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ロマン主義の結実、交響詩。ヴァイマル、リストの試み... [2012]

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クラシックの顔とも言える、多くの交響曲の名作を生み出した19世紀は、「交響曲」の世紀に思えて来る。が、19世紀、ロマン主義の時代の性格を考えると、絶対音楽を追求した「交響曲」とは相容れないところもあり、もどかしい。そのもどかしさを呑み込んで、大胆に、ロマン主義と「交響曲」を結んだのが、ベルリオーズの幻想交響曲。物語を孕み、表題を持つ交響曲は、絶対音楽の概念を突破した交響曲として、もはや存在そのものがロマンティックなのかもしれない。そして、標題交響曲から、さらに踏み込んだのが、「交響詩」... シンフォニックでありながら、交響曲のような形に囚われることなく、自由に音楽を展開する。まさにロマン主義に合致した交響楽の在り方... というより、19世紀、ロマン主義の時代を象徴する形と言えるのではないだろうか?
ということで、「交響詩」を生み出したリストに注目!マルティン・ハーゼルベック率いる、ピリオド・オーケストラ、ウィーン・アカデミー管弦楽団による、初めて「交響詩」という言葉が用いられた作品、リストの交響詩「タッソ、悲哀と勝利」(NCA/NCA 60260)を聴く。

1848年、かつてゲーテが宰相を務めた街、ヴァイマルの宮廷楽長となったリスト(1811-86)。華麗なるヴィルトゥオーゾ・ピアニストとしての活動をひとまず終えて、オーケストラのシェフを務めながら、作曲家として成長を模索したヴァイマル時代(1848-61)、辿り着いた形が「交響詩」だった。ロマン派の作曲家らしく、文学に心酔し、すでに『巡礼の年』において、ピアノ作品に文学を落とし込み、ヴィルトゥオージティから、より芸術性を重視した作品を生み出していたリストだったが、ヴァイマル時代、満を持して、それをオーケストラで試みることに... そうして誕生したのが、ここで聴く、初めて「交響詩」という言葉が用いられた「タッソ、悲哀と勝利」(track.1)。1849年、ゲーテの生誕100年祭で上演された、ゲーテの戯曲『タッソ』の序曲として作曲された音楽に改訂を加え、1854年、「交響詩」として披露されるに至る。で、まさに、交響的な"詩"!ルネサンス末の詩人、タッソ(バロック・オペラの定番、『解放されたイェルサレム』の作者... )の人生を題材にしているのも、象徴的。で、その人生なのだけれど... 悲哀(詩才が認められるも、不運が重なり精神を病み、失意の内に死を迎える... )から、勝利(その死後、作品は称賛され、ダンテと並び称されるまでに!)へ、という、まさにロマン主義的な展開が、ドはまり。見事に悲哀を描き出す前半の沈鬱な音楽から、リストならではのヒロイックな音楽によって輝く勝利!文学的な深みと、ロマン主義的なわかり易さが絶妙に共鳴し、リストらしい芝居掛かった劇画調の展開がツボ。それは、序曲とは明らかに異なり、表題交響曲とは一線を画すキャッチーさがあって、「交響詩」とは何たるかを、一発で解らせてくれるよう。何より、詩人のドラマティックな人生を描き出す交響詩というのは、ロマン主義の結晶とすら思えて来る。
という「タッソ、悲哀と勝利」(track.1)に続いて、そのテーマを引き継いだ、3つの葬送的頌歌、第3曲、「タッソ、勝利の葬送」(track.2)が取り上げられて、リストにおける『タッソ』が完結する。悲哀―勝利―葬送と並べることで、「交響詩」のスケールを越え、標題交響曲に迫る姿を見せてくれるハーゼルベック。その後で、標題交響曲になり損ねた「英雄の嘆き」(track.3)を取り上げるあたり、地味にセンスを感じてしまう、このアルバム... 完成すれば、革命交響曲の1楽章となっていた「英雄の嘆き」(track.3)。19世紀、ロマン主義の時代は、革命の時代でもあって、1830年の七月革命、1848年の二月革命と、パリから起こった革命はヨーロッパ中を揺さぶるも、挫折の連続... そうした時代の閉塞感を、巧みに描き出すリスト。何か、軍隊に鎮圧されたバリケードの、硝煙が煙るような情景を描き出す音楽は、映画音楽を先取りするようで、印象的。その後、「理想」(track.4)では、タイトルの通り、沈鬱な気分を脱し、光が差して、救われる... けれど、どこか物悲しい... 革命で命を落とした若者たちが天国で目覚めるような、そんな雰囲気に包まれて、ロマン主義という大河ドラマの果てを見せられるようで、沁みる。通底する哀しみの中に、時折、夢見るように浮かぶ勝利や、喜び... そんな1枚に仕上げて来るハーゼルベックの妙!リストの13曲ある交響詩を、ピリオドで挑むという挑戦的なシリーズ、全5タイトルの4つ目で、特に地味な作品が集まってしまったアルバムだけれど、きちんとリストの魅力をすくい上げ、取り上げられる4つの作品には、ひとつのドラマのような流れを生み出し、またそこにロマン主義の切なさが引き立ち、惹き込まれる。
そして、ハーゼルベック率いる、ウィーン・アカデミー管が、すばらしい!ノン・ヴィブラートの研ぎ澄まされたサウンドが、リストの音楽を捉えると、まるで霧が晴れたように、音楽そのものが浮かび上がって来て、吸い込まれそう... 良くも悪くもハッタリで聴かせるようなところもあるリストの交響詩と、真摯に向き合って生まれる感覚の新鮮さに驚かされる。それでいて、ピリオドならではの繊細な響きが、思い掛けず、リストのサウンドに色彩をもたらし、仄暗い中にも、様々な表情を見出せて、魅了される。ピリオドだからこその響かせ方に感心しつつ、ピリオドだからと言って、まったく聴き劣りすることなく、モダンの向こうを張って、堂々たるドラマを聴かせてくれることに、嬉しくなってしまう。何より、ロマン主義が活きて来る!ピリオドなればこそ、と言ってしまえば、そうなのだけれど、それだけに留まらない、時代の空気感、臭いのようなものが、生々しく、得も言えない臨場感を伴って迫って来て、リアル!この感覚はちょっと他では味わえないかも...

Liszt: Tasso / The Sound of Weimar Vol. 4

リスト : 交響詩 「タッソ、悲哀と勝利」
リスト : 3つの葬送的頌歌 第3曲 「タッソ、勝利の葬送」
リスト : 交響詩 「英雄の嘆き」
リスト : 交響詩 「理想」

マルティン・ハーゼルベック/ウィーン・アカデミー管弦楽団

NCA/NCA 60260




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