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生誕100年、デュティユー、近代を変容させて、現代へ... [before 2005]

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2016年も、残すところ一ヶ月を切りました。ということで、2016年のメモリアルな作曲家をざっとおさらい。で、どんな作曲家がいたかと言うと、生誕150年、サティ、それから、ブゾーニ、そして、没後100年、レーガー... このあたりが、2016年のメモリアルの顔だったかなと... 個人的には、没後150年、カリヴォダ、没後200年、パイジェッロ、生誕350年、ルベルなんかにスポットがあたるといいなと思っていたのだけれど、なかなかね... という2016年のメモリアル、派手なビッグネームこそないものの、個性派や、マニアックな面々が揃っていて、こういう年こそ、クラシックの視野を押し広げる良い機会だったはず... ま、なかなか難しいのが現実だけどね... なんて小言はさて置きまして、まだ拾い切れていなかった今年のメモリアルな作曲家を取り上げる。
ということで、生誕100年、デュティユー!ユッカ・ペッカ・サラステが率いたトロント交響楽団の演奏で、デュティユーの2番の交響曲、「ル・ドゥーブル」に、代表作、メタボール、ゴッホにインスパイアされた「時間、空間、運動」(FINLANDIA/3984-25324-2)を聴く。

アンリ・デュティユー(1916-2013)。
パリで『春の祭典』(1913)が騒動を巻き起こしてから3年、第一次大戦真っ只中の1916年、フランス西部、アンジェに生まれたデュティユー。早くから、北フランスの名門、ドゥエ地方音楽院で学び、1933年、17歳でパリ、コンセルヴァトワールへ。フランス楽壇のエリート・コースを着実に進み、1938年、卒業の年には、ローマ賞を受賞。ローマ留学を果たすのだったが、すでにヨーロッパはファシズムに覆われ、1940年、第2次大戦の開戦にともない、デュティユーは、帰国を余儀なくされる。間もなく、フランスは、あっさりと降伏。デュティユーのキャリアは、ナチス・ドイツの占領下に始まる。パリ、オペラ座の合唱指揮者を経て、フランス国営放送の指揮者に... 戦後は、ディレクターとして番組制作に携わりながら作曲も続け、やがて、エコール・ノルマル・ド・ミュジック(1961- )、コンセルヴァトワール(1970- )の作曲の教授となり、フランス楽壇の重鎮として存在感を示して行く。のだが、その音楽は戦後「前衛」の時代にあって、独特... メシアン(1908-92)の8つ下で、ブーレーズ(1925-2016)の9つ上、となると、もうバリバリの"ゲンダイオンガク"かと思うのだけれど、思いの外、フランスの伝統を受け継ぎ、独自に発展させ、革新性に溺れることなく、フランスらしい色彩感、繊細で流麗な響きを大切に、美しい音楽を紡ぎ出す。というデュティユーの代表作を綺麗に1枚にまとめたサラステによるアルバムを聴くのだけれど...
1曲目、1959年、ボストン響の創立75周年のための作品、アメリカで初演された2番の交響曲、「ル・ドゥーブル」(track.1-3)。ドゥーブル、つまりダブル、二重という副題を持つ交響曲は、オーケストラとアンサンブルの二重構造を持ち、20世紀版、合奏協奏曲といったところ。で、その始まり、ドビュッシーからそう距離を感じない夜想曲のような静けさの中に、アンサンブルが動きや表情を与え、合奏協奏曲風交響楽が息衝き始める。すると、やはり合奏協奏曲的な性格を持ったバルトークの弦楽のための協奏曲や、弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽を思わせる先鋭的になり過ぎないモダニズムが心地良く繰り出され、大いに魅了される。が、1950年代、ブーレーズが総音列音楽で息巻いていたことを思うと、それは、ちょっと古風?いや、古風が生む上質さは、尖がった「前衛」では味わえないものでもあって... そういう革新とは一線を画す洗練に、デュティユーのエリート街道を淡々と歩んで来た育ちの良さのようなものを強く感じ、またそこに、この作曲家の独特さを見出す。
続く、2曲目は、デュティユーの代表作、メタボール(track.4-8)。この作品は、1965年、クリーヴランド管の40周年のために委嘱作... 2番の交響曲もそうだけれど、アメリカでのデュティユーの信任の厚さが、とても興味深い。裏を返せば、それだけ手堅かったと言えるのかも... そんなデュティユーも、1960年代になると音列音楽なども取り入れ、その音楽は変化の兆しを見せるのか、メタボールにも"ゲンダイオンガク"を感じさせる部分が現れる。が、ブーレーズのように聴き手を突き離すようなことはしない。アメリカ向けの作品ということもあって、ジャズをも盛り込み、これまでの上質さにスタイリッシュさも加わったその音楽は、代表作というだけに、様々な魅力で綾なされ、薫り立つよう。そして、3曲目、「時間、空間、運動」(track.9-11)は、ゴッホの代表作のひとつ『星月夜』にインスパイアされた作品。夜空に星の光がグルグルしてしまう、ファンタジックだけれど、不気味なあの画面が音楽で表現されるのだけれど、印象主義を受け継ぐデュティユーならではの色彩感が、ゴッホのヴィヴィットさを見事に捉え、さらには、天体の壮大な動きを表現するようなスペイシーさも醸し出され、惹き込まれる。
そんなデュティユーを、ヴィヴィットに響かせるサラステ!このマエストロならではのカラフルさが、デュティユーのフランス音楽としての魅力をより輝かせるようで、絶妙。また、1998年の録音ということで、サラステが若かった!その若々しい感性が、トロント響のクリアなサウンドを繰って、明晰でありながら、活き活きと音楽を展開、デュティユーの独特さ、上質さを、躍動させる。そこには、20世紀、フランス楽壇の重鎮に対して、遠慮の無い姿勢も感じられ、フィンランドの俊英、カナダのオーケストラという、フランスから離れた距離感が、ニュートラルなサウンドを生み出し、より瑞々しい音楽へと至っている。

HENRI DUTILLEUX: ORCHESTRAL WORKS
TORONTO SYMPHONY / JUKKA-PEKKA SARASTE

デュティユー : 交響曲 第2番 「ル・ドゥーブル」
デュティユー : メタボール
デュティユー : 時間、空間、運動(あるいは、『星月夜』)

ユッカ・ペッカ・サラステ/トロント交響楽団

FINLANDIA/3984-25324-2




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