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近代イタリアの音楽の始まり、広がり、諸相... [before 2005]

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イタリアの音楽というと、バロック期の膨大な作品に、ベルカントからヴェリズモまで、魅力的な19世紀のオペラの数々がまず思い浮かぶ。"ゲンダイオンガク"に目を向ければ、ノーノ、ベリオらの存在も欠かせない。それから、ピリオドの隆盛によって掘り起こしが進む、ナポリ楽派。前回、聴いたレスピーギも忘れるわけには行かない。けど、イタリアの音楽のイメージは、圧倒的に、古いか、オペラか... ドイツやフランスと違って、どうしてこうも偏ってしまうのだろう?ということを考え始めると、先に進まなくなりそうなので、偏って希薄になってしまった部分に目を向けてみようと思う。レスピーギばかりがクローズ・アップされるイタリアの管弦楽作品、そのレスピーギの周囲にあった、レスピーギ以外のイタリアの管弦楽作品がどんなだったかを巡る...
イタリアを代表するマエストロ、リッカルド・ムーティと、彼が率いていたスカラ座のオーケストラ、スカラ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による、イタリア出身の作曲家、カゼッラ、マルトゥッチ、ブゾーニの管弦楽作品集(SONY CLASSICAL/SK 53280)を聴く。

イタリア出身の作曲家... ではあっても、より広がりを以ってイタリアを見つめるムーティ... パリのコンセルヴァトワールで学び、かなりの期間、パリで活動していたカゼッラ(1883-1947)。若い頃、ピアノのヴィルトゥオーゾとしてヨーロッパ中を旅したマルトゥッチ(1856-1909)。イタリアで育ち、やがてベルリンを拠点に活躍したブゾーニ(1866-1924)。この3人から見つめるイタリアは、当然ながら多面的。それから、世代的な広がりも興味深い... イタリアにおける器楽曲の復興に務めたマルトゥッチは、イタリアにおける近代音楽の父にあたる世代で、そのマルトゥッチに音楽の道を進むよう促されたカゼッラは、モダニズムの都、パリで培った感性を以って20世紀の両大戦間、イタリアで大きな足跡を残す。一方、ブゾーニは、その前、19世紀末から、第1次大戦前後に掛けて、ドイツから個性的なアプローチで近代音楽に挑んだ。19世紀後半、ロマン主義の爛熟期から、20世紀前半、モダニズムが輝かしかった頃へ... ドイツでもフランスでもない視点から、その流れを追うというのは、なかなか興味深い。そんな、イタリア出身の作曲家による管弦楽作品集、始まりは、カゼッラから...
パガニーニの音楽を素材に編まれたパガニニアーナ(track.1-4)は、カゼッラの晩年、第2次大戦中、1942年の作品。このアルバム全体から見つめると、それは、マルトゥッチに始まるイタリアにおける管弦楽作品の復興の集大成的な位置付けになるのかもしれない。そして、その音楽、素材こそ19世紀前半の伝説のヴィルトゥオーゾ、パガニーニによるものだが、カゼッラのパリ仕込みを印象付ける、軽快な擬古典主義風のテイストに彩られ、小気味よく... また、3楽章、ロマンツァ(track.3)では、古き良き時代が美しく蘇るようであり、リヒャルト・シュトラウスの晩年にも通じるようで、ムッソリーニ率いるファシスト党の全体主義の支配下、苛烈を極める第2次大戦への厭世的な気分を感じる。その古き良き時代にあたる、マルトゥッチのノットゥルノ(track.5)の、ロマン主義の時代の甘く夢見るような音楽!マーラー(1860-1911)と同世代だけに、ロマン主義の最後を飾る豊潤な美しさは、抗し難く魅了される。続く、ノヴェレッタ(track.6)、ジガ(track.7)は、より古いロマン主義へと回帰するようで、メンデルスゾーンを思わせる瑞々しさが印象的。ドイツの音楽をしっかりと読み込みながら、そこにイタリアの明朗さをさり気なく乗せるて来るマルトゥッチ。ここからイタリアの管弦楽作品は再スタートを切るわけだ。
最後は、ブゾーニ、『トゥーランドット』組曲(track.8-13)... マルトゥッチがドイツを読み込んだならば、ブゾーニはドイツへと飛び込んで行ったわけで、この2人の対置がなかなか興味深い。で、飛び込んで行って生まれた『トゥーランドット』組曲(track.8-13)の刺激的なこと!プッチーニのオペラ(1926)に先んじて、ベルリンで上演された芝居の劇音楽(1905)として誕生したこの組曲は、中国を舞台としているだけにエキゾティック。それも、元々はコメディア・デラルテから生まれた物語ということで、何ともユーモラスで... そのあたり、ドイツらしく、絶妙にキッチュ!ブゾーニは、後に、この組曲からオペラ(1917)を生み出すわけだけれど、ドイツのキッチュで、イタリアの伝統、コメディア・デラルテを復活させようとしたブゾーニの天の邪鬼さとでも言おうか、素直でないところが、スパイスに... その出発点である組曲は、後のオペラの魅力が、しっかりと詰まっている。
という、広がりを持たせて響かせる、ムーティによるイタリア出身の作曲家による管弦楽作品集。ムーティとスカラ・フィルならではの、丁寧かつちょっとスノッヴなテイストが絶妙に効いていて、ドイツ、フランスに対抗するような、気取った雰囲気が、イタリアの管弦楽作品に、かえって愛らしさのようなものを生み出す。で、その愛らしさに、イタリアを感じてしまう?とても美しい演奏なのだけれど、どこかボタンの掛け違いが起こっているような印象を受け... いや、イタリアの音楽のイタリアらしさを消そうとでもしているのか?あるいは、3人の作曲家、それぞれの、イタリアの外で受けた刺激こそをより際立たせているのか?妙に取り澄ました佇まいが気になる。けど、それこそが作品の魅力になり得ているのは、狙いなのか、どうなのか... どちらにしろ、格好を付けて、ほころぶ表情が、どこか人懐っこく、つい惹き込まれてしまう。

BUSONI: TURNADOT SUITE ・ RICCARDO MUTI

カゼッラ : パガニニアーナ Op.65
マルトゥッチ : ノットゥルノ Op.70-1
マルトゥッチ : ノヴェレッタ Op.82
マルトゥッチ : ジガ Op.61-3
ブゾーニ : 『トゥーランドット』 組曲 Op.41

リッカルド・ムーティ/スカラ・フィルハーモニー管弦楽団

SONY CLASSICAL/SK 53280




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