SSブログ

ヴェネツィア、1608年、聖ロッコの祝日、盛りだくさん! [before 2005]

4491802.jpg
さて、先月半ばから、クラシックにおける"イタリア"に注目し、先日は、イタリアが音楽史の流れを大きく変えた初期バロックを見つめたのだけれど、今回は、そこから少し遡って、ヴェネツィア楽派の音楽を聴いてみようと思う。の前に、ヴェネツィア楽派とは?フランドル出身のヴィラールト(ca.1490-1562)が、1527年、サン・マルコ大聖堂の楽長に就任し、この大聖堂の構造を活かしたスタイルを模索したことに端を発する。そうして生まれたのが、ルネサンス・ポリフォニーから一歩踏み出した分割合唱=コーリ・スペッツァーティ... このスタイルが、ルネサンス期の最後、ヨーロッパ中に大きな影響を与えることとなり、それまで、アルプスの北から南へと流れていた音楽の流行が、ヴェネツィア楽派の登場で、南から北へと変える。まさに潮目、"イタリア"は、初めてヨーロッパの音楽の主導的なポジションを獲得。またヴェネツィアは、ルネサンスからバロックへの大転換も巧みに乗り越えて、18世紀初め、ナポリ楽派が台頭する頃まで、モードの発信地として、大きな存在感を示した。
というヴェネツィア楽派の歴史、前半、ルネサンス期の集大成... ポール・マクリーシュ率いる、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズの歌と演奏で、ヴェネツィア楽派を代表する巨匠、ジョヴァンニ・ガブリエリの音楽を軸に繰り広げられる、1608年、ヴェネツィア、サン・ロッコ信徒会での音楽を再現した"MUSIC FOR SAN ROCCO"(ARCHIV/449 180-2)を聴く。

いや、もうね、マクリーシュならではのマニアックを極めた1枚なのだけれど、それが何であるかをじっくり見つめると、極めて興味深い情景が広がる!コーリ・スペッツァーティでヨーロッパを席巻したヴェネツィア楽派がまさに集大成を迎える瞬間とでも言おうか、ヴェネツィア楽派のアイコンとして、ヨーロッパ中の音楽家からリスペクトを受けていたジョヴァンニ・ガブリエリ(ca.1554/57-1612)の死の4年前、この巨匠の音楽で彩られた、1608年、サン・ロッコ信徒会での音楽を再現するマクリーシュ... それは、17世紀初頭のヴェネツィアの音楽シーンを垣間見る貴重な機会であって... フィレンツェではすでにオペラが誕生し、劇的にバロックへと移行していた頃、ルネサンスの最後を迎えていたヴェネツィアの様子は、なかなか興味深い。で、何と言っても"MUSIC FOR SAN ROCCO"、サン・ロッコ信徒会というのが、大いに気になるところ。教会ではなく、信徒会?
サン・ロッコ信徒会、スクオーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコは、教会ではなく、あくまで信徒たちの集い。で、そういう組織がヴェネツィアにはたくさんあって、スクオーラ・ピッコラ=小信徒会と、スクオーラ・グランデ=大信徒会に分かれており、ピッコラが町内会?で、グランデはロータリークラブ?そんな感じだろうか... そこに来て、東西を結んで莫大な富を得たヴェネツィア商人たちだけに、それぞれのスクオーラは贅を尽くすことで競い合い、スクオーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコでは、メンバーであったティントレットによる天井画、壁画で飾った豪奢極まる会館(現在ではヴェネツィア観光の目玉のひとつ!)を有し、そこでは音楽も提供され、ヴェネツィアの音楽シーンで存在感を示していた。特に、信徒会の守護聖人、聖ロッコの祝日には、サン・マルコ大聖堂の楽員たちを雇って盛大な音楽が繰り広げられ... という、1608年の聖ロッコの祝日を再現するのが、"MUSIC FOR SAN ROCCO"。それはミサのような形式があるわけでなく、詩篇や、宗教的歌曲、マニフィカトが並べられ、そこに器楽曲が挿まれるというもの... 当時のヴェネツィアを彩った音楽のカタログとも言えるのかもしれない。
さて、ジョヴァンニ・ガブリエリによるオルガン独奏の慇懃な4声のトッカータで幕を開ける、1608年の聖ロッコの祝日。続く、「教会にて主を祝福せよ」(track.2)では、ソロとコーラスと華麗なる器楽アンサンブルが、ヴェネツィア楽派を特徴付けるコーリ・スペッツァーティを織り成し、高音と低音、ソロとコーラス、分割され様々に紡ぎ出される対比が印象的なコントラストを生み、ルネサンス由来のアルカイックな華麗さと、バロックを予感させる力強さで惹き付ける。その後で、『カンツォーナとソナタ集』から、ソナタ、15番(track.3)が取り上げられるのだけれど、これがまさに黎明期のソナタ!15声によるというから、一般的なクラシックにある「ソナタ」のイメージとはまったく異なり、完全なる管弦楽作品。荘重なサックバットが鳴り響く中、ヴァイオリンが華麗なる妙技を次々に繰り広げるという、ジョヴァンニ・ガブリエリらしいサウンド。それは間違いなくアルカイックなのだけれど、ルネサンス・ポリフォニーのヘヴンリーさとは一線を画す重々しさが独特で、このあたりに、東方と深く結び付いていたヴェネツィア共和国の性格というか、どこかオリエンタルな趣味性を感じなくもなく、なかなか興味深い。
そんなジョヴァンニ・ガブリエリの音楽の合間に、当時、人気を博したシンガー・ソングライター、バルバリーノ(fl.1593-ca.1617)の独唱マドリガーレ、「愛らしいひとよ、聞いてくれ」(track.9)と、「わが心は燃え」(track.11)が取り上げられるのだけれど、独唱というあたりが、当時の最先端の音楽であるモノディを実現し、どことなしにオペラのアリアを思わせるところも... また、ファルセットで歌われたというその歌唱(要はカウンターテナー... )の浮世離れしたトーンが、ジョヴァンニ・ガブリエリの重厚さとコントラストをなして、"MUSIC FOR SAN ROCCO"に絶妙なアクセントを加えている。いや、実にヴァラエティに富んだ音楽の数々!当時の音楽の充実っぷりに惹き込まれる。その最後には、ソロ、コーラス、器楽アンサンブル総動員で、33声によるマニフィカト(track.18)が壮麗に響き、聖ロッコの祝日を感動的に締め括る。
という、盛りだくさんな1608年のヴェネツィアを活写するマクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ。時代のひとこまを鮮やかに切り取って来るのが、彼らの真骨頂。さもその場にいたかのような、堂に入った歌、演奏を繰り出して来る。そうして見えて来る、聖ロッコの祝日の花やぎ、スクオーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコの豪奢さ... そこに、時代の臭いのようなものも感じられ、見事。また、歌に器楽に、様々な音楽が並べられて、現代の聴き手も飽きさせない。最後のマニフィカト(track.18)の壮麗さなどは、白眉!しかし、こんなにも充実した音楽を聴いていたんだ、17世紀のヴェネツィアの人々... マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズは、当時の人々の音楽の楽しみを活き活きと蘇らせる。

GIOVANNI GABRIELI: MUSIC FOR SAN ROCCO
GABRIELI CONSORT & PLAYERS/PAUL McCREESH


ジョヴァンニ・ガブリエリ : 4声のトッカータ
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 教会にて主を祝福せよ 〔14声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォーナとソナタ集 から ソナタ 第19番 〔15声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 受け入れたまえ、いと慈悲深き神よ 〔12声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォーナとソナタ集 から ソナタ 第14番 〔10声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : トランペットを吹き鳴らせ、新月の時に 〔19声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : イントナツィオーネ 5度低く移行高された第9旋法による
ジョヴァンニ・ガブリエリ : わが主なる神よ 〔6声〕
バルバリーノ : 独唱マドリガーレ 「愛らしいひとよ、聞いてくれ」
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォーナとソナタ集 から ソナタ 第21番 〔3つのヴァイオリンのための〕
バルバリーノ : 独唱マドリガーレ 「わが心は燃え」
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 恐れと震えが 〔6声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : イントナツィオーネ 5度低く移行高された第12旋法による
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 神に向かいて歓呼せよ 〔10声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォーナとソナタ集 から ソナタ 第18番 〔14声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 主よ、御身の慈悲は 〔12声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォーナとソナタ集 から ソナタ 第20番 〔22声〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : ヒュー・キートの復元による マニフィカト 〔33声〕

ポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート & プレイヤーズ

ARCHIV/449 180-2




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。