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ロマン主義の妖精、ジゼルは、ポップ!で、現代的? [before 2005]

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「ロマン主義」とは何だろう?そんな今さらながらの問いを立て、19世紀、ロマン主義の時代を巡っている今月... 歌曲からロマン主義を見つめ、ロマン派に最も人気なファウストに注目し、ロマン主義の時代のアイコン、ワーグナーの魅力に迫り、改めて考えた「ロマン主義」は、当然ながら一筋縄には行かない。が、その縄を何とか解いてみるならば... まず、文学の影響が大きい。そして、フォークロアの再発見。さらに、自然の再発見。勢い余って、超自然へと飛躍... それを可能とするのが、感情の解放... というあたりが、大雑把な「ロマン主義」の構成要素かなと... で、そこから浮かび上がるのは、革命の時代の気分を反映した、アンシャン・レジーム=古典主義への反抗。つまり、カウンター・カルチャーだったりする。どうしても、ロマン派の音楽というのは、クラシックの核たるレパートリーだけに、クラシカルなイメージがあるのだけれど、「ロマン主義」の実態は刺激的?
ということで、典型的な「ロマン主義」を聴いてみようかなと... マイケル・ティルソン・トーマスが率いたロンドン交響楽団の演奏で、アダンのバレエ『ジゼル』(SONY CLASSICAL/SK 42450)。やっぱり、「ロマン主義」に、ロマンティック・バレエは欠かせない。

ルネサンス末、イタリアからバレッティ=バレを輸入して以来、バレエ愛を貫いた国、フランス。その中心、パリで、1830年前後に誕生した新しいバレエの形がロマンティック・バレエ... フランス革命(1789)、第一帝政(1804-14)を経て、復古王政(1814-30)の反動の中、18世紀の伝統に縛られ、輝きを失いつつあったバレエ・シーンに、伝説のプリマ、マリー・タリオーニ(1804-84)が登場。チュチュを纏い、つま先立ち=ポワントを用い、エアリーに踊ったマリーは、1832年、『ラ・シルフィード』で、ロマンティックに空気の精を演じ、一世を風靡。そんなマリーの姿は、まさに現在の典型的なバレエのイメージなのだけれど、その典型を打ち立てたのが、ロマンティック・バレエだったわけだ。そして、ここで聴く、『ジゼル』は、1841年、パリ、オペラ座で初演されたロマンティック・バレエの頂点を成す作品。ハイネによる民話集を読んだ、フランス、ロマン主義の詩人、ゴーティエが、妖精ウィリ(後にプッチーニがオペラ化した... )の物語にインスパイアされ、台本を書いた『ジゼル』。そこには、「ロマン主義」の要素が見事に揃っている。東欧の田舎(フォークロア)を舞台に、村娘、ジゼルが、今生では得られなかった愛を求め、妖精(超自然)となり、夜の森(自然)で恋人に再会するも、ふたりの隔たりはもはや越えることのできないもの... ジゼルは朝日が昇る中、恋人を残し、消えて行く... いやもう、「ロマン主義」、100点満点!
という台本に音楽を書いたのが、アダン(1803-56)。コンセルヴァトワールで学び、劇場でキャリアを積み、多くのオペラ、バレエを残した、19世紀前半における典型的なフランスの作曲家。で、クリスマス・キャロル、"O Holy Night"を作曲したことでも知られる... って、あれがアダンの作品だと気付いている人、少ないよな... でもって、その代表作は、やっぱり『ジゼル』!なのだけれど、バレエのレパートリーとしては定番でも、クラシックのレパートリーとしては、ほとんど顧みられないのが現実... じゃあ、つまらないのか?いや、これまた、「ロマン主義」、100点な音楽でして、のっけから聴く者の心を鷲掴みにするエモーショナルな序奏に始まり、表情豊かにシーンが展開され... そこには、東欧の田舎の風情を魅力的に描き出す民俗調のリズムやメロディーがあちこちから聴こえて来て、キャッチー!1幕の全員のギャロップ(track.12)には、中東欧の国民楽派を予感させるテイストも... そして、バレエ音楽ならではの、キャラクターや場面に特徴付けられたメロディーが、全編でライトモティーフのように機能し、ロマンティック・バレエの革新であった物語性をしっかりと強めているのが、印象的。
というあたりに注目すると、ワーグナーは、ロマンティック・バレエから某かのヒントを得たていた?1幕のジゼルの踊り(track.11)の序奏に、タンホイザー行進曲のフレーズが聴こえるような気もするのだよね... 空耳?どちらにしろ、『ジゼル』を丁寧に聴いてみると、興味深く、思いの外、刺激的。一方で、ロマンティック・バレエならではの物語性の重視が、その音楽に映画音楽を思わせる感覚を生み出していて、おもしろい。特に、妖精となったジゼルを描く2幕は、往年のディズニー映画のようなテイストを感じなくもなく、ポップ。ウェーバーのような人懐っこさを聴かせながら、絶妙にライトで、そのあたりにフランスっぽさが感じられ、メロドラマの伝統も見出せる。そして、これが、1840年代のパリのリアルなロマン主義なのだろう。で、妖精さんたちがフワフワするポップさは、実は現代的?それでいて、ロマンティック・バレエの時代、七月王政(1830-48)のブルジョワジー政権の空気感が、どうも今の空気感に重なる?で、「フワフワ」を生んだ時代の軽佻さが、刺激的にも思える。
そんな『ジゼル』を強調するのが、マイケル・ティルソン・トーマス(以後、MTT... )、ロンドン響の演奏... なかなか顧みられない音楽を、シンフォニー・オーケストラが、堂々、取り上げる、気持ちの良さ!バレエ音楽ですが何か?くらいの、真摯な向き合い方がクール!で、MTTならではのポップさというか、アメリカンなライトさが、ロマンティック・バレエをより瑞々しく、カラフルに音楽にするようで、素敵。踊り無しの『ジゼル』が、まるで絵本を読み進めるようなファンタジーを創り出していて、惹き込まれる。そして、どんな作品にだって、シャープに、クリアに、手堅く聴かせるロンドン響のプロフェッショナル。全てが丁寧で、それでいて卒なく物語を展開し、ロマンティック・バレエの世界を鮮やかに響かせる。こういう演奏で、『ジゼル』を聴くと、バレエであることを忘れてしまいそう... それでいて、ロマン主義の時代のリアルが迫って来る。

Adam: Giselle London Symphony Orchestra & Michael Tilson Thomas

アダン : バレエ 『ジゼル』

マイケル・ティルソン・トーマス/ロンドン交響楽団

SONY CLASSICAL/SK 42450




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