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太陽王の宮廷の記憶を呼び覚ます、クープラン、王宮のコンセール。 [2013]

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フランス・バロックの中心にいた3つ違いの2人の作曲家、ジャケ・ド・ラ・ゲール(1665-1729)と、クープラン(1668-1733)。女性であったがために、宮廷でのポストは望めなかったものの、なればこそ、クラヴサンのヴィルトゥオーザとして、フリーの作曲家として、パリの音楽シーンで思うまま活動できたジャケ・ド・ラ・ゲール。一方のクープランは、シャペルのオルガニストとして、シャンブルでクラヴサン奏者として、宮廷で活躍する栄誉を得たものの、なればこそ、活動に制約ができてしまったか... この2人を並べると、実に興味深い。アーティストと音楽官僚?そんな風に見つめると、それぞれの音楽からは、それぞれの立場が浮かび上がるようで、おもしろい!アーティストとして自らの感性を貫けたジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽の潔さに対し、宮廷の趣味とやりたいことの狭間に立って、どこか折衷的なクープランの音楽の曖昧さ... なんて書くと、クープランに分が悪いようだけれど、その曖昧さにフランスらしさが育まれ、ナイーヴなロココへと至らしめるのか...
ということで、アーティスト、ジャケ・ド・ラ・ゲールに続き、音楽官僚、クープランに注目。リュック・ボーセジュール率いる、カナダのピリオド・アンサンブル、クラヴサン・アン・コンセールの演奏で、クープランの『王宮のコンセール』(ANALEKTA/AN 29993)を聴く。

宮廷音楽というと、祝祭のイメージが強いのだけれど、フランスの宮廷における音楽は、祝祭ばかりでなく、日常も充実。その象徴が、シャンブル... 王の生活を音楽で彩る、歌手も加えた室内アンサンブルなのだけれど、彼らは、宮廷での舞踏会の伴奏や、王の食事の時のBGM、あるいは王のためのコンサートなどを催し... で、そのメンバーには、フランスの一級の奏者たちが居並び、今からすると、驚かされるばかり... マレとフォルクレがヴィオールを奏で、クープランが伴奏する。なんてことが、「日常」だった。いや、太陽王のNO MUSIC, NO LIFEは、タダゴトではない!という贅沢な日々をまとめたのが、1722年に出版されたクープランの『王宮のコンセール』。それは、硬派だった太陽王が世を去って7年が経ち、軟派なオルレアン公が摂政に就任して、フランスの空気がすっかり入れ替わった頃であって、太陽王のための音楽というのは、すでにオールド・スタイル... それを強調するかのように、『王宮のコンセール』の出版の2年後、1724年、クープランは"新しいコンセール"と銘打って、『趣味の調和』を出版している。で、"新しいコンセール"から、『王宮のコンセール』を振り返ってみると、何だか懐かしく感じられるような... もちろん、21世紀からすれば、太陽王の時代も、オルレアン公の摂政時代も、同じく遠い昔ではあるのだけれど、間違いなく懐かしさが漂い、そこにメランコリーも滲むようで、不思議。
シャンブルの作曲家、クープランが、太陽王のために書いた合奏曲=コンセールを、4つの舞踏組曲にまとめたものが『王宮のコンセール』。つまり、太陽王の日常を彩った音楽がそこに綴られているわけで... そんな音楽を響かせれば、太陽王の宮廷の空気が追体験できるのかもしれない。そして、クープラン自身も、そんな感覚を持って、このコンセール集を編んだように感じる。イタリアの最新モード、トリオ・ソナタに興味津々でありながら、フランスらしさを重んじ、慇懃無礼な太陽王の宮廷によりシンパシーを感じていたクープラン... 『王宮のコンセール』には、過ぎ去った太陽王の時代への懐慕が広がるのか... 例えば、第1コンセール(track.1-6)の前奏曲、オーボエがちょっぴり切なく、どこか懐かしいようなメロディーを歌い出すあたり、記憶の中の情景を蘇らせるような感覚があって、聴く者のノスタルジーを擽る。そんな前奏曲に続く音楽は、太陽王の日常を彩っただろうだけに、聴き易く、シンプル... イタリアのトリオ・ソナタの影響を感じさせるところもあるものの、対位法を強調したりせず、丁寧に宮廷の上品さの内に納め、穏やかで、麗しい。そして、時折、フランスらしいメローさ、キャッチーさでもって、聴く者をグっと惹き付けもする。いや、音楽官僚としての見事な仕事っぷりに感服。トリオ・ソナタを前に試行錯誤の"新しいコンセール"よりも、ナチュラルな音楽が紡がれ、そのナチュラルさにロココも薫り出す。
フランス・バロックのおもしろいところは、古風であることが、ロココっぽさにつながるところ。この『王宮のコンセール』も、ノスタルジックなところに浮かぶメランコリックな表情こそロココを思わせて... クープランの官僚としての実直さが、結果的にロココを引き立たせ、ポスト・バロックを意識させてしまう。で、クープランの時代のモダンである、イタリアのトリオ・ソナタ、その核たる対位法に縛られないからこその自由さが、思い掛けない新鮮な瞬間を創り出す。例えば、第3コンセール(track.12-18)の第6曲、ミュゼット(track.17)。これは、舞曲のミュゼットではなくて、楽器のミュゼット、フランス版のバグパイプ... 低音の楽器で以って、バグパイプならではのドローンのサウンドを巧みに模して、その上に牧歌的なメロディーを乗っけて、聴き手を、それまでの慇懃無礼なヴェルサイユから、ふと田舎へと連れ出す。この田舎の風景があって、王宮はより映える!で、最後、第4コンセール(track.19-25)には、イタリア風やイタリアの舞曲も加わり、音楽がふわっとヴァラエティに富むのがわかり、まるで春が来たよう!特に、最後のフォルラーヌ(track.25)、北イタリアの舞曲の、朗らかで素朴で人懐っこい表情はたまらない。けど、どこか寂しげでもあり、センチメンタル... だからこそ、春なのかも...
という『王宮のコンセール』を、ボーセジュール+クラヴサン・アン・コンセールで聴くのだけれど、これがまた絶妙!フランスではなく、カナダから捉える距離感と言ったらいいだろうか?大西洋越しにフランス・バロックを見つめる距離感が凄く効いているのか、雰囲気に流されることなく、クープランが綴った音符を、明晰に捉えて、爽やかなコンセールを響かせる。このさっぱりとした態度が、何だかとても新鮮で心地良い。それでいて、爽やかな中に、本当に芳しい音が浮かび上がっても来て、後付ではない芳しさと言うのか、音そのものが持つ芳しさがナチュラルに抽出され、一切、押し付けがましくなることなく、花々しい!そんな花々しさに包まれると、クープランの音楽の上質さをしっかりと味わえて、改めて魅了される。

COUPERIN: CONCERTS ROYAUX
CLAVECIN EN CONCERT - LUC BEAUSÉJOUR


クープラン : 『王宮のコンセール』

リュック・ボーセジュール/クラヴサン・アン・コンセール

ANALEKTA/AN 29993




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