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ドビュッシー、ラヴェル、デュティユー、弦楽四重奏曲。 [2010]

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2018年は、ドビュッシー・イヤー!ということで、改めてドビュッシーという存在を見つめるのだけれど... 見つめれば、見つめるほど、これまで、この作曲家を、安易な"イメージ"で捉えて来たことを思い知らされる。いや、これほど"イメージ"で捉え易い作曲家も他にはいない。まさにフランスっぽく、お洒落で、粋で、遊びがあって、天の邪鬼なところもあるけれど、それもまた、この人ならではのダンディズムであって... そして、何と言っても、印象主義... 印象=イメージを紡ぎ出す音楽は、ドビュッシーという存在そのものに思える。けれど、「印象主義」という言葉を生み出したモネら印象派の絵画同様に、単なる印象="イメージ"には流されない、如何にして印象=像を結ぶかという、新しい実態の捉え方を示して、音楽史に大きな刺激を与えた事実。それは、ドビュッシー(1868-1918)に続く世代、ウルトラ・ロマンティシズムから音列音楽へと至ったシェーンベルク(1874-1951)や、『春の祭典』で震撼させたストラヴィンスキー(1882-1971)の革命よりも、凄いことだったように感じる。
ということで、ドビュッシーに始まる印象主義の歩みを辿ってみようかなと... ジャン・キアン・ケラス(チェロ)を中心に実力者が集ったアルカント四重奏団による、ドビュッシー、ラヴェル、デュティユーの弦楽四重奏曲(harmonia mundi/HMC 902067)を聴く。

18世紀、古典派が確立した、絶対音楽の究極の形とも言える弦楽四重奏曲に、印象主義はあり得るのだろうか?まず、そういう疑問が頭をもたげるのだけれど、最初の成功作、牧神の午後への前奏曲(1894)が発表される前、1892年、30歳、挑んでしまった、ドビュッシー... いや、音楽を表現する究極の編成である弦楽四重奏なればこそ、ドビュッシーの目指す音楽が、より明確になってしまう、ドビュッシーの弦楽四重奏曲(track.1-4)。それまでの作曲家が構造を意識していたのに対し、ドビュッシーは、瞬間、瞬間の響きに焦点を当て、より有機的な音楽を織り成す。それは、『ペレアスとメリザンド』(1902)を予感させるのか... 4楽章構成という古典的な体裁を取りながらも、それぞれの楽章は、印象主義のモネの絵画、筆触分割を思わせて、一音一音が美しく扱われ、音楽を形ではなくサウンドでまとめて来る。音楽史が蓄積してきた経験、伝統的な作法を捨て去り、音楽を細胞レベルにまで解体し、そこから新たに紡ぎ出されるかのようなドビュッシーの音楽の在り様、そうして生まれる、得も言えない瑞々しさ!だからこそ、よりピュアな表情、情動が生まれ、惹き込まれずにいられない。それにしても、サウンドに焦点を合わせて発せられる芳しさたるや!ため息が出てしまう。1893年に完成するこの作品は、ドビュッシーの音楽人生のみならず、音楽における印象主義の道標と言える作品なのかもしれない。
そんなドビュッシーの後で取り上げられるのが、デュティユー(1916-2013)の1976年に完成された作品、弦楽四重奏のための「夜はかくの如し」(track.5-11)。ドビュッシーの死後、半世紀以上が過ぎての作品は、当然ながら"ゲンダイオンガク"、抽象的な音楽が繰り広げられるのだけれど、その響きに注目すれば、ドビュッシーのDNAはしっかりと受け継がれており... というより、よりダイレクトに印象主義が展開されていることに気付かされる。弓が空間に解き放つ鮮やかな音色と、弦を爪弾いて生まれる緊張感と、その間に生まれる「間」とで、夜の空気を捉まえて、ジャケットにある新印象派の画家、マクシミリアン・リュスの絵画を思わせて、かくの如し... そこから、一転、鮮やかなラヴェルの弦楽四重奏曲(track.12-15)!ドビュッシーの弦楽四重奏曲に多大な影響を受けて、その10年後、1903年に完成された作品は、ドビュッシーに比べると古典的... フランク流の循環様式を見事に機能させつつ、弦楽四重奏という編成を活かして、思いの外、構築的に音楽を編んで行く。となると、これって、印象主義?ラヴェルならではの色彩を感じながらも、音楽そのものは、ドビュッシーに比べると、断然、手堅い。そこに、ドビュッシーには無い、ラヴェルの真面目さを見出す。その真面目さが、ドビュッシーとはまた違う瑞々しさを生み、スリリングな終楽章(track.15)などは、スタイリッシュに仕上がって、クール!
という、三者三様の弦楽四重奏曲を聴かせてくれたアルカント四重奏団... 印象主義の系譜を追うようでありながら、それぞれの音楽が持つベクトルの違いをスキっと響かせ、それぞれの魅力を際立たせる清廉な演奏に息を呑む。現代音楽のエキスパートながら、ピリオドにも対応するケラス(チェロ)、モダンとピリオドを行き来するドイツ・カンマーフィルのコンサート・マスター、ゼペック(ヴァイオリン)といったエッジーな個性が、アンサンブル全体に作用するのか、4人が放つサウンドの透明感、一音一音を射抜くような鋭い演奏は、見事。印象主義という雰囲気に流されることは一切無く、印象主義本来の響きの美しさを徹底して捉え、印象主義の音楽の革新性を存分に鳴らし切る。ラヴェル(track.12-15)に関しては、印象主義とは一味違うあたりが強調され、それがまた新鮮で、古典的であるからこそのおもしろさがパシっと決まり、圧巻!弦楽四重奏のおもしろさを、存分に楽しませてくれる。しかし、冴え極まるアルカント、恐るべし...

Quatuors à cordes Debussy, Dutilleux, Ravel Arcanto Quartett

ドビュッシー : 弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
デュティユー : 弦楽四重奏のための 「夜はかくの如し」
ラヴェル : 弦楽四重奏曲 ヘ長調

アルカント四重奏団
アンティエ・ヴァイトハース(ヴァイオリン)
ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)
タベア・ツィンマーマン(ヴィオラ)
ジャン・ギアン・ケラス(チェロ)

harmonia mundi/HMC 902067




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