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ブーレーズ、ラヴェル、総音列なんて忘れさせるマジック! [before 2005]

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えーっと、先月後半あたりから、今年、亡くなった、ブーレーズとアーノンクールをフィーチャーしているのだけれど... 改めて、この2人を見つめると、何だか新鮮な思いがして、とても興味深い。というのも、極めて特徴立ったレパートリーを誇る2人だけに、これまで、どこか凝り固まったイメージで捉えていたのかもしれない。例えば、ブーレーズならば、総音列音楽が象徴するような無機質さというのか、音楽に対して常に冷徹な姿勢を見せるストイックなイメージ... だけれど、よくよく見つめてみると、そういうひとつのイメージでは捉えられない部分もあり、レパートリーも柔軟性に長けたところも見せ、一筋縄では行かない。作品を冷徹に腑分けするクールさこそブーレーズの魅力である一方、意外と作品に乗っかってしまう調子の良さもあって、何気にお茶目でもある?
ということで、クールなだけでない、キャラクタリスティックな世界を飄々と泳ぐブーレーズを捉える!ピエール・ブーレーズの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ラヴェルの管弦楽作品集(Deutsche Grammophon/439 859-2)を聴く。

フランスのマエストロとなれば、ドビュッシー、ラヴェルは馴染みが深いだろうし、近現代音楽のスペシャリストとあらば、印象主義の音楽は欠かせないレパートリーだろう。けれど、多分に雰囲気を纏うドビュッシーやラヴェルといったフランスの印象主義の音楽は、総音列大権現、ピエール・ブーレーズの音楽性と合致するのだろうか?芳しく豊潤なフランスのエスプリは、ブーレーズにとって邪魔なのでは?とすら思う。もちろん、ドビュッシー、ラヴェルは、ブーレーズにとって欠かせないレパートリーではあるのだけれど... ぼんやりと、ブーレーズがこの2人の作曲家を取り上げることに、違和感のようなものを感じていた。そうして、今、改めて、ブーレーズのラヴェルを聴いてみるのだけれど... やっぱり、ブーレーズは一筋縄では行かない。てか、この人はズルい!
1曲目、バレエ『マ・メール・ロワ』(track.1-8)は、ラヴェルが友人のこどもたちのために作曲した、お伽話を編んだ組曲が基になった作品。それは、ラヴェルならではのファンタジーに包まれた、本当に愛らしい音楽で、夢見るように美しい... こういう作品を、ブーレーズが取り上げるとどうなるか?徹底して無駄が削ぎ落され、音楽というより一音一音を磨き抜くような感覚すらある。しかし、一音一音を磨き抜くと、全体がふわーっと輝き出し、ファンタジーが増してしまうからマジック!いや、ラヴェルのスコアと徹底して向き合うことでこそ、ラヴェルの抜きん出たセンスが露わになるわけで... ラヴェルそのものを活かし切って立ち上る芳しさの、何とナチュラルなこと!どの瞬間を切り取ってもただただ美しく、終曲、「妖精の園」(track.8)では、その美しさから感動を生み出し、もう言葉を失うしかない... それでいて、さり気なく愛らしさを籠めて来る、ブーレーズ... 冷徹なばかりでないところをちらりと見せるからお伽話が瑞々しさを湛える。続く、「海原の小舟」(track.9)での、表情に富む情景描写、「道化師の朝の歌」(track.10)での、エキゾティックでコミカルでもあるあたりにはウィットも含ませ、巧い...
そして、「道化師の朝の歌」以後、スペイン狂詩曲(track.11-14)、ボレロ(track.15)と、スペインがフィーチャーされるのだけれど... "エキゾティック"というのも、ブーレーズの音楽性からは遠いように思う。が、スペイン狂詩曲の始まりから、何とも言えず雰囲気に充ちていて、魅惑的!で、こういうサウンドを耳にすると、ブーレーズのフランス人気質というものを再発見させられる。そうして、より具体的にスペインが聴こえて来る「マラゲーニャ」(track.12)では、フランス人視点というのか、異国情緒にどっぷり浸かるのではない、お洒落としてのエキゾティシズムをセンス良く展開して、スペインの薫りを楽しむよう。そこから、しっかりと盛り上がる「祭り」(track.14)!盛り上がることにやぶさかでない、ブーレーズ... 思いの外、楽しいスペインが繰り広げられる。
一転、ボレロ(track.15)では、スペイン情緒は削ぎ落され、ミニマル・ミュージックのような様相を呈するから、ブーレーズらしさを裏切らない。で、聴こえて来るのは、より根源的な音楽か... ことさら何かを表現しようとするのではなく、執拗に繰り返されるフレーズを丁寧に重ねて、オーケストラの響きそのものに焦点を合わせて... ここで力を発揮するのが、スーパー・オーケストラ、ベルリン・フィル!ひとりひとりの力量の高さに裏打ちされた、斑の無い展開は、見事なグラデーションを織り成して、圧巻。陽炎が揺らめく中、遠くから、ベルリン・フィルという絢爛豪華な行列が近付いて来るような、そんな映像が浮かぶ。やがて行列は目の前を行き、その壮麗さに圧倒され... たかと思うと、魔法に掛かったように消えてしまう。いや、魔法を感じてしまう。
作曲家としてのシビアな視点に貫かれながら、音楽そのものを楽しもうとするところもあって、思い掛けない魔法を生み出すブーレーズ。久々にこのラヴェルのアルバムを聴いてみると、その一筋縄では行かないあたりにこそ魅了される。また、そういう一筋縄で行かないあたりを、ベルリン・フィルのようなスーパー・オーケストラで奏でると、あらゆるサウンドがクリアに響き、明晰であればあるほど、鮮烈なイメージが広がって、強く惹き込まれる。そうして、ラヴェルという存在に、真新しさすら見出してしまう。聴き知ったお馴染みの曲のはずが、こうも新鮮に向き合えるとは... ウーン、感服するしかない。

RAVEL: BOLÉRO/MA MÈRE L'OYE/RAPSODIE ESPAGNOLE, ETC
BERLINER PHILHARMONIKER/PIERRE BOULEZ


ラヴェル : バレエ 『マ・メール・ロワ』
ラヴェル : 海原の小舟
ラヴェル : 道化師の朝の歌
ラヴェル : スペイン狂詩曲
ラヴェル : ボレロ

ピエール・ブーレーズ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

Deutsche Grammophon/439 859-2




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