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この喧騒の中で、温もりに充ちたバッハのクリスマス・オラトリオ。 [before 2005]

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聖地、イェルサレムが、俄然、物騒になって来て、八幡様の裏手では、刃傷沙汰... 神さまは、どうして、こうも、人々を狂わせるのだろう?イェルサレムなんて、本を正せば、みな同じ神さまを崇めているというのに... いや、ギリシア悲劇を思い出せば、神々を前に、人間なんて、そんなものだったなと... 神さまのつれなさと、神さまを前にしての人間の愚かしさ、古代ギリシアの人々は見事に見抜いていたわけだ。なんてあたりから見つめる、日本のクリスマスは、どんなものだろうか?ほっとんどキリスト教徒で無い人々による、雰囲気でイエス様の誕生を祝うという摩訶不思議!いや、これくらいがちょうどいいのかもしれない。神さまを前に相争うのではなく、深く考えずに、何でもポジティヴに捉える節操の無さ... 裏を返すと、実は懐が深い?そういう懐の深さにこそ、神さまはいらっしゃる気がする。ある種のユルさこそ、真理なんじゃないか... なんて、考えてしまう、今日この頃。ということで、節操無く、音楽でクリスマスを祝っちゃお!『メサイア』を聴いたので、クリスマス・オラトリオ!
ジョン・エリオット・ガーディナー率いるイングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏、モンテヴェルディ合唱団、ナンシー・アージェンタ(ソプラノ)、アンネ・ソフィー・フォン・オッター(アルト)、アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)、オラフ・ベーア(バス)ら、実力派が歌う、バッハのクリスマス・オラトリオ(ARCHIV/423 232-2)を聴いて、一足早く、ユルく?クリスマスを祝う。

はぁー、久々に聴くと、癒される!トントントントントォン、太鼓が叩かれて、鳥がさえずるようにフルートが歌い、トランペットが輝かしく応えるその冒頭は、まるで往年のディズニーのアニメ映画を見るような微笑ましいカラフルさに包まれて、ハッピー!そこから楽しげに合唱が歌いだせば、お祭りの始まりの合図のようで、得も言えずワクワクとさせられる!そんな音楽に触れると、バッハが生きた時代、教会に集った人々にとっても、クリスマスはワクワクするものだったんだろうなァ。と、何だか親近感を覚えてしまう。いや、なんて温もりに充ちた音楽なのだろう!バッハの音楽の中でも、特に温もりを感じられるように思うクリスマス・オラトリオ... やっぱり、クリスマスだからだろうか?ローマの、カトリックの慇懃無礼なクリスマスとは違う、ドイツのプロテスタントの素朴さというのか... いや、イエス様が生まれたというより、あかちゃんが生まれた!という、ハッピー感にふんわりと包まれて、宗教の仰々しさを取っ払って、共感を促すようなシンプルな幸せがその音楽には籠められているように感じる。それは、子沢山の大バッハならではの感覚?あかちゃんが生まれて、周りがぱぁっと明るくなる!説教っぽく、イエス・キリストがどんなに尊いかを説くより、聴く者の感覚に寄り添って、より共感を引き出す音楽の力... 普段は気難しく感じられる対位法の大家も、よりパーソナルな感情を音楽に投影するようで、なればこそ、21世紀を生きる我々の心にも響いて、ワクワクし、ハッピーな気分になるのだろう。もはや、理屈抜き!クリスマスは、楽しい!
一方で、バッハのクリスマス・オラトリオが描き出す情景は、聖書に沿って、イエス・キリストの誕生とその後を丁寧に追う。12月25日、ベツレヘムの夜空に星が輝いて、イエスが降誕する、第1部(disc.1, track.1-9)、救世主の誕生を聞き付けた羊飼いたちが祝いにやって来る、第2部(disc.1, track.10-23)、羊飼いたちが喜び踊る、第3部(disc.1, track.24-36)、そして、年が明けてからの第4部(disc.2, track.1-7)、新たな王とされるイエスの誕生に慄くヘロデ王が登場する、第5部(disc.2, track.8-18)、東方三博士がイエスの下に詣でる、第6部(disc.2, track.8-18)。で、興味深いのは、それぞれのパートが、降誕節のそれぞれに符合する祝日に歌われたこと... 現在では、オラトリオとしてまとめて歌われるものの、1734年のクリスマスの日に始まる初演は、12月25日に第1部を、翌、26日に第2部、27日に第3部が、年が明けて1735年、1月1日には第4部、2日に第5部、そして、3日置いての6日、第6部が歌われている。つまり、降誕節の期間中に歌われるカンタータであって、"オラトリオ"というより、連作カンタータというのが、実際のところなのだろう。とはいえ、普段のカンタータとは、やっぱり一味違う... 降誕節=クリスマス期間中(日本では、クリスマスを過ぎると、正月飾りにガラっと変わってしまうけれど、キリスト教圏では、クリスマスは年が明けても続く... )のワクワクとハッピーを卒なく盛り込んだ6つのカンタータは、音楽的に統一感が生まれ、まとめて歌えば、聖書にあるクリスマスのストーリーがナチュラルに繰り出され、オラトリオとして成立してしまうという妙。なかなか興味深い仕掛けだなと、ちょっと感心してしまう。
そうして生まれる音楽劇としての表情の豊かさ!バッハを代表する2つの受難曲と同様に、福音史家がナレーター役を務め、そのレチタティーヴォにより物語が進められ、厳密な意味での劇的な場面というのは多くは無いのだけれど、第2部(disc.1, track.10-23)、羊飼いたちが集っての音楽は、始まりのシンフォニア(disc.1, track.10)から牧歌的で、第3部(disc.1, track.24-36)も含め、パストラル=牧歌劇の雰囲気を引き込んで、羊飼いたちの素朴で軽やかな気分を描き出す。そんな音楽を繰り出すバッハが、何だか微笑ましい。一転、第5部(disc.2, track.8-18)では、ヘロデ王が玉座を置くイェルサレムに場面を移し、新たな王を訪ねて東方からやって来た博士とヘロデ王の宮廷の人々のやり取り(disc.2, track.10)には、オペラティックな緊張感が漂い、新たな王の誕生を知ったヘロデ王宮廷の動揺を歌う三重唱(disc.2, track.16)には、当時のオペラの雰囲気が感じられ、おもしろい。クリスマス・オラトリオには、その前年に作曲された、ザクセン選帝侯妃(豪奢なドレスデンの宮廷文化を築き上げた強健王、アウグスト2世の妃、マリア・ヨーゼファ... )の誕生日のための音楽劇である世俗カンタータ(214番)、『とどろけ太鼓、高鳴れラッパ』が巧みにリメイクされているのだけれど、イタリア好みの豪奢な宮廷に合わせた音楽が、パストラルやオペラを思わせる普段のバッハとは一味違う楽しさをもたらしているのだろう。そして、1734年のライプツィヒのクリスマスは、いつもより沸いたかもしれない。
というクリスマス・オラトリオを、ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団らで聴くのだけれど... 改めて聴いてみると、ガーディナーならではのシャープな明晰さに、ふわっとした祝祭感が広がっていて、そこはかとなしにクリスマスの気分を掻き立てる!また、そうした祝祭感を際立てることで、バッハの時代の人々の気分を蘇らせるようで、何ともハート・ウォーミング!で、独特な親密さを生み、時空を越えた共感を誘い、惹き込まれる。教会での壮麗なミサでもなく、宮廷の祝祭でもなく、市民が主役の商業都市の、人々が集って音楽に耳を傾ける素朴さ、温もりを引き出した何ともやさしいバッハが印象的。そんなガーディナーに応えるモンテヴェルディ合唱団も、明晰かつやわらかさを随所に見出し、魅了される。そして、実力派の歌手たち!まず印象に残るのは、福音史家を歌うアントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)の澄んだ歌声... イエス様が生まれた夜に輝いた星のように、クリスマスの物語の導き手として、瑞々しく凛とした存在感は、際立っている。そんな福音史家とは、好対照の体温を感じさせる他の歌手たちの歌声... ドイツ・バロックの楚々とした旋律を、丁寧に歌いつないで、全6部、ひとつひとつ喜びに包まれた情景を描き出し、聴く者を温かな心地にしてくれる。いや、クリスマスっていいな... と思える演奏にして歌、って、素敵だ。

J.S.BACH: CHRISTMAS ORATORIO
JOHN ELIOT GARDINER


バッハ : クリスマス・オラトリオ BWV 248

ナンシー・アージェンタ(ソプラノ)
ルース・ホールトン(ソプラノ)
ケイティ・プリングル(ソプラノ)
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(アルト)
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)
オラフ・ベーア(バス)
モンテヴェルディ合唱団
ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/423 232-2




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