ブーレーズ、ブーレーズ、最前衛を走り抜いた人の肖像。 [before 2005]
ブーレーズが指揮した、シェーンベルク、メシアン、ラヴェルと聴いて来たので、そろそろ、ブーレーズ自身の作品を聴かなくては... で、作曲家、ブーレーズというのが、正直、取っ付き難い!まさに、難解な"ゲンダイオンガク"そのもの... ではあるのだけれど、そういうイメージを乗り越えて、よくよく見つめてみると、なかなかおもしろい。それは、音楽がおもしろいというより、進化がおもしろかったり?総音列という人間の創作の入り込む余地が無いような堅固なシステムを構築してからの、偶然性との出会い、それを制御しようという力技、からの、電子テクノロジーの利用へと触手を伸ばし... 振り返ってみると、20世紀後半の激動の音楽史を、ストラヴィンスキーに劣らぬカメレオン体質で乗り切って行ったのが、作曲家、ブーレーズだったように思えて来る。頭のいい作曲家が、気難しい音楽を紡ぎ出している一方で、先端を突き進まねばならないプレッシャーを感じつつ、時代がどんどん更新される中を、見事に泳ぎ切り、巨匠へと上り詰めた嗅覚の鋭さ、したたかさに感服させられる。また、それそのものが、20世紀後半を体現していたか... そういう点で、まさに「現代」の作曲家だったと言えるのかも...
ということで、ブーレーズの音楽の進化を見つめる。まずは、偶然性の衝撃を受けて作曲が始まった、『プリ・スロン・プリ』(Deutsche Grammophon/471 344-2)、IRCAMを設立し、電子音響技術を用いて作曲したレポン(Deutsche Grammophon/457 605-2)を、ブーレーズが創設した現代音楽専門化集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏で聴く。
ということで、ブーレーズの音楽の進化を見つめる。まずは、偶然性の衝撃を受けて作曲が始まった、『プリ・スロン・プリ』(Deutsche Grammophon/471 344-2)、IRCAMを設立し、電子音響技術を用いて作曲したレポン(Deutsche Grammophon/457 605-2)を、ブーレーズが創設した現代音楽専門化集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏で聴く。
システマティックな総音列音楽を完成させたところに、ケージによる偶然性が突き付けられ、制御された偶然性という力技を繰り出したブーレーズ。ウーン、凄過ぎる。てか、「制御された偶然性」という言葉がカッコいい!偶然を制御できるなんて、アニメか何かの世界じゃないか?いや、制御できないから偶然性だろっ!?というツッコミはさて置きまして、ある意味、苦し紛れとも言えるところから生まれた作品が、ここで聴く『プリ・スロン・プリ』、マラルメの肖像... その名の通り、マラルメの詩を用いた歌付き変奏曲集のような音楽なのだけれど、そこに偶然性が持ち込まれ(用意された選択肢を演奏者が選ぶ... ものの、自由に選ばせたとしても、作曲家の意図からは逸脱しないよう準備がなされている... という理解でよろしかったでしょうか?)、ブーレーズなりの最前衛へのアンサーとした。しかし、1957年の作曲から、改稿が重ねられ、次第に偶然性としての、その場、その時に決まる選択肢は削られ、やがて偶然性は完全に排除されることに... そうして、確固たるひとつの作品へと収斂され、1989年に最終的な形を作曲家から与えられた。いや、まったく以って希有な作品である。その完成までの経緯... 自らの音楽性とは相容れないはずの偶然性を取り込み生まれた作品が、32年もの間、思考錯誤を重ね、より作曲家らしい形に落ち着いたのだから... これは、ブーレーズにとってのモナリザなのではないだろうか?
戦後「前衛」の仄暗さの中、ソプラノが歌うマラルメの詩がぼぉっと浮かび上がり、それを受けて、様々なパーカッション、マンドリン、ギターにチェレスタなど、色とりどりの楽器が並ぶアンサンブルが、マラルメの詩の世界を膨らませる。まさしく"ゲンダイオンガク"のイメージそのもの... というあたりが、今となっては、ちょっとノスタルジックにすら思えて、何だか不思議に魅惑的(昭和歌謡に接する感覚に似ているかも... とか、大胆なことを言ってしまう... )。偶然性という可能性の幅を、一度、持たせたところから、作曲家がベストだと感じられる流れをすくい上げる。時代に翻弄された作曲の経緯にも、この特異な作品が完成されるための「必然」があったのかもしれない。だからこそ、一音一音が、これ以上なく魅惑的に輝き、その輝きを、こだわりを籠めて、最も洗練された形で配置し、生まれる、到達感!戦後「前衛」らしい仄暗らさに包まれながらも、どこか清々しさがあり、おもしろい。そして、それは、マラルメの肖像であって、ブーレーズ自身の肖像だったのかなと... そういう点でも、ブーレーズにとってのモナリザ(ダ・ヴィンチが晩年まで手を加え、手放さなかった... )と言える気がする。
しかし、美しい響きが散りばめられ、星々が瞬く、クリアな冬の夜空を見上げるようなサウンド... そこには、アンサンブル・アンテルコンタンポランの腕利きのメンバーたちによる、瑞々しい音色があって、ブーレーズ作品ならではの緊張感を薫らせ、時に魅惑的に訴え掛けさえする。そこに、お題を与えるシェーファーの不思議な存在感... そのソプラノは、どこかアルカイックでもあり、まるでマラルメの信女といった雰囲気。そうした雰囲気が生まれることで、より作品が引き立つよう。
BOULEZ: PLI SELON PLI
ENSEMBLE INTERCONTEMPORAIN ・ BOULEZ
■ ブーレーズ : 『プリ・スロン・プリ』 マラルメの肖像
ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
Deutsche Grammophon/471 344-2
ENSEMBLE INTERCONTEMPORAIN ・ BOULEZ
■ ブーレーズ : 『プリ・スロン・プリ』 マラルメの肖像
ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
Deutsche Grammophon/471 344-2
1977年、パリにおける現代芸術の拠点、ポンピドー・センターの音楽部門として、ブーレーズの構想の下、設立された、IRCAM、音響/音楽の探求と連携のための研究所(フランス国立音響音楽研究所)。IRCAMというと、電子音楽というイメージが強いのだけれど、エレクトロニックはあくまでも術であって、音響と音楽にまつわる新たな地平を切り拓くのが、その第一義... スペクトル解析など、最新のテクノロジーを導入して、音楽の在り方を見つめ直したIRCAMから派生した作品は、難解さを越えて、それまででは思いも付かないような音響を実現し、ニュー・エイジ的な感性と共鳴するところもあり、刺激的な感触を聴く者にもたらしてくれる。いや、やっぱりエレキな感じがカッコいい!って、単純過ぎるか... で、そのIRCAMの所長として、誰よりも先んじて(偶然性の轍は二度と踏まない?)、最新のテクノロジーを駆使できるポジションに立ったブーレーズ。IRCAM設立、4年目、1981年の作品が、ここで聴くレポン(track.1-10)... ベーシックな教会音楽の形式、コール・アンド・レスポンス(フランス語における応唱がレポンとなる... )に立ち返り、ソロとアンサンブルの掛け合いを軸に、ソロの奏でた音をマイクで拾い、コンピューターを用い、全体の演奏に重ねて行く。一見、合奏協奏曲を思わせる形を見せながら、ライヴ・エレクトロニクスにより、際限無く規模が拡大され、独特なスペイシーさを放ち、宇宙遊泳をするような感覚に...
そんな、レポン(track.1-10)。何だろう、『プリ・スロン・プリ』に濃密に漂っていた戦後「前衛」のトーンはどこかへ行ってしまい、思いの外、カッコいいサウンドを繰り出して来るブーレーズ。良い意味で、かつての緊張感は緩み、場合によっては粗雑にすら感じられるところもあるのだけれど、それくらいだからこそ、聴く側に訴え掛けるパワーを生み出して... ブーレーズならではの整頓し尽くされた沈着な音楽が、ライヴ・エレクトロニクスを導入することで、ライヴ感が増し、丁々発止の刺激的な音楽が展開されるというおもしろさ。新しいツールを手に入れたことで、"ゲンダイオンガク"の大家は一皮剥けたのか?まるでドレープのように重ねられる印象的なアルペッジォは、場合によってはミニマル・ミュージックにすら思わせて、そこに、ガムランをイメージさせるパーカッションがプリミティヴに鳴り響き、すると、アジアの寺院に迷い込んだような鐘の音が広がって、ミステリアス... かと思うと、忙しなく弦楽器が動き、ニューヨークのような大都市の喧騒に放り込まれたような心地にさせられ... 宇宙を思わせるスペイシーさに、様々な情景が浮かぶ、多次元的なヴィジョンを見せられ、圧倒される。
そのレポンの後には、ソロ・クラリネットと、あらかじめ録音されたクラリネットの演奏による「二重の影の対話」(track.11-23)が取り上げられる。実質、二重奏であるこの作品は、レポンの後で聴くと、随分とすっきりとしたイメージ... で、そのすっきりを飄々とクラリネットが繰り出せば、いい味を醸して、惹き込まれる。何より、ダミアンの鮮やかなクラリネット!ブーレーズ作品というのは、演奏者のスーパー・プレイがあってこそのものか... ここでは、とにかく演奏者が冴えまくる!
BOULEZ: RÉPONS/DIALOGUE DE L'OMBRE DOUBLE
ENSEMBLE INTERCONTEMPORAIN ・ BOULEZ
■ ブーレーズ : レポン
■ ブーレーズ : 二重の影の対話 *
ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
アラン・ダミアン(クラリネット) *
Deutsche Grammophon/457 605-2
ENSEMBLE INTERCONTEMPORAIN ・ BOULEZ
■ ブーレーズ : レポン
■ ブーレーズ : 二重の影の対話 *
ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
アラン・ダミアン(クラリネット) *
Deutsche Grammophon/457 605-2
ブーレーズの演奏会に一度だけ行きました...
ピエール・ブーレーズ指揮
クリーヴランド管弦楽団
1986(?)年11月
クリーヴランドのセヴェランス・ホール
ブーレーズ 『プリ・スロン・プリ』 (1984年「マラルメによる即興曲」改訂版)
バルトーク 『かかし王子』
by サンフランシスコ人 (2016-04-13 01:22)