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太陽王の時代とその後で、クラヴサン奏者、クープランの歩んだ道... [before 2005]

フランソワ・クープラン(1668-1733)。
今から350年前、フランス音楽の名門、クープラン家の一員として、パリに生まれたフランソワ・クープラン。で、クープラン家の中で、最も成功したこともあり、クープランと言えば、このフランソワを指すことが一般的。そんなクープランは、パリ、サン・ジェルヴェ教会のオルガニストだった父、シャルルから、最初の音楽教育を受けたと考えられる。が、クープラン、10歳の時、その父は世を去り、王室シャペルのオルガニストを務めていたトムランが、父親代わりとして、その教育を引き継ぎ、クープランは、トムランの下で腕を上げ、10代の内から、父がオルガニストを務めていたサン・ジェルヴェ教会で、父の後任(正確には、クープランが一人前になるまでの中継ぎ... )のドラランドの代役として、オルガンを弾き始め、その才能は、早くから開花... 1685年、18歳を迎えるのに合わせて、正式にサン・ジェルヴェ教会のオルガニストとなったクープランは、着実にキャリアを積み、1693年、師、トムランの後任として、王室シャペルのオルガニストとなり、ヴェルサイユへ!ヴェルサイユでは、王族たちのクラヴサン教師としても活躍。オルガニストばかりでなく、クラヴサン奏者としても頭角を現し、ルイ14世(在位 : 1645-1715)、太陽王、晩年の宮廷で、存在感を示す。
ということで、クラヴサン奏者としてのクープランに迫る!クリストフ・ルセの弾く、クープランのクラヴサン曲集、太陽王、最晩年の時代、1713年に出版された、第1巻(harmonia mundi FRANCE/HMC 901450)、太陽王はとうに逝き、ロココの只中、1730年に出版された、第4巻(harmonia mundi FRANCE/HMC 901445)の2タイトルを聴く。


太陽王の時代のクープラン、集大成、クラヴサン曲集、第1巻。

HMC901450
フランスでは、リュリが権勢を誇る前の時代まで、リュートが人気を集めていた。が、バロックの革新があって、音楽が次第に複雑になり始めると、片手で爪弾くリュートでは対応できない事態が生まれるようになり、リュートに代わる存在として、両手で弾くことのできるクラヴサンが大きなムーヴメントを創り出す。という流れを見つめれば、クープランはじめ、フランスにおけるクラヴサンのための音楽の在り様に、何か納得させられるものがある。バッハの鍵盤楽器のための作品の、ロジカルであることが生む密度とは違う、フランスのクラヴサンのための音楽の、間が生む詩情、美しい響きへのこだわりは、リュート由来なのだなと... そんな、フランスのクラヴサンのための音楽の黄金期を生み出したクープラン。そのクラヴサン曲集、第1巻。5つのオルドル=組曲からなる、全71曲、3枚組!いやはや、第1巻にして、集大成感が凄い... で、実際に集大成的な性格を孕んでいるように思う。1693年にヴェルサイユへと出仕し、王族のクラヴサン教師を足掛かりに、クラヴサン奏者として太陽王のためにクラヴサンのための作品を書くまでになっていたクープラン。そして、太陽王が世を去る2年前、1713年に出版されたのが、ここで聴く、第1巻。そこには、クープランのヴェルサイユでの経験が籠められているのだろう。そういう経験を経て、フランス・バロックを打ち立てた太陽王の禁中(王の生活は、基本、一般公開されていたけれど... )が培った、クラヴサンの伝統を、じっくりと響かせる... そういう重みが感じられる、全71曲...
クープランがヴェルサイユに出仕した頃というのは、太陽王の宮廷音楽を取り仕切ったリュリ(1632-87)はすでになく、王室シャンブル付きクラヴサン奏者として、太陽王のためにクラヴサンを弾いた巨匠、ダングルベール(1629-91)も世を去り、ひとつの時代が終わりつつあった。何より、それは、70年にも及ぶ太陽王の治世の最後の頃であって、そういう気分が第1巻には表れているように感じる。かつて活き活きとバレエを踊った太陽王も、60代を過ぎ、より落ち着いた音楽を好むようになっていたか... まだ40代だったクープランではあるけれど、何か老成を感じさせる音楽が続き、興味深い。時代を遡り、太陽王がまだ若かった頃の作品を集めただろう、1689年に出版されたダングルベールのクラヴサン曲集に収められた音楽と比べると、その響きは渋い... 渋いけれど、間違いなく洗練されていて、太陽王の禁中を彩った音楽の深まりを、しっかりと感じられる。そして、その深まりに、クープラン独特の憂いは漂い出し、老成の中にも、新たな時代の可能性が見えて来る。何より、フランス式の舞曲という形にこだわらない、どこか俳句的な表情を浮かべる小品の数々... 第4組曲、「目覚まし時計」(disc.3, track.8)の、目覚ましが鳴る感覚!その今も昔も変わらない感覚が、もの凄くキャッチーで、アンティークの風合に包まれながらも、不思議と現代的なセンスを見せるクープラン、おもしろい。
で、ルセの明快なタッチが、そのおもしろさを卒なく引き出していて... いや、改めてルセの演奏に触れると、何か「現代っ子」を思わせるところがあって、さっくりと全71曲を楽しめた。そのテクニックの見事さはもちろんなのだけれど、際立ったテクニックを以ってして、実にニュートラルな音楽を展開し、一音一音がパっと明るい。だからこそ、クープランの音楽性が、雰囲気ではなく、その響きから詳らかにされるようで、興味深い。また、そういうクリアさがあって、太陽王の晩年のヴェルサイユの空気感を繊細に捉えるようで、興味深く、その独特な落ち着きに魅了される。そして、抜粋ではなく、第1巻をそのまま奏でて生まれる、広がり、味わい、深み!少々、ごった煮的な性格もある第1巻ではあるけれど、だからこそ、全71曲、弾き切って、クープランのミクロコスモスが浮かび上がり、これまで以上に、惹き込まれてしまう。

FRANÇOIS COUPERIN
PREMIER LIVRE DE PIÈCES DE CLAVECIN / ROUSSET

フランソワ・クープラン : クラヴサン曲集 第1巻

クリストフ・ルセ(クラヴサン)

harmonia mundi FRANCE/HMC 901450




ロココの時代のクープラン、総決算、クラヴサン曲集、第4巻。

HMC901445
1715年、太陽王が世を去ると、その曾孫にあたるルイ15世(在位 : 1715-74)が、わずか5歳で王位を継承(父も、祖父も、すでに世を去っていたため... )。太陽王の甥、オルレアン公、フィリップ2世(1674-1723)が、幼い王の摂政に就任し、国政を担うと、王国の雰囲気はガラリと変わる。まず、宮廷がパリへと移され、ヴェルサイユに隔離されていた宮廷文化が、パリの当世風の文化と融合。太陽王の慇懃無礼なバロックから、軟派なオルレアン公のお洒落なロココへとうつろう。当然、音楽にもロココは波及し、イタリアやドイツに先駆けて、ポスト・バロックの音楽がパリで展開されることになる。そうした新しい時代が幕を開けた頃、1717年、クープランは、王室シャンブルのクラヴサン奏者に内定(太陽王の時代の巨匠、ダングルベールのポストをその息子が継ぐも、失明により音楽活動がままならなくなっていたため、内定という形で、実質的にポストを引き継ぐ... )。名実ともに、フランスを代表するクラヴサン奏者となる。そして、その年に、クラヴサン曲集、第2巻を出版。1722年には、第3巻を出版し、宮廷とパリの音楽シーンの両方で、キャリアの頂点を迎える。そんなクープランも、やがて老境に... 60代となると、健康状態はあまり優れなくなったようで、1730年、宮廷でのクラヴサン奏者のポストを娘、マルグリット・アントワネットに、王室シャペルのオルガニストのポストをギヨーム・マルシャンに引き継がせ、第一線から退く。そして、その年に出版されたのが、クラヴサン曲集、第4巻。それは、新しい時代、ヴェルサイユからパリへと音楽の中心が移り、より自由な音楽活動が展開されたポスト・バロック、第1期の集大成と言えるのかも...
クープランのクラヴサン曲集は、クープランの個性の下、より統一感を打ち出せた、第2巻、「恋のナイチンゲール」や、「シテール島の鐘」、「小さな風車」、「ティク・トク・ショック」など、キャッチーで魅力溢れる作品が多いように感じる、第3巻が、よりおもしろいのかも?なんて、漠然と思っていたのだけれど、それら飛ばしまして、第1巻から第4巻へ... いや、太陽王の時代の集大成、第1巻から、その後の時代の集大成として聴く、第4巻は、クープランの音楽の進化はもちろん、時代のうつろいが際立つようで、実に興味深い。何より、第4巻の、作曲家自身の老成が生み出す、落ち着きと、落ち着いたからこそ浮かび上がる、クープランの音楽の瑞々しさ... 第4巻、最初の第20組曲(disc.1, track.1-7)を聴き出すと、クープランらしい美しいフレーズが波のように寄せては返し、心地良い。で、この心地良さは、どこかミニマル・ミュージックを聴くような感覚もあり... それでいて、対位法も効いていて、重厚感も響かせるから、単にクープランらしさばかりでない、総合力も見せて、そうして生まれる聴き応えが印象的。そして、おもしろいのが、「クルイリー」(disc.1, track.4)。どういうわけか、ヴィオールが登場!ちなみに、クルイリーというのは、クープランが所有していた荘園らしいのだけれど、その牧歌的な風景をヴィオールが捉えるのか?クラヴサンの金属的なサウンドとは対照的な、土の匂いがして来そうなヴィオールが朗らかに歌い、絶妙な色彩を引き出す。いや、クープランの色彩への鋭敏な感性に改めて感服させられる。
さて、ルセのクラヴサン... 第4巻でも、明快なタッチはしっかりと活きていて、見事。特に、ルセの明快なタッチが、お洒落なフランス・ロココばかりでなく、イタリア・バロックのロジックにも関心を示し、その良さを取り込み、より明快な音楽を響かせたクープランの晩年を確実に捉えて、視界の良好さが、何とも心地良い!一方で、クープランの終活とも言える第4巻の気分に、より丁寧に向き合うような姿勢もあって、一音一音からクープランの感慨が滲むようでもあり... ロココの優雅さばかりでない、音楽としての味わい深さを、しっかり奏でる。だからこそ、この第4巻が、凄く特別なものに思えて来て、惹き込まれる。

FRANÇOIS COUPERIN
QUATRIÈME LIVRE DE PIÈCES DE CLAVECIN / ROUSSET

フランソワ・クープラン : クラヴサン曲集 第4巻

クリストフ・ルセ(クラヴサン)
上村かおり(ヴィオール)

harmonia mundi FRANCE/HMC 901445




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