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ヴィヴァルディ、風変わりの音楽、教会から劇場へ... [before 2005]

前期ヴェネツィア楽派を代表するのがジョヴァンニ・ガブリエリ(ca.1554/57-1612)ならば、後期ヴェネツィア楽派のアイコンは、何たってヴィヴァルディ(1678-1741)!となるのだけれど、後期ヴェネツィア楽派による音楽を丁寧に見つめると、ヴィヴァルディの音楽はちょっと浮いたものに感じられる。そもそもヴェネツィアの音楽とはどんなものか?前期の集大成、ジョヴァンニ・ガブリエリの音楽の明朗で風雅な雰囲気... これは、ルネサンスを脱してバロックが到来してもなお、ヴェネツィアの音楽を特徴付けていたように思う。カヴァッリのオペラのふんわりとした花やかさ、ロッティの古典主義を予感させる端正さ、アルビノーニの淡々とアルカイックなあたり... そこに来てのヴィヴァルディ... 奇を衒う尖がった音楽を次々に繰り出して、ただならない。それは、ヴェネツィアのもうひとつの一面、劇的で風変わりを、徹底して表現して来るよう。つまり、主流では無かった?そういう視点からヴィヴァルディという作曲家を捉えてみると、その個性はより先鋭的に感じられ、スリリング!
そんなヴィヴァルディ... リナルド・アレッサンドリーニが率いる、コンチェルト・イタリアーノの演奏、アカデミアのコーラスで、グローリア(OPUS 111/OPS 30-195)。ジョヴァンニ・アントニーニ率いる、イル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏で、チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)が歌うアリア集(DECCA/466 569-2)。教会と劇場から、ヴェネツィアの非主流の魅力を追う。


ヴィヴァルディの劇的で風変わりを極めて、グローリア、コンチェルト・イタリアーノ...

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劇的で風変わり、として聴いてみる、ヴィヴァルディのグローリア(track.1-12)... いや、もう序奏からして、ブっ飛んでいる気がして来た。まず、始まりの、ファンファーレのようなトランペットの音型が、ギャグに思えて... んがんん(一昔前のサザエさんの、豆を喉に詰まらせるやつ... )、みたいな、よくよく聴くと、変... けど、間違いなくキャッチー!いや、のっけから、ヴィヴァルディの確信犯的なケレン味が効いていて、喰い付かずにいられない?バロック期のヴェネツィアの教会の、単に祈りの場を越えた、開かれたコンサート・ホールとしての性格を印象付ける、サービス精神?赤毛の司祭の聴衆を自らの音楽に引き込もうという貪欲な姿勢に、ちょっと中てられなくもないけれど、そういう強引さこそバロック。そうしてコーラスが元気よく歌い出す。グローリアッ、グローリアッ!いやー、華やぐ!それはもう、抗し難いノリの良さで、のっけからテンション上がりまくり!もちろんそればかりでなく、ソプラノがヴァイオリンを伴ってやさしげに歌う「神なる主、天の王」(track.6)のドリーミンな美しさは突き抜けていて、オペラのアリアのようなドラマティックさを見せるアルトが歌う「御父の右に座りたもう者よ」(track.10)の充実感は、オペラ作家としてのヴィヴァルディの力量を見せつけられるよう。そして、教会音楽らしく、神妙に対位法を繰り出すことも余念の無いヴィヴァルディ... 飄々と厳かにもなり得る縦横無尽さには、もう唸るしかない。
というグローリアを、より劇的で風変わりに響かせて来るアレッサンドリーニ+コンチェルト・イタリアーノ。のっけからもの凄いテンションで、びっくり!なのだけれど、明晰に音楽を捉えて、極めて軽快!このテンションと軽快さが、ヴィヴァルディの個性を鮮やかに増幅していて... 増幅されたヴィヴァルディ像のキッチュだけれど美しく、美しいけれどコミカル、コミカルだけれどクール!という多面性に目が回る思い... いや、目が回ってこその、ヴィヴァルディの魅力!何だか、遊園地に来たみたい。で、アレッサンドリーニにしっかりと応えたアカデミアのコーラスがまた素敵で、いい具合にフワフワと楽しげ... それから、ソリストたち!ヨークの明朗なソプラノ、ビッチーレのクラッシーなソプラノ、深くも鮮やかさを見せるミンガルドのアルトと、それぞれのトーンが、ヴィヴァルディの音楽に隙無く表情を与え、劇的で風変わりなだけでないヴィヴァルディの音楽の確かさを卒なく聴かせる。
しかし、やっぱり、何たって、劇的で風変わりだ... グローリアの後、弦楽とチェンバロのための協奏曲、RV.128(track.13-15)を挿んで取り上げられるマニフィカト(track.16-26)、「権力あるものをその座よりおろし」(track.22)の、鋭いユニゾン!コーラスのみならず、オーケストラまでがひとつのメロディーを奏でるという、ちょっと変態的な音楽の在り様に、ブルっと来てしまう。いや、掟破りのインパクト!こんな音楽、他にあるのだろうか?けど、そういうものを、こうしてやってしまって、やり切っていることがヴィヴァルディだなと... それでいて、こういう大胆さ、ケレン味こそ、バロックの醍醐味だなと... こういう音楽を楽しんだバロックを生きた人々、風変わりを求めたヴェネツィアという街の気分に、今、改めて興味を覚える。いや、ヴィヴァルディという個性を生み出した街、ヴェネツィアに、すっかり魅了されてしまう。

VIVALDI: GLORIA ・ AKADEMIA ・ CONCERTO ITALIANO

ヴィヴァルディ : グローリア ニ長調 RV 589 ****
ヴィヴァルディ : 弦楽とチェンバロのための協奏曲 ニ短調 RV 128
ヴィヴァルディ : マニフィカト RV 611 〔ヴェネツィア版〕 ****
ヴィヴァルディ : 2本のトランペットとオーボエのための協奏曲 ニ長調 RV 781 **

デボラ・ヨーク(ソプラノ) *
パトリツィア・ビッチーレ(ソプラノ) *
サラ・ミンガルド(アルト) *
アカデミア(コーラス) *
アンドレア・ミオ(オーボエ) *
ガブリエーレ・カッソーネ(トランペット) *
リナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ

OPUS 111/OPS 30-195




ヴィヴァルディの多彩を極めて、アリア、バルトリ、イル・ジャルディーノ・アルモニコ...

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劇的で風変わり、まさに!という出だし... それは、ヴィヴァルディの代表作、『四季』から、「春」の1楽章のメロディーをコーラスが歌ってしまうという、何だ?何だ!となる驚くべき幕開け。その、オペラ『テムペのドリッラ』の1幕、1場、ニンファたちと牧人たちが歌う「そよ風のささやきに」は、春への賛歌ということで、まったく以って的を射た引用。なのだけれど、女声コーラスで歌われると、ユルい!オリジナルとは別物だぞ、これは... てか、このユルさこそ春めいている?誰もが知るメロディーが歌われるという、聴き慣れ無い体験と、女声コーラスによる、ふんわり感、たおやかさ... ウーン、バルトリ、掴みからして、やってくれる。という、ヴィヴァルディのアリア集、掴みはあくまで掴みであって、1999年にリリースされたこのアルバムの意義は、その程度のものではなかった。それは、オペラ作家、ヴィヴァルディという存在がとうとう露わになった瞬間であって、『四季』の作曲家という、堅固なステレオ・タイプをブチ壊す革命的な1枚だった。そう、ヴィヴァルディ・オペラ・ルネサンスは、ここから始まった。で、今、改めて、その始まりへと立ち返ってみるのだけれど、バルトリの熱意に感動すら覚える。
ヴィヴァルディ本人は、94ものオペラを作曲したと豪語しているのに、バルトリによるアリア集以前、そうしたオペラでの仕事は完全に無視されていた。つまり、バロックを代表する作曲家の全体像を掴もうという努力を怠って来たわけだ。怠ったというより、みんな大好き、『四季』のイメージを崩したくなかったのが正直なところだろう... そういう点で、バルトリは賭けに出たのだと思う。だから、そのアリア集は、思いの外、丁寧にも綴られていて、誰もが知るメロディーで幕を開けると、勇壮にして超絶のコロラトゥーラが繰り広げられる『グリゼルダ』のアリア「恐ろしい嵐の後は」(track.2)が続き、その後には牧歌的なアリア「2つの瞳に真をささげて窶れゆくのは」(track.3)の繊細さが空気を変える。得意のコロラトゥーラで圧倒するだけでなく、実に巧みに、様々なテイストの音楽を並べて見せるバルトリ... そこには、ヴィヴァルディの多彩を極める音楽をより幅広く捉えよう、紹介しようという熱意が感じられ、感服。それぞれのアリアは、それぞれに表情に富み、場合によっては、同じ作曲家による音楽なのか?とすら思えるほど... そう、劇的で風変わり。そこにこそヴィヴァルディの真実を見出す。
で、その多彩を極める音楽を可能としているのが、バルトリの圧倒的な歌唱力!コロラトゥーラは当然の如く鮮やかに決まって... 先に挙げた『グリゼルダ』はもちろん、『タメルラーノ』の「海もまた沈めようとするようだ」(track.12)など、息を呑むばかり。一方で、『テルモドンテのエルコレ』の「ささやく春のそよ風よ」(track.5)の透明感、『忠実なニンファ』の「言ってください、ああ」(track.7)の切なげなあたり、悲しみから怒りへ、『狂気を装うオルランド』(track.4)の鬼気迫るドラマ!確かなテクニックから繰り出される見事な芝居は、テクニックを越えたカタルシスを聴く者に与えてくれる。そんなバルトリに負けず、鋭い演奏を繰り広げるアントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコ!彼らの鋭敏さがひとつひとつのアリアに緊張感を生み、それぞれの世界観を鮮やか描き出せば、もはや単なるアリア集に留まらない。

The Vivaldi Album
Cecilia Bartoli/Il Giardino Armonico


ヴィヴァルディ : オペラ 『テンペのドリッラ』 RV 709 から 「そよ風のささやきに」 *
ヴィヴァルディ : オペラ 『グリゼルダ』 RV 718 から 「恐ろしい嵐のあとは」
ヴィヴァルディ : 「二つの瞳に真ささげて窶れゆくのは」 〔題名不詳のオペラから〕
ヴィヴァルディ : オペラ 『狂乱を装ったオルランド』 RV 727 から 「何を言っているのかしら?... 私は行こう、飛び行こう、叫ぼう」
ヴィヴァルディ : オペラ 『テルモドンテのエルコレ』 RV 710 から 「ささやく春のそよ風よ」
ヴィヴァルディ : オペラ 『忠実なニンファ』 RV 714 から 「むごい運命に苦しめられる魂は」
ヴィヴァルディ : オペラ 『忠実なニンファ』 RV 714 から 「言ってください、ああ」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ジュスティーノ』 RV 717 から 「不運な小舟は」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ジュスティーノ』 RV 717 から 「運命よ,おまえは私を招いたが... 私には胸中、それほどに強き心がある」
ヴィヴァルディ : オペラ 『オリンピアーデ』 RV 725 から 「さまざまな愚かさのなかで... 我われは凍る冷たい波間の船」
ヴィヴァルディ : オペラ 『ファルナーチェ』 RV 711 から 「凍りついたようにあらゆる血管を」
ヴィヴァルディ : オペラ 『タメルラーノ』 RV 703 から 「海もまた沈めようとするようだ」
ヴィヴァルディ : オペラ 『テウッツォーネ』 RV 736 から 「戦闘ラッパの」

チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
ジョヴァンニ・アントニーニ/イル・ジャルディーノ・アルモニコ
アルノルト・シェーンベルク合唱団 *

DECCA/466 569-2




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