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グノー、ファウスト。 [before 2005]

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2018年は、グノー・イヤー!でもあります。ということで、改めてグノーについて見つめるのだけれど、いやー、興味深い!これまで、あまりに漠然と、『ファウスト』の作曲家としか捉えて来なかっただけに、もの凄く新鮮で、何より、おもしろい!もっともっと、『ファウスト』ばかりでないグノーは注目されるべき!19歳、20歳、21歳、ローマ賞における課題のカンタータに響く音楽は、即『ファウスト』を書けそうな早熟っぷりを見せ付けて来るのだけれど、22歳、ローマへ留学してみれば、すっかりローマの古き伝統にどっぷりと浸かってしまい、パレストリーナ様式でミサを書くという驚くベき宗旨替え!1843年、パリに帰ると、パリ外国宣教会のオルガニストとなり、パレストリーナやバッハばかりを取り上げて、会衆たちを大いに戸惑わせたらしい。そんなグノーが、再び世俗的な音楽へと関心を示し出す。1851年、最初のオペラ、『サッフォー』を作曲し、パリ、オペラ座で上演されるも、ベルリオーズらが称賛する一方で、聴衆からは受け入れられず... その後もオペラに挑むものの、大成功を掴むまでには至らなかった。そうした中、ローマ留学中に読んだゲーテの『ファウスト』のオペラ化に乗り出す。
ということで、『ファウスト』のグノーの、その『ファウスト』を、今、改めて聴いてみる!ジョゼ・ファン・ダム(バス・バリトン)、リチャード・リーチ(テノール)、シェリル・ステューダー(ソプラノ)、トーマス・ハンプソン(バリトン)ら、実力派スターたちが結集しての、ミシェル・プラッソンが率いたトゥールーズ・カピトール劇場によるグノーのオペラ『ファウスト』(EMI/7 54228 2)を聴く。

グノーがローマ賞に挑戦していた頃のパリは、どのヨーロッパの都市よりもオペラが活況を呈していた。そしてそこには、厳然たるヒエラルキーも存在していた。リュリ以来の伝統と格式を誇るオペラ座では、ふんだんに国家予算が投じられ、巨匠たちが手掛けるゴージャスなグランド・オペラでもって、頂点に君臨。ロッシーニも監督を務めたイタリア座では、時代を代表するプリマ、プリモたちが活躍し、イタリア発のベルカント・オペラの最新作が上演され、連日、観客たちを熱狂させていた。一方で、一握りの巨匠ではないフランスの作曲家たちは、活況を呈しているはずのオペラからあぶれる事態に... フランス語による歌芝居、オペラ・コミックを専門とするオペラ・コミック座もあったものの、グランド・オペラ、イタリア・オペラに押され、なかなか存在感を示せずにいた。そこで、1851年、新たなオペラ団体、リリック座が創設される。若手作曲家にオペラに挑戦する機会を与えると同時に、成金相手ではなく、より開かれた劇場を目指すという高い意識を持った新たなオペラの場は、フランス・オペラの佳作を多く世に送り出し、大きな足跡を残した。そんなリリック座が、オペラ座でなかなか結果を出せなかったグノー(オペラ座で2つのグランド・オペラを上演、失敗に終わっていた... )に声を掛ける。グノーは、鯱鉾張ったグランド・オペラから一転、モリエールの喜劇をベースとした歌芝居、オペラ・コミック『心ならずも医者にされ』(1858)を生み出す。この経験を活かし、すぐに作曲に取り掛かったのが、代表作となる『ファウスト』!
1859年、リリック座で初演された『ファウスト』は、今とは異なり、歌芝居=オペラ・コミックのスタイル(グノーは、対話オペラ=オペラ・ディアローグと銘打っている... )を採っていた。それが、リリック座での成功を受け、フランス各地で上演されることが決まると、1860年、グノーは対話部分を作曲し、完全なオペラに仕上げる。この版は、間もなくヨーロッパ各地でも上演され、評判を呼び、パリ、オペラ界の頂点、オペラ座も興味を示すまでに... グノーにとっては格好のリベンジ!今度は、バレエ・シーンを加えて、見事にグランド・オペラに仕上げ、1869年、オペラ座で大成功を勝ち取る。いや、『ファウスト』は、フランスのオペラ界のヒエラルキーを順々に昇って行った、出世魚のような作品。フランス・オペラには時折あるパターン(グノーの『ロメオとジュリエット』や、ビゼーの『カルメン』など... )だけれど、裏を返せば、それは真の名作の証拠と言えることなのかも... で、ここで聴く、プラッソン盤は、1860年の完全にオペラとなった版をベースとしながら、その後の改訂で追加されたナンバー、1869年のグランド・オペラ化に伴って書き加えられたバレエも取り上げるというもの。『ファウスト』の魅力を余すことなく拾い上げてくれる。で、その魅力たるや!メフィストフェレが歌う「金の子牛の歌」(disc.1, track.11)、2幕、村人たちがワルツを踊る「まるで軽やかな微風が」(disc.1, track.15)、マルグリートが歌う「宝石の歌」(disc.1, track.24)、兵士たちが歌う「われら祖父の不滅の栄誉よ」(disc.2, track.14)、そして、エキゾティックで多彩なバレエ(disc.3, track.15-21)と、フランスならではのキャッチーさ、グノーらしい美しいメロディー、当世風の景気のいい音楽が全編を彩り、どこを切っても魅了されずにいられない!久々に聴くと、余計に感じてしまう...
で、改めて聴いてみて感じるのは、ゲーテが原作ということもあってか、親ドイツ―オーストリアなグノーの音楽的姿勢も反映され、瑞々しいオーケストラ・サウンドが印象深く、ワーグナー(1861年、オペラ座で『タンホイザー』を上演し、様々な妨害もあって失敗... )を思わせる瞬間も... フランス・オペラにして、よりインターナショナルな性格を持った作品と言えるのかもしれない。それから、もうひとつ印象深いのが、グノーの教会音楽での経験もしっかりと活きているところ... 後半、要所、要所でオルガンが鳴り響き、メフィストフェレと対決するように聖歌が歌われ、4幕、教会のシーン(disc.2, track.12)での悪魔と"聖"のせめぎ合い、フィナーレ、マルグリートが神に救いを求め、それが叶えられるシーン(disc.3, track.10)での輝かしさ!オルガンを伴奏に歌われる最後のコーラスは、まるでミサのよう... こうしたあたり、まさに総力戦といった印象で、持て得るもの、全てを出し切った観がある。いや、グノー、渾身のオペラ!なればこそ、『ファウスト』は名作なのだと思う。
という名作を、プラッソン、トゥールーズ・カピトール劇場で聴くのだけれど、いやー、見事です。てか、ただただすばらしいです。パリではなく、スペイン国境にも近いトゥールーズのカラーというのか、色彩感に富みつつ、陰影もしっかりと描かれ、悪魔が登場するだけに野趣も感じられて、パワフル!最終的にグランド・オペラとなっただけに、どこか取り澄ましたイメージがあったのだけれど、全ての瞬間が息衝き、ただ美しいのではない魅力に充ち満ちている。そして、見事な歌唱に、グイグイ惹き込まれるばかりの歌手陣!メフィストフェレを歌うヴァン・ダム(バス・バリトン)の、自信に溢れ、艶やかな歌声は、まさに悪魔的。若さを取り戻したフォーストを歌うリーチ(テノール)の、若々しい歌声は、マルグリートでなくても吸い寄せられてしまう。で、マルグリートを歌うステューダー(ソプラノ)の、何と言う瑞々しい(若かった... )歌声!何もかもがはまり過ぎて、唸ってしまう。なればこそ、ますます輝く『ファウスト』、その魅力に圧倒されるばかり...

GOUNOD
Faust
PLASSON


グノー : オペラ 『ファウスト』

フォースト : リチャード・リーチ(テノール)
マルグリート : シェリル・ステューダー(ソプラノ)
メフィストフェレ : ジョゼ・ヴァン・ダム(バス・バリトン)
ヴァランタン : トーマス・ハンプソン(バリトン)
シーベル : マルティーヌ・マエ(メゾ・ソプラノ)
マルト : ナディーヌ・ドニズ(メゾ・ソプラノ)
ヴァグネル : マルク・バラール(バリトン)
トゥールーズ・カピトール合唱団、フランス陸軍合唱団

ミシェル・プラッソン/トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団

EMI/7 54228 2




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