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激動の20世紀、シェーンベルクの変遷。 [before 2005]

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第2次大戦の只中に在った1940年代... 戦時下に音楽なんてあったのだろうか?いや、あった... それも、力作... 1940年、ドイツの捕虜収容所で作曲された、メシアンの世の終わりのための四重奏曲。1941年、ナチス・ドイツによるレニングラード包囲戦の最中、作曲された、ショスタコーヴィチの7番の交響曲。1943年、ユダヤ人収容所で作曲された、ウルマンのオペラ『アトランティスの皇帝、あるいは死の拒絶』。どれも、過酷な状況下を忘れさせるような、その苛酷さこそ創造に昇華させてしまうような、力強さを感じる作品。1920年代の楽しさ1930年代の翳りを聴いて来ての1940年代の音楽は、芸術との向き合い方の覚悟が違う。だからか、音楽として密度がただならない。1940年代を意識しながら、その作品に触れると、慄きすら覚えてしまう。裏を返せば、それだけ厳しい状況があったということ... そして、人間の創造の力強さを思い知らされる...
さて、1940年代は、戦中の前半と、戦後の後半に分けられる。そして、前回、聴いたテレージエンシュタットで上演され、作曲されたオペラは前半にあたるので、後半を象徴するような作品を聴いてみたいと思う。ジュゼッペ・シノーポリが率いたドレスデン・シュターツカペレの演奏、ドレスデン州立歌劇場合唱団のコーラス、ジョン・トムリンソンの語りで、ホロコーストの悲劇を糾弾するシェーンベルクの1947年の作品、ワルシャワの生き残り(TELDEC/3984-22905-2)を聴く。

1933年、アメリカへと亡命したシェーンベルクは、翌年、ロスアンジェルスへと移り、1935年には南カリフォルニア大学で教え始め、若きケージも師事している。さらに、その翌年にはUCLAの教授に就任、作曲にも力を注ぎ、ヴァイオリン協奏曲などを生み出す。また、ガーシュウィンと交友を結び、一緒にテニスをするなど、ヨーロッパからやって来た巨匠として、充実した西海岸の生活を送っていた。一方で、ナチス・ドイツという脅威の前に、ユダヤ人であることを強く意識するようになるシェーンベルク... 1898年、24歳の時に、仕事を得易いようにとルター派に改宗していたのだが、アメリカへの亡命の直前、パリでユダヤ教へ復帰。それまで、あまり宗教的なものに関心を示して来なかった(12音技法などは、その最たるもの... )が、ナチス・ドイツの出現により、自身が否応なく迫害の対象となってしまったことで、シェーンベルクのユダヤなるものに対しての眼差しは、鋭く、熱いものとなって行く。そして、第2次大戦が開戦(1939)。シェーンベルクは反ナチスの姿勢を籠めたナポレオン頌歌(1942)を作曲。第2次大戦が終結(1945)して2年目、1947年には、ホロコーストの悲劇を生々しく捉えた、オーケストラ、語り、男声コーラスによる、カンタータのような作品、ワルシャワの生き残り(track.8)を作曲する。
シェーンベルクならではの12音技法と、表現主義的なスタイルを巧みに撚って、戦時下の緊張感を鮮やかに描き出す。その音楽を背景に、タイトルにある通り、ホロコーストを生き抜いた人たちから聞いた話しを自らで綴り、ワルシャワのゲットーでの場面を克明に語り手に語らせる。そして、音楽と語りが見事にひとつとなり、映像的なイメージを聴く者に喚起する。ワルシャワのゲットーを襲うナチス・ドイツの兵士のぞんざいさと、その下でのユダヤの人々の恐怖が、時にシュールに展開され、悲劇を強調するのではない、ありのままを音楽に落とし込むような鋭い視点が、ただならない雰囲気を醸し出す。いや、これは秀逸なルポルタージュだ。そして、音楽でそれを実現してしまったシェーンベルクの鋭い感性に感服させられる。一方で、音楽としての魅力もしっかりと展開して来るシェーンベルクの柔軟性にも圧倒される。最後、ナチス・ドイツの兵士が、生き残ったユダヤの人々をガス室へと送るため、その数を数えるのだけれど、その時、ユダヤの人々が、シェマー・イスラエルの祈りの歌を歌い出す!モノクロの画面が一気にカラーになるような瞬間に息を呑む。ガス室行きを前にして、峻厳に響く祈りの歌のドラマティックさ!圧倒される... わずか7分の作品ながら、驚くべきインパクト... シェーンベルクの思いが凝縮され、ただならない密度を感じさせるワルシャワの生き残り(track.8)は、もはや音楽を越えているのかも...
さて、シノーポリは、ワルシャワの生き残りとともに、実に多彩なシェーンベルクの作品を1枚のアルバムに展開して来る。その始まりは、1904年に作曲された、ワーグナーの楽劇を思わせる6つの管弦楽伴奏付きの歌曲(track.1-6)。ウルトラ・ロマンティシズムの最後の頃の作品は、意外と素直なロマン主義を響かせて、懐古的な魅力を放つ。そこから、無調に至り、12音技法を発明した後の1929年、ドイツ映画作曲家協会に委嘱された映画の一場面への伴奏音楽(track.7)が続くのだけれど、これがおもしろい!特定の映画のために作曲されたのではなく、映画音楽をシュミレーションするように作曲された奇妙な作品... 迫り来る危機―不安―破局、という架空の場面を思い描きながら展開される音楽は、しっかり雰囲気が出ており、シェーンベルクの表現主義が、映画音楽との相性の良さを見せるようで興味深い。またこの作品が、次のワルシャワの生き残り(track.8)のインターリュードの役割を担ってもいて、そんな流れを創り出すシノーポリのセンスも冴えている!
そして、最後は、1906年に作曲された、1番の室内交響曲(track.9)。ウルトラ・ロマンティシズムから次の時代を窺う音楽は、ロマンティックさを残しながらも、15の独奏楽器による室内楽的な規模が、合奏協奏曲風のサウンドを紡ぎ出し、擬古典主義を先取る感覚も見受けられる。また弦楽器よりも多い管楽器の活躍は、後のストラヴィンスキーや、ヒンデミットのトーンにも似ていて、モダニスティック。無調、12音技法といったシェーンベルクのイメージからすると、随分とライトでクール。いや、これもまたシェーンベルク... そんな、ヴァラエティに富むシノーポリによるアルバムを聴いていると、シェーンベルクの、ストラヴィンスキーに負けないカメレオンっぷりが耳を引く。無調、12音技法だけでは、この人を説明することはできない... またそのカメレオンっぷりが、20世紀の音楽の変容そのものであって、先駆者、シェーンベルクの存在の大きさに圧倒される。
という、20世紀の音楽史を映すように多彩な音楽を聴かせてくれたシノーポリ、ドレスデン・シュターツカペレ。シノーポリらしい、鋭くも、深く、濃密な演奏が繰り広げられ、吸い込まれそうな感覚がある。そのシノーポリに応える、名門、ドレスデン・シュターツカペレの瑞々しいサウンドもすばらしく、「シェーンベルク」というイメージを越えた、真摯な音楽を紡ぎ出し、よりそれぞれの作品が引き立つようで、印象的。それによって、「シェーンベルク」というレンズを通して、20世紀の荒波を見つめる感覚もあり、アルバム全体が、何かひとつの映画を見るよう。不思議な流れを感じられて、惹き込まれる。

SCHONBERG: A SURVIVOR FROM WARSAW/CHAMBER SYMPHONY NO.1|6 ORCHESTRAL SONGS/ETC.
SINOPOLI

シェーンベルク : 6つの管弦楽伴奏付き歌曲 Op.8 *
シェーンベルク : 映画の一場面への伴奏音楽 Op.34
シェーンベルク : ワルシャワの生き残り Op.46 〔語り、男声合唱とオーケストラのための〕 **
シェーンベルク : 室内交響曲 第1番 Op.9 〔15の独奏楽器のための〕

アレッサンドラ・マーク(ソプラノ) *
ジョン・トムリンソン(語り) *
ドレスデン州立歌劇場合唱団(男声) *
ジュゼッペ・シノーポリ/ドレスデン・シュターツカペレ

TELDEC/3984-22905-2




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