋭の室内合唱で、徹底してクリアなハーモニーを響かせる。ある意味、サウンド・マシーンと化したコーラス... 「歌う」という極めて人間臭い行為を、究極的に音楽として研ぎ澄ませたものが、エリクソン以後のスウェーデンのコーラスであり、合唱王国、北欧のイメージとなり、そのスタイルは、現在のクラシックにおいて、まだまだ先端的だと思う。で、ここで聴く、ウプサラ大学の合唱団、アルメンナ・ソンゲンも、もちろん、そう... そして、その高性能なあたりをフルに発揮し、"RESONANSER"に収録された、自然を歌うスウェーデンの合唱作品を捉えると、良い意味で人間性が消失し、歌声は風になり、自然と同化してしまうよう... という、1曲目、サンドストレム(b.1954)の「山風の歌」は、まさにそれ!
プリミティヴな色彩を放つインパクトある歌い出しに、まず耳が持って行かれた後で、フォークロワを思わせる独特なトーンが淡々と、時に鮮烈に歌い紡がれて... ア・カペラによる歌声は、高緯度の荒涼とした大地を渡って来た風のように、どこか冷たく聴く者の耳を吹き抜けて行く。そんな風にさらされると、北欧のリアルな自然が眼前に広がるよう。続く、レーンクヴィスト(b.1957)の「光の場」も、やはりフォークロワを思わせる表情があって、ミステリアス。が、次第にタイトルにある光を感じ始めると、キュールニングを思わせる高音が響き、聴く者の目を覚まさせる。そして、もう1曲、レーンクヴィストの「天の間で」(track.3)は、まるで鶴のつがいが歌を交わすように、2人のソプラノによるキュールニングが圧倒的な存在感を放つ。その後で歌われる、スウェーデンの民俗舞踊をベースとしたメッレル(b.1955)の「コップのポルスカ」(track.4)は、民謡調のメロディーをスキャットで歌うのだけれど、それは不思議と懐かしい感じがして、何とも言えぬ温もりを感じさせ、癒されるぅ... という冒頭の4曲、1950年代生まれのスウェーデンの現代の作曲家による作品は、どれも"ゲンダイオンガク"の尖がった印象は無く、現代流の国民楽派とでも言おうか、スウェーデンらしさを意識した音楽作りがなかなか興味深い。
で、ここからが、"RESONANSER"、共鳴の真骨頂... 現代流の国民楽派に続いて、トラッド「スロングポルスカ」(track.4)が歌われるのだけれど、「コップのポルスカ」と同じくスキャットで、ジャズっぽい仕上がり。さらに、スウェーデンを代表する作曲家、国民楽派、ステンハンマル(1871-1927)のヤコブセンの詩による3つの無伴奏合唱曲(track.6-8)では、「無伴奏」のところに、ジャズ・ピアノが加わり、19世紀の音楽が、まったく新しい表情を見せて、驚かせてくれる!ジャズ・ピアノは伴奏を務めるのではなく、ア・カペラのコーラスにセッションを挑み... 高性能コーラスと型にはまらない自由なジャズ・ピアノは共鳴し、やがてジャンルの壁は崩されて行くようで、パルム(1863-1942)の「ナナカマドからライラック」(track.12)から、アルヴェーンの「夕べ」(track.13)へは、共鳴から融合に至り、まるでフュージョン。スウェーデンの合唱の遺産をリミックスするような感覚があって、おもしろい。と同時に、リミックスされ、現代の作品と、トラッドと、時間軸を取っ払ってひと続きになって、スウェーデンらしさが抽出されるところが、さらにおもしろい。で、スウェーデンは「歌」の国なんだなと...
いやー、聴けば聴くほど、その凝った作りに感心してしまう"RESONANSER"。で、見事に共鳴からケミストリーを引き起こし、そこに生まれた新しくもスウェーデンの根幹へと還るような姿が不思議で、魅了されずにいられない。こういう希有な感覚を導くのも、リディンエル・アーリンの冴え渡る指揮と、アルメンナ・ソンゲンの高機能性があってこそ!徹底して明晰で、まさにサウンド・マシーンと化す... ヒルボリ(b.1954)の「夏至の夜の夢」(track.11)の、静かなメロディーの後ろで響くクラスターは、声というイメージを抱き難いほどの均質な音響を放ち、シンセサイザーのよう。こういう研ぎ澄まされた響きを生み出しながら、どこか気の置けない雰囲気も漂わせるのがアルメンナ・ソンゲン(の意味は、"みんなの歌"なのだとか... )の希有なところ。そんなコーラスにケミストリーをもたらすジャズ・ピアニスト、ヴィドマルクがまた絶妙!そのクリスタルのような響きには、また北欧らしさを見出し、高性能コーラスとの相性の良さも感じる。というあたり、ジャズだけれどクラシカルな端正さもある?なればこそ際立つ共鳴であって... いや、彼のピアノにも魅了される。

Resonanser - Allmänna Sången / Cecilia Rydinger Alin / Anders Widmark

ヤン・サンドストレム : 山風の歌
カーリン・レーンクヴィスト : 光の場
カーリン・レーンクヴィスト : 天の間で *
アーレ・モーレル : コップのポルスカ
伝承曲 : スロングポルスカ 〔アレンジ : ハンス・ガルデマル〕
ヴィルヘルム・ステンハンマル : J.P.ヤコブセンの詩による3つの無伴奏合唱曲 *
デイヴィッド・ヴィカンデル : 谷間の百合王
伝承曲 : 収穫の歌 〔アレンジ : スタッファン・リンドベルイ〕 *
アンデシュ・ヒルボリ : 夏至の夜の夢
ヘルマン・パルム : ナナカマドからライラックへ *
ヒューゴ・アルヴェーン : 夕べ *
アドルフ・フレデリク・リンドブラド : 子供の祈りの言葉で *
伝承曲 : 婚礼歌 〔アレンジ : レーナ・ヴィッレマルク〕 *

セシリア・リディンエル・アーリン/アルメンナ・ソンゲン
アンデシュ・ヴィドマルク(ピアノ) *

BIS/BIS-CD-1714




nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。