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1707年のローマと、1734年のローマ、伝統から新時代へ... [2008]

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さて、冬至です。一年で、昼間の時間が最も短い日。そして、明日から少しずつ陽の入りが伸びて行き... それは、すぐに気付くようなものではないけれど、ここが春への起点だと思うと、何かほっとさせられるものがあります。これが、電気などなかった時代の人にとっては、敏感に感じられるものだったのだろうな... 現代人にとってのカレンダーは、どこか無機質に数字が並び、その数字に追い立てられるような感覚があるけれど、昔の人の暦には、天体の動き、季節のうつろいが事細かに落し込まれ、まるで自然のガイド・ブックのよう。で、冬至が過ぎると、クリスマス!イエスの降誕を祝う祭日は、キリスト教以前のヨーロッパの冬至の祭りがベースだったと言われ、イエスの誕生は、春の始まりに重ねられたわけだ。そんな風にクリスマスを見つめると、また印象が変わる気がする。今でこそ、華やかなイルミネーションに飾られているけれど、クリスマス本来の光は、春へと向けてのわずかに伸びた陽の光なのかもしれない... なんてことを考えながら、春っぽい音楽を聴いてみる。
華々しいナポリ楽派による、ローマのために書かれたミサ... リナルド・アレッサンドリーニ率いる、コンチェルト・イタリアーノの歌と演奏で、ペルゴレージの聖エミディオのミサとアレッサンドロ・スカルラッティのクリスマスのためのミサ(naïve/OP 30461)を聴く。

まずは、クリスマス間近ということで、アレッサンドロ・スカルラッティのクリスマスのためのミサ(track.13-17)から... そのクリスマスは1707年、アレッサンドロ・スカルラッティが楽長を務めていた、ローマ、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂におけるもので、クリスマスのハッピー感に包まれ、ふわっと春の匂いが漂い出すような、耳にやわらかな音楽。忙しない師走を、ひと時、忘れさせてくれる、そのふわっとしたやわらかさは、アレッサンドロ・スカルラッティの旧世代的な感性が大きい。コーリ・スペッツァーティ(分割合唱)を用いているものの、それが強調されることはなく、バロックならではの音楽が繰り広げられるように感じられるのだけれど、響きの端々にローマの伝統、パレストリーナ様式を継承するものを感じ、その古雅なあたりが、得も言えずやわらかな音楽を実現する。このトーンがローマの音楽志向だったか?バロックであることは間違いないのだけれど、そこはかとなしにルネサンスが息衝いていて、それが音楽をより芳しいものとしている。何より、バロックっぽくドラマティックに煽って来ないあたりが、クリスマスのハッピー感をより際立たせて、明るい喜びでキラキラと輝かせるよう。
そこから、ペルゴレージの聖エミディオのミサ(track.1-12)を聴くのだけれど... 1734年、ローマ、聖ロレンツォ・イン・ルチーナ教会で歌われたミサは、大変な評判を呼び、教会の床がたわむほど、ローマっ子たちを集めたのだとか... というのも、ペルゴレージのミサは、それまでのローマでのミサとは違い、ナポリのスタイルを用いたもので、その目新しさがセンセーションを巻き起こしたらしい。いや、アレッサンドロ・スカルラッティのアルカイックなクリスマスのためのミサ(track.13-17)からすると、明らかに前進した音楽を響かせていて、ローマっ子たちが沸いたのも納得。ソプラノとアルトの二重唱で歌われる、ドミヌス・デウス(track.7)は、ペルゴレージの後の傑作、スターバト・マーテルを思わせる艶やかさを見せ、ナポリ楽派ならではの流麗さに聴き入ってしまう。それから、ソプラノのソロで歌われるクオニアム・トゥ・ソルス・サンクトゥス(track.11)では、華麗なコロラトゥーラが決まり、まるでオペラ・セリアのアリアのようで痺れる... かと思うと、最後のクム・サンクト・スピリト(track.12)では、一転、ミサらしく壮麗なフーガが織り成され... いや、これが軽やかで、カラフルで、ワクワクさせられる!
アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)とペルゴレージ(1710-36)は、同じナポリ楽派として捉えられるわけだけれど、両者には世代的に半世紀もの開きがあり... となると、聴こえて来る印象は大きく異なる。ローマの初期バロックの巨匠、カリッシミに学んだと考えられているアレッサンドロ・スカルラッティの音楽は、ルネサンスの色合いが残るアルカイックなもので、ペルゴレージの音楽では、ナポリ楽派のスタイルは確立されていて、それがまたモーツァルトを予感させる明朗さを響かせて、ナポリ楽派の先進性を示す。18世紀前半、盛期バロックの時代にあって、バロックでも古風なアレッサンドロ・スカルラッティに対し、ポスト・バロックの道筋を示すようなペルゴレージの姿がとても興味深く感じられる。どちらも魅力的だけれど、ローマ流ミサとナポリ流ミサの対峙は、実は刺激的なのかも... そして、ペルゴレージに沸いたローマっ子たちの目敏さに、感心する。
という2つのミサを取り上げた、アレッサンドリーニ+コンチェルト・イタリアーノ。何より印象に残るのは、各パートひとりずつのOVPP(one voice per part)を用いたコーラス!ひとりひとりの個性が活きて、普段のコーラスでは味わえない温もりのあるハーモニーを実現しており、そのほのぼのとした雰囲気は、大聖堂の重苦しさのようなものを吹き飛ばし、軽やかに、春のそよ風のように紡がれて行く。それが、たまらなく心地良い!そんなコーラスの雰囲気にそっと寄り添うオーケストラの明るくも楚々とした演奏もすばらしく、何かこう、いい具合に脱力していて、絶妙。そうして活きて来る2人の作曲家のトーン... それぞれの違いを卒なく繰り出しながらも、ローマのナポリ人が放つ輝きを巧みに引き立てて、見事。

PERGOLESI | SCARLATTI Messe Concerto Italiano Rinaldo Alessandrini

ペルゴレージ : 聖エミディオのためのミサ
アレッサンドロ・スカルラッティ : クリスマスのためのミサ

リッカルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ

naïve/OP 30461




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