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シェイクスピアの時代... グローブ座で響いた音楽... [before 2005]

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2016年、メモリアルを迎える作曲家たちを追って来た1月。さて、2月は、どうしようか... となって、思い出す。シェイクスピア、没後400年のメモリアル。イギリス文学の顔、音楽とは違うフィールドの人だけど、その戯曲から生まれた音楽作品は膨大。メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』に代表される劇伴から、ヴェルディの『マクベス』、『オテロ』といったオペラ、プロコフィエフによる『ロミオとジュリエット』のバレエも忘れるわけにはいかない。それから、ベルリオーズの劇的交響曲「ロミオとジュリエット」に、チャイコフスキーの幻想序曲「ロミオとジュリエット」と、シェイクスピアの戯曲は舞台を離れ、音楽そのものにインスピレーションを与えている。間違いなくシェイクスピアはクラシックに欠かせない存在... となれば、没後400年のメモリアル、取り上げねば!
ということで、シェイクスピアに基づく作品ではなく、シェイクスピアそのものに還ってみようと思う。1997年、かつてシェイクスピアが活躍したグローブ座を復元したニュー・グローブ座の、座付古楽アンサンブルとして誕生した、フィリップ・ピケット率いる、ミュージシャンズ・オブ・ザ・グローブによる、"SHAKESPEARE'S MUSICK"(PHILIPS/446 687-2)を聴く。

シェイクスピア(1564-1616)が活躍した時代というのは、16世紀末から17世紀初頭に掛けて... 宗教対立を乗り越え、スペインの無敵艦隊を沈め、苦難を経ての、エリザベス1世(在位 : 1558-1603)による治世が燦然と輝いた時代。安定と繁栄をもたらしたエリザベス朝の下でイギリス・ルネサンスは花開き、ロンドンでは演劇が盛んに上演され、シェイクスピアは、一躍、人気劇作家となる。そんなシェイクスピアの一座が拠点としていたグローブ座(1599年、シェイクスピアの『ヘンリー5世』で柿落とし... 1642年、ピューリタン革命により閉鎖、その2年後には取り壊されている... )を復元し、シェイクスピアの時代の作法による上演を目指す新グローブ座が1997年に完成。この劇場で上演されるシェイクスピア劇の劇伴(もちろん、かつての劇伴を再現する!)を担うために結成されたのが、ピケット率いる古楽アンサンブル、ミュージシャンズ・オブ・ザ・グローブ。そして、シェイクスピアが用いただろう音楽を1枚にまとめたのが、ここで聴く"SHAKESPEARE'S MUSICK"。
シェイクスピア劇にとって音楽は重要な要素となっている。例えば、『オセロ』の「柳の歌」(track.20)。ヴェルディのオペラで欠かせないナンバーとなっているデズデモーナの歌は、オリジナルであるシェイクスピアの戯曲でも歌われ、聴かせどころに... "SHAKESPEARE'S MUSICK"では、そうした劇中歌が11曲も収録されており、シェイクスピア劇における歌の存在の大きさに、ちょっと驚かされる。イタリアでは今まさにオペラが生まれようという時期だっただけに、実に興味深い。とはいえ、シェイクスピア劇での歌は、歌手による歌ではなく、あくまで役者による歌... オペラのように滔々と歌われることはなく、どれも芝居にスパイスを効かせる短いナンバーばかりではあるのだけれど... そうした中で、「柳の歌」(track.20)は10分弱に及ぶ規模で、オペラ的なものを感じ、聴き入ってしまう。また、『冬物語』、第4幕、第4場から「帰ってくれ」(track.14)では、対話が歌われ、パーセルのオペラを思わせる雰囲気が漂い、イギリスにおけるオペラの源流を見出したようで、印象的。
ただ、作曲者がわからない作品が多い。「柳の歌」(track.20)も作曲者不詳となっている。そもそも、どんな音楽を劇伴として用いていたか、わかっていないところも... "SHAKESPEARE'S MUSICK"では、そうした部分を同時代のイギリスの作品で補い、かつてのグローブ座のサウンドの復元を試みる。モーリー(1557-1602)によるコンソート・レッスンズ、第1巻からのラ・コラント(track.15)、ラ・ヴォルタ(track.18)などは、ダンス・シーンを再現。リュートで奏でられるダウランド(1563-1626)の「タールトンの復活」(track.10)は、シェイクスピアの時代に活躍した喜劇役者、タールトンを偲んで書かれたとのこと... さらに、バード(1543-1632)のヴァージナルによる作品が2つ取り上げられ、シェイクスピアと同時代を生きた作曲家たちの音楽で、シェイクスピアの時代の空気感を絶妙に引き込み、音楽におけるイギリス・ルネサンスの花やぎも聴かせる。
そんな"SHAKESPEARE'S MUSICK"を聴かせてくれた、ピケット+ミュージシャンズ・オブ・ザ・グローブ。ピケットらしい丁寧さで以って、古雅な雰囲気をナチュラルに響かせつつ、かつての時代を振り返るセンチメンタルのようなものを滲ませ、ひとつひとつのナンバーが味わい深く響かせる。いや、そうしたあたりに、イギリスならではの素朴さ、親密さが引き立ち、惹き込まれる。それでいて、歌に、舞曲に、シェイクスピア劇を彩ったであろう様々な音楽が巧みに散りばめられ、飽きさせない!そして、素直な歌声を聴かせてくれる歌手たちがすばらしく... キャッチーなメロディーを瑞々しく捉え、芝居の延長線上にあるような、飾らない表情でシェイクスピア劇の場面を描き出す。そうして醸される、シェイクスピアが生きた時代の空気感... イギリス・ルネサンスの気の置け無さに包まれて、不思議な居心地のようさを味わう。

SHAKESPEARE'S MUSICK
MUSICIANS OF THE GLOBE ・ PHILIP PICKETT

作曲者不詳 : ひいらぎの実 〔ブロークン・コンソートのための〕
作曲者不詳 : ダフネ 〔ブロークン・コンソートのための〕
作曲者不詳 : わたしのロビンは緑の森に逃れて 〔ブロークン・コンソートのための〕
作曲者不詳 : つま先はくすぐれ 〔ブロークン・コンソートのための〕
トマス・モーリー : 好いた同志の彼氏と彼女 〔『お気に召すまま』 第5幕 第3番〕
作曲者不詳 : ケンプのジグ 〔リュートのための〕
ジョン・ウィルソン : もう要りませぬ、あの唇は
ジャイルズ・ファーナビー : やさしく、いとしいロビン 〔ハープシコードのための〕
ロバート・ジョーンズ : さようなら、いとしい女よ 〔『十二夜』 第2幕 第3場に挿入〕
ジョン・ダウランド : タールトンの復活 〔リュートのための〕
作曲者不詳 : 持て、靴屋の紐を 〔『ヘンリー4世』 第2部 第5幕 第3場〕
作曲者不詳 : あなたのまことの恋人を見分けるすべは(ウォルシンガム) 〔『ハムレット』 第4幕 第5場〕
作曲者不詳 : ウォルシンガム 〔アントニー・ホルボーンによるリュート用編曲〕
ロバート・ジョンソン : 帰ってくれ 〔『冬物語』 第4巻 第4場〕
トマス・モーリー : ラ・コラント 〔コンソート・レッスンズ 第1巻〕
ウィリアム・バード : ラ・コラント 〔ヴァージナルのための〕
ロバート・ジョンソン : きけ、きけ、ひばりが 〔『シンベリン』 第2幕 第3場〕
トマス・モーリー : ラ・ヴォルタ 〔コンソート・レッスンズ 第1巻〕
トマス・モーリー : ラ・ヴォルタ 〔ウィリアム・バードによるヴァージナルのための編曲〕
作曲者不詳 : あわれなあの娘は楓の木のそばで(柳の歌) 〔『オセロ』 第4幕 第3場に挿入〕
作曲者不詳 : ロビン 〔リュートのための〕
トマス・モーリー : おお、わたしの愛する人よ 〔『十二夜』 第2幕 第3場〕
ウィリアム・バード : おお、わたしの愛する人よ 〔ヴァージナルのための〕
ロバート・ジョンソン : 五尋の海の底に 〔『テンペスト』 第1幕 第2場〕
ロバート・ジョンソン : 蜜蜂が蜜を吸うところで 〔『テンペスト』 第5幕 第1場〕
トマス・モーリー : 彼女はわたしの過ちを許してくれるだろうか 〔コンソート・レッスンズ 第1巻〕
トマス・モーリー : 蛙のガリアメド 〔コンソート・レッスンズ 第1巻〕
トマス・モーリー : わが窓辺を去りて蛙のガリアメド 〔コンソート・レッスンズ 第1巻〕

フィリップ・ピケット/ミュージシャンズ・オブ・ザ・グローブ

PHILIPS/446 687-2




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