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主よ、絶えざる光にて彼らを照らしたまえ。 [before 2005]

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一昨日、終戦の日があって、昨日はお盆の送り火... こどもたちは夏休みで、太陽が燦然と輝く夏真っ盛りにして、8月は弔いの月でもあるという二重性。輝かしさに哀しみが潜む、一筋縄には行かない8月... 改めて、この相反する2つの感情が寄り添う情景を見つめると、不思議と愛おしさを感じる。歴史も、人生も、輝きと哀しみで織り成されている... 当たり前のことなのだけれど、8月は、それをより強調するのか、輝きも哀しみも呑み込んで、より深い感慨を促すよう。何気ない我々の日常も、それまでの長い歴史の上にある。この夏、第1次大戦から第2次大戦に掛けての音楽の諸相を追って来たからだろうか、そんなことを、いつもより意識させられるのかもしれない。そして、輝かしくも哀しき8月に、静かな祈りを捧げるような音楽を聴いてみようかなと...
フリーダー・ベルニウスが率いる、シュトゥットガルト室内合唱団のコーラスで、リゲティ、ドメニコ・スカルラッティ、ボイド、マーラーと、バロックから現代まで、死者を優しく送り出す美しい合唱曲を並べた1枚、"Lux aeterna"(Carus/83.208)を聴く。

ルクス・エテルナ... 主よ、彼らを永遠の光でお照らしください。
レクイエムの聖体拝領唱をタイトルにした"Lux aeterna"は、リゲティの代表作、ルクス・エテルナで始まる。そして、始まりからただならない... リゲティならではのマイクロ・ポリフォニーの異様さを、驚くべき精緻さでもって、澄んだものとしてしまうベルニウス+シュトゥットガル室内合唱団。捉え所のない、次々とうつろいゆく美しいハーモニーは、まるで揺らめく虹のよう。それは、音楽というよりは、光彩?いや、まさに永遠の光... 音でしかないはずなのに、ヴィジュアルを喚起させられ、不思議。何より、織り成されるハーモニーが、声には思えないような独特の滑らかさを生み出し、聴く者に浮世離れした体験をもたらしてくれる。天国は、こんな感じだろうか?そんな感覚に、ルネサンス期のウルトラ・ポリフォニーを思い起こす。戦後「前衛」を象徴する、トーン・クラスターを用いた作品から、ルネサンスに通じる感触を得られるとは... 現代音楽の先鋭的な表情は、ベルニウスの明晰を極める指揮と、シュトゥットガル室内合唱団の驚くべき高性能さで以って、それまでの次元を超越するルクス・エテルナを出現させる。その美しさに吸い込まれつつ、吸い込まれるような美しさに至ったことに圧倒される。
というリゲティの後で聴くのが、ドメニコ・スカルラッティのスターバト・マーテル(track.2-11)。イエス・キリストを失った聖母の嘆きを綴るドラマティックな音楽は、ルクス・エテルナからは絶妙な切り返しとなり、音楽としての性格をより引き立たせ、印象的。一方で、ローマ仕込みのスカルラッティ家ならではのアルカイックな音楽の在り様が、バロックにしてパレストリーナ様式を思わせるポリフォニーを展開。聖母の嘆きのドラマティックさが、ルネサンスを思わせるやわらかさに包まれ、ただ哀しむだけでない、我が子を送り出すやさしさが感じられ、深い癒しにも充たされる。そんな表情を引き出すのも、やはり、ベルニウス+シュトゥットガル室内合唱団なればこそ... 彼らの徹底した作品との向き合い方が、音楽の純度を限りなく上げ、結晶化させるのか?結晶化した音楽というのは、もはや現代もバロックもなくなってしまうようであり、リゲティからドメニコ・スカルラッティへという流れに無理が無いのが、見事。またその流れは、音楽になり切らない響きの塊(リゲティ)だったものが、形を与えられ動き始める(ドメニコ・スカルラッティ)... 何か生命の誕生を思わせて、おもしろい。いや、生と死をつなぐのが"Lux aeterna"の魅力かも... そして、ドメニコ・スカルラッティの後には、再び原初に還るような響きが現れる...
リゲティのトーン・クラスターにも通じるサウンドを響かせる、オーストリアの女流作曲家、アン・ボイド(b.1946)の"As I crossed a bridge of dreams"(track.12)。東アジアにインスパイアされたボイドが、『更級日記』のイメージをア・カペラの歌にした作品。リゲティのルクス・エテルナが西洋の天国ならば、ボイドの"As I crossed a bridge of dreams"、夢の橋を渡ったら... は、東洋の浄土の風景を見せてくれるのか?おぼろげな風景の中を美しい鳥がふと飛び立つような、夜の森で鳥たちが鳴くような、西洋的なアンビエントさに、東洋的な神秘が色を差し、朦朧体を思わせるサウンド・スケープが美しい。そこから、メロディアスなマーラーが流れ出す!リュッケルト歌曲集からゴットヴァルトのアレンジによる「私はこの世に捨てられて」(track.13)が歌われるのだけれど、嗚呼、何という美しさ... それでいて、厭世的な詩が、どこか東洋的でもあり、絶妙に"As I crossed a bridge of dreams"(track.12)のトーンをすくい上げる。このセンスに脱帽!
という"Lux aeterna"に、確かな世界観を生み出せるのは、シュトゥットガルト室内合唱団のスーパー・パフォーマンスがあってこそ... 恐るべき精緻さ、驚くべき透明度、もはや、ここまで来ると、コーラスとは思えない。人の声を越えてしまっている観すらある。ただ美しいのではなく、一音一音が見事なまでに磨き抜かれ、人間技とは思えないサウンドに至っている。すると、"Lux aeterna"に収められたバロックから現代まで幅広く網羅された4曲が、独特の均質さを以って響き出し、時代の枠組みを消失させてしまうかのよう。これが、もの凄く不思議... こういう感覚、なかなか他では体験できないかも...

Lux aeterna ... for 10-16 voices
Kammerchor Stuttgart ・ Frieder Bernius


リゲティ : ルクス・エテルナ
ドメニコ・スカルラッティ : スターバト・マーテル **
ボイド : As I crossed a bridge of dreams
マーラー : 私はこの世に捨てられて 〔ゴットヴァルト編曲〕

フリーダー・ベルニウス/シュトゥットガルト室内合唱団
エルヴェ・ドゥシー(チェロ) *
ソントラウト・エンゲルス・ベンツ(オルガン) *

Carus/83.208




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