SSブログ

デンマーク王、クリスチャン4世の宮廷音楽。 [2010]

Alpha163.jpg
カラフルなレゴのブロックに、お洒落なイルムスの家具... 現在のデンマークのイメージは、クリエイティヴかつナチュラルなイメージ。が、歴史を遡ると、まったく違ったイメージが浮かび上がる。何と言っても、ヨーロッパ中を震え上がらせたヴァイキング(9世紀から11世紀に掛けて... )の国であって... その延長線上に、イギリス、ノルウェーをも支配し、北海帝国(1016-42)を築いた国であって... ノルウェー、スウェーデンの王位を獲得、カルマル同盟を結成(1397)して、北欧に君臨した国であって... クリスチャン4世(在位 : 1588-1648)の時代には、ヨーロッパ全体を巻き込んだ宗教戦争、三十年戦争(1618-48)に介入、新教側のリーダーとしてドイツに侵攻。旧教、ハプスブルク家の皇帝と対決し、ヨーロッパ有数の強国として存在感を示した国であって... 歴史上のデンマークは、現在の小さな国の姿からはちょっと想像が付かないような強大な国としてインパクトを放っている。ということで、19世紀、"デンマーク黄金時代"から遡って、本物のデンマーク黄金時代へ!
その黄金時代を象徴する王様、クリスチャン4世の宮廷音楽を再現する1枚... フランスの古楽アンサンブル、レ・ウィッチズの演奏で、イギリスのヒューム、ドイツのシャイトに、デンマークのペザアスンなど、16世紀末から17世紀前半に掛けて、コペンハーゲンの宮廷で奏でられた多彩な音楽を集めるアルバム、"Konge af Danmark"(Alpha/Alpha 163)を聴く。

さて、世界最古のオーケストラは、1448年にデンマーク王の宮廷楽団として創設されたデンマーク王立管弦楽団(コペンハーゲンの王立歌劇場の管弦楽団)なのだとか... もちろん、創設当初の編成は、現在とはまったく異なるものだったわけだけれど、ひとつの組織がマイナー・チェンジを繰り返し、現在のモダン・オーケストラにつながったことは、なかなか感慨深い。いや、デンマークは、ヨーロッパ音楽の隠れた伝統国と言えるのかもしれない。そして、デンマーク王の宮廷楽団が、最も輝きを放った時代... 芸術全般に熱かった典型的なルネサンス君主、クリスチャン4世(在位 : 1588-1648)の宮廷音楽を、コンソートによる舞曲を中心にまとめたアルバムが、"Konge af Danmark(デンマーク王)"を聴くのだけれど... その始まりは、イギリスのヴァイオルの名手、トバイアス・ヒューム(ca.1569-1645)の「ホルストーン公のお愉しみ」。北欧の、デンマークの音楽を聴くつもりが、イギリス?となるのだけれど、クリスチャン4世の姉、アンナは、スコットランド王からイングランド王となったジェイムズ1世の王妃だったこともあり、イギリスとの文化交流が盛んだったクリスチャン4世の宮廷。そこでは、破格の方賞で招聘されたダウランドを筆頭に、イギリス出身の音楽家たちが活躍しており、このアルバムでは、イギリスに渡る前からアンナの音楽教師をしていたトマス・ロビンソン(ca.1560-1610)、宮廷歌手だったジョン・メイナード(1577-1614)、さらにヴィオラ・ダ・ガンバのマエストロとして活躍したトマス・シンプソン(1582-ca.1628)の作品が取り上げられ、イギリスらしい瑞々しいサウンドと、人懐っこいメロディーで以って、魅了して来る。
というイギリスの作曲家たちとともに"Konge af Danmark"で存在感を示すのが、ドイツの作曲家たち。ドイツと地続きでもあるデンマークだけに、南に広がるドイツとは、より直接的に交流もあっただろう。何より王家が北ドイツの出身(元々は、北西ドイツ、北海に面した領邦を統治するオルデンブルク伯... )であり、北ドイツには親戚が多くいたこともあって、結び付きは、当然、深かっただろう、三十年戦争でドイツに侵攻するほどに... そして、ドイツを凄惨な戦場に変えてしまった、その三十年戦争も、音楽家たちをコペンハーゲンに呼び寄せる要因になっただろう。で、宮廷楽団のヴァイオリニストを務めたヨハン・ショップ(ca.1590-1667)、宮廷のオルガニストを務めたヨハン・ローレンツ(ca.1610-89)に、コペンハーゲンでショップから音楽を学んだヨハン・フィーアダンク(ca.1605-46)、デンマーク、ユトランド半島の付け根にあたるシュレスヴィヒ・ホルシュタインの領邦君主、ホルシュタイン・ゴットルプ家(デンマーク王家の分家で、クリスチャン4世の妹、アウグスタの嫁ぎ先... )の宮廷楽団でキャリアをスタートさせたニコラウス・ブレイヤー(1591-1658)、そして、ドイツにおける初期バロックを代表する作曲家のひとりザムエル・シャイト(1587-1654)が取り上げられるのだけれど、イギリスの作曲家たちと並べると、その音楽の実直さが際立つ!北ドイツのプロテスタント気質だろうか?やがてバッハへとつながる、しっかりとした構築感と、そこから沁み出す渋さは、三十年戦争の辛苦を味わっての境地?感慨深いものがある。
ところで、クリスチャン4世はオランダがお気に入り... 宮廷が置かれていたフレゼリクスボー城(コペンハーゲンの近郊、ヒレレズにある城... )など、クリスチャン4世が改築、新築した宮殿は、どれもオランダ人建築家によるオランダ・ルネサンス様式(東京駅もこれ... )。宮廷でもオランダ出身の音楽家が多く活躍しており、コルネット奏者、マティアス・メルカーや、楽長を務めたメルヒオール・ボルヒグレヴィンク(ca.1570-1632)が、このアルバムでも取り上げられる。で、興味深いのが、クリスチャン4世の命により、ヴェネツィア(当時の最新音楽発信基地!)に派遣され、ジョヴァンニ・ガブリエリ(1557-1612)に師事したボルヒグレヴィンクの音楽... そのガイヤルド(track.17)は、このアルバムで最も花やいだ明るさを見せ、イタリア仕込みだなと... そんなボルヒグレヴィンクの弟子で、ヴェネツィアにも随伴したデンマーク人、副楽長、モウンス・ペザアスン(ca.1585-1623)の「何と甘美な二の腕よ」(track.11)もまた印象的で... タイトルもさることながら、よりイタリア的で、モンテヴェルディの時代のイタリアを意識させる。いや、デンマークの作曲家も負けていない!聴かせます。
という、実に多彩だったクリスチャン4世の宮廷音楽を、今に蘇らせるレ・ウィッチズ... ヴァイオリン、リコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リュート、オルガンからなるアンサンブルは、自在にその多彩さと向き合いながら、レ・ウィッチズならではの詩情というか、ちょっと感傷的なトーンで全体をまとめる。それは、黄金時代でありながらも、凋落の始まりであったクリスチャン4世の治世を思わせて、センチメンタル。そうした中、存在感を示すのが、1617年、クリスチャン4世に贈られ、現在もフレゼリクスボー城で現役のコンペニウス・オルガン!一切の改造無しに現在に伝えられる最も古いオルガンとのことで、一度鳴らせば、クリスチャン4世の時代を呼び覚ますのか、まるで魔法の装置のようで... 随所で聴こえるその音色は、得も言えぬヴィンテージ感を醸し出し、何だかお伽噺の世界に誘われるよう。しかし、19世紀、"デンマーク黄金時代"ばかりがデンマークの音楽ではないなと... 改めて、デンマークの音楽に関心を覚えずにいられない。

Konge af Danmark

トバイアス・ヒューム : ホルストーン公のお愉しみ
ザムエル・シャイト : 音楽の遊戯―パドゥアン
トバイアス・ヒューム : ホルストーン公のアルメイン
トマス・シンプソン : タファル・コンソート 第29番 リチェルカーレ 「可愛いロビン」
トマス・ロビンソン : スペインのパヴァーン
ニコラウス・ブレイヤー : クーラント
トマス・シンプソン : タファル・コンソート ヴォルト
モウンス・ペザアスン : 天にいますわれらの父よ
ヨハン・ローレンツ : 天にいますわれらの父よ
ヨハン・ショップ : シン・ティトゥーロ ニ短調
モウンス・ペザアスン : なんと甘美な二の腕よ
ヨハン・フィーアダンク : カンツォーナ
トマス・ロビンソン : おもちゃ
トマス・ロビンソン : 単旋律聖歌
ザムエル・シャイト : アラマンダ
マティアス・メルカー : パドゥアーナ
メルヒオール・ボルヒグレヴィンク : ガリアルド
ジョン・メイナード : パヴァーン
ニコラス・ジストゥー : パドゥアーナ
ニコラス・ジストゥー : ガイヤルド II

レ・ウィッチズ
オディール・エドゥアール(ヴァイオリン)
クレール・ミション(各種リコーダー)
シルヴィー・モケ(バス・ガンバ/ディスカント・ガンバ)
パスカル・ボケ(リュート/テオルボ)
フレディ・エシェルベルジェ(オルガン)

Alpha/Alpha 163




nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。