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激動の1968年と壮大なる音楽史が響き合う、シンフォニア。 [before 2005]

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現在に至るイタリアという国が誕生するのは、1871年。それは、明治維新の3年後... と考えると、新しい印象を受ける。「古代ローマ」や「ルネサンス」といった"イタリア"のイメージがしっかりある分、その新しさにちょっとびっくりさせられるのだけれど、日本同様、近代国家が成立した、ということであって、それは19世紀後半の世界の潮流を反映した転換点。新しいか、古いかは、あまり意味をなさない。一方で、音楽から見つめると、イタリアという国の成立と歩みが、近代イタリアの音楽の歩みに符合し、興味深い。ドイツ―オーストリアの影響下に始まりながら、より多様な感性を吸収することで近代音楽を開花させた20世紀前半。キテレツな未来派を生み出す一方で、過去の遺産の復興に力を注ぎ、独特な擬古典主義を展開しつつ、愛国主義を醸成、台頭するファシズムにも共感して行く作曲家たち... しかし、イタリアは、第2次大戦で敗戦、ファシズムは瓦解する。
統一国家、成立以来、初めての挫折に直面するイタリア... そうしたところに新たな世代が登場。戦後「前衛」の時代に我が道を切り拓き、気を吐いたイタリアの作曲家、ベリオに注目してみる。ということで、ピエール・ブーレーズの指揮、フランス国立管弦楽団の演奏、ニュー・スウィングル・シンガーズが歌う、ベリオのシンフォニア(ERATO/2292-45228-2)を聴く。

北イタリア、リグリア海岸にあるオネリアで、音楽家の家系に生まれたベリオ(1925-2003)。早くからピアノと作曲を学んでいたものの、徴兵され、19歳の時、軍隊で事故に遭い、右手を負傷。音楽家の道を、一度、諦める。そうして迎えた終戦(1945)。だったが、ミラノへと出て、ミラノ音楽院で作曲を学び始めるベリオ。1950年、音楽院を卒業するとアメリカ人の歌手、キャシー・バーベリアン(戦後「前衛」の時代、多くの作曲家に影響を与えた"ゲンダイオンガク"のミューズとも言える存在... )と結婚、その新婚旅行でアメリカへと渡る。そこでは、イタリア人として先駆的に12音技法を用いていたダッラピッコラ(アメリカとイタリアを行き来していた... )に師事し、また電子音楽にも出会い、その後の作風の端緒を開く。ヨーロッパに帰ってからは、戦後「前衛」の牙城、ダルムシュタットを訪れるようになり、シュトックハウゼンらと交流。総音列音楽の洗礼を受けつつも、厳格にシステムを用いるまでには至らず、また、ミラノに電子音楽スタジオを開設(1955)し、様々な手法を総合し、より自由な独自の路線を切り拓く。そうして辿り着いたのが、1969年に完成された代表作のひとつ、シンフォニア(track.1-5)。
まず、交響曲ではなく、「シンフォニア」という古雅なタイトルが目を引く。それでいて、8人の歌手が加わり、オーケストラと実に興味深い対話が繰り広げられるのだけれど、見ようによっては、ルネサンス期のシンフォニアの在り様を復刻したとも言えなくもない?となると、戦前のイタリア近代音楽の伝統、擬古典主義を受け継ぐ作品なのか?で、第3部(track.3)では、音楽史を飾った様々な作品が引用され、どことなしに擬古典主義的な思考を思わせなくもないのだけれど... いや、そう安易なものではないか... とにかく、半端無いコラージュに、目が回る第3部(track.3)。マーラーや、ドビュッシーや、ストラヴィンスキー、どこかで耳にしたメロディー、サウンドが次々に鳴り出し、音楽史における、あらゆる情報が錯綜して、何だかワケガワカラン。けど、不思議と魅了される。悪魔の中に現れた奇妙な遊園地で遊ぶような、不思議な感覚。ばらの騎士に、ラ・ヴァルスがふっと浮かんだかと思うと、ばらの騎士のワルツへ戻り、普段では絶対にあり得ない展開が、ベリオが生み出した途方も無い音楽を謎めいたものとし、惹き込まれる。で、この謎めく雰囲気をより際立たせているのが、8人の歌手たち...
歌というよりは、ヴォイス・パフォーマンスというべきか、縦横無尽に繰り出される歌と、語りと、その他、諸々。それは、文化人類学者、レヴィ・ストロースの引用(第1部)であったり、この作品が作曲される1968年に暗殺されたキング牧師の名前(第2部)であったり、そのひと月後、パリで起こる5月革命での学生たちのスローガンだったり、あるいは、ベケットやジョイスの一節、ベリオと友人たちの会話など、言葉のコラージュも膨らんで、音楽に負けない雄弁さを紡ぎ出す。キャシー・バーベリアンとの結婚(1966年に離婚... )が、ベリオに声の可能性を見出させたわけだが、シンフォニア(track.1-5)で繰り広げられる歌と、語りと、その他、諸々は、その集大成のよう。それでいて、「1968年」が深く刻み込まれてもいるという興味深さ... 作曲している最中、その目の前で起こる現象をスナップのように切り取って来て、戦後世代の反抗を、音楽史のごった煮に、二重露光のように重ねて響かせてしまうというギミック。いや、まさに、シンファニア、響き合う音なのかも。このヴィジョン、凄い!
そして、ブーレーズの指揮、フランス国立管の演奏なのだけれど、ウーン、やっぱりこのマエストロはズルい!ブーレーズの音楽性とは対極にあるはずの音楽も、しれーっとやりおおせてしまう。それどころか、ベリオ作品ならではの謎めく雰囲気を魅惑的に響かせて、1968年のギミックを、さらに昇華した形で提示して来る。圧巻は、ブーレーズならではの明晰さが、第3部(track.3)のごった煮の具材を、いろいろ際立たせ、よりファンタジックに仕上げる妙。クラシック好きにとって、おもちゃ箱に頭を突っ込むような感覚を与えてくれる。そんなブーレーズに応えるフランス国立管も実に器用に音楽を運び、すばらしい。で、何より光るのが、ニュー・スウィングル・シンガーズの縦横無尽のパフォーマンス。この作品のキテレツさを際立てながらも、どこかセンチメンタルな表情を湛え、イタリアの味わいをもさり気なく引き出す。

BERIO / SINFONIA / EINDRÜCKE
PIERRE BOULEZ


ベリオ : シンフォニア 〔8つの声と管弦楽のための〕 *
ベリオ : アインドゥリュッケ

ピエール・ブーレーズ/フランス国立管弦楽団
ニュー・スウィングル・シンガーズ *

ERATO/2292-45228-2




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