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生誕100年、ヒナステラ、その南米のスケール感、空気感... [before 2005]

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さて、前回に続いて、2016年のメモリアルな作曲家を掛け込みで取り上げる。で、生誕100年のデュティユーに続いての、もうひとりの生誕100年、ヒナステラ!いや、デュティユーと同い年?!漠然とだけれど、ヒナステラ(1916-83)には近代音楽のイメージがあって、デュティユー(1916-2013)には現代音楽のイメージがある。だからか、2人が同い年であることに、驚いてしまった。しかし、ヒナステラ、デュティユー世代を、改めて見渡すと、より驚かされることになる。イタリア音楽の伝統をスクリーン上で守った、ニーノ・ロータ(1911-79)、偶然性の魔法使い、戦後「前衛」のキーマン、ジョン・ケージ (1912-92)、自動演奏ピアノの穴開け職人、鬼才、ナンカロウ (1912-97)、東欧切ってのモダニスト、ルトスワフスキ (1913-94)、モダニズムの対岸で、独自の音楽を世界を築いたブリテン (1913-76)、交響曲からミュージカルまで、何でも器用に生み出した、バーンスタイン (1918-90)。いや、近代と現代の感性が混在する、興味深い世代... 恐るべき世代...
で、ヒナステラに話しを戻しまして、ヒナステラのスペシャリスト、ウルグアイ出身のマエストラ、ジゼル・ベン・ドールの指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、ヒナステラの代表作、バレエ『エスタンシア』と、バレエ『パナンビ』(CONIFER CLASSICS/75605 51336 2)で聴く。

アルベルト・ヒナステラ(1916-83)。
ヨーロッパからの移民を両親に、アルゼンチン、ブエノスアイレスで生まれたヒナステラ。幼くして音楽の才能の見せ、12歳で地元のウィリアムス音楽院に入学。ピアノや作曲を学び、優秀な成績を修めると、そこから国立音楽院(1936-38)へと進み、入学の年、1936年に作曲されたのが、バレエ『パナンビ』(track.1-17)。翌年に、テアトロ・コロン(ブエノスアイレスの音楽の殿堂、1908年に開場された豪奢なオペラハウス... )で、組曲版が初演されると、21歳の若き作曲家は、一躍、アルゼンチン楽壇の期待の星に!1940年、バレエとして全曲が上演されると、その音楽は、ニューヨークのバレエ界を牽引していた舞踏評論家、カースティンの耳にも届き、カースティンが率いているアメリカン・バレエ・キャラヴァン(現在のニューヨーク・シティ・バレエの前身... )から、南米ツアーで上演するための、アルゼンチンを舞台としたバレエの委嘱を受ける。そうして誕生するのが、代表作、バレエ『エスタンシア』(track.18-29)!1943年に、組曲版がテアトロ・コロンで初演、アルゼンチンらしさを盛り込んだ音楽は評判を呼び、ヒナステラは、27歳にしてアルゼンチンを代表する作曲家に上り詰める。
で、まずは、Op.1の番号(それ以前にも多くの作品を書いていたが、習作として破棄されている... )を付された、ヒナステラの出発点、『パナンビ』(track.1-17)から聴くのだけれど... 南米大陸の中央部、ボリビア、パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン北部に跨り、古い文化を育んで来たグアラニー族の神話を基に書かれたバレエ(『パナンビ』は、グアラニー語で「蝶」の意味。人間の生まれ変わり、精霊としての蝶とのこと... )は、ミステリアスでファンタジック!始まりの「パラナ川の上の月の光」は、ヒナステラ版の「月の光」だろうか、ドビュッシーのような瑞々しさが広がり、のっけから大いに魅了される。続く、「インディオの祭り」(track.2)では、ネイティヴ・アメリカンの音楽のプリミティヴさを巧みに取り入れ、それが絶妙にモダニスティックに昇華されていて、ストラヴィンスキーの『火の鳥』(1910)との近さも感じる。「魔術師の出現」(track.10)では、『春の祭典』を思わせるところも。さらに、踏み込んで、「魔術師たちの踊り」(track.13)では、脱ヨーロッパの様相を呈し、レブエルタスに通じるようなプリミティヴさを聴かせ、南米の独自性をも模索する。一転、フィナーレ(track.17)では、『火の鳥』の感動的なフィナーレに重なる壮大さとロマンティックさが流れ出し、魅了されずにいられない。いや、改めて聴いてみると、『エスタンシア』(track.18-29)より、すばらしいんでない?見事にヨーロッパの潮流を自らのものとし、アルゼンチン切っての秀才っぷりを見せつけつつ、独自性をも響かせる。恐るべき二十歳、恐るべきOp.1。
そして、『パナンビ』の完成から5年、1941年に作曲された『エスタンシア』(track.18-29)を聴くのだけれど、そこには、よりこなれた音楽と、深化したモダニズムがあって、若きヒナステラの作曲家として成長が眩しい!という『エスタンシア』は、アルゼンチンの草原、パンパで活躍するアルゼンチン版カウボーイ、ガウチョを描くバレエ... パンパの広大さを見事にオーケストラに落とし込み、ヨーロッパにはないスケール感と、草原地帯のどこか乾いた空気感を響かせる。で、全曲版だからこそ、それらがしっかりと味わえる。躍動的なフィナーレ、「マランボ」(track.29)のインパクトに負けない、アルゼンチンの壮大さ、哀愁を籠めたナンバーの味わい深さ!その味わい深さを、一層、引き立てるのが、語りと歌... 組曲版では知ることの無かった語りと歌の存在は、とても新鮮で、特に、第3場、「午後、パンパの悲しみ」(track.24)の歌では、ラテンの哀切がヴィヴィットに広がり、聴き入るばかり。キャッチーに、モダニスティックにリズムが弾けるところと、スペイン語によるリリカルな語りと歌の対比が絶妙な全曲版。この魅力を知ってしまうと、組曲版がちょっと安直に感じられてしまうのかも...
という、『パナンビ』、『エスタンシア』を、全曲版で取り上げるベン・ドール、ロンドン響。『エスタンシア』の全曲版は、この録音が初録音ということで、とても新鮮だったことを覚えているのだけれど、その新鮮さは、今を以ってしても失われていない。ヒナステラのスペシャリスト、ベン・ドールならではの丁寧な音楽作りは、ヒナステラの音符の全てをしっかりとすくい上げ、クリアに響かせつつ、若きヒナステラの勢いも、きちんと表現して来る。そんなマエストラに応えるロンドン響のプロフェッショナルな明晰さ!このオーケストラならではの手堅さと洗練が、ヒナステラをすっきりと鳴らし、見事。だからこそ、ヒナステラのおもしろさがよくわかる!「マランボ」(track.29)ばかりじゃない、ヒナステラの魅力を再確認させられる。

GINASTERA ・ Panambí ・ Estancia

ヒナステラ : バレエ 『パナンビ』 Op.1
ヒナステラ : バレエ 『エスタンシア』 Op.8 *

ジゼル・ベン・ドール/ロンドン交響楽団
ルイス・ガエタ(バリトン) *

CONIFER CLASSICS/75605 51336 2




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