SSブログ

デンマーク黄金時代、ハルトマン、ゲーゼの交響曲。 [before 2005]

20世紀前半、デンマークを、ひっそりと生きた早熟の天才、ランゴー(1893-1952)を聴いて、この才能に溢れる作曲家を、「ひっそり」へと追いやった、デンマーク楽壇が気になった。そもそも、デンマークでは、どういう音楽が主流だった?ということで、ランゴー前史、19世紀、デンマークの音楽をざっと振り返ってみる!でもって、19世紀、デンマークは、その初っ端で、大きく躓いていた... ナポレオン戦争での舵取りに失敗し、かつての北欧の雄は、小国に陥落。そこで意地を見せたのが、文化人たち!アンデルセン(1805-75)が、今では世界中のこどもたちの定番となった傑作童話を次々に世に送り出し、キュルケゴール(1813-55)は、実存主義を生み出して、その後の哲学に大きな影響を与えた。そして、音楽では... 近代デンマーク楽壇の礎を築いたハルトマン(1805-1900)が、フランス、ドイツを訪ね、最新のロマン主義をデンマークに持ち帰れば、若きゲーゼ(1817-90)は、メンデルスゾーンの下に飛び込み、大いに活躍し、本場仕込みのロマン主義で以って、デンマークの音楽を一段と高めた。そう、デンマークの19世紀は、国破れて文化あり、"デンマーク黄金時代"だった。
そんな"デンマーク黄金時代"、デンマーク楽壇の中心にいた2人の作曲家に注目... トマス・ダウスゴーの指揮、デンマーク国立放送交響楽団の演奏で、ハルトマンの1番と2番の交響曲(DACAPO/8.224042)と、クリストファー・ホグウッドの指揮、デンマーク国立交響楽団の演奏で、ゲーゼの3番と6番の交響曲(CHANDOS/CHAN 9795)の2タイトルを聴く。


ハルトマン、"デンマーク黄金時代"、デンマーク楽壇を築いた人物の充実。

8224042.jpg
ヨハン・ペーター・エミリウス・ハルトマン(1805-1900)。
祖父の代にドイツからデンマークにやって来たという芸術家一家に生まれたハルトマン。父から音楽の基礎を学び始めるも、その父の意向で、法学も学び、1829年から41年間、官僚としても働いた(というあたり、ちょっとチャイコフスキーに似ている... )という努力家。音楽一本で食べて行けるほど、まだデンマークの音楽シーンは成熟していなかったか... そうした中、コペンハーゲンの教会でオルガニストを務めつつ、多くの作品を発表し、1836年にはコペンハーゲン音楽協会を設立。やがてゲーゼらとともに王立デンマーク音楽院を創設(1867)、デンマーク楽壇を牽引して行くことになる。そんなハルトマンが、初めてフランス、ドイツを訪れた、1836年に作曲された1番の交響曲(track.1-4)をまず聴くのだけれど、同世代のメンデルスゾーン(1809-47)を思わせて、瑞々しい!一方で、古典主義をみっちりと学んだ優等生、メンデルスゾーンほど構築的ではなく、そういう点で嫌みが無く、音符と音符の間に清々しい風が吹き抜けて行くよう(この暑過ぎる夏には最適!)。交響曲ならではの気難しさ、厚かましさみたいなものが薄く、何とも心地良い。かと思うと、終楽章(track.4)は、繰り返し登場するブラスによる力強いフレーズがインパクトを放ち、フィナーレに向けて劇的に盛り上がり、ロマンティック!
続く2番の交響曲(track.5-8)は、1848年、デンマークとドイツ(当時はまだプロイセン王国... )の間にシュレスヴィヒ・ホルシュタイン戦争が勃発し、ドイツとの関係が悪化した頃の作品... ドイツでも作品が取り上げられるようになり、その活動を国際的に広げようかという時だっただけに、戦争はハルトマンにとって不運だった。が、ドイツとの関係の悪化が、デンマークの作曲家たちの意識を国内へと向かわせ、デンマーク楽壇をより充実させることにつながったか... 1番の後で聴く2番の交響曲(track.5-8)は、明らかにより確固たる音楽が響き出し、惹き込まれる。静かに深いサウンドに包まれて始まる1楽章(track.5)から、はっきりとロマンティックの深まりが感じられ、シューマンを思わせるスケール感が広がる。それでいて、デンマークのフォークロワを思わせるフレーズがあちこちから聴こえて来るようで、キャッチー。終楽章(track.8)の朗らかにリズミックなあたりを聴いていると、国民楽派的なセンスを見出し、ドイツ・ロマン主義をベースにしながら、もう一歩先へと踏み出そうとするハルトマンの姿が窺えて、興味深い。何より、その人懐っこさが、耳に心地良く、ドイツ・ロマン主義とは一味違うやさしさ、やわらかさのようなものが感じられ、素敵。どこかアンデルセンの童話を思い起こすよう...
で、このデンマーク楽壇の重鎮を取り上げるのが、ダウスゴーとデンマーク国立放送響(現在のデンマーク国立響... )。その演奏はとても丁寧に感じられ、何だか恐れ多いような... 校長先生の作品を演奏することになった生徒たちが、少し緊張した面持ちでスコアに向き合う風景が浮かび上がって来るよう。いや、ダウスゴーを始め、デンマークの音楽家たちの多くが、王立デンマーク音楽院であるだろうことを考えれば、まさにハルトマンは校長先生であって... そういう丁寧さからは、ハルトマンの音楽が持つやさしさ、やわらかさが沁み出して、独特の気の置け無さを醸し出す。もちろん、現代を生きるデンマークの音楽家たちが、ハルトマンに教わるなんてことはあり得ないわけだけれど、不思議と師弟愛を感じてしまう?おそらく、他の指揮者、他のオーケストラでは出せない感覚だと思う。いや、何とも微笑ましい演奏!

J.P.E. HARTMANN Symphonies Nos. 1-2

ハルトマン : 交響曲 第1番 ト短調 Op.17
ハルトマン : 交響曲 第2番 ホ長調 Op.48

トマス・ダウスゴー/デンマーク国立放送交響楽団

DACAPO/8.224042




ゲーゼ、"デンマーク黄金時代"、デンマーク楽壇を率いた人物の鬱屈...

CHAN9795
ハルトマンの12歳年下となるゲーゼ(1817-90)... この12歳の年の差は、それほどでもないようで、ロマン主義が急成長していた頃には、かなり大きなものだったと言えるのかもしれない。ハルトマンを聴いた後でゲーゼの音楽を聴くと、堂々とロマン主義を表現して行く音楽に圧倒されさえする。で、最初に聴くのが、1840年、若きゲーゼが、ハルトマンが設立したコペンハーゲン音楽協会のコンクールで1位を獲得した作品、序曲「オシアンの余韻」。始まりの、弦楽セクションによる沈鬱なテーマは、どこかグリーグ(コペンハーゲンに滞在しゲーゼに師事している... )を思わせて、そのテーマを、やがてブラスがヒロイックに奏でると、ちょっとワーグナーのようで、これぞロマンティック!といった感じ。その揺ぎ無さに、ハルトマンの音楽からは隔世の感すらある。そんなゲーゼは、1842年、1番の交響曲を作曲するも、デンマークでは理解されず、ライプツィヒのゲヴァントハウス管の首席指揮者、メンデルスゾーン(1809-47)の元にスコアを送ると、絶賛!翌、1843年、ライプツィヒで初演さ、大成功。これを機会にメンデルスゾーンの右腕としてライプツィヒで活躍することに... さらに、1847年、メンデルスゾーンがあまりに早くこの世を去ると、その後継者として、首席指揮者のポストを引き継ぐことになる。
で、その年に書かれたのが、次に聴く3番の交響曲(track.2-5)。優等生、メンデルスゾーン仕込みを感じさせる充実した音楽が印象的で、それでいて、メンデルスゾーンのもう一歩先を行くような、より密度を増したロマンティックさが魅力的で、交響曲の形式張った感覚を打ち破るようなドラマティックな音楽を展開し、惹き込まれる!まさにメンデルスゾーンの後継者に相応しい音楽。だったが、1848年、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン戦争が勃発すると、ゲーゼもまたドイツでの活動が難しくなり、不本意にもデンマークへと帰国。1850年、ハルトマンからコペンハーゲン音楽協会の会長を引き継ぎ、1852年には、ハルトマンの娘とも結婚... ハルトマンの後継者としてデンマーク楽壇を率いて行くことに... そして、帰国から9年が経った1857年に作曲された6番の交響曲(track.7-10)を最後に聴くのだけれど、その音楽、ライプツィヒで書かれた3番より、良い意味で泥臭くなっていて、特に終楽章(track.10)のダンサブルなあたりは、完全に国民楽派。メンデルスゾーンの影響下からはすっかり脱し、デンマークとしての、ゲーゼとしての個性が露わになって、興味深く、何より、力強く、魅了される!で、何か鬱屈としたものを内包しているようで、仄暗く、そのあたりにデンマークの複雑さを垣間見た気がする。
というゲーゼを聴かせてくれた、ホグウッド、デンマーク国立響。まずおもしろいなと思ったのが、その組み合わせ... イギリスのピリオドを代表するマエストロと、北欧、デンマークのオーケストラ。ちょっと思い付かない組み合わせだけれど、それぞれの良さが絶妙に共鳴して、間違いなく魅力的!ホグウッドならではの快活な音楽運びが、ゲーゼのメンデルスゾーン流の軽快さ、国民楽派調のノリの良さをしっかりと引き出し、そのおもしろさを存分に知らしめてくれる。一方、デンマーク国立響の瑞々しいサウンドが、ドイツからデンマークへ、ゲーゼの変節をしっかり捉え、表情豊かに3つの作品を響かせる。ゲーゼの歩んだ道程を思い浮かべながら聴いてみると、より味わい深いものがあって、小気味良く繰り出しながらも、ズシリスジリと重みを増す展開... 聴き進めば、聴き進むほど、はまり込む感覚があって、おもしろい。いや、ランゴーを追いやったデンマーク楽壇の保守性の根っこを見つけたような気がして、なかなか感慨深い1枚だった。

GADE: SYMPHONIES, VOL. 3 – DNSO/HOGWOOD

ゲーゼ : 序曲 「オシアンの余韻」 Op.1
ゲーゼ : 交響曲 第3番 イ短調 Op.15
ゲーゼ : 交響曲 第6番 ト短調 Op.32

クリストファー・ホグウッド/デンマーク国立交響楽団

CHANDOS/CHAN 9795




nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。