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この喧騒の中で、全てを浄化するア・カペラ、ラフマニノフの晩祷。 [before 2005]

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クリスマス・ソング、この季節、あちこちから聴こえて来るわけですが、お気に入りは、何ですか?ちなみに、当blogは、「オー・ホーリー・ナイト」として知られる、アダンの「クリスマスの讃美歌」を推したいかなと... お馴染みのナンバーだけれど、よくよく聴いてみると、オペラティック?19世紀、パリの劇場で活躍(バレエ『ジゼル』はもちろん、多くのオペラ・コミックを作曲!)したアダンならではというのか、どことなしにフランス・オペラのアリアを思わせる瑞々しい雄弁さに魅かれ... それから、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」!"war is over, if you want it"のアンセムっぽさが、ツボ(で、今、まさに"war is over, if you want it"だなと... )。で、やっぱり、オペラっぽかったり、アンセムっぽかったりに、引き寄せられてしまう。さて、話しをクラシックに戻しまして、クリスマスのための音楽となると、どうだろう?前回、聴いた、クリスマス・オラトリオがあって、もちろん『メサイア』もあって、それから... えーっと... 改めて探してみると、お馴染みの作品と言えるものは、意外と少ないのかもしれない。クラシックにとってのクリスマスは、ズバリ、教会音楽としての仕事が中心であって、クリスマス・ソングとは違い、典礼を担うという制約が、お馴染みを生み難いのかもしれない。そういう点は、少し残念だなと...
という中で、かなりのインパクトを放つクリスマスのための音楽!いや、クリスマスのための音楽ではないのか?ロシア正教会の日曜と祭日の前に行われる徹夜祷のための音楽。クリスマスでも歌われるみたいなので... って、随分といい加減なのだけれど、トヌ・カリユステの指揮、スウェーデン放送合唱団で、ラフマニノフの『晩祷』(Virgin CLASSICS/5 45124 2)を聴く。

ラフマニノフというと、コンポーザー・ピアニストというイメージが強い。が、その作品をつぶさに見つめると、ピアノのための作品はもちろんのこと、交響曲に、室内楽に、オペラから教会音楽まで、思いの外、オールラウンド・プレイヤーであったことに驚かされる。生真面目で、ナイーヴで、1番の交響曲が失敗してしまうと、すっかり落ち込んでしまったりと、何とも不器用な性格のラフマニノフなのだけれど、音楽に対しては、実に器用だった。で、その器用さを思い知らされるのが、教会音楽... ラフマニノフ自身は、そう信仰に篤い人物ではなかったと言われるのだけれど、ここで聴く『晩祷』は、堂々たるロシア正教会の典礼音楽を繰り広げ、圧巻。でもって、ア・カペラで... とにかくピアノ協奏曲が人気のコンポーザー・ピアニストだけに、ピアノから離れたイメージは掴みづらい。ましてや、ア・カペラ?!いやいや、まったく遜色無く、ア・カペラを織り成す、作曲家、ラフマニノフの腕は、確かなもの。いやもう、のっけから惹き込まれる!ロシア正教会ならではの東方的なトーンに包まれ、エモーショナルかつ、清冽に祈りの歌を紡ぎ出し、聴く者の心を否応無しに揺さぶって、ただならない...
という、ラフマニノフの『晩祷』は、第一次大戦が勃発した翌年、ロシア革命が始まる2年前にあたる1915年、わずか2週間で作曲されたという作品。まさに緊張を強いられる中で生み出された音楽なのだろう、様々な感情が籠められるようで、インパクトがある。いや、ア・カペラが生むインパクトというのは、ピアノやオーケストラの比では無いように思う。人の声のダイレクトさ、感情そのものとなって発せられる歌声が束となって、より生々しい迫力を炸裂させる。それがまた、祈りの音楽として炸裂すると、何かマジカルなものが感じられ、魂を鷲掴みにされるようで、慄きすら覚えてしまう。で、そのベースにあるのが、ロシア正教会の東方性だろう。ラフマニノフは、モスクワ音楽院時代、合唱指揮者で古文書学者であったスモレンスキイの下、ロシア正教会の聖歌を学んでいる。そうした下地があっての『晩祷』だけに、その音楽はけして片手間なものではない(『晩祷』は、その作曲の6年前に世を去っていたスモレンスキイに献呈されている... )。丁寧にロシア正教会の聖歌と向き合い、全15曲の内、10曲を古い聖歌を下敷きとし、ア・カペラの清冽なハーモニーを活かしながらも、そこはかとなしに東方性は溢れ出し、その個性は際立っている。いや、普段のラフマニノフとは、また違う次元の音楽が響き出す。
始まりの「来たれわれらの王、神に」の、ロシアのフォークロワを思わせる熱っぽいメロディー!それを鮮烈に、圧倒的に歌い上げるア・カペラ!痺れます。で、この1曲目は、ラフマニノフによるオリジナルのメロディーによるものなのだけれど、ラフマニノフによるナンバー(track.1, 3, 6, 10, 11)は、どれもエモーショナルに盛り上がるのが印象的。一方で、古い聖歌によるナンバーは、ソロとコーラスの対比など、典礼音楽としての形をより窺わせて、徹夜祷としての"祈り"を意識させられる。それはまた、西方の教会音楽とは明らかに異なるテイストで、エキゾティックに感じられもので、何とも言えず、魅惑的。で、そのエキゾティシズムがア・カペラによって織り成されると、どこかニュー・エイジ的にも響き、新しさすら感じられる。そうしたあたりには、北欧の合唱作品に通じる感覚もあるのかもしれない。「高きには栄光」(track.7)などの、清々しくもあるハーモニーには、北欧の澄んだ大気を思わせて、東ばかりでなく、北とのロシアの近さも見出せる。いや、ロシア的であればあるほど、様々な表情が浮かび上がる興味深さ... ストイックなはずのア・カペラが、驚くほどスケールの大きな音楽を紡ぎ出し、清冽にして鮮烈、冷たくて熱いというアンビバレント!まったく以って、希有な音楽だなと...
で、その『晩祷』を、カリユステの指揮、スウェーデン放送合唱団で聴くのだけれど、まず、合唱王国、北欧ならではの精緻さは当然のこととしてあって、そこに東方性を引き込んで、絶妙なハーモニーを響かせる!カリユステならではの表情の幅というのか、クリアなだけではない、東方の温もり、温もりを生むやわらかさを、世界屈指の技術を誇るスウェーデン放送合唱団の歌声に籠め、聴く者をやさしく包み込むようなハーモニーを生み出す。かと思うと、非ヨーロッパ的な東方性の鮮やかさ、煌びやかさをパワフルに繰り出して、ロシアの大地に根差したサウンドを圧倒的に響かせる。西方的な感性では引き出し得ない、東西の文明が重なり合うロシアの特性を、見事にすくい上げるカリユステ... それに応え切る、また見事なスウェーデン放送合唱団の歌声!力強さと、静謐さを、鮮やかに歌いつなぎ、澄んだハーモニーに味わいを生みつつ切なげに歌う。すると、『晩祷』が書かれた時代の遣る瀬無さが漂い出し、心を掻き乱されるよう。

RACHMANINOV : VESPERS
SWEDISH RADIO CHOIR . TÕNU KALJUSTE

ラフマニノフ : 『晩祷』 Op.37

トヌ・カリユステ/スウェーデン放送合唱団

Virgin CLASSICS/5 45124 2




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