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ブラームス、ロマン主義の青さをそのままに、チェロ・ソナタ。 [before 2005]

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最も人の声に近いと言われる楽器、チェロ... これまで、今一、ピンと来なかったのだけれど、ビルスマが弾く、ベートーヴェンのチェロ・ソナタを聴いて、何となくわかった気がした。改めてチェロの音色と向き合ってみると、一筋縄には行かない複雑さを見出す。普段、何となく「渋い」と感じていた印象も、その渋さがどういうところからやって来るのかを見つめると、チェロの響きの中に漂う、独特のくぐもりが耳に付き... 古雅なサウンドをすきっと放つヴィオラ・ダ・ガンバの響きを思い起こすと、チェロには、安易に美しいだけではない表情が際立ち、そうしたあたりに、人間の性格に似た生々しさを思い起こさせるのか... それは、他の弦楽器には探せない感覚かもしれない。いや、チェロというのは、単にヴァイオリンを大きくしただけではない、不思議な存在感がある。
ということで、ベートーヴェンに続いてのブラームス... でもって、再びのアンナー・ビルスマのチェロ、ランバート・オーキスのピアノで、ブラームスの2つのチェロ・ソナタと、シューマンの民謡風の5つの小品(SONY CLASSICAL/SK 68249)を聴く。

ビルスマが弾くピリオドのチェロの、より癖が際立った響きに触れると、チェロという楽器がどういう楽器なのか、より深く知ることができるような気がする。澄んだひとつの音が繰り出されるのではない、いろいろな雑味も纏った一筋縄には行かない複雑な音色。複雑であるがゆえに、くぐもり、すっきりとした表情は現れ難いのか... けれど、そうして生まれるどんよりとした雰囲気が、ロマン主義の気分にはしっくり来るのか... 始まりの、ブラームスの1番のチェロ・ソナタ(track.1-3)、1楽章の仄暗さは、チェロという楽器の性格を如実に物語る音楽と言えるのかもしれない。ベートーヴェンの最後のチェロ・ソナタが作曲されてから半世紀を経た1865年に完成されたブラームスの1番のチェロ・ソナタ、当然、古典主義は完全に過去のものとなり、堂に入ったロマン主義が繰り出され、ドラマティックかつ、ナイーヴな音楽が紡がれて行く。そして、チェロの複雑な音色が、そのドラマティックさ、ナイーヴさを引き立て、味わい深い表情を刻み込み、ロマン主義の人間臭さ、力み具合を、存分に引き出す。そんな演奏を聴いていると、チェロはロマン主義の楽器だなと強く感じる。古典主義でも、近代主義でもなく、ロマン主義... 改めて、そんな風にチェロを捉えると、音楽の聴こえ方も変わるような気がする。まだ30代前半、若かったブラームスのロマンティックな性格が、見事にチェロという楽器に合致して、自らの世界へ引き籠るようなセンチメンタルさを漂わせて、まさにロマン主義。後の大家、ブラームスとは違う"青さ"のようなものが、何とも、魅力的...
という1番が完成された21年後、1886年、まさに大家となってから生み出された2番のチェロ・ソナタ(track.9-12)は、1番から一転、新古典派としてのブラームスが堂々たる音楽を響かせ、朗らかにして余裕の表情。何より、ブラームスらしい、しっかりと構築された音楽の安定感... チェロとピアノのサウンドががっちりと組み合わされて、スケールの大きい音楽を紡ぎ出す。かと思うと、2楽章(track.10)、アダージョは、まるでジャズを思わせるピチカートで始まり、力が抜けて、これ以上ないくらいにナチュラル!ブラームスの音楽はアカデミックな臭いが強いようで、フォークロワの影響を受けて人懐っこくもあり、時として、思わぬポップなテイストを生み出すことがあるけれど、2番のチェロ・ソナタの2楽章(track.10)は、その典型といえるのかもしれない。ロマン主義にばかり留まることはなかった大家、ブラームスのフレキシビリティが引き起こす、不思議なケミストリー。そのあたりに、19世紀の音楽の懐の大きさのようなものを感じる。いや、実に興味深い2番であって、これもまた魅力的。
で、ブラームスの1番と2番のチェロ・ソナタに挿まれる形で取り上げられる、シューマンの民謡風の5つの小品(track.4-8)が、おもしろい!ブラームスの師、シューマンの、文字通り、フォークロワの影響下に生まれた音楽は、1曲目、「空の空なるかな、すべて空なり。ユーモアをもって」から、民謡風ならではのキャッチーさに惹き込まれる。それは、ちょっとユダヤのメロディーを思わせる、憂いを含んだ表情がツボで、ユーモアをもってというあたりに、アイロニーも感じられ、スパイスを効かせる。さらに、チェロが民俗楽器のような表情を見せ、ちょっと驚かされる。3曲目、速くなく、充分に音を出して、では、中間部を少しルーズな音程で彩る、ビルスマ... よりフォークロワの気分を高めていて、おもしろい!ナポレオン戦争に伴うナショナリズムの高まりによって開花するドイツ・ロマン主義もまた、フォークロワから多大なインスピレーションを受けており、それは国民楽派と捉えてもおかしくはない。そういう音楽を存分に繰り出すビルスマの妙!イマジネーションはより広がる。
しかし、シューマンにしろ、ブラームスにしろ、不思議なくらいに新鮮なイメージを生み出すビルスマの演奏。ピリオド楽器だからか?いや、それだけではない、ビルスマの実直さ... 楽器に全てを預けて、湧き上がって来るものをそのまま音楽として形作って行く。良い意味で力が抜け切った、ナチュラルな演奏なのだと思う。で、おもしろいのは、ナチュラルであればあるほど、楽器の癖が露わとなり、19世紀の音楽の臭いが立ち上って、ワイルドにも仕上がってしまうところ... またそれが、1番の"青さ"、2番の余裕、そして、シューマンの民俗調に巧みに落とし込めていて、それぞれに魅力が引き立ち、より惹き込まれる。で、オーキスが弾く、1892年製のスタインウェイがまた華麗で... チェロの複雑な音色に対し、品の良い華やかさを放つその存在感は、このアルバムには欠かせない。ビルスマを弾き立てながらも、キラキラと輝いている。

BRAHAMS : CELLO SONATAS OP. 38 & OP. 99
SCHUMANN : 5 STUCKE IM VOLKSTON ・ BYLSMA ・ ORKIS

ブラームス : チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 Op.38
シューマン : 民謡風の5つの小品 Op.102
ブラームス : チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 Op.99

アンナー・ビルスマ(チェロ)
ランバート・オーキス(ピアノ : 1891年製、スタインウェイ、「パデレフスキ」)

SONY CLASSICAL/SK 68249




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