SSブログ

古典を見つめる真摯な視点、イタリア、レスピーギ... [before 2005]

CD80309.jpg
ナポリ楽派の伝説、ペルゴレージを素材に、魅惑的なバレエを編んだストラヴィンスキー。そうして、擬古典主義の扉は開かれた... が、ストラヴィンスキー以上に、過去へ熱い視線を送った作曲家たちがいた。それが、20世紀、イタリアにおける近代音楽の担い手たち。ストラヴィンスキーの擬古典主義に負けじと、自国の膨大な音楽史における遺産を掘り起こし、イタリア流の擬古典主義を展開した。カゼッラ(1883-1947)のスカルラッティアーナ、ダッラピッコラ(1904-75)のタルティニアーナ、そしてマリピエロ(1882-1973)のヴィヴァルディアーナ、ガブリエリアーナ、チマロジアーナ... いや、もう壮観!かつてのイタリアがどれほど百花繚乱だったかを思い知らされるラインナップ。で、イタリアの擬古典主義の特徴は、モダニズムの素材として過去を見つめたのではなく、忘れ去られてしまった輝かしき過去を蘇らせること。擬古典主義というよりは、古楽?
ということで、ヘスス・ロペス・コボスが率いた、ローザンヌ室内管弦楽団の演奏で、イタリアにおける擬古典主義の代表作とも言える作品、レスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリアと、ボッティチェッリの3枚の絵(TELARC/CD-80309)を聴く。

20世紀に入り、イタリアではオペラ一辺倒の状況に反発する動きが現れる(ちょっと遅きに失した観はあるのだけれど... )。そうした中で、愛国主義を孕みながら進んだのが、イタリアの偉大なる先祖たちの作品の復興... イタリアの多くの作曲家たちが、長い間、捨て置かれていたスコアを発掘し、校訂作業に乗り出す。今、我々が、当たり前のようにイタリア・バロックのすばらしい作品に触れることができるのも、この20世紀前半における地道な作業があったおかげとも言える。そうした古楽の先駆的な動きが大いに盛り上がったのが、ストラヴィンスキーが『プルチネッラ』(1920)を初演した頃、第1次大戦後... 擬古典主義は、フランスを中心に、各地で試みられ、アンチ・ロマン主義の急先鋒として、お洒落に一世を風靡したわけだが、イタリアにおけるそれは、より学究的な性格を含んで、より真剣に、それでいて、どこよりも熱烈に展開された。先に挙げた、様々な"ナントカアーナ"がそれを如実に物語っている。そして、イタリアにおける擬古典主義の代表作とも言える、最も有名なレスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリア、3つの組曲(track.1-4, 5-8, 9-12)、全てを聴くのだけれど...
16世紀から17世紀に掛けて、イタリアの音楽が興隆しょうという時代、ルネサンス末、初期バロックの音楽を素材に、4曲で構成された組曲を、3つ編んだレスピーギ。第1組曲は、第1次大戦中、ストラヴィンスキーの『プルチネッラ』に先行する1917年、第2組曲は1923年、第3組曲は1931年に作曲されている。そして、最も取り上げられるのが、第3組曲(track.9-12)。特に、第3曲、シチリアーナ(track.11)は、イージー・リスニングとして、誰もが一度は聴いたことのあるメロディーであって... いや、そういうイメージの強いレスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリア。擬古典主義、云々よりも、そのライトでエレガントなあたりが印象に残る。そのせいか、何となく軽く捉えがち... けど、改めて聴いてみると、いやいやいや... まず、その古風さ!パリを沸かせた擬古典主義が、盛期バロックから古典主義の時代に掛けて、18世紀の音楽だったことを考えると、ルネサンスや初期バロックは、かなりマニアック。第1組曲の第2曲、ガリアルダ(track.2)は、かのガリレオ・ガリレイの父にして、モノディが誕生する頃の高名な音楽学者、ヴィンチェンツォ・ガリレイ(ca.1520-91)の作品による... このあたりに、上っ面ではない、イタリアの作曲家の擬古典主義の本気度をビンビン感じてしまう。またそうあることで、そのアルカイックさが際立ち、ストラヴィンスキーといったモダニストたちとは一味違う、清廉な表情を生み出す。
で、その白眉が、第3組曲(track.9-12)。第1組曲、第2組曲を経ての、独自の境地... それはもう擬古典主義とは違うのかもしれない。いつの間にかモダニズムは洗い落とされ、アンチ・ロマン主義のこだわりも忘れ、もっと素直に音楽と向き合って生まれる魅惑。かつての時代には存在しなかったモダンのオーケストラを用い、より豊潤なサウンドで、より美しく響かせるためならば、ロマンティックが滲むことも厭わない。そこには、かつての音楽への愛をたっぷりと感じる。愛するがゆえに、最高の美しさを以って響かせたいというレスピーギの強い思いを見出すのか... オリジナルのままならば、まだまだプリミティヴであった音楽を、その後の音楽史の発展の蓄積を用い、最高の洗練を以って織り成す。だからこそ生まれた、誰が耳にしても美しい音楽。こういう唯美主義に、イタリアの芸術性を強く感じる。で、その美へのこだわりが、イージー・リスニングにも成り得たか?改めて聴く、リュートのための古風な舞曲とアリアは、何だか思い掛けなく深くて、思いの外、味わい深い...
さて、このレスピーギの人気作を聴かせてくれるのが、スペインのマエストロ、ロペス・コボスと、彼が率いたローザンヌ室内管。ロペス・コボスの節度ある丁寧なアプローチと、ローザンヌ室内管の上品な響きが、レスピーギの擬古典主義を絶妙に引き立てる!そうして聴こえて来るのが、リムスキー・コルサコフに付いて学んだレスピーギの響きの美しさ!古風な舞曲とアリアだからこそのシンプルな音楽を、どう美しく仕上げたかを、卒なく強調するロペス・コボス、ローザンヌ室内管の演奏。リュートのための古風な舞曲とアリアの後の、ボッティチェッリの3枚の絵(track.13-15)では、古式の音楽から解き放たれ、より瑞々しい音楽で描き出し、また魅了される。いや、何とブリリアントな!淡々と奏でて生まれる不思議なニュートラルさが、レスピーギが織り成した音符の全てナチュラルに捉え、内から輝かせるよう。

RESPIGHI: ANCIENT AIRS AND DANCES
LÓPEZ-COBOS / LAUSANNE CHAMBER ORCHESTRA

レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第1組曲
レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第2組曲
レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
レスピーギ : ボッティチェッリの3枚の絵

ヘスス・ロペス・コボス/ローザンヌ室内管弦団

TELARC/CD-80309




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。