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生誕350年、クープラン、バロックとロココの調和。 [before 2005]

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2018年は、バロックから見つめると、クープラン・イヤー!
フランス・バロックを代表する作曲家のひとり、"大クープラン"こと、フランソワ・クープラン(1668-1733)が、今年、生誕350年のメモリアルを迎えます。しかし、イタリア・バロック、ドイツ・バロックからすると、少し異質なフランス・バロックであって、いつものように「バロック」という大きな括りでフランソワ・クープランの存在をすくい上げようとすると、大いに戸惑わされるところもあるような... ないような... 大バッハ(1685-1750)より、17歳も年上でありながら、その音楽は、フランスらしさを際立たせることで、軽やかにバロックを脱し、ロココをも表現する。古雅でありながら、より新しい感性を響かせるアンビバレント... 丁寧に見つめれば見つめるほど、一筋縄では行かない作曲家に思えて来る。というより、時代を安易に読み解こうとするから、そう感じるのかもしれない。クラシックにおいて、強烈なイメージを放つ「バロック」だけれど、実際は、ひとつのイメージで語ることが難しいほど、様々な精神や感性を含み、掴み所が無いようなところすらある。そして、フランソワ・クープランの存在は、そういうバロックの掴み所の無さを象徴するような存在と言えるのかもしれない。
ということで、掴み所の無いあたりを、フランソワ・クープラン自身がまとめようとした希有な作品集?クリストフ・ルセ率いる、レ・タラン・リリクの演奏で、フランソワ・クープランの新しいコンセール集、「趣味の調和」(DECCA/458 271-2)を聴く。そして、ここから、少し、じっくりとフランソワ・クープランと向き合いながら、改めてフランス・バロックを俯瞰してみようかなと...

フランス・バロックというと、まずリュリ(1632-87)のイメージがある。フランスに絶対王政を打ち立てた太陽王、ルイ14世(在位 : 1643-1715)のお気に入りとして、権勢を誇った巨匠の音楽は、太陽王の宮廷を彩り、さらには太陽王の権威を喧伝し、フランス・バロックに絶頂期をもたらした。が、改めて、その音楽を聴いてみれば、フランス音楽としては、少し異質に思える。例えば、時代を少し遡って、太陽王の父、ルイ13世(在位 : 1610-43)の宮廷音楽... ふわっと明るく、メローで、より大きな視野に立った音楽のフランスらしさを感じる。それからすると、リュリの壮麗さは、どこかイタリアの教会の重厚感を漂わせる?そもそもリュリがイタリア出身であって、当然と言えば当然なのだけれど、ナショナリズムが高まった太陽王の宮廷で、イタリア的な感性(それは、まさに「バロック」なのだけれど... )を用いて、太陽王の宮廷の壮麗さを演出していたとしたら、何だか本末転倒な気がして来る。そうした中、1682年、宮廷はヴェルサイユに移り、1687年、リュリは世を去るも、リュリの敷いた路線は、しっかりと根付き、それがフランス・バロックとして、ヨーロッパの音楽シーンに存在感を示す。しかし、新たな世紀を迎え、1715年、太陽王が世を去ると、まるで、喪が明けたように、フランス本来の感性が息を吹き返す!幼い新国王、ルイ15世(在位 : 1715-74)の摂政となったオルレアン公、フィリップ2世(太陽王の甥... )が、宮廷をパリへと移すと、フランスの音楽には、新たな風が吹き始める。その風に乗ったフランソワ・クープラン。その風を象徴する作品が、ここで聴く、1724年に出版された、新しいコンセール(合奏)集、『趣味の調和』。
太陽王の時代の厳格さ、太陽王以前の時代の明朗さ、さらに、イタリア・バロックの形式(トリオ・ソナタ)までを引き入れて、まさに「趣味の調和」を成したコンセール集は、基本、舞踏組曲の形を取り、10の組曲で構成され、実にヴァラエティに富んだ音楽を展開する。そういう点で、「趣味の調和」というよりは、趣味のカタログなのかもしれない... で、ルセ+レ・タラン・リリクが最初に取り上げるのは6番のコンセール(disc.1, track.1-5)。始まりのプレリュードは、ヴァイオリンがフランソワ・クープランらしい楚々とした旋律(この感覚は、太陽王の時代を思わせるのか... )をしっとりと奏で、高雅なのだけれど、続くアルマンド(disc.1, track.2)は、通奏低音に支えられ、オーボエが朗らかに歌い、イタリア・バロックを思わせる。いや、思いの外、イタリアっぽいのかもしれない... トリオ・ソナタの形もあって、より整理されたサウンドが響き、そこにフランス・バロックには無い感性が生まれて、モダンな印象も受ける。一方で、8番のコンセール、「劇場風の様式で」(disc.1, track.6-16)は、トラジェディ・リリクを思わせる展開を見せて、フランス流... 最後のバッカスの巫女たちエール(disc.1, track.16)などは、この時代のバレエのよう。また、2つのヴィオールで奏でられる12番(disc.1, track.23-26)と、13番(disc.2, track.21-24)のコンセールは、よりフランスの伝統を感じさせるもの... いや、グっと古風なのだけれど、不思議と爽やかな風が吹き抜けるような感覚もあって、形に捉われないからこそのフランスの流麗さ、詩情を見出し、惹き込まれる。いや、改めてフランスらしさについて考えさせられるようで、調和どころか、挑戦的かも...
という、『趣味の調和』、2枚組を、丁寧に、響かせる、ルセ+レ・タラン・リリク。混在する感性を、丁寧に紐解き、それぞれの曲の個性を、卒なく活かし、『趣味の調和』の挑戦的な姿勢を、そこはかとなしに示してくれるよう。そして、それぞれの曲の個性を引き立てるのが、レ・タラン・リリクのメンバーのひとりひとりの確かな音楽性。コンセール=合奏とはいえ、基本、トリオ・ソナタの形を取る『趣味の調和』は、ひとりひとりの演奏能力の高さが求められるわけで... 落ち着いたヴァイオリン、朗らかなオーボエ、品の良いフルート、そして、味わい深いヴィオール、派手に存在感を主張することは無くとも、余韻に確かな印象深さが残るのは、本物の存在感の証。アンサンブルとしてだけでない、ひとりひとりの魅力も底堅いレ・タラン・リリク。そんなメンバーを、きちんと支える、ルセのクラヴサン... 通奏低音だけに、前面に立つ場面はないものの、静かに落ち着いた表情が端々からこぼれ出すのが、何とも、素敵!そんな演奏があって浮かび上がる、『趣味の調和』の時代の、新旧、そして、イタリア的、フランス流、揺れ動く様のナイーヴさ... ルセ+レ・タラン・リリクの演奏は、バロックからロココへとうつろう時代のありのままの姿を、きちんと響かせるようで、興味深い。

COUPERIN: LES GOÛTS-RÉÜNIS
CHRISTOPHE ROUSSET • LES TALENS LYRIQUES

クープラン : コンセール 第6番 変ロ長調
クープラン : コンセール 第8番 ト長調 「劇場風の様式で」
クープラン : コンセール 第7番 ト短調
クープラン : コンセール 第12番 イ長調
クープラン : コンセール 第5番 ヘ長調

クープラン : コンセール 第9番 ホ長調 「愛の肖像」
クープラン : コンセール 第10番 イ短調
クープラン : コンセール 第11番 ハ短調
クープラン : コンセール 第13番 ト長調
クープラン : コンセール 第14番 ニ短調

クリストフ・ルセ/レ・タラン・リリク

DECCA/458 271-2




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