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ドォラグ!ゴージャス!『眠れる森の美女』、ロシア・バレエの黄金期。 [before 2005]

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バレエというと、ロシアのイメージがある。実際、現在に至るクラシック・バレエの形は、ロシアで完成されている。が、そのロシア・バレエを築いたのは、フランス人たち... バレエ史におけるフランスの存在は、ただならず大きい。そもそも「バレエ」という言葉がフランス語であって、現存最古のバレエとされる作品も、フランスで踊られたもの。踊りにスタイルを形作り、舞踏譜を生み出し、踊ることを再現芸術にまで引き上げ、鑑賞する踊り、バレエを確立したフランス。19世紀、ロマン主義の時代を迎えると、重力から解き放たれるつま先立ち、ポワントの技術を駆使して、妖精たちが舞う幻想的な情景を展開するロマンティック・バレエが大ブームとなり、フランス・バレエの黄金期が到来!その輝かしさに憧れ、フランスに倣ったのがロシア・バレエ... サン・レオン、プティパといったフランス出身のコレオグラファーたちが、帝都、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場のバレエ監督を務め、フランスでロマンティック・バレエに陰りが見え始める頃、ロシア・バレエの黄金期を創出した。
そんなロシア・バレエ黄金期を彩った作曲家のひとり、ミンクスを聴いたので、勢い、本丸へ踏み込みます。ヴァレリー・ゲルギエフ率いる、マリインスキー劇場管弦楽団の演奏で、チャイコフスキーのバレエ『眠れる森の美女』(PHILIPS/434 922-2)を聴く。

ミンクスの『ドン・キホーテ』(1869)を聴いてから、チャイコフスキーの『眠れる森の美女』(1890)を聴くと、その密度の濃さにクラクラしてしまう。いや、その差が凄い... ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタと、ワーグナーの楽劇ほどの差を感じてしまう。同じくロシア・バレエの黄金期(ま、20年強の時間の隔たりは、結構、大きいとは思うのだけれど... )を彩った作品でありながら、こうも違うベクトルの音楽が存在していることに、驚かされる。普段、"ロシア・バレエ"と、一括りにしがちだけれど、音楽から見つめれば、その幅はかなりあるのかもしれない。一方で、チャイコフスキーの音楽は、当時のバレエにおいて、相当に革新的でもあった。1876年、第1回、バイロイト音楽祭へと足を運ぶほど、すっかりワグネリアンとなっていたチャイコフスキーが、その旅の前に作曲し終えていた最初のバレエ音楽、『白鳥の湖』は、ミンクスによる踊ることを一義に考えた職人的なバレエ音楽とは異なり、音楽からより大きなドラマが浮かび上がり、楽劇的な可能性を感じさせるもの... だったが、それは革新的過ぎたか、1877年のモスクワ、ボリショイ劇場での初演は失敗に終わる。が、時代は次第に変わる。ミンクスの音楽がマンネリ化し、ロシア・バレエにも陰りが見えて来ると、1881年、帝室劇場監督(つまり、マリインスキー劇場の劇場支配人... )に就任したフセヴォロシスキーは、改革に着手、"バレエ作曲家"のポストを廃止し、ミンクスを解雇(1886年までは、フリーの作曲家としてマリインスキー劇場のために楽曲の提供を続けている... )し、チャイコフスキーを再びバレエの世界に呼び込もうと動き出す。そうして誕生するのが、『眠れる森の美女』!
いやー、久々に聴くと、食べ応えがある!てか、プロローグの序奏からして、たまらない!なんて、ドラァグな... チャイコフスキー姐さんの、こういうコッテコテなとこ、好きよぉ。という序奏だけでなく、全体が"drag"、引き摺るほどの重々しきゴージャスな衣装と、圧巻のメイクで以って、勇壮に物語を展開する感じ、胃もたれ起こしそうになるけれど、その分、みっちり作り込んで来ている!ここが、ミンクスとは異なるベクトルを示し、バレエ音楽を越えて、しっかりと構築された音楽を響かせる。聴けば聴くほど、見事... ワグネリアン、チャイコフスキーならではの、ライトモティーフを機能させて、前作、『白鳥の湖』以上に、有機的な音楽を織り成して、力強く物語を描写する筆致は、作曲家、チャイコフスキーの力量を示すもの。下手すると、その交響曲よりも、充実した音楽が書けているような気さえして来る。いや、これは、長大な交響詩と言っても過言ではないかもしれない。同時代のリヒャルト・シュトラウスに近付くような感覚すらあるのかも... とはいえ、チャイコフスキーは、バレエであることも忘れていない。コレオグラファー、プティパが、台本に細かく指示書きしていたものを、しっかりと音楽にすくい上げ、見事にバレエ音楽としても仕上げている。なればこそ、あらゆるものが凝縮されて、ただならぬ聴き応えをもたらしてくれるのが、『眠れる森の美女』のように感じる。バレエ音楽ならではのキャッチーさ、ディヴェルティスマン(disc.3)でのエンターテイメント性、何より、淀み無く展開される物語のロマンティックな流れ... それは、実写版のディズニー映画を見るような、徹底した美しさと、解り易さがあって、時折、それが厚かましく感じなくもないようなところもありつつの満腹感!という『眠れる森の美女』は、1890年、マリインスキー劇場で初演され、成功。
で、このバレエを、そのマリインスキー劇場のオーケストラで聴くわけです。1992年の録音なので、初演から100年強を経ての蓄積というのか、伝統が紡ぎ出す確かさが滲み出るような演奏... 全てがスムーズで、しっかりとロマンティックで、下手にバレエ音楽を否定するようなことはせず、ナチュラルにありのままを響かせて、チャイコフスキーの音楽の見事さをじっくりと抽出する。まさに家元の自信が静かに溢れ出すかのよう... そういうマリインスキー劇場管に対して、ゲルギエフの熱さが絶妙に効いていて、チャイコフスキーの音楽に雄弁さ、鮮烈さを引き出し、バレエ音楽にして、ワーグナーの楽劇や、リヒャルト・シュトラウスの交響詩を思わせる可能性を響かせ、コンサート・ピースとして、ただならぬ聴き応えを示す。しかし、改めて、この全曲盤、3枚組を聴いてみて、思うのだけれど... 手早く、良いとこ取りの組曲もいいけれど、全曲を通して、ずっしりと重みを感じながら聴いて味わう魅力は、まったく違うものだなと、つくづく...

TCHAIKOVSKY ・ THE SLEEPING BEAUTY OP. 66
KIROV ORCHESTRA, ST PETERSBURG・GERGIEV


チャイコフスキー : バレエ 『眠れる森の美女』 Op.66

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

PHILIPS/434 922-2




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