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古き良き時代をヴィオールに求めて、クープラン、フォルクレ... [before 2005]

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フランスの宮廷音楽というと、ヴェルサイユ宮の中で発展したイメージがあるのだけれど、実際は、ヴェルサイユ宮よりもずっと古い歴史を誇る(連綿と続いて来た王朝の歴史からすれば、ヴェルサイユ宮は意外と新しい... )。その宮廷音楽を、大々的に整備したのが、ルネサンス期の国王、フランソワ1世(在位 : 1515-47)。中世から続く、教会音楽を担ったシャペル(「礼拝堂」を意味するフランス語で、聖歌隊と、その伴奏をする合奏団... )から、宮廷の日常的な音楽を担当するシャンブル(「室内」を意味するフランス語で、その名の通り、室内で活動する音楽家集団... )を、さらに、野外での音楽を担当するエキュリ(「厩舎」を意味するフランス語で、厩舎の所属となる、野外用の吹奏楽団... )を創設。いや、シャペル、シャンブル、エキュリ、3つもの組織を擁する規模に驚かされる。ちょっと他の宮廷には探せない。のだけれど、さらに、ルイ13世(在位 : 1610-43)の時代になると、王の24のヴィオロン(ヴァイオリン属によるコンソート... )が新設され、その息子、太陽王(在位 : 1643-1715)の時代には、リュリのための専属のアンサンブル、プティ・ヴィオロンまでが活動し、宮廷はさながら音楽センターのようだった。そうした中、始まる、ヴェルサイユ宮の建設... それはまるで、音楽センターが収まるように増築を繰り返し、1682年、宮廷は、正式にヴェルサイユへと移る。つまり、太陽王がヴェルサイユ宮に落ち着いた時には、フランスの宮廷音楽は、その威容を完成させていたわけだ。そして、そこで活躍したのが、クープラン!
ということで、クープランと、その宮廷の同僚にして、ヴィオールのヴィルトゥオーゾ、フォルクレの作品... ニマ・ベン・ダヴィドのバス・ド・ヴィオールを中心に、ジョナサン・ルービンのテオルボ、バロック・ギター、ソフィー・ボーシェのバス・ド・ヴィオール、エレーヌ・クレール・ムジエのクラヴサンで、クープランの2つの組曲と、フォルクレの第1組曲(Alpha/Alpha 007)を聴く。

クープラン(1668-1733)は、1693年、シャペルのオルガニストに就任し、ヴェルサイユで働き始める。翌、1694年からは、王族たちのクラヴサン教師となり、クラヴサン奏者としても活動、次第にその才能が認められるようになると、眼を悪くして演奏が困難となっていたシャンブルの専属クラヴサン奏者、ジャン・バティスト・アンリ・ダングルベール(太陽王の時代のクラヴサンの巨匠、ダングルベールの息子... )の代役を務め、シャンブルのための作品も作曲するようになる。一方、ヴィオールのヴィルトゥオーゾ、フォルクレ(1671-1745)は、クープランより少し早く、1689年にシャンブルの一員に... となると、2人はともに演奏しただろうし、クープランの作品をフォルクレが演奏することもあっただろう... で、シャンブルには、フォルクレと双璧を成したヴィオールの巨匠、マレ(1656-1728)もおり、さらに、その楽長には、シャペルでのクープランの上司、ドラランド(1657-1726)が務めており、その陣容は、さながら、ポスト・リュリ時代のフランス・バロック・オール・スター・チーム!そんなシャンブルが、ヴェルサイユ宮を音楽で彩っていたのだから、贅沢。いや、充実を極めていたのだろうなァ...
そんな背景を見つめながら、クープランのヴィオールのための第1組曲(track.1-7)と、第2組曲(track.8-11)、そして、「ラ・クープラン」と名付けられた曲で締め括られる、フォルクレのヴィオールのための第1組曲(track.12-17)を聴くのだけれど... この2人の音楽を並べると、実に興味深いコントラストが生まれ、驚かされる。ヴィオールという楽器は、低音を担う楽器だけに、どうしても渋いイメージがあり、その渋さゆえに、ヴィオールのための音楽には個性が生まれ難いのでは?なんて漠然と思っていたら、馬鹿ヤロー!とブン殴られるような音楽を聴かせてくれるフォルクレ(実際、DVだったらしい... )。それは、「悪魔のようなフォルクレ」と呼ばれたというだけに、どこか憑かれてヴィオールを奏でるようで、より身体的な感覚を以って楽器の魅力を引き出す音楽で... 一方、クープランは、クラヴサン奏者ならではの律儀さのようなものが音楽を包み、ヴィオールをどこか道具と捉えるような冷たさが感じられ、それがまたクープラン流の洗練であって、フォルクレとは違うおもしろさを味あわせてくれる。それでいて、クープランらしい古雅を突き抜けた、古さそのものを強調するのか?
1728年、クープランが体力の限界を感じ、宮廷での仕事を辞す2年前、ヴィオールの巨匠、マレが世を去った年に出版された2つの組曲。その2年前、1726年には、シャンブルの楽長、ドラランドも亡くなっており、太陽王の時代は、すでに遠くなりつつあったのだろう... そういう中で、あえて、かつての音楽をそのまま響かせたか... 第1組曲(track.1-7)、前奏曲の、素朴に切々と奏でられるヴィオールの響きに触れると、ヴェルサイユの豪奢なイメージは吹き飛び、ただならず、古(イニシエ)が押し寄せて来る。これが、当時のクープランの心象だったか... そんな前奏曲に続いて、軽やかに、また、静々と、舞曲が続くのだけれど、その何ともやさしい雰囲気には、「悪魔のようなフォルクレ」に対して、「天使のようなマレ」と呼ばれた巨匠へのオマージュも感じてしまう。続く、第2組曲(track.8-11)は、コレッリが整えた教会ソナタの形を用い、サウンドはイタリア的に整理されて、一転、心地良い明快さが放たれる。このあたりに、作曲家、クープランの洗練を見出す。
そんな端正なヴィオールを聴いた後でのフォルクレの第1組曲(track.12-17)は、実にエモーショナル!最初の一音から、何か重みが違う!このあたりに、クラヴサン奏者、クープランと、ヴィオール奏者、フォルクレの、ヴィオールという楽器に対する身体感覚の違いが炙り出される。何より、フォルクレの音楽は力強い!そして、その力強さに、よりバロックを感じる。特に、「ラ・フォルクレ」(track.13)と名付けられた2曲目、「悪魔のようなフォルクレ」を意識させる、技巧を駆使しながら、次々に表情を変え、複雑な感情をぶつけて来るような音楽は、フォルクレそのものなのだろう。そして、興味深いのが、組曲の最後、「ラ・クープラン」(track.17)。重々しいヴィオールの後ろで、通奏低音のクラヴサンが、しゃなりしゃなりと、優雅にセンチメンタルに奏でられ、心なしか、その存在は強調されている?そんな姿に、往時の2人の演奏を喚起させられるよう。
というフォルクレの音楽は、フォルクレの死後、その息子、ジャン・バティストによって出版されている。鬼気迫る演奏で、「悪魔のようなフォルクレ」と呼ばれただけに、そういうイメージが乗らない出版という形を嫌ったらしい(ライヴ重視な姿勢、何だか現代に通じるものがある... )のだけれど、出版されないことで、父の音楽が失われてしまうことを恐れたジャン・バティストは、父の死後、その音楽を整え、場合によって通奏低音を付けて、より演奏し易い形で出版に至る。ここで聴く、第1組曲も、そうした作品であり、「ラ・フォルクレ」(track.13)や、「ラ・クープラン」(track.17)は、フォルクレの音楽であると同時に、ジャン・バティストの思い出のスナップであったのかもしれない。そんな風に見つめると、息子の父に向けられた視線に深く愛情が感じられ、温かな気持ちになる。一方で、フォルクレは、ジャン・バティストに対し、つらく当たったらしい...
そんな、フランス・バロックの悲喜交々まで、遠い記憶を呼び覚ますように、丁寧に、そして、味わい深くヴィオールを奏でるニマ・ベン・ダヴィッド。ヴィオールの魅力を楚々と響かせながら、当時の風景が広がるような、豊かな音楽を紡ぎ出す妙。クープランとフォルクレのコントラストも絶妙で、当時のシャンブルの幅を聴かせながら、クープランからフォルクレへというつながりも感じられ、見事。そして、ニマ・ベン・ダヴィッドのヴィオールに寄り添う、ボーシェのヴィオールも印象的で、2人の音が重なって生まれる深みには魅了される。さらに、ルービンのテオルボ、バロック・ギター、ムジエのクラヴサンの澄んだ響きも魅惑的で、ヴィオールの影で、撥弦楽器ならではのキラキラと輝くようなサウンドがこぼれ出し、惹き込まれる。という、すばらしい演奏があって、クープラン、フォルクレの音楽が、沁み入るよう。心がじんわりする。

COUPERIN - FORQUERAY PiÈces de violes
Nima Ben David - Jonathan Rubin - Sophie Bauchet - Hélène Clerc-Murgier


クープラン : 第1組曲
クープラン : 第2組曲
フォルクレ : 第1組曲

ニマ・ベン・ダヴィッド(バス・ヴィオール)
ジョナサン・ルービン(テオルボ/バロック・ギター)
ソフィー・ボーシェ(バス・ヴィオール)
エレーヌ・クレール・ムジエ(クラヴサン)

Alpha/Alpha 007




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