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太陽王の時代のフリーランスの気概、ジャケ・ド・ラ・ゲール。 [before 2005]

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さて、3月です。見上げる空が、確実に春めいて来ていて、何だかほっとします。
そんな季節に聴く、芳しいフランス・バロックって、最高だなと思う、今日この頃... 今年はクープラン・イヤー!ということで、そのフランソワ・クープランに始まり、フランス・バロックの時代をいろいろ巡っているのだけれど、巡ってみて、ふと気付くことがある。それが、女性音楽家たちの存在... 例えば、フランソワ・クープラン(1668-1733)の娘、マルグリット・アントワネット(1705-78)。父譲りのクラヴサンの腕前で以って、父の後継者として、宮廷のシャンブルでクラヴサン奏者として活躍している。それから、フランソワ・クープランの従妹、マルグリット・ルイーズ(1676/79-1728)。歌手としてシャンブルに加わりながら、クープラン家の一員らしく、クラヴサンも見事に弾きこなしたとのこと... 彼女たちの場合、音楽家の家に生まれたればこそではあるものの、圧倒的に男性優位で展開される音楽史において、その存在はとても興味深い。そして、もうひとり、フランス・バロックの女性音楽家... 作曲家として足跡を残したジャケ・ド・ラ・ゲール(1665-1729)に注目してみる。
レ・ヴォワ・ユメーヌの演奏、イザベル・デロシェ(ソプラノ)の歌で、ジャケ・ド・ラ・ゲールのカンタータ、ソナタ、クラヴサンのための前奏曲を取り上げるアルバム、"Le Sommeil d'Ulisse"(Alpha/Alpha 006)。作曲家、ジャケ・ド・ラ・ゲールを俯瞰する1枚を聴く。

エリザベト・クロード・ジャケ・ド・ラ・ゲール(1665-1729)。
フランソワ・クープランが生まれる3年前、1665年、楽器制作や建築の分野で活躍した一族、ジャケ家に生まれたエリザベト・クロード。父、クロードは、クラヴサン奏者で、パリのサン・ルイ・アン・リル教会のオルガニストを務めており、エリザベト・クロードは、その父から音楽を学び、幼くしてクラヴサン奏者として才能を開花。瞬く間に、天才少女としてパリの音楽シーンで注目を集めると、宮廷もその才能を放っておくことはなく、太陽王の寵姫、モンテスパン夫人の庇護の下、宮廷に迎え入れられ、良家の子女たちのように教育を受けることに... 当然ながら、一流の音楽家が集う宮廷は、エリザベト・クロードにとって、最高の環境だったろう。そうした環境の中で、太陽王のために演奏し、作品を書き、着実に音楽家として成長を遂げると、1684年、オルガニストのマラン・ド・ラ・ゲール(父、ミシェルは、サント・シャペルのオルガニストで、1654年、フランスで最初のオペラと言えるパストラル『愛の勝利』を作曲した人物... )と結婚、ジャケ・ド・ラ・ゲール姓を名乗ることに... で、結婚後も精力的に活動し、クラヴサン曲集を出版(現存せず... )、当時、流行したトリオ・ソナタも作曲し、1694年には、王立音楽アカデミー(パリ、オペラ座)で、オペラ『ケパロスとプロクリス』を初演。1704年に夫を亡くしてからは、クラヴサンのヴィルトゥオーザとして自宅で演奏会を開き、1717年の引退まで、パリの音楽通から支持され続けた。引退後も、天然痘に罹ったルイ15世の快気祝いのためにテ・デウム(1721)を作曲し、巨匠として存在感を示した。
そんな、ジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽を俯瞰するレ・ヴォワ・ユメーヌのアルバム、"Le Sommeil d'Ulisse"。タイトルにもなっている、カンタータ『ユリスのまどろみ』(track.2-12)を軸に、クラヴサンのヴィルトゥオーザ、ジャケ・ド・ラ・ゲールの往時の姿を喚起する、クラヴサンのための前奏曲(track.1)を、まさに前奏曲として置き、作曲家としての力量を存分に発揮する、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ(track.14-20)も取り上げ、聴き応えは十分!というより、その中身の濃さは、同時代の作曲家たちにまったく引けを取らない!まず、印象に残るのは、カンタータ『ユリスのまどろみ』(track.2-12)... ギリシア神話のオデュッセウスの漂流を題材とし、嵐に遭ったオデュッセウス=ユリスの夢にミネルヴァが現れ、その航海を導くという内容を、活き活きと描き出す。王立音楽アカデミーでオペラを上演したジャケ・ド・ラ・ゲールだけあって、劇的表現はお手の物か... トラジェディ・リリクを思わせる、しっかりと表情の乗ったレシタティフに、フランスらしくメローなエールに彩られて、魅惑的な音楽を展開。でもって、圧巻なのが、嵐の音楽(track.6)!翻弄される船の姿が活き活きと描写されていて、見事。一方で、最後のエール(track.12)には、イタリア・オペラを思わせる明快さがあって、おもしろい。
いや、ジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽を特徴付けるのは、イタリアっぽさかもしれない。最後に取り上げられるカンタータ『サムソン』(track.21-30)は、全体からイタリアが感じられ、しっかりと構築された音楽、歯切れよく描かれる場面は、フランスの流麗さとはまた違った表情を見せて印象的。で、よりロジカルにイタリアが響くのが、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ(track.14-20)... ポスト・リュリ世代ならではの、イタリアのトリオ・ソナタへの傾倒を示すその音楽は、フランスにおけるトリオ・ソナタの旗手、クープランよりも的確にイタリアのスタイルを取り込めているようで、そのあたりがとても興味深い。クープランが折衷的な音楽からなかなか踏み出せなかったのとは対照的に、しっかりとトリオ・ソナタの形を捉えて、堂に入った音楽を構築する。女流ゆえのアウトロー的な位置付けが、彼女の音楽を躊躇いなくイタリアへと向かわせたか?フランスらしさと、イタリアの最新のスタイルに揺れる、宮仕えの男性陣にはない潔さが、ジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽からは感じられて、胸空くところがある。何より、音楽としての佇まいが、実にしっかりとしていて、本家、コレッリにさえ負けてない!
というジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽を、ナチュラルに響かせるラ・ヴォワ・ユメーヌの演奏。フランスらしい流麗さを以って、フランス・バロックの面々にとってのモダニスム=イタリア風の音楽を奏でる絶妙さ... 上品さと、鮮やかさが結ばれて、何とも魅惑的。そして、2つのカンタータを歌うデロシェのやわらかなソプラノがまた素敵で... フランスらしいたおやかさを目一杯に響かせて、聴く者をふんわりとハッピーで包む。ジャケ・ド・ラ・ゲールの、聴き応えのある音楽に、得も言えぬ親密さを生み出す魔法。嵐に見舞われるオデュッセウスですら、どこか愛らしく、気の置けない雰囲気を漂わせる。そんな演奏と歌から喚起されるのは、ジャケ・ド・ラ・ゲールの自宅で開かれた演奏会?ジャケ・ド・ラ・ゲールの音楽を再発見しつつ、ヴィルトゥオーザの私的な演奏会に招かれたような、そんな気分にもさせられて、魅了されずにいられない。

JACQUET DE LA GUERRE – Le Sommeil d'Ulisse
Isabelle Desrochers ・ Les Voix Humaines


ジャケ・ド・ラ・ゲール : 前奏曲 イ短調 〔クラヴサン組曲 第3番 から〕 *
ジャケ・ド・ラ・ゲール : カンタータ 『ユリスのまどろみ』 *
ジャケ・ド・ラ・ゲール : シャコンヌ イ短調 〔クラヴサン組曲 第3番 から〕 *
ジャケ・ド・ラ・ゲール : ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ニ短調
ジャケ・ド・ラ・ゲール : カンタータ 『サムソン』 *

イザベル・デロシェ(ソプラノ) *
フレディ・エシェルベルジェ(クラヴサン) *
レ・ヴォワ・ユメーヌ

Alpha/Alpha 006



参考資料。




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