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ヴェネツィア、ルネサンスからバロックへ、風変わりの魅力! [before 2005]

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1608年、ヴェネツィア、サン・ロッコ信徒会での音楽を再現した"MUSIC FOR SAN ROCCO"の盛りだくさんを聴いた後で、1550年から1630年に掛けてのヴェネツィアの風変わりの極み、"VENEZIA STRAVAGANTISSIMA"を聴く。ま、「風変わり」と言っても、盛期バロック以前の音楽自体が、一般的なクラシックからすると、かなり風変わり... なので、何を以ってして、当時の「風変わり」かは、解り難いところではあるのだけれど、"MUSIC FOR SAN ROCCO"の後で聴いてみれば、ん?!これは、かなりブっ飛んでいるかも?"MUSIC FOR SAN ROCCO"は、前期ヴェネツィア楽派の集大成であり、言わばヴェネツィアの表の顔。それに比べ、"VENEZIA STRAVAGANTISSIMA"は、ヴェネツィアという大都市が孕むキッチュをすくい上げるのか... 考えてみれば、ヴェネツィアという街自体が風変わり。馬車ではなく、ゴンドラが行き交う街なんて、他に無いわけで... そう考えると、「風変わり」こそ、ヴェネツィアの生々しい真実を映す?
ということで、スキップ・センペ率いる、カプリッチォ・ストラヴァガンテ・ルネサンス・オーケストラによる、1550年から1630年までのバッロ(フランスに渡り、バレエとなったダンス... )、カンツォン(ルネサンス期、愛唱歌を楽器で奏でた器楽曲の走り... )、マドリガーレ(定番の多声歌曲... )で綴る、"VENEZIA STRAVAGANTISSIMA"(Alpha/Alpha 049)を聴く。

始まりは、アントニオ・インチェルトによる、パヴァン「葬列」。で、葬列で始めるか?と、のっけから「風変わり」を意識させられるのだけれど、そのタイトルよりも、作曲者、インチェルトなる人物が曲者で... "incerto"は、イタリア語で、不確か、の意味。要は、アントニオ、なんとか... ということらしい(センペ氏曰く... )。で、アントニオは、エリザベス朝で活躍したイングランドの作曲家、アントニー・ホルボーン(ca.1545-1602)を暗に指し、つまり"VENEZIA STRAVAGANTISSIMA"の始まりは、ヨーロッパの北の果て、イングランド風による異国趣味的な風変わりで幕を開ける。で、明らかに、イタリアの音楽とは違う、中世の昔を思わせる力強いメロディー!そこには、今に至るU.K.のセンスを感じさせるカッコよさがあり、それを、ヴェネツィア流の大きな規模(イングランドのコンソート・ミュージックではあり得ない... )で奏でると、思いの外、勇壮(葬送の太鼓が効いている!)、まるで、東方からの豪奢な使節がやって来たよう。そういう風景に、当時のヴェネツィアのリアルが思い浮かぶ。
その後で取り上げられるのが、パルマに生まれ、ヴェネツィア共和国領、ウディネで学び(後にサン・マルコ大聖堂の楽長に就任するジュリオ・チェーザレ・マルティネンゴの父、ガブリエーレ・マルティネンゴに師事... )、アクイレイアの総大司教聖堂の楽長となったマイネリオ(1535-82)の当世風パッセ・メッツォ(track.2)。で、「当世風」というのが、「風変わり」に対しての、ヴェネツィアの基準を示してくれる?リコーダーとヴァイオリンが穏やかに歌いつないで、牧歌的でアルカイックな音楽を展開... 一方で、マイネリオは、ジョヴァンニ・ガブリエリの父親世代にあたり、ルネサンスを生きた人... その「当世風」は、オールド・ファッションと言えるのかもしれない。続く、グアーミ(1540-1611)の8声のカンツォネッタ(track.3)では、ヴェネツィア楽派(グアーミは、ルッカ生まれだが、ヴェネツィアで学び、ヴィラールトに師事した... )らしい対比が効いて、ルネサンス期には無かった推進力を音楽に感じる。そこから、マドリガル・コメディで知られるヴェッキ(1550-1605)の5声のテデスカ「百合と薔薇の暁が」(track.4)がホモフォニックに、軽く、お洒落に奏でられると、ルネサンスからバロックへのうつろいを印象付け、新しさとしての風変わりが卒なく展開される。しかし、ヴェッキからそのまま演奏される、ヴェッキと同じテーマを泥臭く盛大に響かせるマイネリオのテデスカとサルタレッロ(track.5)のインパクトたるや!このアルバムの最も古い世代にあたるマイネリオの音楽に新奇さを感じてしまう?現代からすると、古い世代の方がクール?
マイネリオの音楽は、ルネサンス(15-16世紀)というより、トレチェント(14世紀)の音楽のプリミティヴな表情を残すようで、おもしろい。そうしたあたりを象徴するかのような、"古風な"パッセ・メッツォ(track.6)では、冒頭のアントニオ、なんとか... による、メロディーが浮かび上がり、ドラマティックに演奏され、ちょっとマイケル・ナイマンを思い起こさせて、エモーショナル!何だか、映画音楽を思わせる。で、気になるのが、イングランド風バッロとサルタレッロ(track.11)。異国趣味=風変わりが、しっかり効いていて、魅惑的なのだけれど... どうも、スコットランドにルーツがあるらしいマイネリオ(メイナーというのが、本来の名字?)... イタリアの朗らかさとは一味違う、力強さ、時に泥臭いテイストは、ヨーロッパの北の果てに由来するものなのか?ジョヴァンニ・ガブリエリのカンツォン(track.14)の澄んだサウンドに触れると、マイネリオの風変りは間違いなく際立つ。
さて、マイネリオに限らず、"VENEZIA STRAVAGANTISSIMA"の風変わりは、実にヴァラエティに富んでいる!ドイツ風を意味するテデスカ(track.4, 5)に、ピッキのポーランド風バッロ(track.8)、ハンガリー風バッロ(track.15)、ラッピの8声のカンツォン「黒人の女」(track.12)と、当時の異国趣味もふんだんに盛り込まれて、あちこちから風変わりが集まる国際都市、ヴェネツィアの気分を活き活きと描き出す。また、センペ+カプリッチォ・ストラヴァガンテの演奏が見事に息衝き... メンバーひとりひとりが放つ古い楽器なればこその個性的なサウンドを活かし切り、風変わりをより確信的に展開してのカッコよさ!かと思うと、最後にはマイネリオ、アントニオ、なんとか... の印象的なメロディーが再び立ち現れ、重厚に盛り上がり、感動的に締め括られる。ウーン、「風変わり」も極まると、心揺さぶる音楽となる。

VENEZIA STRAVAGANTISSIMA
Capriccio Stravagante Renaissance Orchestra ・ Skip Sempé


アントニオ・インチェルト : パヴァン 「葬列」
マイネリオ : 当世風のパッセ・メッツォ
グアーミ : 第24 カンツォネッタ 〔8声〕
ヴェッキ : テデスカ 「百合と薔薇の暁が」 〔5声〕
マイネリオ : テデスカとサルタレッロ
マイネリオ : 古風なパッセ・メッツォ
マイネリオ : パガニーナのパッセ・メッツォとサルタレッロ
ピッキ : ポーランド風バッロ
カナーレ : カンツォーナ 「ラ・バルツァーナ」 〔8声〕
ヴェッキ : "イル・ヴェッキ" サルタレッロ 「みな音楽を奏で、楽しもう」 〔5声〕
マイネリオ : イギリス風バッロとサルタレッロ
ラッピ : 第18 カンツォン 「黒人の女」 〔8声〕
ザネッティ : カラヴァッツォ侯爵のイントラーダ
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン II
ピッキ : ハンガリー風バッロ
ヴェッキ : 「素敵な時間を過ごしていると」 と フィナーレ *

スキップ・センペ/カプリッチォ・ストラヴァガンテ・ルネサンス・オーケストラ
ギユメット・ロランス(歌) *

Alpha/Alpha 049




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