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クープラン家、繁栄の扉を開く、夭折の天才、ルイ... [2010]

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2018年は、フランソワ・クープランの生誕350年のメモリアルということで、クープランを足掛かりに、フランス・バロックを巡って来たのだけれど、クープランはひとりじゃないのだよね... そこで、"クープラン家"に注目。でもって、フランス音楽史に燦然と輝く家名、クープラン!その出自は、イル・ド・フランス(パリを中心とした地域圏... )の農家。16世紀後半、法律や金融の世界で身を起こしたフランソワの曽祖父、マテュランが、アマチュアの演奏家としても活動したことにより、クープラン家の音楽の履歴は始まる。そのマテュランの妻、フランソワの曾祖母、アンヌは、音楽も生業にしていた家の出身だったことから、息子たちに音楽を教え、長男、フランソワの祖父、シャルルは、クープラン家が所有する農地を経営する傍ら、地元の修道院のオルガニストを務めるまでに... そして、クープランの名を最初に知らしめる存在が誕生する。シャルルの長男、フランソワの伯父、ルイ!
パリ近郊の田舎のオルガニストだったクープラン家が、一躍、パリに進出し、やがて宮廷にもポストを得て活躍する、その切っ掛けを作った人物... クリストフ・ルセのクラヴサンで、フランソワに次いで著名なルイ・クープランの組曲集(APARTÉ/AP 006)を聴く。

イル・ド・フランスの小さな町、ショーム・アン・ブリで暮らして来たクープラン家。彼らは、如何にしてフランスの中心へと進出したか?そこで大きな役割を果たしたのが、ショーム・アン・ブリの近くに領地を持っていたシャンブル付きクラヴサン奏者、シャンボニエール(1601-72)。地元の修道院のオルガニストを務めていたシャルル・クープランの長男、ルイ(ca.1626-61)は、領地を訪れていたシャンボニエールの前でクラヴサンを演奏する機会を得て、その才能を見出される。そして、パリへ!若い才能は評判を呼び、1653年、それ以後、代々、クープラン家が務めるとこととなるサン・ジェルヴェ教会のオルガニストに就任。さらに、宮廷からは、恩師、シャンボニエールを追い出すため、そのポストであるシャンブル付きクラヴサン奏者を打診されるも、義理堅いルイは固辞。ヴィオール奏者という肩書でシャンブルに加わった。が、それから程なく、将来を嘱望されながら、35歳の若さで世を去る。モーツァルトと同じ35歳... ある程度の業績を残しているからこそ、その先の展開が予測できそうな35年というもどかしい人生... このルイが、もう少し長生きしていたら、フランス・バロックの趣きは、また違ったものになったのかもしれない。そんな風に思わせるほど、ルイの音楽は確固とした存在感がある。いや、その手堅さを前にすると、リュリの音楽は、思いの外、薄く感じられるし、クープラン家で最も有名な、甥、フランソワ(1668-1733)の音楽は、あまりに情緒的に感じられ、イタリアのトリオ・ソナタに傾倒する姿は、お子様にすら思えて来る。
そのルイのクラヴサンのための作品を組曲として聴くのだけれど、のっけから唸ってしまう。始まりのヘ長調の組曲(disc.1, track.1-9)、前奏曲の味わい深い響き!めくるめく音の連なりの中に、輝きと影とが綾なして、複雑な表情を見せ、聴き入ってしまう。一転、2曲目、アルマンド・グラーヴェ(disc.1, track.2)では、穏やかな音楽が紡がれ、3曲目、クーラント(disc.1, track.2)では、花やかに音楽が弾け、キャッチー。シンプルに楽しい音楽が続くも、要所要所でルイの骨太な音楽性が聴こえて来て、グイっと聴く者を引き込む。それは、オルガニストならではと言うべきか、重厚感ある和声!派手さは無いものの、何か大地から響くような底深さがあって... フランス・バロックの流麗さとは一味違い、少しゴツくすらあるのだけれど、かつて大地を耕していたクープラン家の土の記憶だろうか?宮廷やパリでは生まれない響き、土の臭いのするパワフルさが、ルイのクラヴサンからは響き出す。いや、そんな響きに触れると、フランス・バロックを象徴するクラヴサンのイメージすら変わるよう... もちろん、フランスらしい流麗さ、メローさ、クラヴサンならではの装飾性にも彩られるのだけれど、そういう表情だけに留まらない、骨の部分までもが確かな魅力となっていて、どこかバッハにも通じるのか... また、時折、不協和音が混じり、素直な美しさから距離を取るようなところもあり、ベルリオーズを予感させる?このあたり、歪んだ真珠=バロックを思い起こさせ、古雅なフランス・バロックとは一味違う、スリリングさもあり、魅了される。
というルイ・クープランの組曲をルセの演奏で聴くのだけれど、ウーン、唸ってしまう。ルセならではの確かさ... 一音一音が確固として響いて、何かズシリズシリと迫って来る。キラキラとしているはずのクラヴサンの音色に、翳が差し、クリアなのだけれど、どこかマッドな仕上がりで、迫力が生まれる!そうして捉えるルイの姿は、宮廷やパリの洗練とは一線を画し、クープラン家の出自を露わにするようで... それがまた生々しく、魅力的で... そんなサウンドに触れてしまうと、まるで華麗な宮廷や花やかなパリが虚像にすら感じられてしまうほど... いや、この本物感は、ただならない。ルセの手に掛かると、クラヴサンは耕運機のように動き出し、広大なクープラン家の農地が耕されて行くようで、スケールを感じる。たった一台のクラヴサンが、華麗な宮廷ばかりでない17世紀、フランスの、逞しさのようなものを鮮やかに蘇らせるよう。

Christophe Rousset Louis Couperin

ルイ・クープラン : 組曲 ヘ長調
ルイ・クープラン : 組曲 ト短調
ルイ・クープラン : 組曲 ハ長調
ルイ・クープラン : 組曲 ハ短調
ルイ・クープラン : 組曲 ニ短調
ルイ・クープラン : 組曲 イ短調
ルイ・クープラン : パヴァーヌ 嬰ヘ短調

クリストフ・ルセ(クラヴサン)

APARTÉ/AP 006



さて、ルイの早過ぎる死によって、一時、勢いを失ってしまうクープラン家だったが、ルイの2人の弟たちが、クープラン家の新たな世代を育んで行くことに... ルイの末の弟、シャルル(1638-79)の下からは、息子、大クープラン、フランソワ(1668-1733)が大成し、ルイのすぐ下の弟、フランソワ(1631-1701)の家系からは、異彩を放つアルマン・ルイ(1727-89)が誕生する!ということで、次回、大クープラン、フランソワの後の時代のクープラン家に迫ってみようと思う。




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