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グノー、ローマ賞のためのカンタータとローマ留学で生まれた教会音楽。 [2018]

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シャルル・フランソワ・グノー(1818-93)。
今から200年前、1818年、画家の父とピアニストの母の下、パリで生まれたグノー。芸術的に恵まれた環境で育ったグノーは、母から最初の音楽教育を受け、やがてコンセルヴァトワールの教授だったレイハ(ベートーヴェンと同い年で、ベートーヴェンのボン時代の同僚!)に師事し、才能を伸ばすと、1836年、コンセルヴァトワールに入学。アレヴィ(グランド・オペラの作曲家として活躍し、コンセルヴァトワールの教授を務めた、19世紀前半のフランス楽壇の中心的人物... )らの下で学び、1837年、ローマ賞に挑み、2等となる。さらに翌年もローマ賞に挑むのだったが、受賞には至らず、1838年、3度目の挑戦で、とうとうローマ賞を獲得!翌年、ローマ留学に出発。かの地で歌い継がれるパレストリーナ以来のローマ楽派の聖歌に触れ、大いに刺激を受ける。グランド・オペラ、ロマンティック・バレエの人気が高まる中で、若きグノーは、そうした華やかさからは背を向け、独自の道を歩み出す。いや、『ファウスト』(1859)からすると、意外...
ということで、グノーの生誕200年のメモリアル、少しマニアックに、グノーのローマ賞とローマ留学を見つめる。エルヴェ・ニケによる極めて意欲的なシリーズ、ローマ賞のために書かれた作品にスポットを当てる"Collection Prix de Rome"からVol.6(EDICIONES SINGULARES/ES 1030)。若きグノーによる課題のためのカンタータと教会音楽を聴く。

ローマ賞の課題で書かれたカンタータ(disc.1)と、ローマ留学で書かれた教会音楽(disc.2)の2部構成、2枚組からなるこのアルバム... まずは、コンピエーニュ宮(ローマ賞、ファイナリストたちが缶詰めになる合宿所... )での3度に渡る奮闘を聴くのだけれど、いやー、課題のカンタータとはいえ、しっかりとした音楽を書き上げる若きグノー!最初に取り上げられるのは、最初の挑戦、1837年のカンタータ『マリ・ステュアートとリッツィオ』(disc.1, track.1-7)。スコットランド女王、メアリー・ステュアートと、そのイタリア人の秘書、リッツィオの情景を描き出す音楽は、グランド・オペラと並んでパリの音楽シーンを席巻していたベルカント・オペラを思わせる流麗さに彩られ、ロマンティックで、ドラマティックで、とても課題とは思えないクウォリティ。実際のオペラから情景を切り取って来たのではないかと思わせるほど... こういう音楽を19歳で書き上げたグノー、早熟だよ... という『マリ・ステュアート... 』に続いて取り上げられるのは、1839年、21歳、とうとうローマ賞を獲得する『フェルディナン』(disc.1, track.8-16)。『マリ・ステュアート... 』から2年、明らかに成長が窺えて、『マリ・ステュアート... 』がベッリーニ風なら、『フェルディナン』はドニゼッティ風?より劇的な表情が締まり、聴く者の耳を捉えて来る。後半の三重唱の緊張感は、圧巻!いやもう、オペラハウスからしたら、それは即戦力といった印象だったろう。このあたりが、ローマ賞受賞を決定付けたか... で、最後が、受賞の前の年、1838年の『ラ・ヴェンデッタ』(disc.1, track.8-16)。レシタティフがあって、エールが続いて、レシタティフあって、二重唱が続く... とても丁寧な作り。その丁寧さが、他の2つに比べると、インパクトを欠くのかも... 3作品を並べてみると、ローマ賞の当落ラインが浮かび上がるようで、おもしろい。それにしても、見事、人気オペラ作家の片鱗を見せ付けて来る若きグノー!大した逸材...
だったはずが、3年間のローマ留学(1840-42)で、グノーの音楽は大きく変わってしまう。古代ローマの都、そして、教皇聖下の御膝元、聖都、ローマならではの、息衝く古き伝統... ア・カペラで歌われるパレストリーナ様式の聖歌に心を奪われた若きグノーは、自らも、そうした古雅な教会音楽を作曲する。で、それを象徴するような2枚目の最初、ローマ留学2年目、1841年に作曲された、ア・カペラによる"声のミサ"(disc.2, track.1-7)。それは、グノー流の美しいパレストリーナ様式!ローマ賞のためにがんばったカンタータは何だったのか?というくらいに、清廉な音楽を響かせて、驚かせてくれる。いや、その澄んだ音楽に癒される!パレストリーナ風のキリエ(disc.2, track.1)に始まり、シュッツあたりを思い起こされるグローリア(disc.2, track.2)、クレド(disc.2, track.3)と続き... それでいて、古風さばかりでなく、ドイツ・ロマン主義の作曲家による合唱曲のような瑞々しさもあって、単に古雅なだけでない19世紀的美しさも滲み、惹き込まれる。一方、最後に取り上げられる、やはり1841年に作曲されたフランスの聖ルイのミサ(disc.2, track.9-14)では、オーケストラの伴奏が付き、ソプラノとテノールのソロも加わり、グノーの教会音楽の代表作、聖セシルのための荘厳ミサ(1855)を予感させる芳しさが漂う。で、おもしろいのは、前半、コーラスは男声のみで歌い、そのパワフルさと、絶妙な能天気さが、思いの外、キャッチーな音楽を紡ぎ出し、魅力的!いや、まさにフランスならではのメロディーが光る!最後、アニュス・デイ(disc.2, track.14)なんて、ミサであることを忘れるほどの人懐っこいメロディーが流れだし、ツボ。古雅ばかりでなく、フランスらしさも楽しませてくれる、ローマのグノー。いや、若きグノーは、なかなかの巧者...
そんなグノーを聴かせてくれた、フランス、ピリオド界の雄、ニケ。ここでは、ピリオドから離れて、ブリュッセル・フィルとの演奏。で、フランスの作曲家たちの登竜門、ローマ賞(1803-1968)にスポットを当てる"Collection Prix de Rome"のシリーズを繰り広げている彼らなのだけれど、ドビュッシー(1884年の受賞者... )で始まったこのシリーズ(当初は、GLOSSAからのリリース... )も、グノーでVol.6... 始まりの頃の演奏を振り返ると、実に板に付いたものとなっていて感慨深くもあり、何より、若きグノーの音楽を活き活きと響かせて、この人の早熟さを存分に味あわせてくれる。そして、フレミッシュ放送合唱団の歌声が忘れ難い!"声のミサ"(disc.2, track.1-7)でのア・カペラの美しさ... 精緻さに、程好い明朗さを含ませて、古雅にして、19世紀の芳しさも漂わせる妙。聴き入るばかり。しかし、ベルカント・オペラ風からパレストリーナ様式まで、若きグノーの両極端が凄い!その両極端を、丁寧に捉えるニケ... 『ファウスト』のグノーの、恐ろしくのマニアックな部分を掘り起こすわけだけれど、『ファウスト』の最後、オルガンが鳴るあたりとか、バッハの平均律をベースにアヴェ・マリアを書いたりとか、その後のグノーが、ここにしっかりと表れてもいて、実に興味深い。

Charles Gounod Music for Prix de Rome Hervé Niquet

グノー : カンタータ 『マリ・ステュアートとリッツィオ』 **
グノー : カンタータ 『フェルディナン』 ***
グノー : カンタータ 『ラ・ヴェンデッタ』 **

グノー : 声のミサ **
グノー : キリストは従順であられた *
グノー : 賛歌 ****
グノー : フランスの聖ルイのミサ ***

ガブリエル・フィリポネ(ソプラノ) *
シャンタル・サントン・ジェフリー(ソプラノ) *
ユディト・ファン・ワンロイ(ソプラノ) *
キャロリン・メン(メッゾ・ソプラノ) *
アルタヴァスト・サルキシャン(テノール) *
セバスティアン・ドロワ(テノール) *
ユ・シャオ(テノール) *
ニコラ・クルジャル(バス) *
アレクサンドル・デュアメル(バリトン) *
フレミッシュ放送合唱団 *
エルヴェ・ニケ/ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団
フランソワ・サン・イヴ(オルガン) *

EDICIONES SINGULARES/ES 1030



それにしても、日本!まずは一勝、おめでとう。




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