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17世紀、殺人!の果てに... 対決!そこに示される、未来。 [before 2005]

駆け込みで、2016年のメモリアルな作曲家を聴いております、今月。生誕100年、デュティユーヒナステラに、没後100年のグラナドス、そこから一気に遡り、没後450年、カベソンと来て、生誕450年みたい?ジェズアルドに、生誕400年かも?ヴェックマン、フローベルガーに注目してみる。さすがに400年も遡ってしまうと、生没年はおぼろげで、若干、覚束ないメモリアルなのだけれど、いやいや、なかなか興味深い面々でして... その殺人によって、スキャンダラスな側面が強調されてしまう南イタリアの名門貴族、ジェズアルド(ca.1566-1613)。同い年だろう、ドイツのヴィルトゥオーゾ2人、チェンバロによる対決を経て、親しい友人になったと言われるヴェックマン(ca.1616-74)とフローベルガー(1616-67)。多少マニアックではあるものの、ルネサンスからバロックへ、イタリアからドイツへ、メモリアルで結んでみたら、おもしろい風景が見えて来た!
ということで、おそらく生誕450年から、生誕400年であろう、作曲家たちを駆け込みで... ピーター・フィリップス率いる、タリス・スコラーズによる、ジェズアルドの聖土曜日のためのレスポンソリウム(Gimell/CDGIM 015)と、グスタフ・レオンハルトの演奏で、ヴェックマンとフローベルガーのチェンバロ作品集(SONY CLASSICAL/SK 62732)の2タイトルを聴く。


殺人!の果てに、革新は熟成され、時代は超越されて行く。ジェズアルド...

CDGIM015
ジェズアルド(1566-1613)というと、殺人鬼!みたいなイメージがあるのだけれど、その詳細は... 1586年に結婚した、勇猛な将軍を輩出したダヴァロス家の出身で、ジェズアルドの従妹でもあるマリアが、教皇も輩出した名門、カラーファ家の一員、アンドリア公、ファブリツィオと不倫関係にあって、それがだんだん大っぴらになって来ると、1590年、その場を押さえての現行犯殺人!いや、もう、ショッキング... けれど、これは、当時のケジメの付け方だったようで、ジェズアルドは、一切、罪に問われていない。罪に問われないものの、ダヴァロス家、カラーファ家からの復讐を恐れて、城に引き籠り、作曲に没頭。殺人が、ジェズアルドの創作を本格化させたとは、凄い話し... そんなジェズアルドの音楽に飛躍をもたらすのが、フェッラーラ公の姪、レオノーラとの再婚(1594)。バロック目前、革新的な音楽が生まれようとしていたルネサンス切ってのパトロネージを誇るフェッラーラの宮廷は、ジェズアルドに大きな刺激を与え、それを持ち帰り、再び城に引き籠って、独自の音楽を熟成して行く。殺人と、その悔恨と、フェッラーラの革新と、経済的な余裕から、音楽シーンの制約を受けない自由を得ての、引き籠りの果てに鬱にも苦しみながら書かれた音楽は、他の作曲家には至れないただならなさがある。
そして、ここで聴くのが、聖土曜日のためのレスポンソリウム(track.1-9)。1611年に出版された聖週間のためのレスポンソリウム集から、最後の聖土曜日のための朝課の音楽は、まず美しい!四旬節の山場を乗り越えての安らぎのようなものを感じ、何だかホっとさせられる音楽。いや、ジェズアルドが如何にして音楽を生み出したかを思うと、その美しいポリフォニーに、救いを見出せる。のだけれど、よくよく聴くと、半音階が滲み出し、美しさの中に、様々な乱反射を見出し、ゾクっとさせられる。ア・カペラによる教会音楽は、一見、ルネサンスそのものに感じられるのだけれど、ジェズアルドが革新的なマドリガーレで培った大胆さが反映されてもいて、ルネサンス・ポリフォニーの均質さは壊れ、壊れてこそ聴く者に迫る音楽を生み出し、印象的。が、それは多声マドリガーレの粋を出ず、バロックには至らないもどかしい状態... いや、このどちらでもない状態が、かえって時代を超越するような表情を浮かび上がらせ、まるで、近現代の北欧の合唱作品を聴くような感覚を味わう。
それを際立たせる、フィリップス+タリス・スコラーズ。完璧なアンサンブルの、恐ろしく澄んだ響きは、ある意味、音楽の、それぞれの時代が持つ癖のようなものを落し切っていて、声そのものが結晶のように残り、キラキラと輝いている。それはもう、宝石を見つめるような感覚。一方で、その輝きの具合に、作曲家の刻んだカットが浮き彫りとなり、ジェズアルドの刻んだカットの特異さに驚かされることになる。洗練を極めて、澄めば澄むほどに、ジェズアルドのただならなさが見えて来るおもしろさ!ジェズアルドも凄いが、フィリップス+タリス・スコラーズも凄い。ジェズアルドの闇を抱えた人生を美に昇華する。

THE TALLIS SCHOLARS GESUALDO: TENEBRAE RESPONSORIES FOR HOLY SATURDAY

ジェズアルド : 聖土曜日のレスポンソリウム
ジェズアルド : モテトゥス 「めでたし、いと優しきマリア」
ジェズアルド : モテトゥス 「つねにけがれなき祝福されしマリアと」
ジェズアルド : モテトゥス 「めでたし、天の女王」
ジェズアルド : モテトゥス 「マリアよ、恩恵の御母よ」

ピーター・フィリップス/タリス・スコラーズ

Gimell/CDGIM 015




対決!そこから示される、ドイツ音楽の道筋。ヴェックマンとフローベルガー...

SK62732
ヴェックマン(1616-74)と、フローベルガー(1616-67)。バッハの登場を準備した、ドイツ・バロックの鍵盤楽器のヴィルトゥオーゾ... ヴェックマンは、ドイツ中部、ニーダードルラの生まれ。牧師でオルガニストだった父から最初の音楽教育を受け、1630年、ドレスデンの聖歌隊に入り、宮廷楽長、シュッツからは、イタリア仕込みの最新の音楽を学ぶ。さらに、1633年には、当代随一と謳われたオルガンの巨匠、スウェーリンクの弟子たちが活躍していたハンブルクに出て、オルガニストとしての修行を積むと、1637年、ドレスデンのザクセン選帝侯の礼拝堂のオルガニストとなる。そして、主君、ザクセン選帝侯によりセッティングされたのが、フローベルガーとの対バン。いや、対バロ?チェンバロ対決!その相手、フローベルガーは、ヴュルテンベルク公のカペルマイスターを務めることになる父の下、シュトゥットガルトに生まれ、恵まれた音楽環境の中で育ち、10代の終わりにはウィーンへと移り、ハプスブルク家の宮廷でオルガニストとして活躍し始める。その後、1640年代の初め、皇帝、フェルディナント3世の支援でローマ留学が叶い、ローマの最新の音楽を吸収し、再び、ウィーンで活躍。そうした中、三十年戦争(1618-48)が終結した後、1649年、もしくはその翌年に、皇帝の親書を携え、ヴェックマンがいるドレスデンの宮廷を訪ねることに... いや、何と贅沢な対決!そして、それを再現するレオンハルトの妙!
最初にヴェックマン(track.1-7)が取り上げられ、その後にフローベルガー(track.8-12)が続くのだけれど、それぞれに個性が引き立って、実に興味深い!時に大胆で、センチメンタルで、華麗なサウンドが印象的なヴェックマンに対し、じっくりと対位法を繰り出して、手堅くも雅やかな音楽を聴かせるフローベルガー。この2人の個性を、ドレスデンとウィーンのスタイルの違いと見ると、その後の豪奢なドレスデンのバロック、端正で品の良いウィーン古典派を予感させて、おもしろい。それでいて、盛期バロックを前に、思いの外、堂々たる音楽が響き渡り、聴き入ってしまう。三十年戦争の惨禍により、文化的に大きく後れを取ってしまうドイツだけれど、ヴェックマンとフローベルガーの音楽からは、すでに骨太のドイツ音楽の精神が感じられ... また、ヴェックマンの表情の豊かさは、若い頃のバッハを思わせ、より構築的に感じられるフローベルガーのサウンドは、バッハそのものへとつながって行くようで、ドイツ音楽の道筋が浮かび上がる。だからこその確かな聴き応えが印象的。
という、バッハ以前のドイツ音楽の充実を、見事に鳴らして来る、巨匠、レオンハルト。ま、今さらなのだけれど、その確かなタッチから繰り出される圧倒的な様に平伏したくなる。まさに平伏す感じ... これが本物の巨匠のあり様なのだろうなァ。ありのままを、ひたすらに実直に響かせて到達する、揺ぎ無い音楽像。一音一音が確固として響き、チェンバロという楽器のイメージを越えた重量感で、聴く者に迫って来る。それは、感動というより、感無量。他では体験できないものかもしれない。

WECKMAN ・ FROBERGER: WORKS FOR HARPSICHORD
GUSTAV LEONHARDT


ヴェックマン : 組曲 ロ短調
ヴェックマン : トッカータ ホ短調
ヴェックマン : トッカータ イ短調
ヴェックマン : 組曲 ニ短調
ヴェックマン : 組曲 ハ短調
ヴェックマン : カンツォン ハ長調
ヴェックマン : トッカータ ニ短調
フローベルガー : ブランシュロシュ氏の死に寄せるトンボー
フローベルガー : カプリッチョ ハ長調
フローベルガー : リチェルカーレ ニ短調
フローベルガー : 組曲 イ長調

グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)

SONY CLASSICAL/SK 62732



参考資料。




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